ジンは黒猫の「タークス」を、微動たりしない黒猫のところまで送りこんだ。
ひっそり近づいたつもりだったが、どうやら気付かれたらしい。
黒猫は突然時間が動き出したようにタークスに振り返ると、意味ありげな目でタークスを見つめた。
(ジン:へぇ、ずいぶん勘がいいんだな)
タークスは特に躊躇せずに黒猫の側まで寄っていく。そして鼻を近づけ、黒猫の体をくんくんと匂いを嗅いでまわる。
普通の猫の臭いがした。
黒猫も、タークスをくんくんと嗅ぐと、ついて来いと手招きする。
ひらりと屋根に飛び移ると、振り返ってタークスが付いて来るのを待っている。
またも躊躇せずに黒猫の側まで寄っていくタークス。
屋根に飛び移ると、あくびをして首をかいている。
黒猫は、それを確認すると、屋根から屋根に飛び移り、どんどん先に進んでいった。
その先にあったのは、オランのどこにでもある共同水汲場だった。
中央の噴水の下の石畳には輝くような白猫が、そしてその上……噴水の縁には、青味がかった銀色のとら猫が、美しい姿勢で座っていた。
そして、回りには20匹ほどの、さまざまな猫が集まっていた。
青味がかった銀色のとら猫にはベルト状の首輪がはめてあり、そのバックル部は盾を象ってあり、貴族の紋章があしらわれていた。
タークスを案内してきた黒猫も、とら猫の前に歩み出て首を垂れた。
タークスもやはり躊躇せずに着いていき、黒猫の少し後ろに座って首を垂れた。
回りを取り囲む猫達は、タークスの行為に興奮の絶頂に達した。
縁の上のとら猫も鷹揚に肯く。
どうやら、タークスは猫達に受け入れられたようだ。
タークスの目を通して、ジンは一般的に「シーフ猫」と呼ばれる「青味がかった銀色のとら猫」について思考を廻らせていた。
とは言え、ロマーリアン・ショートヘアの原種にして長毛種という希少な猫であることは認めるが、所詮「只の猫」に過ぎないはずだった。
もっとも、普通であれば、「お目々くりくりでかわいい顔」をしているのが特徴で、このオランでもブリーダー業者や貴族を中心に300匹ほど飼われている代物だが、シフォンは「野生の虎」のように険しく、同じ『種』とは思えない。
また、動物を密偵のように使う魔法や物品が存在するかも知れないが、よく分からない。
ただしタークスの猫の感覚は、黒猫は自由意志でシフォンの部下になっていたような気がするし、シフォンにおいても、操られていては、あの「王者のオーラ」は出せない気がした。
しばらくの間、とら猫の前に猫が一匹づつ進み出ては、みんなで肯いたり怒ったり悲しんだりする姿が見られた。どうやら地域の問題を議題にしているようだ。
ジンはバックルの紋章を確認したことで良しとし、タークスを猫議会から退場させた。
タークスが振り返った際、議場となっている噴水に歩み寄る新たな猫の口に「虹色に輝く棒」を咥えているが見えたような気がした。
GM:支倉真琴