盗賊ギルド |
アールは衛視隊の詰所のある市街地を出ると、大きな通りをいくつか過ぎそれまでとは明らかに雰囲気が違う場所に向かっていた。
オランの裏の入り口である、通称「常闇通り」。そこにある盗賊ギルドが目的地だった。
門番代わりの物乞いに教わった合図をすると中に通してくれた。
狭い入り口を潜って中に入ると、受付には二人の女性がいた。
二人はちょっと見た感じの印象は違うが、姉妹なのだろうかよく似た顔立ちをしているようだ。口元まで隠れるようにマントを巻きつけて現われたアールに、片方の女性が不審の目を向ける。
■アール To:受付(?) |
いくつか情報を買いたいのだが、話をしてもらえるだろうか。 「衛視隊絡み」の件で、なのだが。 |
■受付・黒髪の女 To:アール |
「衛視隊絡み」の件ね。 ……っとその前に。お兄さん、ここらじゃ見ない顔だね。 まずは、”挨拶”ってのが必要じゃないかい? |
■受付・栗色の髪の女 To:受付・黒髪の女>アール |
ちょっと姉さん。そんなに脅すように言うものじゃないわ。 ごめんなさい。えっと、オランのギルドは初めてですか? これからオランで仕事をされるなら、”挨拶”としてお名前と拠点を教えて貰えないでしょうか? |
ふたりの掛け合いの見事さに見とれてしまう。
自分に向けられた質問だと気付き、気を取り直すと、口元から襟元まで隠れるように羽織っていたマントを脱ぐ。
■アール To:受付・黒髪の女>栗色の髪の女 |
(咳払い)大変失礼をした。 私は「錆び色」のアール。ロマールから参りました。 しばらく戻る…戻れないようなので、こちらのギルドでも仕事の便宜を図っていただければ幸いです。 |
軽く礼をし、顔を上げながら2人を見比べてみる。
黒髪の女は、長い髪を後ろで一つにまとめている。
体つきは細身で、しなやかに良く動きそうな、運動慣れした印象を受ける。
対して栗色の髪の女は肩で髪を切りそろえていて、黒髪の女よりも肉付きは良く、特に胸は比較的大きい印象を受ける。
しかし決して太っているわけではなく、こちらもまた盗賊として体を動かす訓練を受けて、ちゃんと引き締まった体になっている。
■アール To:受付・黒髪の女>栗色の髪の女 |
失礼ですが、私があなた方におたずねするときは、何とお呼びすればよいのかな? |
■受付・黒髪の女 To:アール |
あたしはカトリー。 こっちはミレイアだ。 |
■アール To:カトリー |
了解した。長い付き合いになれるよう、よろしく頼む。 さてカトリー、ここ数日の事件の調査のために情報を教えていただきたいのだが、その前にふたつほど聞きたいことがある。よろしいか? |
■カトリー To:アール |
何かな? |
■アール To:カトリー |
まず、ひとつ。今、衛視隊ではワーウルフが原因として襲撃事件を探っている。 衛視隊の隊長は、「各方面に協力を仰いだ」としているが、我々が事件の解決に動くことに対し、ギルドとして不味い事は無いのか…だ。 他には言えない「裏」がないかを、ギルドに携わるものとしては、先に聞いておく必要があると思うのだが…。 |
■カトリー To:アール |
ああ、その件ね。 今回、ギルドは中立さ。 中立って言っても、特に旨味もない話だから手を出す気は無いって言うことさ。 衛視隊の……ソーダック衛視だっけ? あの人が貧乏籤を引かされて担当になった、ってこと位は知ってるけどね。 担当になったその日のうちに、使いの者がここに来たから。 「うちは何も知りません」って答えたけどね。 そうしたら、しょんぼりして帰っていったよ。 今のところ、うちのお偉いさんも特に裏はないって言ってるよ。 うさんくさい人間がオランに入ってきたって話は聞かないし。 |
そこまで饒舌に饒舌に語ったカトリーを、横に座っているミレイアが肘で突いた。
■カトリー To:アール |
おっと……ついしゃべりすぎちまったね。 ここからの質問は料金を頂くことになるよ。 さあ、何を聞きたい? |
■アール To:カトリー |
もうひとつ聞きたかったんだが…じゃあ、これは質問になるのかな? よそ者の私にはわからないのだが、「賢者の学院」が幅を利かせているオランでは、魔法薬…特殊な毒物も含めて盗賊ギルドでは流通ルートを握れているのかい? それとも、おおっぴらには向こうの方が力があるのかな。 |
■カトリー To:アール |
まあ、その質問はサービスにしておくよ。 うちじゃあある程度は把握しているけど、細かいものは分からないね。 それに、学院独自で見つけて来るような代物もあるし。 まあ、そう言ったときにはうちのメンバーを調査団に入れたりしてるんだけどね。 力関係は、正直あたしら下っ端にはよく分からないけど、どっちもどっちじゃないかな。 専門分野が違うから一概に計れないって事だね。 それで、本当に聞きたいことは何? |
「ちょっと考えさせてくれ」と、待ったをかける。
■アール To:独り言 |
うーん、裏をとりに来ただけだから、具体的に聞くことない…よな。 もういいです。っていうのもなんだしなぁ。(苦) |
カトリーにむかって(苦しまぎれに)ほほえんでみる。
■アール To:カトリー |
条件を具体的に言い表せないのだが、犯人につながりそうな情報があれば教えてほしい。 被害者達の特別に狙われそうな理由が思い当たらないので、ギルドでチェックしているような者や、関係していそうな情報でも構わないが。 |
それまでずっと話を聞いていたミレイアが話に割り込んできた。
■ミレイア To:アール |
そう言うことでしたら、我々から提供できる情報は現在の所ありませんね。 今回の件は、ギルドは積極的に関わる意志を持っていません。 従って、殆ど情報を持っていない状態です。 |
まあそう言うこった。
だから安心しな、あんたから金を取る気はないよ。
むしろこっちとしては、あんたがこの件の情報を流してくれる事を期待してるんだけどなぁ……。
そう言って、アールを上目使いで見つめた。
その視線を受けて、こういう状況は慣れていないようで、あわてて取り繕う。
■アール To:カトリー |
ああ、えっと…そんな目をされても困る…な。 そちらの意に沿うような美味しい情報になれば、また会いに来るよ。もとい、情報を売りにくるよ。(苦笑) |
「では」と言いながら、入り口へ戻るその顔は恥ずかしげに赤らんでいた。
それでいて、頭の隅の冴えた部分では、ギルドの上役への取り入り方も考えなければいけないかと、思いをめぐらしてみる。
アールは自分の置かれた境遇と、現在の状況にやや思考を混乱させながらも、急いで現場の仲間の元へ向かおうと思った。
■カトリー To:アール |
また来てくれよな〜。 |
■ミレイア To:アール |
情報、よろしくお願いします。 |
帰るアールをにこやかに二人は見送った。