森 |
不幸だと思っていた娘が、幸せそうな顔をしている。
辛いだろう、不憫だろう、寂しかろうと思っていた娘が、今寂しくないと言う。
今まで自分が信じていたのは何だったのだろう‥‥と、エーギルは混乱している。
その混乱しているエーギルに、そっと‥‥冒険者達は語りかける。
■ ノエル To:エーギル |
今見えたでしょう?マーシィさんの心の中が。 彼女ひとりぼっちじゃないんです。 みんな一緒にいる。みんなで村のこと守っているんです。 |
■ ヘルムンス To:エーギル |
そして、みな彼女のことを想っているんですよ。 マーシィさんのことを覚えているのは、あなただけではないんです。 |
■ エーギル |
マーシィは‥‥しあわせ‥‥なの‥か‥‥? |
ぼそ‥‥と、つぶやく。
その言葉は力ない。
■ ノエル To:エーギル |
村の人たちも、10年前のことよく覚えています。 マーシィさんのこともここにいる冒険者の人たちのこともすべて。 そして、エーギルさんがどんなに悲しかったかも。 |
■ エーギル To:ノエル |
わたしの‥‥かなしみも‥‥? |
■ ノエル To:エーギル |
そう。それがわかるからこそ村長さんはとても辛かったのだと思うんです。 それがわかるから苦しみを味わうのは自分一人でいいからと・・・冒険者を呼ばなかったんじゃないでしょうか。 もしまた冒険者を呼んで、シンディさんも冒険者も戻ってこなかったらって、思ってしまうでしょう。 村長さん、冒険者にも家族がいる・・・冒険者が帰らなかったら悲しむ人がいるということも、思い至っていたから、だから、呼ばなかったんです。 大切な人を失って悲しむのは自分一人にしようと。 はっきりとは聞いてないですけど、マーシィさんやエーギルさんのこと教えてくれたときの苦しそうな顔、よく覚えてます。 シンディさんを失って一番悲しむのは、やっぱり村長さんだと思います。 |
■ エーギル To:ノエル |
村長‥‥も‥‥ 悲しいみを‥‥ |
■ ノエル To:エーギル |
私たちも、最初はマーシィさんのこと知りませんでした。 でもマーシィさんの心に惹かれるようにここまでたどり着きました。 偶然じゃない。マーシィさんの村を守りたいと祈る気持ちが、私たちを引き寄せたのだと思っています。 |
■ アトール To:エーギル |
マーシィの村を守りたいという気持ち、そしてあなたを救いたいという気持ち。 そのあなたを想う心を聞いて上げて下さい。 |
■ マーシィ |
おとうさん‥‥。お願い。わかって。 確かにおとうさんは悲しかったかもしれない。私が、村の為に犠牲になったのじゃないかって、勘違いしていたから‥‥だからおとうさんは悲しかったんじゃないの? でもね、おとうさん。わたしは村の為に犠牲になったんじゃないの。だから、違うのよ。 私‥‥いつもおとうさんに守られてばかりだった私が、今度は村を守る側になれて‥‥凄く嬉しいの‥‥。だから、犠牲になんかなってないんだよ? おとうさん‥‥お願い‥‥悲しまないで?悲しまれると‥‥その姿をみてて、逆にわたし悲しくなっちゃうの‥‥。 それでねおとうさん。一つお願いがあるの。こんな‥‥こんな私を‥‥見守ってて‥‥くれない? 近くにいて‥‥くれない?おとうさん‥‥ |
マーシィは、一生懸命な声で、そう話した。
■ エーギル To:マーシィ |
マーシィ‥‥私は‥‥間違っていたの‥‥か? そうして‥‥ただ、ひたすらに‥‥お前を苦しめていたのか? 私は‥‥‥ お前にただ、苦しみだけを与えていたの‥‥か? |
へなへなへな‥‥とその場にへたり込むエーギル。
■ マーシィ To:エーギル |
ううん。私おとうさんから、いっぱいいいものもらったよ。 おとうさんの‥‥純粋に私の事を想ってくれている心。いっぱいもらったよ。 ただ、ちょっとおとうさんとすれ違いがあっただけ。 ね、おとうさん‥‥今から少しずつでいいから、差を埋めて行っちゃ‥‥だめかな? すれ違ったままじゃ、悲しいモン‥‥ |
■ オジイ To:エーギル |
そうですよ。エーギルさん。 あなたのように悲しい人をこれ以上出さないであげてください。 そして、ベクトさんに会いに行きましょう。 ベクトさんもあなたを喜んで迎えてくれますよ。 |
