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緊急脱出路 |
扉が開いた後は、暗い道が続いていた。
しかし、暗闇の先が見える者たちには、その先が見通せる。 どうやら、少し進んだ先に円盤が見える。その先の突き当たりには、上へ向かう階段があるようだ。
■ リグ To:ALL |
あの円盤がさっきの地下に降りるエレベーターで、 その奥にあるのが地上に向かう階段だね。 でも、上でお屋敷の跡を調べた時は地下に向かう階段も隠し扉もなかったよね。 じゃあ、あれを登ると何処に出るんだろ? |
ちょっとの躊躇の後、リグは言った。
■ リグ To:ALL |
・・・・・とりあえず進んでみなくちゃ分からないや。 行ってみよ。 |
■ ジル To:ALL |
うむ。たとえ地獄に着こうとも、あの崖を降りるよりはマシじゃろうからな。 |
先へ進むと、円盤の外側を囲むように道があった。円盤の直径は 2m、その周囲をぐるりと回って向こう側に行くと、さらに先への道があり、その突き当たりが階段になっていた。階段は、螺旋を描くようにくるくる回りながら上へと続いている…が。
階段を登った先は、瓦礫で塞がれていた。 どこやらの隙間から、わずかに風が吹いてくるのが感じられることから外に繋がってはいるらしいが、光はまったく見えない。
どうやらこの出口は、館が崩れた瓦礫で埋まってしまったらしい。
■ カナル To:おおる、ディナン |
……壊せそうか? 戻ってあの崖を登る他はないって事か……。
……非常用の出口と言うことは、ラングドーフはここからどうやって出るつもりだったんだ? |
■ ディナン To:カナル |
オレサマちゃんが知ってる頃はここから出られたんだよ… |
カナルの疑問に、ディナンは投げ捨てるように答える。
■ スレイ To:ディナン |
…ディナン。他に外部へ出る手段はありませんか? あと、この辺りの詳しい構造ももう一回教えてくれませんかね。 わたし達が見逃している通路などがあるかもしれませんし、あなたを救うための 手がかりが何かあるかもしれません。 あなたの記憶にないような事がある可能性もあります。 秘密通路でも何でもいいんです、一緒に外に行きましょうよ。 |
■ ディナン To:スレイ |
オレサマちゃんが知ってることはみんな教えたよ。 何を疑ってるのかしらないけど、オレサマちゃんには隠し事なんてないさ。 オマエたちとは違うからね… |
■ カナル To:ディナン |
おいおい、俺達だって嘘なんか付いていないぞ。 てっきり、行っていない扉の奧にも研究室か何かがあると 思いこんでいただけで。 |
その横ではまたもや、スレイが肯いている。
■ ディナン To:カナル |
あー、わかってるって。嘘はついてないよね〜、確かに。
隠してただけなんだよね〜。 …もういいよ。いいかげんオレサマちゃんを解放してくんない? お師匠様もデュナンももういないんだろ? まさかこれからもずーっと死ぬまでここに居ろって いうんじゃないよね?そんなこと言われたらオレサマちゃん死んじゃうよ? … あははは。 そこの兄ちゃんが言うように、オレサマちゃんは もう死んでるんだもんね、これ以上死にようがないや。ハハハハハ… |
■ リグ To:ディナン |
・・・・・ディナン君。 何も知らないのにあんな事言っちゃって、ごめんね。 もちろんずーと鏡の中にいろなんて言わないよ。 |
リグの諭すような言葉に、ディナンはちょっと下唇をかんでうつむいた。
■ ディナン To:リグ |
………………うん |
手の甲で目を拭って顔を上げる。
■ ディナン To:リグ、スレイ、カナル |
えへへ、ゴメン。 オレサマちゃん、変なこと言った。 オマエたちのせいじゃないのに、これはヤツあたりだ。 オマエ、優しいな、リグ。 |
ちょっと目の端に涙が残っている。 リグは微笑んで鏡を優しく抱きしめた。
■ リグ To:ディナン |
ディナ君は強くて優しいんだね、でも泣きたい時は泣いてもいいんだよ。
みんなには見せない様にしてるから。 |
■ ディナン To:リグ |
