SW-PBM Scenario #82 目次

ギルドの女


オラン 商業地区

 カルソニックは女性の尾行を開始した。女性は時々さりげなく周囲を警戒している様子だったが、商業地区を通り抜けてやがてある家に入っていった。尾行にはまったく気がついていないようだ。
■カルソニック to:独り言
・・・さて、どっかで会った気がするんやが・・・・。
どこで会ったかのぉ・・・。
っと、家の中に入ったか・・・。

 女性の入った家には見覚えがなかった。シーフが通常使うセーフハウス(避難所兼アジト)ではないようだ。周囲は中流の上といった階級が多い住宅地である。
 中の様子をうかがってみたが、まだ街中の雑音が残っているのかよく聞き取れなかった。
■カルソニック 
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってか・・・。
まぁ、ここは入った方がえぇやろ・・・。

 カルソニックは、こっそり家への侵入を試みた。まず、玄関にかかっていた鍵。これは、カルソニックには簡単に解除することができた。慎重にドアを開け、忍び足で内部に入る。まだ気づかれていないようだ。
 家の中は狭く、玄関と奥の部屋しかない。その奥の部屋に人の気配がした。どうやら一人でいるらしい。
■カルソニック 
はて・・・。
こんだけ立派な家に住んでるっちゅ-事はシーフギルドの幹部か何かという事か・・・。
捕まったら一発やの・・・。

 慎重に再び聞き耳を行う。今度は室内なので、よく聞き取れた。衣擦れの音、軽いザッザッという音……
 物陰からそっと覗いてみると、いやに家具が少ない。テーブルと椅子と小さいタンスとドレッサーだけ。女性は、ドレッサーの前に座って、こちらに背を向けてブラシで髪を梳いている。ザッザッという音はこの音だ。そしてその髪は、赤毛だ。
 彼女は、背後の影に潜むカルソニックに気がついた様子はまだない。が、こちらからも顔はまだ見えない。
■カルソニック To:女
 一人暮らしで鍵をかけないたぁ不用心やな。鍵、開いていたで。

■女 
!!!

 赤毛の女は、とっさに立ち上がってこちらを向いた。手にはダガーが握られている。その動きは訓練されたシーフのものだ。
■女 To:カルソニック
……鍵はかけたとおもうけど。何か用?カルソニック・スカイライン。

■カルソニック To:女
久しぶりの再会なのに連れないのぉ、教官。
もっとも最初顔合せた時は名前さえも忘れちまってたがな。まぁ、お喋りはさておき・・・。
なんであの家に出入りしとる? 教官が教える様な事をしとるとは俺には思えないが・・・・。

 振り返った顔には見覚えがあった。カルソニックに変装の手ほどきをした、『七つ顔』の異名を持つ女盗賊だ。
■女 To:カルソニック
もちろん、遊びに行ってたわけじゃないわよ。で?あんたこそ、あの家の前で何してたの?

 素直には答えそうも無い。が、ダガーはしまって警戒は緩めたようだ。
■カルソニック To:女
時間も無いし嘘や駆け引きしてもムダやさかい正直に話すわ。依頼人に頼まれて人を探しとる。
名前はマルセリーナ。ま、もっともあの中じゃ名前も変わっとるかもしれんが・・・。
心当りは無いか?

■女 To:カルソニック
あるわよ、心当たり。塔に囚われのマルセリーナ姫様。かわいそうな小鳥さん。
それで?あんたみたいなのが、一体あの娘をどうする気?

 ちょっとからかうように聞いてくる。
■カルソニック To:女
塔? おおかた塔の最上階っつー事か?
それと、おまぃさんが何やっとるのか、というのと、ウチのギルドがどこまで絡んでるのか聞きたいんやが・・・。

■女 To:カルソニック
それはあたしからは言えないわ。この件に関してはそんな権限ないもの。どうしても知りたければもっと上に聞いてちょうだい。もちろん、あたしがそう言ったなんてことは他言無用でお願いね。

■カルソニック To:女
げぇ。かなり上まで絡んでるっちゅー事かいな・・・。

 女はさぁね、と言った風に首を傾げて見せた。
■カルソニック To:女
あと、何で「囚われの小鳥」なんつー二つ名を付ける?

■女 To:カルソニック
まぁ、あの強欲オヤジがあの娘をどうするつもりなのかは知らないけど。田舎育ちの自由な小鳥を大金で縛って塔に閉じ込めて……
あんまりよい想像はできないわねぇ?

 と言って肩をすくめる。
■カルソニック To:女
姫っちゅー渾名(あだな)も気になる所やが・・・・。
様は『夜のお供』っちゅー事か。

■女 To:カルソニック
『姫様』っていうのは『大事にされてる』ってこと。まだ手は出されてないと思うけど。そんなことされたらあの娘死んじゃうわよ。
で?あんたは何をたくらんでるの?

■カルソニック To:女
俺?俺は詳細聞いて気に食わなかったら・・・・

潰すに決まったるやろ?

■女 To:カルソニック
あ、ゴリーエフに関してはせっかちに手を出さない方がいいわよ。よい生徒だったあんたに対する心ばかりの忠告。
あそこの家にはあんたの元同業者もかなり雇われてるし。気をつけるのね。

■カルソニック To:女
・・・『よい生徒』って俺への皮肉か?(笑)俺ぁ「サイレント・キリング」と呼ばれる暗殺術以外はさほど成績よかぁねぇぞ。

・・・・いずれにせよ飼われている『犬』なんざさほど恐かぁないわ。
本当に恐いのはその中で『戦場の犬』と呼ばれている本物の傭兵・・・。
俺達の様な消耗品さ。
ま、せいぜい気をつけるわ。

 話しながら身支度を整えていた『七つ顔』は「さて」と鍵を取った。先ほどの地味で大人しい家庭教師の姿は影もなく、すっかり赤毛の気の強そうな女に変身している。
■女 To:カルソニック
さ、おしゃべりはおしまい。あたしは帰るけど、あんたはどうするの?

■カルソニック To:女
俺は一旦仲間の所に戻るわ。
ギルドが完全に1枚噛んでる様じゃ対策も練り直さなきゃいかんしな。
ギルドにゃ喧嘩売るつもりは毛頭ないが、奴等に喧嘩売る可能性はあるからって上に報告して貰えると助かるな。

■女 To:カルソニック
わかった。それとなく言っておく。

 カルソニックは銀の網亭へ、女は盗賊ギルドへと、それぞれ家を出て夜の闇に消えた。



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