■ エーギル To:オジイ |
いまさら‥‥どんな顔して村に行けというのだ‥‥ それは‥‥酷だ‥‥酷過ぎる‥‥‥ |
頭をかかえ、ぼそぼそとエーギルがいう。
■ ノエル To:エーギル |
大丈夫。私たちがついてます。 きちんと説明したら村長さんもわかってくれるはずです。 だって、娘を思う気持ちは一緒でしょう? エーギルさんが村のこと嫌っていたんじゃなくて、マーシィさんのこと愛していただけなんだってきっとわかってくれます。 |
■ オジイ To:エーギル |
大丈夫ですよ。 エーギルさんの気持ちが一番分かるのはベクトさんですから。ね。 それに、村に戻ればしょっちゅうマーシィさんに会いに来ることもできますしね。 まずはベクトさんとあってから決めても遅くはないとは思いますよ。 |
■ソフィティア To:エーギル |
あなた達が村に対して行ったことは一通の矢文を撃っただけでしょ? どうせあの、何だったっけ?ヴァなんちゃらとか言うダークエルフの案なんでしょ?神殿にいた時は、エーギルさん、ちょっとそういう事を考えたりやったり出来る様に見えなかったから。 村の皆が知ってるなら、確かに酷かもしれない。でもね、村でエーギルさんが関係している事を知っているのは私達とベクトさん、シンディさん、ルセウスさんしかいないわ。ちゃんとこれまでの事を話せば分かってくれる人達だと思うの。 だから勇気を出して村に戻ってみたらどうかしら?でないとマーシィさんの側に居ることだって難しくなっちゃうわ。それにくらべたらベクトさん達に会って謝る事ぐらい何よ。 |
話ながら、ソフィーはエーギルの肩にやさしく手をのせた。
先ほどまでの険しい表情はすでになくなっている。
■ソフィティア To:エーギル |
ね、村に帰ろ。でないと、一生後悔するよ。 |
■アフル To:エーギル |
そうそう、結果的には何もなかったんだし。 エーギルさんも、もうシンディさんを生贄にしようなんて思ってないでしょ? だったら、ちゃんとその事をベクトさん達に話せば大丈夫ですって。 |
■ヘルムンス To:エーギル |
そう。あなたが今までにしてしまったことなんて、取り返しのつかないことでもなんでもないんですよ。 もう1度、村に戻って、全てをやり直したって遅くはないはずです。 |
■ アトール To:エーギル |
それが、あなたの娘さんのマーシィの願いでもあるんだ。 |
■ エーギル |
わたしが‥‥むらに‥‥かえる‥‥? |
そう、冒険者達があたたかくエーギルの事を説得しているその場に、一組の男女がたどり着いた。
ルセウスとシンディだ。
■ ルセウス To:ALL |
みなさん!御無事だったのですね! ‥‥と、そこにいるのは‥‥‥!!!!!! まっまさか‥‥エーギルさん!? |
ルセウスのその発言に、びくっとなるエーギル。
すでにその表情に力はなく、完全におびえているようにも見える。
■ エーギル |
わたしは‥‥わたしは‥‥‥ |
エーギルの視線が、宙をさ迷う。
■ ノエル To:エーギル |
マーシィさんのために帰ってきた、ですよね(^^) |
というノエルの目は、「お願い,今はふか〜くつっこまないで(^-^;;;;」という願いがこめられたものだった。
ルセウスは何かをいいかけようとしたが、シンディがそっと‥‥押さえた。
■ オジイ To:ルセウスandシンディ |
まあ、詳しくは後で説明しますよ。 |
■ アフル To:ルセウス、シンディ |
ルセウスさん、シンディさんまで。 あっ、そう言えば、戻ってこなかったらここまで来てって言ってたっけ(^^;; |
■ ヘルムンス To:アフル |
すいません。あの時は夜遅くにでも村まで戻れると思ってたものですから。(^^; |
ルセウスやシンディのほうに向き直って、話を続ける。
■ ヘルムンス To:ルセウス、シンディ |
昨日のうちに戻れなくて申し訳ありません。少々事情がありまして・・・ ただ、村の危機は取り除かれたことだけは確かですからご安心を。 |
■ アトール To:ルセウス、シンディ |
今回の事件の黒幕を倒したけど、夜遅くになったので一晩野宿をしてから、ついさっき、ここに来たんだ。 |
