前へ | 目次へ | 次へ |
おやじの憂鬱 |
■ カナル To:おやじ |
で、おやじさん、昨日ちらっと見た限りじゃ結構依頼があったようだが、 良い依頼は残ってるかい? |
おやじの笑顔が凍りついた。額には冷汗。
■ おやじ To:カナル |
はっはっは…。 …ハハハ。依頼か。依頼はな、実はもうない(キッパリ)。 |
■ ティトル To:おやじさん |
えっ?! ない?ってお仕事がないってことですかぁ〜? 大変ですぅ〜〜〜っ! |
■ リグ To:おやじさん |
お仕事が無いって嘘でしょ。 昨日あんなに一杯張ってあったのに。 |
訴えかけるようなリグの声にも、おやじは渋面で首を横に振った。 前掛けからメモ帳を取り出して指を湿らせてそれをめくる。既に割り振り済みの仕事を確認しながら答える。
■ おやじ To:ティトル |
そうだ。仕事はない。 さっきリトナル商会の依頼を世話したので最後だ。 どこも不景気なご時世らしくてな、冒険者を雇おうと言う奴も 減ってきてるらしいんだ。 |
■ スレイ To:おやじさん |
へぇ、仕事がないんですかぁ♪(^^) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ? |
にこにこしていたスレイも、ようやく事の重大さに気づいたようだ。
■ カナル To:おやじ |
……ぉぃぉぃ……。 それじゃ、しばらく暇つぶしか? それとも、自分で飯の種を探すか……。 どうしたもんかな? |
■ ジル To:カナル、ALL |
これ、早合点するなカナル。 親父のつまらないジョークをいちいち真に受けていたらここではやっていけんぞ。 ほれ、そこに一枚だけ依頼書が残ってるではないか。 |
懸命なる読者はすでにお気づきだと思うが、ジルが指差してるのはこの店のメニューである。
■ ティト To:ジル |
あ、ホントだぁ〜 ちゃんとありますよぉ〜うんと、「トリのトマト煮」〜 うう〜んおいしそうですねぇ…(うっとり☆) |
■ ジャン=バッティスタ To:ティトル |
また、トリか? 折角市場に行ってサカナをたくさん食べたのに。 |
■ リグ To:ジル、ティトル |
ジルおじさんに、ティトル姉ちゃん よく見てよ、それはここの新メニューだよぉ。 |
依頼の掲示板の横に貼ってあった小さな紙には、なるほど確かに「トリのトマト煮 始めました」と書かれている。
■ スレイ |
(ジルはお給仕でもしたいのでしょうかねぇ・・・) はっ! ま、まさか女装癖・・・・?(^^;;;; |
レェスぴらぴらのメイドさんエプロンをきちんと着こなすドワーフ…
しかもかわいいポーズつき。
ジルと依頼書もどき(本当はメニュー)を見比べながら考え込むスレイ君だった。
地図と詩 |
■ おやじ To:カナル、ALL |
まぁ、たまには自分で仕事を探してみるのもいいんじゃないか? だが、張り切りすぎてヤバい仕事に足を突っ込むなよ。 おまえらみたいな馴染みの冒険者が消えちまうのは俺も辛いぜ。 ああ、そうそう。 暇つぶしするくらいなら、マーファ神殿で川のゴミさらいのボランティアを募集してたから行ってみたらどうだ? 飯くらい出るだろうし、無償で他人の役に立つのもたまにはいいだろう。 |
■ カナル To:おやじ |
親父の遺言でね。 ただ働きなんていう、自分のためにも相手のためにもならない事はしないのさ。 |
■ ジャン=バッティスタ To:カナル |
情けないヤツだな。いまどき手に職を持たないとやっていけないんだぜ(笑) 俺様なんかこのストラトで…… |
おもむろにストラトを構えて残った客に向けて大轟音の演奏開始!
うなれストラト!とばかりにかきならされた旋律は、その場にいた数少ない一般客にひとかたならぬ戦慄をまき起こしたらしい。震える手から投げ出されたおひねりを集めてみると、意外なほど高額になった。バティ、しめて 160 ガメルの儲け。
■ おやじ To:バティ |
…久しぶりに聞いたが、やはり俺にはわからんな。 あれがいなくてよかったよ。 |
おやじは苦笑いしながら妻の不在を喜ぶ。カナルは、耳をふさいでいた手をおもむろに放し、
■ カナル To:バティ |
ほとんど、強請たかりの世界だな……。 |
■ スレイ |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
外見からは何食わぬ顔のスレイ。しかし耳はくにゃんと垂れ下がっている。 彼の耳は口ほどに物を言うらしい。 しかし、ティトルは負けない。偉いぞティトル!