うん… |
リグの胸に抱かれた鏡の中で、ディナンは少しだけ泣いた。
彼にはもう師匠も仲間もいない。館が無くなっているならば既に彼の体も無いだろう。 実際、地上での捜索では何も見つからなかったのだ。
■ カナル |
割った方が良いのか? そうなったとき、死ぬだけなら哀れと言う気もするが、こいつが望むのなら俺達が口出しすることではないがな。 うーむ、代わりの体でも有ればそれを使って貰おうとも思ったが、それも望み薄だな……。 |
カナルは諦め口調で言う。
バティは先程から口でこそ辛辣な事を言い放ってきたが、内心は違う。
彼はまだ諦めてはいなかった。
ラングドーフ翁はここを去るか死ぬかした前に、ディナンのからだを何等かの形で保存したのではないかと考えた。 そして、魂だけならばその場所へたどり着けるかもしれない…
■ ジャン=バッティスタ To:カナル |
鏡、わってみよう。 運がよければコイツの体が岩の向こうにあるかもしれないしな |
■ リグ To:カナル&バティ |
そうするしかないんだったら外に出てからにしてあげたいな。 |
もしも、とリグは考える。
ディナンがこのまま消える事になってしまうならばせめて外の風景を見せてあげたい。 何百年も地下の暗闇に閉じ込められてきたんだから…
冒険者たちは、結論を出した。
■ カナル To:おおる |
ともかく脱出しよう。 あの岩なら、俺とスレイの魔法で壊せるかも知れない。 |
■ スレイ To:おおる |
そうですね、やってみますか! |
スレイはさっそく呪文を唱える。
■ スレイ |
…汝、希望をもたらす光の精霊。我らの未来を照らし闇を打ち払え… |
土木工事 |
スレイが光の精霊を召喚する間、バティが道を塞いでいる岩の状態をチェックしている。罠や危険な箇所はなさそうだ。
仲間が安全な位置まで下がったのを確認し、スレイが光の精霊を、カナルがエネルギーボルトをそれぞれ岩にぶつけた。 さすがにこれらの魔法では瓦礫を破壊するまでには至らなかった。 見た目はあまり代りがないようだが、内部では確実に効果を上げているのだろう。そう信じたい。
カナルは最後にエネルギーボルトをもう一発放ち、気絶した。 しかし岩はまだ破壊されない。 ジルがマイリーに祈り、カナルへ精神点を分け与える。 カナルが意識を取り戻した。
さぁ、ここから土木作業は戦士に引き継がれる。
相談の結果、カナルはジルの斧にファイア・ウェポンの魔法をかけた。 ジルの斧が炎に包まれる。さらにリグに筋力強化の魔法をかける。
そのリグが魔法のかかった斧を持ち、岩の前に立つ。 武器等に魔法の準備をしている間にティトルが拳に適当な布を巻き叩いていた箇所には、うっすらと跡が残っている。 リグはそこにめがけて斧を振り下ろした。 1 回、2 回と振り下ろす内に、小さな石の破片が飛び散り、洞窟全体が振動する。
しかし、上への道を塞ぐ岩はまだ壊れなかった。 斧から立ち上る炎が消え去り、リグの体から力が抜ける。 魔法が切れたのだ。
岩が弱った所へジルも素手で挑むが、やはりまだ破壊するまでには至らなかった。
戦士達は、肩で大きく息をしている。 やはり、この瓦礫を破壊するのはかなり骨の折れる仕事のようだ。
ティトルがあきらめず、再び素手で岩に向かう。 拳の痛みに耐えながら、全力で岩を叩く。しかし割れない。
さすがに素手で岩を砕くのはほとんど無理のようだ。
やはり、もう 1 回やらなくてはならないようだ。 カナルがリグに筋力増強の魔法をかけた。 そして、さらに斧にエンチャント・ウェポンをかける。
リグが再び岩へ向かう。精神を集中し、正眼に構えた斧を渾身の力で振り下ろす。 スレイとカナルが魔法を、ティトルとジルが己の拳をたたきつけた岩塊にひびが入ったかと思うと、それは見る見るうちに広がった。
そして、一同の見る前で 2 つに割れてどう、と倒れた。
その後には、それより小さい瓦礫の山の中に、人ひとり通れるほどの隙間が開いていた。
倒れる岩からなんとか身をかわした一同がそこに見たものは、最初に上がってきた崖の夕暮れの風景だった。
崖の上再び |
