「生きる喜びとは、主役を演ずることを
意味はしない」(福田恆存)
歌劇場 舞台 |
■ クレフ |
…………………う〜む(-_-;) |
団員にまじって、崩れたセットの片づけを手伝うジークと、こんなものが直撃していたらと、(イルミナの)身を案じるクレフ。
■ ジーク To:ALL |
しかし間一髪でしたねぇ。 最近はこーいう事故とかって多いのですか? |
■ 団員A To:ジーク |
ここ二、三週間かな。 団長は心配性すぎなんじゃねぇか? ただの事故だろ。 あんた達みたいなのを雇う金があるなら、俺達に還元して欲しいぜ。 |
■ 団員B To:ジーク |
そうとも言えないだろ。 それとも何か? 俺達がいい加減にセットを作ってるとでも言いたいのか? |
勝手な言い合いを始める団員達。
■ クレフ To:団員’s |
ま、まーまー、落ち着いてください(;´Д`) |
■ ジーク To:ALL |
公演が近いとのことでしたので、団長さんも気が気じゃないんだと思いますよ(^^; |
■ 団員A To:ジーク |
まぁ、あいつは団長のお気に入りだからな。 |
■ ジーク To:ALL |
そーなんですか? そういえばエレックさんはここの歌劇団の生え抜きなんでしょうか? |
■ 団員C To:ジーク |
ああ、そうさ。 もう十年ぐらいになるか。あいつがガキの時分から知ってるぜ。 |
■ クレフ To:団員C |
へぇ、それは長… |
■ ジーク To:団員C |
10年ですか。ずいぶんと長いんですねぇ。 やはりその頃から才能があったんですか? |
ジークにせりふを奪われるクレフ。イルミナのことでも考えて、ぼーっとしていたのか?
■ 団員C To:ジーク |
ああ、そうだな。 だから、団長も手塩に掛けてここまで育ててきたんだろ。 |
■ クレフ To:団員C |
それだけ長くいるってことは、子供のころからいたことになりますよねぇ。 エレックさんのご両親って、どうしてらっしゃるんでしょう? |
■ 団員C To:クレフ |
ああ……あいつは孤児なんだよ。 親の顔も知らないって言ってたな。 |
■ ジーク To:ALL |
すごいですねぇ〜。 でもそれだけすごい人間だと引き抜きとかってなかったんですかね? |
■ 団員C To:ジーク |
そういう話は聞いたことは無いぞ。 ああ見えて、意外と義理堅い奴なんだよ。 |
■ ジーク To:団員C |
なるほど・・・・。 ところで今度やられる舞台はどんなものなのですか? |
■ 団員C To:ジーク |
次の演目かい? 「リュスイの野が風」って奴だ。 |
話のあらましは、伯父に父王を謀殺された王女が、その仇を討つ為に王子として育てられ、ついには王座を取り戻す。
お約束で、伯父の息子との恋愛なども織り交ぜた一大ラブロマンス。
本来ならば、王女役を王子と王女にそれぞれ役者を立てて演じるところを、今回はすべてエレック一人にやらせるということらしい。
■ 団員C To:ジーク |
もしこれが成功すれば、エレックの実力を疑うものはいなくなるさ。 昔は、エレックは団長の男妾じゃないかって中傷もあったが、そんなことは言えなくなるだろうよ。 |
■ クレフ To:団員C |
あの、その演目って、どこかの実話を元にしたりしてないですかねぇ? それがもとで、誰かに狙われてる…なんて考えちゃったりしたもんですから(^_^;) |
■ 団員C To:クレフ |
元ネタか? そりゃあるが、古典戯曲の焼き直しだぞ。 そんなもので命狙われちゃたまらんぜ。 |
歌劇場 エレックの楽屋 |
楽屋の前まで来ると、エレックは一人中に入っていく。
■ アップル To:エレック |
あぁ、ちょっと待って下さい! 中に何か・・・・・・ |
楽屋に入っていくエレックを止めるようにして、楽屋に入るアップル。
警戒しながら中の様子を伺うが、怪しい気配は感じられない。
■ エレック To:アップル |
すぐに戻るよ。 外で待っててくれないか。 |
■ イルミナ To:エレック |
わかりました。 なにかあったら、必ず大声をあげてください。 それと、そういったときのため、鍵はかけないで下さい。 |
■ アップル To:イルミナ |
ねぇねぇ、やっぱり中に入らせてもらった方がよくない? いまさっき、あんなことがあったばっかりだし・・ね? |
■ イルミナ To:アップル |
ちょ、ちょっと待ってくださいね |
ドアに耳を当てて中の様子を伺うと……なにやら衣擦れの音が。
練習で汗かいたしね。
