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SW-PBM Scenario#144
白夜の島

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黒の残響


 船内・厨房

■ヒュレス To:マケリ
…あ……マケリさん。だ、大丈夫ですか?

ヒュレスのおどおどした声が響く。
マケリが意識を取り戻したようだ。うっすらと開かれた瞳に、力はない。
床に倒れたまま、自らの両手をじっと見つめている。その手がかすかに震えている。
■マケリ
お…俺は、また……?
……くっ…
リーア…。

苦しそうに顔をゆがめ、その両手で頭を掻きむしった。
目に見えない、自らの内にある「何か」を追い出そうとしているかのようだ。
■マーキュリー To:マケリ
マケリさん、何があったか覚えていますか?

マケリはマーキュリーの方を見た。出航前に見た時と同じ黒い瞳だったが、何かに怯えているような弱々しさがあった。マケリは強く目を閉じ、首を振った。
■マケリ To:マーキュリー
…わからない……。何も…覚えていないんだ。
でも、何してしまったかは、わかる…手に感触が残っているから…。

自戒するように、床に額を押し付けた。乱れた赤毛が頬に張り付く。
■マケリ To:ALL
…あの女の声が、頭の中に響くと…俺は…何が何だかわからなくなるんだ。
自分の中の闇が、自分自身を飲み込んでしまうような…。
2年前も、そうだった…。オランに戻ってからも、今も…ずっと……。

■ケット To:マケリ
女の声?2年前?

■カーガッド To:マケリ
……言いにくいことだと思いますが、一体2年前に何があったのです?
2年前といえば、丁度あなたの乗った船が遭難した頃だと思いますが……。
それに、あの女の声はいつからあなたを苛んでいるのですか?

■マケリ To:カーガッド&ALL
……2年前……。そうだ…俺と、父と…数人の研究仲間を乗せた船がザリィ島に向かっていた。あの島の「白い空」を研究するために。
けれど、島の直前でひどい嵐と渦潮に遭遇したんだ。船は傾き、もうだめかと思われた。俺は脱出用の小舟を用意しようとしたが…、そこには自分ひとりだけ助かろうと、船に研究資料を積み込む父の姿があり…俺は頭に血が上ってしまったんだ。

マケリは目を閉じたまま、息をのむ。
■マケリ To:ALL
……その時、初めてあの女の声を聞いた。いや…聞こえたというより、頭の中に直接響いてきたんだ…『あなたは悪くない』、『鎖を断て』…そんなような言葉だった。
そこから先は、覚えていない…気がついたら、父は血まみれになって倒れていて、俺は…返り血を全身に…剣は赤く染まっていた。
その後様子を見にやってきた研究員たちも、この惨状を見られた…と思った瞬間、やはり同じように床に倒れていたよ。……。
その後、船は嵐と渦潮に飲まれ、俺も…もう助からないと思った。
しかし、目を開けたら…そこにリーアがいた。ザリィ島の海岸に流れ着いていたんだ。

■ヒュレス To:ALL
あ、あの、僕もその時のことはよく覚えてます。
お嬢さまが、泣きそうになりながら、マケリさんを抱えて帰ってきたから、びっくりして……

ヒュレスが控えめに口を挟む。初めて聞く話に、彼も動揺を隠しきれない様子だ。
■マーキュリー To:マケリ
オランに戻ってからもあったんですか?一週間前までの一時的な滞在中に?
女の声が聞こえて・・・何があったかわかりますか?

■マケリ To:マーキュリー
……学院で父の研究室を見て、昔のことを思い出した時…。
それから、コキリアに会ったときも……。感情が高ぶると、いつも聞こえてくる。
でも、何とか耐えていたんだ……その声に身を委ねてしまえば、何の苦痛も感じなくなるが、あの時のように、きっと知らずに誰かを攻撃してしまうと思ったから。
俺は…それが怖かった……。

■カーガッド To:マケリ
もしかして、島に近づいたからということではないですよね?
甲板でも何かあったようですし、それと関係があるのでしょうか。

■マケリ To:カーガッド
わからないが…オランでは、声は遠くて、弱かったのは確かだよ。

■ケット To:ALL
うーん、島に向かえば向かうほど影響あるのかなぁ?

■カーガッド To:マケリ>ヒュレス
あと、先ほど聞いた「ミレスの子」というのも気になります。
ヒュレスさんも心当たりは無いですか?

■マケリ To:カーガッド
ミレス? …聞いたことのない名だけれど…。

■ヒュレス To:カーガッド
あ、あの、僕も。

ヒュレスは一瞬びくっと体をこわばらせると、そのあと黙って床を見つめた。
■ヒュレス To:カーガッド
……ええと…。でも、あの本に、そんな名前が載ってました。
ほとんど文字がないあの本で、最後に署名のように入っていたから、よく覚えてるんです…。

ぼそぼそと、ためらいがちに話すヒュレス。
■マケリ To:ヒュレス
…ヒュレス、ちょっと外してくれないか。

■ヒュレス To:マケリ
え? は、はい。

ヒュレスは立ち上がると、残された面々を気にしながらもおとなしく厨房を出ていった。
マケリはまだ体に残る苦痛に顔を歪めながら仰向けになり、ひとつ息を吐くと、一同を見渡した。
■マケリ To:ALL
…頼みがある。もし今度また俺がおかしくなったら、俺を殺してくれ。
次は抵抗できない気がするんだ…もう、戻って来られないような気がする。

マケリの顔に諦めと絶望の表情がはりつく。
■マケリ To:ALL
ヒュレスのやろうとしていることが、本当にできるのか…俺にはわからないが、それでリーアが喜ぶのなら…やり遂げて欲しい。

俺が、村人や、村の子どもたちや、…リーアを傷つけてしまう前に。約束してくれ。

■マーキュリー To:マケリ
もしマケリさんが正気を失って誰かを傷つけようとしたときは全力で阻止します。
でもマケリさんの願い通りには約束したくないですね。
どうかマケリさんも最後まで希望を失わないでください。

■カーガッド To:マケリ
あなたの決意の程は買いましょう。
でも、「殺してくれ」……その言葉に「はい、そうですか」と答えるわけにはいきませんよ。
だから、もしそうなったとしても私たちが何とか止めて見せます。

……だからあなたも最後まで諦めてはいけません。
あなたの罪の意識と贖罪の気持ちを利用されているのは明白です。きっと元に戻る方法はありますし、罪を贖うのはそれからでも遅くは無い、と私は思います。

■マケリ To:カーガッド&マーキュリー
……。

マケリはじっと虚空を見ている。その瞳の奥で感情が揺れているのがわかる。
■マーキュリー To:マケリ
マケリさんを利用して操っている「声の主」がザリィ島の何処かにいるはずです。
それに、僕等が依頼によってしようとしていることは、声の主を倒すことに繋がっているように思えてなりません。
あなたが希望を無くしたままだったら、ますます相手に利用されるだけですよ。

■マケリ To:ALL
……。
希望、か…俺は、それを捨てずにいられるだろうか。

そう囁くと、手を胸に静かに置いた。
緊張の糸が切れたのか、そのまま気を失うように眠ってしまったようだ。
■カーガッド To:マケリ>マーキュリー&ヒュレス
……大丈夫。あなたならきっと希望を捨てずにいられますよ。

さて、甲板も大変なことになっていたみたいですし、ちょっと様子を見たいですね。
あ、ヒュレスさん。マケリさんを部屋まで連れて行くのは……一人じゃ無理か。
部屋から毛布でも取ってきて掛けてあげてくださいな。
後はお願いしますね。
じゃあ、いきましょうかマーキュリーさん。


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GM:ともまり