外に出てみると、辺りはすっかり夕暮れの風景だった。
海に真っ赤で大きな夕日が沈もうとしている。周囲はその光に照らされて、森も瓦礫も何もかもが赤く染まっている。 ちょうど凪の時間だったらしく、入る時は荒れ狂っていた風も、今だけはおさまっていた。
静かな夕暮れの風景だった。
■ カナル To:ディナン |
お前さんの体を見つけたかったが、すまない。 ……どうする? 鏡を割った後、どうなるかは俺にも分からない。 それでも割ってみたいか? 他の方法も、出来る限りのことはするつもりだ。 |
■ ディナン To:カナル |
うん。 みんなが道を開けてる間考えてたんだけど、 オレサマちゃんやっぱり割ってほしいよ。 お師匠様もデュナンももういないっていうのはこの館の跡を見て納得した。 ここはオレサマちゃんの世界じゃないんだ。 それに、「方法」があるかどうかなんてわかんないんだろ? |
■ リグ To:ディナン |
うん・・・・・。 ごめんねディナン君。 |
ディナンは、真っ赤に燃える空を見上げる。
■ ディナン To:ALL、リグ |
この夕焼け空が見られただけで満足だよ〜。なんてきれいなんだろう。 どうなったとしても、オレサマちゃんにはもう思い残すことはない。 割っちゃってよ。 |
■ スレイ To:ディナン |
そうですか…。あなたのおかげて本当に助かりました。ありがとうございますね。 それに…、一緒にいる間とっても楽しかったですよ。 |
■ ディナン To:スレイ |
うん。オレサマちゃんも楽しかった。 スレイも元気でな。長生きしろよ〜。 |
■ スレイ To:ディナン |
ええ。1000年ぐらい生きてみせますよ(^^) |
■ リグ To:ディナン |
・・・・ぐすん。 割っちゃったらどうなるか分からないけど、ラングドーフさん達に会えるといいね。 |
■ ディナン To:リグ |
なっ…なんだよぅ、泣くなよぅ。 リグ、さっきの岩割ってるとこなんか、すっごいかっこよかったよ〜 |
■ リグ To:ディナン |
(涙を拭いて照れ笑い) えへへ(^^) |
スレイは、とてとてとカナルに近づいてこそっと耳打ち。
■ スレイ To:カナル |
そうだ、コマンドワードを言ってみません? |
言ってほしい単語をカナルの耳元でぼそぼそ、…とささやく。 約束、ディナン、おしおき、指切り、反省、封印などなど…。 自分で言いたいが、下位古代語はわからないので通訳して欲しいのだ。
カナルは、渋い顔で承諾。
■ カナル To:スレイ |
余り期待できないと思うぞ。 |
カナルはいくつかの単語を唱えてみたが、 ディナンにはまったく影響がなかったようだ。きょとんとしている。
■ ティトル To:ディナン |
う〜んと。 ホントにやっちゃってもいいです?みんななんだか心配みたいですぅ…。 私にはどうなるかさっぱりわかんないんで……う〜ん心配は心配なんですけど…う〜ん。 ディナンさんが、いいならお手伝いします(^-^) 何事も自分でさっくり決めるのがいいんですよ、きっと☆ |
■ ディナン To:ティトル |
うん!オレサマちゃんもどうなるかなんてちっともわかんないよ。 でもこのままでいたってしかたないだろ? だから、決めた。割っちゃってよ。 |
■ ジル To:ティトル |
この際じゃ。思いきり景気良く行くんじゃぞティトル。 |
ジルの言葉に、鏡の中のディナンも肯く。 その顔に、もう涙はない。
■ ティトル To:ディナン |
じゃぁ〜いっきますよぉ〜 う〜んと、当たったら痛いかもなんでしゃがんでたら駄目ですかねぇ…。 いちにのさんっで、割るんで〜 さんっ!の時にしゃがんでてくださいねぇ〜 いぃ〜ちっ、にぃ〜のっ、さぁ〜んっ!!! |
ガシャン!
ティトルが思い切って振り下ろしたティヴァの鞘が、ディナンが映っていた鏡を粉々に砕いた。その時。鏡から、白いガスが吹き上がった。
■ ディナン |
…っと…。あれ? |
ガスの向こうで、割れた鏡からしゃがんでいたディナンが立ち上がった。
が、体は透けている。
■ ディナン To:ALL |
オレサマちゃん、自由になった…?