■ イルミナ To:アップル |
ん〜...どうやら着替えをされているようですが... 入れてもらいます?(^^; |
ちょっと顔を赤らめながらも、油断なく(?)周囲の気配をうかがう。
■ イルミナ To:アップル |
特に怪しい気配も感じませんし... もうちょっと、私は待とうと思うんですが... |
純情ぶりを発揮する女性陣。
そこへ、舞台の片づけ手伝いから逃げてきたのか、アシストがやってきた。
■ アシスト To:アップル&イルミナ |
……ねーちゃん達、顔赤くしてなにやってるの? エレックさんは? |
■ アップル To:アシスト&イルミナ |
へっ? あ、えっへれっ、あの・・・覗いてなんてないわよ、私たち |
こっちの墓穴はふ〜かいぞ〜♪
■ アシスト To:アップル&イルミナ |
ねーちゃん達ってそんな趣味あったの?(’’; |
そんなこんなのうちに、着替えを終えたエレックが部屋から出てきた。
■ エレック To:おおる |
待たせてすまなかったね。 ……どうかしたのかい? |
■ イルミナ To:エレック |
い、いえ(^^; あっ、今度からどこか部屋に入るときなどは先に私たちに中を確認させていただけますか? 煩わしいとは思いますが、どうかよろしくお願いいたします。 |
■ エレック To:イルミナ |
……許可したときならば構わないが、断りもなく入るのだけはやめてほしいな。 |
■ アシスト To:エレック |
でもね。部屋の中にさっきみたいヤツが潜んでる可能性もあるんだから、 気をつけなくちゃいけないのはホントだよ。 ま、今回は何もいなかったみたいだけどさ。 |
ちらりとアップルに視線をやる。
■ エレック To:アシスト |
…………ふむ。 若いのに、しっかりしてるものだね。 伊達にこれを生業にしてるわけじゃないと言うことか。 気をつけるとするよ。 |
■ アシスト To:エレック |
えへへ、ありがと(^^ヾ) それで、部屋の中見せてもらえるかな? 今、劇場の構造見て回ってるんだ。 |
■ エレック To:アシスト |
別に、プライベートなところにまで顔を突っ込む必要は無いんじゃないか?
……ならば、私の見ているときになら、許可しよう。 |
■ アップル To:アシスト&おーる |
まぁ、犯人が棚とか引き出しに隠れてるとは思えないし、怪しそうな所でもエレックさんに黙って開ける理由はなさそうだから、ね? それに、私たちが勝手なことをやって、みなさんの演技とかに悪影響を与えたら、それこそ犯人の思うつぼってやつかもしれないし・・ ・・・そのへんは、私たちみんな、気をつけようね |
歌劇場 舞台裏 |
一方その頃。ニケルとともに、リュセラは舞台裏に回り、奥へと進む。
念の為用心しながら裏口を開けるが、扉には何の仕掛けも無く、あっさりと開いた。その向こうにあったのは石畳の道だけ。
犯人はもちろん、目撃者になりえる人の姿も無い。
■ リュセラ To:ニケル |
この裏口、鍵を掛けたりはしてなかったの? |
■ ニケル To:リュセラ |
掛けてあったはずだがなぁ。 |
首をかしげるニケル。
■ リュセラ To:ニケル |
ここの鍵を持ってるのは誰? |
そう言いながら、鍵を無理に開けた跡が無いか調べる。
しかし、そう言った跡は見つからない。
■ ニケル To:リュセラ |
そうだな、まずは、座長の部屋に一つだな。 他は、劇場の管理責任のおやじが一つ。 それと、大元の鍵は、王城にでもあるんじゃねぇかな? そこまではしらねぇなぁ。 |
リュセラは、劇場の入り口の窓口にぶすっと座っていた、頑固そうなおやじを思いだした。
■ リュセラ To:ニケル |
それで、鍵を掛けたのは?管理人が直接? |
■ ニケル To:リュセラ |
そうなんじゃないかな? そこまでは把握してねぇなぁ。 |
■ リュセラ To:ニケル |
そう。 掛けてたなら、管理人に誰かに鍵を貸してないか聞いてみようかな。 |
■ リュセラ To:ニケル |
次は、犯人が居た所ね。 |
歌劇場 舞台天井裏 |
次に、事件の手がかりを得ようと天井裏へ上がってきたリュセラ。
月のセットを吊っていた舞台装置を調べるが、特に怪しい所は見当たらない。
■ ニケル To:リュセラ |
アンタに言われなきゃ、ただの事故だとしか思えなかったよ。 さすが、座長が雇った護衛だねぇ。 |
一緒に上がってきたニケルが、そう声を掛けた。
■ リュセラ To:ニケル |
そうね。私達でなければ見落としてたかも。 でも、犯人に逃げられたからあまり誉められてもね……。 |
