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バイナル研究室 |
それから知識の塔の階段を上がり、しばらく歩いて重厚な扉の前に一行は立った。先導のバイナルが扉を開けて一同を招き入れる。
■ バイナル To:ALL、リグ |
さぁ、ここが研究室だ。散らかっているが適当に入ってくれ。 お嬢さん、荷物はその辺に置いてくれますか。済まんかったな。 |
■ リグ To:バイナル |
ここだね、よいしょっと。 魔術師さんの部屋ってみんな本や巻物とかがいっぱいあるねぇ。 |
荷物を置いて一息つき、回りを見まわしたリグがそんな感想を述べる。
しかし、バイナルの研究室はあちこちに資料の山ができていたり、よく分からない道具が転がっていたり…。セシリアの部屋と比較するとすごい散らかりようだ。
■ ティトル |
ひゃぁ…なんかすごいですねぇ…。 |
■ スレイ |
確かに。よくまぁここまで・・・・(苦笑) |
ティトルの言葉に反応して苦笑するスレイ。
しかし、ティトルは別のことを考えていたのだ。むくむくとジャンク屋魂が頭をもたげてくる。
■ バイナル To:ALL |
ではあらためて。私がバイナルだ。よろしく。 |
バイナルは、改めてカナルから渡されたセシリアの紹介状を開封し、一読する。
全員の目が彼に注がれた瞬間に、ティトルは資料の山の向こうへ消えていた。ジャンク探索の旅に GO !
これにまったく気づかないバイナルが、紹介状から顔を上げる。
■ バイナル To:ALL |
ふぅむ。この書面によると、 ラングドーフについて諸君の力になるようにということだが…? |
■ スレイ To:バイナル |
このような物を手に入れたんです。 何でもバイナルさんは、ラングドーフと似たような研究をされているとか? お話を聞かせていただけませんか?(^^) |
スレイはすかさず例の地図を広げる。
バイナルは地図を一瞥しただけであまり興味を持たなかったようす。
■ バイナル To:スレイ |
私の研究についてかね。ふむ。
確かに、似たようなと言えば似ていなくもないな。 私の研究テーマは妖精族についてだ。特に… |
と言って、後ろの方でぼけら〜としていたジル殿を見る。
■ バイナル To:ジル |
君たちはなぜマナを使役できないのか?
我々人間や魔法に長けたスレイ殿達にも優る精神力を持ちながら、
それをマナに換えたり精霊と意志を通ぜないのは何故か? そして、かつてラングドーフと呼ばれた魔術師も私と同じ疑問を感じたようだな。 |
スレイは興味深そうに聴いている。その疑問を聞いたジルが、少し感心したようすで答える。
■ ジル To:バイナル |
ふむ。やはり、魔術師の考えることはわからんのぉ。
ワシはそんなこと疑問に思ったことは無いがな。 翼の無いものが空を飛ぶことはできぬ。 陸に住むものは、海で呼吸することはできぬ。 同じように、ワシらも魔術を操ることはできぬ。それでは納得がいかんのか? |
むむ、ボケドワーフのくせになんて鋭い。確かにジルの言う通りである。
しかし…
■ カナル To:ジル |
それで納得するような人間でないから、魔術師になんてなっているのさ。 それに、翼があっても飛べない鳥もいるぞ。 もしかしたら、そいつらはただ単に飛び方を知らないだけかも知れない。 そしてジル達も、飛び方を知らない鳥かもしれない、そうは考えられないか? もっとも、その体格じゃ飛べなくても仕方がないかもな。 |
■ バイナル To:カナル |
ふむ。私もほぼ同じ意見だ、カナル君。 |
変わり者の学徒同士、意見が一致したらしい。バイナルは親しみを感じたか、カナルを「君」づけで呼んでいる。バイナルは熱心にこう続けた。
■ バイナル To:ジル、ALL |
