#155 雲の上の話

常闇通りの昼下がり

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常闇通り、盗賊ギルド
アールは情報を得るべく、盗賊ギルドに足を運んだ。
今回足を運んだのは、盗賊ギルドの「表の本部」とも噂される『オラン商人ギルド中央通商会館/マリオネット・ソシアル・パレス』の通用門だ。

アールが符丁で合図すると、人形のように表情が無いメイド服の少女が出迎え奥に案内する。
■メイド服の少女 To:アール
お待たせ致しました、どうぞこちらへ。

人形のような少女の案内に従い、赤い絨毯がひかれた地下へと続く階段をしばらく下ると、両開きの立派な扉が現れた。案内の少女が扉をノックすると、部屋の中から入るように声をかけられた。
■アール To:黒服の男
失礼します。
少々汚れた格好でお目汚ししますがご容赦願います。

■黒服の男 To:アール
いや、通りの人間に比べれば、充分小奇麗だよ。

で、どんな情報が要るんだ?

■アール To:黒服の男
ぶしつけではありますが、コルネリア侯とネイサン商会の件に関して諸侯らに動きなどあれば、情報としてお譲りいただきたく思いこちらにまいりました。

ふところから銀貨の入った小袋を取り出し、傍らの少女に手渡す。
メイド服の少女は、黒服の男に首を横に振ってみせる。
手振りから、最初に言った「コルネリア侯」の方は金額が足りないふうに読み取れた。
■黒服の男 To:アール
悪いが、その金額で教えられるのは、後から言った「店」の方だけだ。
前の「候」のことは5倍はいる。……と言うより深入りする気なら20倍でも全く足りんな。
どうする、「ネイサン商会の護衛、『銀の網』亭のアール・フレックス正魔術師」殿。
我々の手の長さを侮ることの無いようにな。

その返事に、腕を組み、考えいったように目をとじ、ため息をひとつ。
■アール To:黒服の男
ふう。
あなたに「正魔術師」といわれるまで、魔術師だってことも忘れてたよ。
ギルドにくるときはいつでもあんたらのお仲間さ。
もちろん、それなりの腹もくくってるから、そんな安っぽい脅しはナシだ。

腕を組んだ…指先に金貨を2枚、いつの間にかはさんでいる。
指で金貨をはじくと、傍らの少女のちょうど手元に収まる。
■アール To:黒服の男
とりあえず最低限の情報だけでも教えてもらわないと、こっちも無駄足にしたくないんでね。
はなから勝ち目のない勝負なら「お仲間」のよしみで「無駄だ」っていうだけの情報をくれよ。
あと、分かってるなら「ニジイロ」についての情報だな。

メイド服の少女は、黒服の男に頷いてみせる。
それを見た黒服の男は、苦笑いを浮べて答えた。
■黒服の男 To:アール
「ニジイロ」っていうだけでは、ワカメの情報しかないぞ。
あれは所詮高級食材だ、レインボー・グラディエーションでぷりぷり感のある海草だ。「今は時季ではない」が、オランの港にも水揚げされることだってある。
安い時なら銀貨と同じ重さ(4gあたり1ガメル)で買えるが、天井はその数百倍だな。

ここからが代金分だ。
盗賊ギルドの上得意様である「候」は現在、ネイサンという商人と、「ニジイロワカメ」の件で政治闘争をしているが、「ニジイロワカメ」の取引には手を出してない。
元は500年以上前の英雄の家系で、歴史も長く、さまざまな勢力との結びつきがある。……ここまでだな。
そう言えば、当主には歳の離れた14歳の娘がいて、その「カワイさ」は社交界でも有名ってのがあったな。

「店」の方だが、ネイサンはどちらかと言えば善人、悪い商売はしてない。
しかし最近、運の悪いことに盗賊ギルドも関与してきた「ニジイロワカメ」の取引に手を出した。王宮がらみで、失敗できないようだな。
不確定な情報だが、カゾフの港で確実に『ニジイロワカメ』を手に入れるコネクションを、最近手に入れたようだ。とは言え、今回の王宮の件との関係を証明できる情報なんざ手に入れてないがな。

ただし、情報を総合的に検討したが、相手はどうも「人間ではない」ようだ。正体はもちろん不明だ。……垂れ込んでくれれば100ガメル以上支払う。
なお、うちの正会員(盗賊ギルドの会員)が個人的に探りを入れたが、やつらはそれ以来消息不明だ。
ついでだが、やつらは「コーギー」「プードル」「チワワ」と名乗っていた。実力は微妙違うが「レイス」「アール」「リフィル」ってところだな。

