野営地 |
オジイは、むくっと起きあがった。
■ オジイ To:アフル |
……そろそろ、交替ですね。 替わりましょう。 |
傍らでヘルムンスも目をさましたようだ。
■ ヘルムンス To:オジイ&アフル |
おっと、もうそんな時間ですか。 それでは私も準備にはいるとしましょう。 |
二人は見張りを始めた。
■ ヘルムンス To:オジイ |
ところでオジイさん、今回の事件についてどう思いますか? |
■ オジイ To:ヘルムンス |
今回の事件はなかなか難しい問題ですよね。 まだ、情報が完全ではないと思いますが、今のところまでの情報を元にして考えるといくつか考えられることがありますね。 さっきミトラ君から聞いた情報の中にも興味深いものがありますし……。疑問点としては、今自分が考えているのはこんな所でしょうか。 |
というとオジイは羊皮紙とペンを取りだして、なにやら書きながらしゃべり始めた。
■ オジイ To:ヘルムンス |
「まず、シンディが生け贄に選ばれたのは何故か。」う〜ん、抽象的ですね。 「なぜ、16才のシンディなのか。」 「なぜ、村長の娘のシンディなのか。」 「なぜ、ほかの年頃の娘でなくシンディなのか。」 「なぜ、ルセウスに好かれていると考えられるシンディなのか。」 「なぜ、ゲルグに好かれていると考えられるシンディなのか。」 というところですか。 また、「なぜ、新月の夜なのか?」 これは、このように考えられますね。 「なぜ、夜なのか。」 「なぜ、新月なのか。」 「なぜ、矢文を打ってから14日後の夜なのか。」 こんな所でしょうか? 次に、「なぜ矢文なのか。」 これもまた、 「なぜ、矢文という連絡方法を使ったのか。」 「なぜ、満月の夜に矢文を打ったのか。」 「なぜ、ミトラが読めない文字(共通語と東方語が読めると考えると)で矢文は書かれたのか。」 「なぜ、ゲルグの家の近くに矢文が届いたのか。」 といったところが疑問点としてあげられますよね。 そして、もう一つ、「なぜ、10年ぶりぐらいに生け贄を魔物は求めたのか。」 というところも重要でしょう。 「なぜ、魔物は生け贄を求めるのか。」 「なぜ、魔物は10年ぶりに生け贄を求めたのか。」 「魔物は10年の間何をやっていたのか。」 「10年前の魔物と今回の魔物は同一の存在なのか。」 といったことが考えられます。 ほかにも、色々ありますが、現在までの情報から思い付く疑問はこんな所でしょうか。この疑問をひとつずつ解決していくことで最終的にシンディを守りたいですね。 今のところ、こんな所ですね。 でもって、ここからは自分の推理に基づくのですが、これらの人にまずは会いに行きたいと考えています。 「ルセウス……シンディに手ひどいことをされた(振られた)勢いでシンディを殺そうと思い、矢文を打った。」 「同じ年頃の娘たち……ルセウスに好意を寄せているが報われず、シンディを亡き者にしようとした。」 「ゲルグ……シンディを自分だけのものにしようとして矢文を打った。」 「同じ年頃の娘たちの親……自分の娘の所に矢文が届いたため、それにより娘を生け贄にする事を回避するため矢文を打った。この場合、元の矢文を打ったものも探す必要がある。」 「魔物……現在の所情報不足」 なんか、全然間違っているかもしれないですけどね。 |
ヘルムンスは真剣な顔でそれをきいている。
■ ヘルムンス To:オジイ |
「なぜ」という疑問には、その事象が起こったことにより引き起こされる二次効果のことを考えれば解明できる場合もありますよ。 たとえば「なぜシンディが生け贄に指名されたのか?」 シンディが生け贄になるということは、村長の娘が村からいなくなるということを指します。 それによって利益を得るものが誰か、という視点で見れば、また違った見方もできるのではないですかね? 同様に、なぜ矢文なのか? 矢文でメッセージをつたえるということは、村長の家の鏡に血文字でメッセージを書くよりは、特殊な技術を必要としません。 しかし逆に、人やそれに似た体型の種族でなければ、弓は扱えないでしょう。 そしてもう1つ。矢文であるということは、メッセージを発した者が誰か分からないということです。 「なぜ魔物は10年ぶりに獲物を求めるのか」については、ちょっと分かりませんね。 なにしろ私達は魔物が何だかわからない。魔物が実在するかすらわからないのですから。 |