諸君らも承知のように、ある種の道具を使用すれば合言葉などでマナを行使することは誰にでも可能となる。
それは、ジル殿に倣っていえば、あえて翼のない生き物に空を飛ばせる途を与えるということだろう。 人間の中にも魔法を得意とするものとそうでないものがいる。 カナル君は私を「導師」と呼ぶか、かく言う私も実は魔法は使わんのだ。 その差異はどこから来るのか? そしてその違いを演繹すればジル殿達が魔法を使わん理由となるのではないか? ラングドーフの意図もそのあたりにあったのではないかと私は思う。 |
■ スレイ To:バイナル |
なるほど。わたし達エルフは皆、精霊と言葉を交わすことが出来ます。 元は同じ妖精族であるドワーフが魔法を使えないのもおかしい話ですね。 その違いを探そうとね…ふむふむ |
スレイはしきりにうなづいている。
■ カナル To:バイナル、おおる |
しかし、古代王国期の魔術師がそれを? 変わっている、所ではありませんね。 ……いや、下手をすれば、そのラングドーフと言う魔術師の立場は、 微妙な物になっていたのではないですか? |
■ リグ To:カナル |
なんでラングドーフさんの立場が微妙だったの? 古代王国の魔術師の人だって今と同じようにいろいろ研究してたんじゃないの? |
リグが小首をかしげる。
■ カナル To:リグ |
今だって、犬や猫に魔法を使わせようなんて考える魔術師は希だろうさ。 ましてや犬猫どころではなく、自分たちに仇為すかも知れない蛮族に武器を与えようとしてる奴を放っておく程、古代王国期の魔術師もお人好しじゃなかったって事だろ。 |
■ バイナル To:リグ |
古代王国では魔法を使わん者の地位はたいそう低かった。
魔法が使えないというだけで奴隷として扱われていたのだよ、リグ殿。 事実、ラングドーフは除名およびレックス追放処分を受けておる。 正史にはあまり名が出ないのもそのあたりの理由によるのだろうよ。 |
■ リグ To:バイナル&カナル |
ふ〜ん、魔法が使えないだけで奴隷になるなんて今では考えられないなぁ。
それだけの力があったなら、みんなで幸せになれる様にしていれば良かったのに。
そうすれば報復を恐れ無くてもすんだのにね。
ねえ、バイナルさん。 あそこにある『古代王国の風俗』って本、読んでもいい? |
リグの言葉に深くうなづくバイナル。調子を変えて明るく答える。
■ バイナル To:リグ |
いいとも。さぁ、そこの椅子を使っていいよ。 さて、確か部屋のどこかにラングドーフのことを記述した文献があったと思ったのだが… どこにやったかな。 |
と、絶望的にちらかった室内を見渡した。
■ スレイ To:バイナル |
い、一緒に探しましょうか?(^^; |
■ バイナル To:スレイ |
す、済まんな。ではそちら側を頼む。 助手が夏休みで帰郷していなければもうちょっとマシなんだが… |
■ カナル |
…… |
資料の山に手をつけ始めたスレイとバイナルを見て、カナルも無言で手伝いはじめる。
ジルも本棚の本の背表紙を眺めている(感心しているフリをしているが、字が読めないのはいうまでもない)。リグは読みはじめた「古代王国の風俗」が気に入ったらしく、椅子で熟読の姿勢だ。
目指せジャンク屋!のティトルはさっきまでの話しの間中、掘り出し物を求めて研究室内を探りまわっていた。ふと、回りを見回すと、スレイとカナルも何やら探索しているようす。
■ ティトル To:カナルたち |
あにゃ?カナルさんたちも掘り出し物探すデスかねぇ〜 (と、いいつつごそごそ) |
ということであてもなく探し物続行。
しばらくごそごそやった結果、スレイとカナルは 1 冊づつ本を手にしていた。
■ バイナル |
ぬぅ、確かここに…。ない。 無い訳はないのだが…。 |