■ ティトル To:バティさん |
ば、バティさぁん、今のってなんて曲なんですかぁ? どらごんのおっちゃんのひ〜ほ〜じゃないですよねぇ……? |
■ ジャン=バッティスタ To:ティトル |
さぁ、適当に演奏しただけだからなぁ …… んじゃぁ、いまのは「160ガメルの唄」…… |
この男、二度と同じ曲は弾けないとみた。
ところで、話を元に戻して…
■ カナル To:おやじ |
さて、しかし困ったもんだな。 ……ほかの店に行ってみるか?(笑) |
■ スレイ To:ALL |
おやじさんを虐めちゃ可哀相ですよ、カナル(笑) あ! そう言えば最近、面白そうなモノを手に入れたんですよ♪ |
そう言ってスレイはごそごそと背負い袋を漁る。 出てきたのは縦1メートル、横1.5メートルほどの古ぼけた一枚の布だった。 よく見ると、表には地図とおぼしき線画、裏には文字が書かれている。
■ スレイ To:ALL |
ほらこれです。何だと思いますか〜〜〜?(^^) ふふ、また人が埋まっていたりしてね(笑) |
■ カナル To:スレイ |
何だそれは? ……何か書いてあるな。 |
かすれたりにじんだりしていて苦労したが、地図の裏にはなんとか言葉が読み取れた。東方語で書いてあるのでスレイには読めなかったようだ。カナルがすらすらと読み上げる。
■ カナル To:おおる、スレイ |
「そは偉大なる魔法使い。 海の畔の彼の王国。 ラングドーフは箱の中。 彼の夢みる箱の中」 ……か? こんなもの、何処で拾ってきたんだ? |
■ スレイ To:カナル、ALL |
買い物に行った時に、”時忘れの店”のおやじさんに会いましてね。 その時に譲り受けたんです。 |
そう、再び仲間と幸せの木で出会う前に立ち寄った武器屋でスレイが手に入れたボロ布がこれだった。ティトルは、詩の内容に歓声を上げる。
■ ティトル To:バティさん |
おうこく?おうこくって王国のコトですか? なんだか物語りみたいですね〜(^-^) |
■ ジャン=バッティスタ To:ティトル |
一応、ここ、オランも王国なんだけどね(笑) |
バティがいつものようにティトルをフォローするのを横目で見ながら、カナルは過去の記憶をたどっている。
■ カナル To:おおる |
ラングドーフか、昔読んだ憶えが有るな。 古代王国期の付与魔術師(エンチャンター)の名前だ。 ……これは、ひょっとしたらひょっとするかもしれないな。 少なくとも、ここで来ない依頼を待ってるよりはマシだろうよ。 |
■ スレイ To:カナル |
へぇ。さすが、カナル。 魔法使いさんの知識はすごいですねぇ・・・、うんうん |
意外と学院ではマジメに勉強していたらしい。
■ リグ To:カナル |
じゃあ、これが本物だったらまた宝捜しが出来るんだ。 なんか、本当に物語りみたいだね。 |
リグが楽しげにつけ加える。 どうもこのパーティは女性陣の方が冒険心旺盛らしい。
カナルの後ろから、手を伸ばしたバティがひょいっと地図を奪う。
■ ジャン=バッティスタ |
どれどれ…… |
彼もいちおう語学博士並みに言語の知識は豊富だ。ためつすがめつして地図と詩を検分し、こう評価を下す。
■ ジャン=バッティスタ To:カナル |
うそくせぇな…… カナルの言うラングドーフとかいう魔術師は大昔の人間だろう? こんどこそ、箱の中で干からびているのとご対面かもな。 |
■ カナル To:バティ |
それならそれでも良いさ。 ここで、誰かさんの騒音を聞かされるよりはなんぼかマシだろうよ。 |
と、カナルは大仰に肩をすくめてみせた。
■ ジャン=バッティスタ To:カナル |
んで、この地形はどこだろうな? |
■ リグ To:バティ |
う〜ん、わたしが見てもよく分からないなぁ。 |
■ ジャン=バッティスタ To:ティトル |
ティト〜、これってどのあたりだかわかるか? |
■ ティトル To:バティさん |
うにゃ? …………うう〜ん ぜぇんぜぇん、さっぱりですぅ〜(^^; |
■ スレイ To:ALL |
わたしもわかりませんね。 もっと大きい地図と見比べればわかるかも・・・ |
地図を見たり作ったりするのに慣れていると思われるティトルとスレイにも、まったく心当たりはない。今度はカナルにも思い当たる所はなかった。うーん唸ってと沈みかけた一同を前に、リグが「そうだ!」と明るい声をあげる。
■ リグ To:ALL |
大きな地図って言えば、セシリアさんが沢山持って たよね。 また、ケーキ持っていって見せてもらおうよ。 |
セシリアはカナルの師匠で、オランの賢者の学院に在籍する導師である。 年齢不祥の美しい女性だが、それはそこ、あのカナルの師匠。 推してはかるべし。
■ ティトル To:リグ |
セシリアさんですかぁ〜(^-^) そうですよね〜あ、でももしかしたらケーキを作る魔法がもう出来てるかもしれないですよねぇ〜(うっとり) |
この辺の話については #12 「12. Fairy Tale」参照のこと。 ここではセシリアさんはジョークも好き、とだけ言っておこう…
■ カナル To:ティトル |
それならば、今回はみやげはいらないんだがな……。 |
■ スレイ To:カナル |
まぁまぁ。チーズケーキを人間社会の礼儀として持っていきましょうよ♪(^^) |
お中元の季節だしね。
ということで、一同はロレッタのパン屋へ寄って貢ぎ物のケーキを仕入れ、賢者の学院へと向かった。
それをおやじはホッとした顔で見送ったのである。
前へ | 目次へ | 次へ |