これって、一体どうなった……、あれ? あっちに草原が見えるよ…? |
ディナンの目が、急に見守る一同の後ろに焦点を合せた。 遠くを見るように目を細めている。 次の瞬間には、手を振りながら走り出していた。
■ ディナン |
あっ、デュナン! デュナン〜、おぉ〜い、待ってくれよぉ! オレサマちゃんだよぉ、ディナンだよ〜!! |
と、叫びながら、ディナンは崖の方へ走っていく。 そして、夕日に溶けるようにして、その姿は消えていった。
鏡と一緒に発生した白いガスも、風に流れて消えていった。 全員少し吸込んでしまったが、だれも気分が悪くなる者はいなかったようだ。
■ カナル To:おおる |
……誰のための毒だったんだ? ディナンが鏡を割って逃げだすときに、すぐに捕まえるためか? まあ何はともあれ、地下で割らなくて良かったな……。 |
白いガスは、ラングドーフがわざわざ仕込んだ毒だった。
デュナンがディナンを助けようと鏡を割る事があったので、それを阻止するためのものだ。死にいたるものではないが、とカナルは考える。それは「ホワイト・マーブル」と呼ばれる毒だった。
■ リグ To:ディナン |
よかったね、ディナン君。 親友なるチャ=ザよ、彼の魂を幸せに導いてあげてね。 |
■ ジル To:ディナン |
喜びの野への道が明るくありますように。。。。 祈る神は違うとも、祈る心はみな同じじゃの。 |
彼らの祈りはきっと神の元に届いたことだろう。
スレイは砕け散ったグラスランナーのことを忘れないでおこうと心に刻むことにした。あぁ、エルフよ。君の長い人生、ディナンを憶え続けることは出来るのだろうか…(1000年生きると約束したし)。
と、日記には書いておこう。そうスレイは思った。
気がつけば、辺りはすっかり日暮れてきている。
さてと、とカナルが背後の穴を振り返る。
■ カナル To:おおる |
この入り口はどうした物かな……。 このまま放っておくと、村人が……特に子供が入り込んだりしたら事だぞ? |
確かに…。その危険性はかなり高い。
■ リグ To:カナル&おおる |
そだね、ベッキーちゃんとかレナちゃん達が内緒で遊びに来るって言ってたもんね。
|
■ カナル To:スレイ、ティトル |
そら、ご指名だぞ。 頑張って塞いでおいてくれよな。 |
■ スレイ To:カナル |
…カナルもやるんですよ!みんなでやった方が早いでしょう(苦笑) さぁさぁ、あの岩を持ってきて♪ |
スレイは嬉しそうに作業に取り掛かった。
■ ジル To:スレイ |
どれ。岩のことならワシに任せておけ。 森妖精にはちと荷が重かろう。 |
ジルも腕まくりをしている。
レンジャーとしての経験を積んでいるスレイの指揮の下、ジルとティトルとカナルは崖の上に開けてしまった穴のカモフラージュにとりかかった。付近の瓦礫を集めて、何もなかったかのように穴を隠す。なかなかうまくできたようだ。これで、子供たちが間違って穴に入る事もないだろう。
帰還〜村へ |
カモフラージュの作業が終ると、風は再び強さを増してきた。 日の暮れた崖を後に、一行は再び村を目指す。
気温も下がり来た時よりは楽に山道を下れたが、さすがに村に着いた頃には既に夜も遅かった。 漁村の夜は早い。ほとんどの家では夕餉も終り板戸を閉ざして、村は静かになっている。
スレイは、そのままベッキーの家を訪ねた。
■ ベッキー To:ALL |
わぁ〜、お帰りなさい!(^^) 一晩帰ってこなかったから心配したんだよ。 朝になったらお父さんが崖の上まで見に行くって 言ってたんだ〜。みんな無事でよかったぁ。 |
横穴に入ってから出てくるまで、確かにたいまつ 2 本分の時間でしかなかったはずだが、どうやら地上では 1 日半経っていたようだ。
スレイはいろいろベッキーたちとお話した後に、老婆の部屋を訪れた。
■ スレイ To:お婆さん |
夜分すいません、まだ起きておられましたか? 少し伺いたい事があるのですがよろしいでしょうか。 |
老婆はランプの明りで本を読んでいた。
スレイを暖かく出迎え、労をねぎらう。ベッキーがその膝元につく。
■ スレイ To:お婆さん |
この村にグラスランナーについての伝承などは残っていませんでしょうか。 草原妖精がこの村に訪れたとか…? |
■ 老婆 To:スレイ |
…伝承というか、つまらんことじゃがのぅ… ほれ、例の天空の国から来た王様の昔話… 王様が去った後、共の小人はひとりで草原の国へ帰ったという 歌がありましてのぅ… ワシは小さい頃から不思議じゃった。 数え歌ではお供は 2 人なのに、どうして帰ったのはひとり じゃったのかのぅ… |
老婆は首をかしげて悩んでいる。
■ スレイ To:お婆さん |
どんな歌なんですか? |
老婆が何やらベッキーに耳打ちすると、ひとつ肯いて彼女が東方語で歌いだした。
■ ベッキー |
たてがみに 59 個の鈴をつけたロバに乗り お供がひとりで旅に出る。 帰ろう、帰ろう、青く波打つ草原へ 帰ろう、帰ろう、茜に燃える草原へ ひとりでさびしいときは歌を歌おう はるかなわが家にとどくように ♪ |
歌が終ると、老婆がベッキーの頭をなでながら詩の内容を共通語に翻訳した。
■ 老婆 To:スレイ |
…こんな歌なんじゃがのぅ… |
■ スレイ To:お婆さん |
…事情があって少し遅れてしまったんじゃないですかね。 きっと今ごろ、草原に帰って二人で遊んでいますよ(^^) |
■ 老婆 To:スレイ |
なるほど、きっとそうじゃのぅ… これで長年の謎が解けたのぅ、ほっほっほっほっ… |
老婆の謎は解けた。しかし、カナルの謎はいつまでも解けないだろう。
■ カナル |
結局、ラングドーフは何処に行ったんだ?(--;; |
それは崖の上の風だけが知っている。
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