バイナルは目的の品を見つけられないでいた。一同を振り返って謝る。
■ バイナル To:ALL |
済まん。
ラングドーフ追放の経緯を詳しく書いた文献があるのだが、今のところ見つからん。 君らが見つけた物は何だね? |
■ ティトル To:バイナル |
あれ?なんか探してたですか? う〜んこれじゃないですよねぇ…。 |
探索を終えたスレイとカナルが持っている本を見て、ティトルも自分の見つけた書類を出してみる。そこには、そこそこ美しい女性の肖像画と紹介文が…
バイナル、慌てる。
■ バイナル To:ティトル |
うぉぉぉおぉっ?! ど、ど、どこからそんなものを… |
それを眺めてクールに一言。
■ カナル To:バイナル、おおる |
なかなか良さそうな女性じゃないですか。 私が見つけたのは、以前見たことがある本でした。 残念ながら、現状以上の情報は得られませんでしたね。 |
楽しそうに追い討ち。
■ スレイ To:バイナル、おおる |
確かにきれいな人ですね(^^) わたしが見つけたのは、「古代王国期地名録」 ――これとあの地図を比較すれば何か分かるかもしれませんね。 ところで、ラングドーフ追放の経緯について何か覚えている事はありますか? 変わった事とかはあったのですかね? |
■ バイナル To:スレイ |
ゴホン! 主なる理由は諸君らの想像通り蛮族との交流にあったと 記憶しているのだが、詳しいことは忘れてしまった。 ひょっとしたら追放後の行き先が載っていたかもしれな いと思ったのだ。 あやふやな記憶だから当てにはならんが… |
■ スレイ To:バイナル、おおる |
う〜ん、それなら調べたほうがいいですよね。 もう少し探してみましょうか? |
と、再び探しはじめるスレイ。 カナルは、その間見つかった「古代王国期地名録」と「古代王国芳名録」の関連部分の書写をすることにした。荷物から羊皮紙とペンを取り出し、バイナルの机を借りて書き写し始める。
しばらくして、バイナルが顔を上げた。
■ バイナル |
どうも見つからないなぁ… |
■ スレイ To:バイナル |
そうですねぇ… |
研究室内を探しているうちに、既に時刻は夕刻にさしかかっていた。外は暗くなってきている。スレイの探索の甲斐もなく、それらしい物は見つからなかった。
■ バイナル To:ALL |
おお、もう暗くなってきているではないか。
ちょうど書写の方も終わったようだ。 私は今夜約束があって出かけねばならんのだが… |
机では、カナルが発見した情報を書写していた自分の羊皮紙とペンをきちんと片づけているところだった。
■ ジル To:バイナル |
ふむ。そういえば、ずいぶん長い間お邪魔してしまったの。 これ以上バイナルどのに迷惑をかけてもいかん。 今日のところはそろそろ引き上げるとするかな。 |
■ カナル To:バイナル |
貴重な文献、ありがとうございました。 |
■ スレイ To:カナル、バイナル |
お疲れ様です、カナル。 これで場所が分かるかもしれませんね(^^) バイナルさん、手伝っていただいてありがとうございました。 |
■ バイナル To:ALL |
うむ…。 今更こんなことを聞くのもナニだが、その地図は本当に本物なのかね? 運良く場所が特定できたとして、行ってみても何かがあるとは決まった わけではなし…。 徒労に終わる可能性を考えてみたことはあるかね? |
眉間に皺を寄せて心配そうに訪ねるバイナル。 しばし考え込んだ後、スレイが応じる。
■ スレイ To:バイナル、おおる |
…う〜ん。 でも、夢がありません?(笑) |
■ バイナル To:スレイ、ALL |
…夢、か。 うむ。全員生きて帰って来なさい。 |