■ シンディ To:ALL |
‥‥‥すいません。状況がすこし掴めませんので‥‥どういった事がありましたのか、教えていただけますか? |
そういいながらも、皆の正面にある石像が気になっているシンディ。ちょっとそわそわしている。
■ アフル To:シンディ |
それは… |
と言い、エーギルの方を見るアフル。
■ エーギル To:シンディ |
お‥‥おまえさんが‥‥‥ |
何かをいいかけて、やめる。
そのエーギルを、マーシィが優しく包み込む。
■ シンディ To:ALL |
それと‥‥その正面にある石像はいったい‥‥? |
■ ルセウス To:シンディ |
それは‥‥‥‥‥シンディ。君の‥‥ |
自分の父母の姿を見、静かに、ただ静かに涙を流すシンディ。
しかし、表情は崩れていない。
■ シンディ |
‥‥すいません。すこし感情が高ぶってしまって‥‥ |
そっと涙をぬぐうシンディ。
■ ルセウス To:ALL |
で、みなさんがそろっているということは‥‥ (ちらり、とエーギルを見る) えと‥‥なんていうか‥‥(^-^;;; |
聞きたいことは山ほどあるのだが、その場の雰囲気で聞けないでちょっとこまっているようだ。
■ シンディ To:ALL |
とりあえず‥‥もどりましょうか?それとも‥‥‥ここで軽く食事にします? お腹がすいているかと思って、軽いお弁当を作ってきたのですが‥‥お食べになりますか? |
と、シンディのもって来た包みの中には、手軽に食べれるサイズのサンドイッチが入っていた。
■ アトール To:ALL |
そうだな。お弁当を食べながらこれまでの経緯を簡単に話す、というのもいいかもしれない。 ちょうど腹も減ってるし(^^; その後、村長のところに向かって、詳しい話をする事にしようか? |
エーギルの方に向き直る。
■ アトール To:エーギル |
今後の事は今すぐに決めなくても良い。 ただ、とりあえず村長のところには俺らと一緒に行って話をしようぜ。 村長とじっくり話して、今後の事はゆっくり決めたらいいさ。 どうだ? |
ア・トールの問いに、じっくりと考えるエーギル。
‥‥‥
自分で決めたのか、それとも娘の後押しがあったのか‥‥エーギルはゆっくりとうなずいた。
■ アトール To:ALL |
よし、じゃぁ、弁当だ、弁当。 昨日から緊張しっぱなしだから、実は腹減ってヘロヘロなんだ(^^;; |
ちょっと軽い調子でおどけるア・トール。
その姿に、辺りの緊張感が、優しくゆるむ。
■ シンディ To:ALL |
お茶もありますから、どうぞ(^-^) でも、喉には詰まらせないでくださいね☆ |
にっこりと笑みを浮かべるシンディ。
皆、おもいおもいの場所に座り食べ始める。
昼食をとりながら、冒険者達はゆっくりとルセウス達に状況を説明した。
10年前の魔物の件により、エーギルが少し暗黒神に魅入られてしまい、それをダークエルフが利用して今回の事件を起こした事。
ただ、エーギルの神への信仰が、本心からのものではなく、ただ娘を思う父の心がそうさせたものであり‥‥今、娘が不幸せではないことを知った事により、暗黒神からの呪縛から解き放たれている事。
今回の依頼は、確かにミトラからのものではあったが、途中からマーシィからの依頼も受けるようになったことなどを‥‥ぽつりぽつりと説明していった。
話しが全て終わった頃、シンディはそっとエーギルの方へ向かい、そっとその手を合わせると、
■ シンディ To:エーギル |
お話は全てうかがいました。 10年も放浪していたのでしょう?だいぶお体がお疲れかと思います。 さあ、あなたの故郷へ帰りましょう(^^)。 ゆっくり、休むために、帰りましょう。 |
シンディは、エーギルに向かい、にこやかにそう言った。
エーギルの目から、涙がこぼれた。
■ ルセウス To:ALL |
では‥‥食事も終わりましたし、村に帰りますか。 きっと、ミトラ君も首をなが〜〜くして待っているでしょうし、ね。 |
皆が出発準備をしていると、シンディはそ‥‥っと石像の方へゆき、一言二言つぶやいて‥‥皆の先頭を歩き始めた。
マーシィは静かに皆を見送っている。