■ ニケル To:リュセラ |
しかし、アレは本当に狙ってやったのか? まさか、エレックを殺そうなんて思ってる奴がいるなんて信じられないぜ。 |
■ リュセラ To:ニケル |
本当。彼が死んで、喜ぶ人が居るのかしら? |
■ ニケル To:リュセラ |
いねぇと想うんだがなぁ。 まぁ、一昔前なら、エレックに女を盗られた野郎達が喜ぶかも知れねぇが。 |
■ リュセラ |
(それは、盗られる男が悪いのよ) |
■ リュセラ To:ニケル |
ふーん。女を食い物にしてたんだ。 でも、「一昔前なら」って今は違うの? 彼、もう身を固めちゃったとか。 |
■ ニケル To:リュセラ |
いやね、昔は凄いもんだったのさ。 毎日取っ替え引っ替えって言っても言い過ぎじゃなかったんじゃないかな。 あの容姿に加えて、あの声だろ? 貴族の隠し子って噂だってあったぐらいだしな。 だがなぁ、一年ぐらい前かな、いきなり浮いた話がぱたっとやんだんだよ。 |
■ リュセラ To:ニケル |
人生、色々あるって言うし。 何があったか、突然境遇が変わるなんていい気……じゃなくて災難よねエレックも。 |
次に、ジークが見た小男がいた辺りを調べる。
すると……。
■ リュセラ |
(犯人の物かな?) |
その場所には、一冊の手帳が落ちていた。
拾って中を確かめると、小汚い東方語の文字がびっしりと。
苦労しながら拾い読むと、
「エレックは、もしかして……」
「女嫌い、いや人嫌い?」
「……隠し子?」
などという言葉が読みとれた。
■ リュセラ To:ニケル |
これ、貴方の? |
そう言って、閉じた手帳を手に持って見せる。
■ ニケル To:リュセラ |
なんだそりゃ? 俺のじゃないなぁ。 |
■ リュセラ To:ニケル |
手帳。 違うならいいんだけど。 |
歌劇場 舞台 |
捜索を終え、手帳を手に、天井裏から下りて舞台に戻る。
■ ニケル To:リュセラ |
それじゃ、さっきの兄ちゃん達に手紙を渡してくるよ。 |
ニケルは、そう言い残すと去っていった。
■ リュセラ |
そうだ、今のうちに確かめとこ。 |
リュセラは、裏口への施錠の件を確かめに、管理人の所へと向かった。
管理の話では、施錠はしてあったという。
しかし、ニケルも言っていたように、中からならば鍵を開けることは難しくないようだ。
■ リュセラ To:管理人 |
鍵、今もここにあるんですよね。 誰かに貸したり、しませんでした? |
■ 管理人 To:リュセラ |
当然じゃろ。 |
それからしばらくは、エレックを襲う事件は起こらなかった。
冒険者たちは、エレックの身辺警護をしつつ、情報収集に努めていた。イルミナ、アップル、アシストがメインとなり、他のメンバーと交代しつつエレックを護衛する。
汗が飛び散り、ペンダントも跳ね踊るほどに一心不乱に稽古に熱中する姿は、この舞台にかける意気込みの並々ならぬ強さを感じさせた。
普段の態度は相変わらずそっけないものではあったが、冒険者たちの実力を認めたのか、多少は態度も軟化してきたようだ。
アップルがそれとなく質問すると、エレックは、言葉少ないながらも、ペンダントは、孤児である自分が唯一持っていた形見(?)の品であることを教えてくれた。
■ アップル To:エレック |
へぇ・・それじゃ、これからも大切にしないといけませんね。 |
■ ジーク To:リュセラ |
あれ以降なにもおこりませんねぇ(^^; |
また、ジークとクレフは、エレックに宛てられた手紙の山と格闘していた。
同じような筆跡のものは無いか、直接的な犯行を示唆するようなもの、またはセットが崩れ落ちることを予言したようなもの等など。
様々なアプローチから犯人の手がかりを探ったものの、残念ながら芳しい結果は得られていなかった。
■ ジーク To:クレフ |
ふう・・・・これだけ調べても何も出てこないってことは無駄足でしたかね(^^; |
そしてリュセラは……。
仲間たちからサポート(エレックの動きや部屋の見張り等)を受けつつ、こっそりとエレックの部屋を捜索。
その結果……。
様々な舞台衣装、長めの綿布の反物、そしていつも身に付けているはずの例のペンダントと同じものが、机の奥にしまわれていた。
残念ながら、エレックには日記をつける習慣は無かったらしい。そうそう、リュセラが期待していた報酬の増額に関しては、据え置きとの回答があったことも付け加えておこう。
そして、あの事件から一週間ほどたったある日のこと……。