■ オジイ To:ヘルムンス |
そうなんですよね。実際その疑問を解決するにはそれによって得をするものを探し出すというのは有用な手段ですからね。 その意味では、実際ここにもいろいろな疑問文を書いていますが、実際には不要なものもあるでしょう。 また、解答がえられないものもあるでしょう。ただ、まだ情報が不足している以上、最初から関係ないと言ってはじくのは良くないでしょうから。 |
■ ヘルムンス To:オジイ |
そうですね。情報がはっきりと不足していて、その不足した情報を補完するためにいわゆる「当て推量」で行動してしまっては、悪い結果を招いてしまうでしょう。 明日村についたら、まず村長さんに詳しい事情を聞かねばなりませんね。 と、前置きをおいた上で私の推論なんですが・・・ まず、生贄に出されるのが村長の娘さんである、という点が気になります。 生贄に出すのに、誰でなければならないというのは普通は考えにくいです。 もちろん、村に16歳の未婚の娘はシンディさんしかいなかったとかいう可能性もありますが、そうまで特殊な条件の生贄は、「魔物」自体は要求はしないでしょう。 ありえるとしたら、邪教の儀式の生贄に使われる、というところですか・・・ そういう邪教の儀式の生贄とかで無い限り、「村の若い娘を1人」とかの要求であるのが普通でしょう。 そのような場合、村長の娘が生贄に選ばれるということは少ないはずです。 とすれば、生贄には「村長の娘」もしくは「シンディ」が名指しで指名されていたということでしょう。 それからオジイさんの推理で1つ入っていないことがあります。 それは、「必ずしもシンディさんが死ぬ必要はない」ということです。 生贄に出された娘がその夜以後姿が見えなかったら、皆おそらくは彼女は魔物に殺されたのだと思うことでしょう。 そして、魔物討伐に行った1人の若者も戻ってこなかったとしても、きっと村人たちは返り討ちに遭ったのだと思うでしょう。 実際は、2人の若者は村をでて知らない土地の下で暮らしていたのだとしても、身分が違うからと2人の交際に反対していた村人たちはきっと気づかないのではないでしょうかね? |
■ オジイ To:ヘルムンス |
ふむ、なんにしろ足りない情報を補完していかないで結論づけるのはまずそうですね。 にしても、死ぬ必要はないというのには感服いたしました。 見方を変えるというのは大切ですね。 |
■ ノエル To:オジイ? |
うーん・・・ねむぅ・・・ でも起きなくちゃね・・・ |
■ オジイ To:ヘルムンスandノエル? |
ん、ノエルが起き始めていますね。 そろそろ交替の時間ですか? |
■ ヘルムンス To:オジイ |
そういえば、月もだいぶ昇ってきましたね。 それでは2人を起こしますか。 |
2人はまず起きかけのノエルを起こすことにした。
■ ヘルムンス To:ノエル |
ノエルさん、そろそろ野営の交代をお願いしてよろしいですか? |
■ ノエル To:ヘルムンス |
うん。わかった。このまま朝まで何も起こらなければいいわね。 |
■ オジイ To:ノエル |
あ、これ、さっきから2人で今回の事件について考えていたんだ。 簡単にまとめたつもりだから野営中に見ておいてくれないか。 でもって、足りないところを書いておいてくれると助かるな。 |
■ ノエル To:オジイ |
あぁ、ありがとう。 そうだね、ただぼーっとしていても暇だし、少し考えてみるかな。 |
ノエルはオジイから羊皮紙を受け取ると、ア・トールをおこしにかかった。
その姿を見て、オジイとヘルムンスはおのおの眠りについた。