■アール To:黒服の男
厳密に言えば、こっちも人間じゃないのが多いけどね。

■黒服の男 To:アール
……無論、ギルドとしては権益を守る為、妨害する予定だ。

ここからは「お仲間」のよしみだ。
襲撃の参加は自由、事前にギルドに報告するだけでいい。……成功報酬は5000ガメルだ。

それと、ギルドとして「会員はネイサンの護衛に加わる事を禁ずる」通達を、つい30分ほど前に出している。
しかし、大きな問題が生じたんだよ。

既に、正会員のあんたが、ネイサンと接触してるってことさ。

だから、「『銀の網』亭のアール・フレックス」あんただけは「通達」の除外者となることが既に決定している。……我々も冒険者ギルドと正面切って争う訳にはいかないからな。
ネイサンを裏切るも良し、仁義を通すも良しって訳だ。

■アール To:黒服の男
ワカメの件はそれでいいさ。
こちとら「珍しいか」はともかく、ギルドまで関わってようとは思わなかったんでね。
あとは「襲撃」の方だが。
ふ…ん。
なるほど、はいそうですか。といいたいところだが、そもそも腑に落ちないのはネイサンがギルドのシマに踏み込んだって警告したのか?だ。
ギルドに楯突いてまで商売しようなんざ、よっぽどじゃないか。
いつもなら「今回限り」を約束させて、お得意の「法外な手数料」でもぶんどって顔を立ててやるんだろうに…。
ギルドの権益なんて言ってるけど、商人ひとりを相手にそれにしては大げさな対応だしな。

つまり、上得意様から「圧力」が掛かってるってことじゃないか。

だがな、候が、たかが商人を失敗させたがる理由がわからないんだよ。

声を若干荒げ、黒服の男に厳しい目を向ける。
しかし、黒服の男はこのような状況に慣れているのか、特に変わった様子は見られない。
■黒服の男 To:アール
まあ、あんたの推理をとやかく言うつもりはないよ、いずれにせよ「上得意様」の話は全て有料だ。

だが……、大げさねぇ、それは誤解だな。
むしろ消極的すぎる。
ギルドが本気なら実動部隊を使う……その為の連中だしな。それに、いくら冒険者ギルドの件があっても、あんたのような『例外』も有り得ない。
しかもオランの街にいる間に消してしまえば済むことなのに、敢えて『銀の網』亭の冒険者が護衛してるところを「襲撃」させるなんてな。
結局ギルドはどうしたいんだろうな?……これは「お仲間」同士の世間話だがな。

他に聞きたいことはあるか、『特別待遇』のアール殿?

今度は直接“黒服の男”に向かって金貨をはじく。
挑発も込めたのだろう、顔に向かってはじかれたそれを、男は軽く受け止める。
■アール To:黒服の男
あんたの言うことはごもっともだな、確かに消極的だ。
2つ聞かせて欲しい。
依頼主が誰か、率直に聞きたい。
コルネリア候に絡む筋なら、まだ説得の余地があるかもしれない。
あと、「ミルフィーユ・コルネリア=ガトーショコラ男爵」の素性と、彼女がギルドに絡んでないか…だ。

(一応、カードはあることだしな…まるっきりのジョーカーだが…。それに、「誰に」カードを切るか…だな。)

■黒服の男 To:アール
『依頼主が誰か』なんて、これじゃ足りんな。言ったはずだ、400は入るってな。
……それから、「ミルフィーユ・コルネリア=ガトーショコラ男爵」の素性?
あれは生粋のお嬢様だな、不思議なくらい世間知らずで有名だ。今言い寄って来てるのは10人、全員伯爵号を持ってるが、上は40後半、下は15歳だ。
趣味は乗馬、しかし遠乗りは誘われても行かない。
一般的な騎士としての嗜みがあり、かなり熱心なファリス信者でもある……将来「修道士になる」って話もあるな。
身体的には、大人と比べたら知性と精神力が飛びぬけてるが、あとは普通より少し良いだけだ……問題はまだ成長するってことだな。

■アール To:黒服の男
なるほどファリス信者…ね。
だいたいのことはわかったよ。ありがとう。
じゃあ、コルネリア候のところに直に行ってみるとするよ。
情報だけ聞いても解決はしないしな…。

■黒服の男 To:アール
いったい「何人に狙われてるか」すら知れんというのに、情報屋の前で次の行き先を告げるとは豪胆だな。

その情報でしこたま稼がせてもらうから、代わりにこれをやるよ。

そう言って、アールに羊皮紙の巻物を投げつけた。
■黒服の男 To:アール
盗賊ギルドからの紹介状だ、コルネリア候にも効果はあるだろう。
無効になるから、間違っても封を切るなよ。……もっとも候にあんたを売る為の手紙かも知れんがな。

■アール To:黒服の男
さすが、サービスがいいな。どっちにしても話しの取っ掛かりになるならありがたい。
まあ、色々と気をつけていくよ。


そうだ…

部屋を出る前に何か思いだしたように黒服に振り返る。
■アール To:黒服の男
「どうせなら、アールは“特に”女に弱い」って付けておいてくれ。
こんな感じでな。

言いながら、傍らの少女に袋(10G)を手渡す。
■アール To:黒服の男
同じ狙われるなら、そっちの方がいい。(笑)


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GM:支倉真琴