こうして一行はバイナルの研究室を後にした。 心配ながらも微笑して一行を送り出すバイナル。その笑顔が途中で凍った。
■ スレイ To:バイナル、ALL |
ところで、さっきティトルが発見した資料は何だったのですか? 奇麗な女性の絵とかが描いてありましたけど?(^^) |
■ バイナル To:スレイ |
ゴ、ゴホッ。ゴホッ… |
■ ジル To:スレイ |
あれはラングドーフの肖像画じゃわい。 |
■ スレイ To:バイナル |
なぁるほど。あの女の人がラングドーフだったのですか! 古代王国時代の魔法使いさんの絵まで持っているなんて研究熱心ですね、バイナルさん (^^) わたしは一瞬、噂に聞く『お見合い』ってものの資料かと思ってしまいましたよ。 もしそうだったら色々聞きたかったのですけど、残念ですねぇ… いやぁ、いい研究材料になると思ったのですが(笑) |
青くなったり赤くなったりのバイナル。リグは読んでた本をなごり惜しそうに閉じ、行きがけにちらっと肖像画を見る。
■ リグ To:バイナル |
へぇ〜、名前から男の人だと思ってたけど女の人だったんだ。 こんな優しそうな人ならああいう事するのも分かるなぁ。 |
誤解だってば。
最後に部屋を出たカナルが、苦笑いしながらこう言い残す。
■ カナル To:バイナル、おおる |
……どうです? いろいろな意味で、夢見がちな奴らでしょう(苦笑) さて、バティを拾って帰るか。 |
図書館 |
そのころ、美人司書と図書館で調査中のバティは…
■ ユージア To:ジャン=バッティスタ |
私はこんな詩を見つけたけど、そっちはどう? |
48 室の棚の前で膨大な資料と悪戦苦闘していたバティと司書も、ようやく結果を出したようだ。
■ ジャン=バッティスタ |
えーっと、それで恐怖の大王が降ってきて…… それで、その後に恐怖の女王も降ってくる? そして、恐怖のタローがやってくる?? なんだこりゃ? |
ユージアが見たのは、ぶつぶつケッタイな詩をつぶやき、あたまをかきながら資料をほっぽり出すバティだった。
■ ジャン=バッティスタ To:ユージア |
ああ、あんたか。 さっき、探しているのと同じ詩を見つけたよ。 その後はこのわけのわからんパンクな詩を読みふけっちまったがね。 |
ユージアは『詩歌集』と書かれている本を開いて、とあるページを見せた。 バティもちょうど同じ本から関係しそうな詩を見つけていた。
■ ユージア To:ジャン=バッティスタ |
ほんと、パンキーねぇ… あなたならこの詩にどういう曲をつけるのか、聞いてみたい気もするわ…。 えっと、この本は持ち出し禁止よ。 写すなら書写室を使ってちょうだい。 さて、他に何かあるかしら? そろそろ仕事に戻りたいんだけど。 |
■ ジャン=バッティスタ To:ユージア |
そっか、いろいろありがとな。 別に、書き写す必要もないから返しとくよ。 |
そういって、人差し指であたまを 2、3 度ちょんちょんと指差した。彼にとって、このくらいを記憶するのは造作も無いことである。
ユージアはそんなバティをちょっと胡散臭げな目で見て、肩をすくめる。
■ ユージア To:ジャン=バッティスタ |
そ?じゃ、本は戻しておくわ。 ではまたね、ジャン=バッティスタ。 |
■ ジャン=バッティスタ To:ユージア |
ん、じゃぁな。 |
バティは図書館を出てホールに戻った。軽くノビをしてふとつぶやく。
■ ジャン=バッティスタ |
さてと、はら減ったな…… 早く帰らないとティトが飢え死にしちまうぜ。 |
そこへ、知識の塔から回ってきた仲間達がバティを迎えに来た。
さぁ、銀の網亭に戻って見つけた資料を分析しなくてはならない。 これがけっこう厄介なのだ。
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