Sword World PBM #25

「天使のつるぎ」



月夜




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エルフの集落

 外に出ると、既に完全に日は沈んでいるが、月明かりのせいか意外と明るい。 少し肌寒いが厚着を要するほどではない。
■ノエル To:オジイ
 なんだかあの二人、デートしているってより、"おとうさんと一緒"って感じ ね。
 ちょっとほほえましいというか。

 言外に、もうすぐほほえましい状況でなくなるのを気にしているようだ。
■アトール To:ノエル
 まあな。

 ノエルの気持ちを察し、その肩を軽く抱き寄せるアトール。ノエルもそのままアトールに体を寄せる。
 そんな二人の様子を知らずに、イェルクは軽く翼を揺らしながらドアから数歩 進んだ。
■イェルク To:オジイ
 で───

 両手と翼をのばした後、唐突にひょいと振り返る。
■イェルク To:オジイ
 ───何だ?

■オジイ To:イェルク
 イェルク、まず話をする前に一つお願いがあるんだ。
 自分の話を聞いたからといって、リーゼルや村の人を恨んだりしないで欲しいん だ。
 みな、イェルクのことを大切に思っているはずだから。

■イェルク To:オジイ
 ………?俺の話?

■オジイ To:イェルク
 うん。イェルクという名前が、代々イェルクの家に受け継がれていたことはイェ ルクももちろん知っているよね。その、イェルクって名前を初めて名乗った、イェ ルクの先祖の話を少しだけしたい んだ。
 300年前、イェルクの先祖がヴィーザを封印したことはイェルクも知っているよね 。
それよりも、少し前の話です。

 古代の魔術師が強力な魔力を持っていたことはイェルクも知っていると思います 。その生き残りの一人である、ある魔術師が、精霊力の固まりともいえるような怪 物を作り出しました。しかし、その怪物が魔術師の制御を受けず暴れ出したのです 。そのときも、このあたりで、かなりの被害がでたらしいです。そのとき、あるフ ェザーフォルクのおかげでその怪物は倒されました。
 その彼女の名前は、イェルクがよく知っている名前です。
 彼女の名前は……

 ここでオジイ、台詞に少し詰まる。が、思い切ったように切り出した。
■オジイ To:イェルク
 ヴィーザといいます。
 ここからはイェルクが知っている話と少し違う話になります。
 ヴィーザは、イェルクと同じように、白い翼を持っていました。そして強い魔力 も。彼女は、魔術師から剣と宝珠を貰ってきて、その化け物を封じ込めました。普 通ならここで話は終わるところです。
 しかし、皆がその話を忘れかけた頃、もっと大きな悲劇が待っていたのです。
 また、その怪物が現れたんです。しかも、ヴィーザの体を乗っ取って。
 ヴィーザの体に乗り移って、力を蓄えていたのでしょう。
 これが、イェルクが今までに聞いていたヴィーザの本当の正体です。今封印され ているヴィーザは、怪物に乗っ取られた彼女なんです。まず、この事実を知ってお いて欲しかったんです。 

■イェルク To:オジイ
 ………

 イェルクは瞬きもせずにじっとオジイの方を見ている。オジイは、ゆっくりと、 だがしっかりした口調で続けた。
■オジイ To:イェルク
 そのヴィーザがどのようにして封印されたかをこれから話さなければなりません 。
 ヴィーザは、怪物と同じように魔術師から貰った剣と宝珠で封印されました。そ の封印を行ったのがイェルク、 初代のイェルクです。多分、初代のイェルクの力を持ってすれば、倒すことも可能 だったかもしれません。しかし、彼女にはそれが出来ませんでした。
 それは、ヴィーザが初代のイェルクのお母さんだったからなんです。自分の母親 を封印するだけでも初代のイェルクは辛かったことだと思います。彼女はその後ず っと一人で暮らしていたそうですから。
 そして、彼女は娘を一人産んでひっそりと20才を少し越えたくらいで亡くなら れたそうです。
 そして、彼女の娘は、長老に引き取られ、世代が交代し、封印を生じたときの経 緯さえ忘れられ、今に至っているんです。
 だから、ヴィーザを倒すということは、イェルクの先祖、それも村を救った英雄 を倒すことになってしまうんです。

 これが、本当の話だと思います。

■イェルク To:オジイ
 ………俺は………

 イェルクは小さく呟いて後ずさった。とん、と背中が家を囲む柵に当たり、その ままもたれかかる。
 いつの間にかノエルが横に来て、そのイェルクの肩を軽く抱いた。
■イェルク To:オジイ
 ………ううん……なんでもない。………ありがとう、  ………あの………

 少し寒気を感じたのか、イェルクは自分の肩を抱きしめるように身体を縮めた。
■イェルク To:オジイ
 ………俺の先祖の…初代のイェルクが生まれたのは………ヴィーザが…怪物に 取り憑かれた後…なのか?

■オジイ To:イェルク
 イェルク。たしかに、初代のイェルクはヴィーザを倒した後に生まれたそうです 。
 でも、大丈夫です。イェルクは、ちゃんとした、普通の、女の子です。
 オジイが怪物に見えますか。見えないでしょう。イェルクはもっとちゃんとして いますよ。まっとうです。
 もっと、自分を信じて良いんですよ。泣きたいときは泣いて、笑いたいときは笑 って良いんですよ。

 それに、イェルクは一人じゃないんです。リーゼルも、ノエルも、アトールもみ んなイェルクの味方です。
 もっと頼って良いんだから。みんなを信じて、怪物を倒して、封印して、ヴィー ザを楽にしてあげましょう。
 ね。 

 かがみ込み、イェルクの目を見ながらオジイは娘に語りかけるように話した。 しかし、イェルクはその視線を避けるように、淋しげに目を伏せた。
■イェルク To:オジイ
 ………うん………大丈夫。ヴィーザを倒して……そうすれば、この呪われた血 は、俺で終わるから………

 震える声で自分に言い聞かせるように言う。
■イェルク To:オジイ
 ………馬鹿…みたいだな。俺の先祖が躊躇せずにヴィーザを倒しておいてくれれ ば…こんな忌まわしい血をわざわざ残し続ける必要などなかったのに。自然の禁忌 を破ってまで………

■ノエル To:イェルク
 たとえ助からないとわかっても、自分の親を倒すのはつらかったのよ。他に助け てくれる人──ヴィーザを倒してくれる人がいなかったから。だから封印すること しかできなかったの。
 でも、あなたには私たちがついてる。だから・・・ここでけりをつけないといけ ない。ヴィーザも、あなたも、みんなが自由になれるようにね。

■イェルク To:ノエル
 ………うん……うん…うん………わかってる………

 そこでふと言葉を切り、イェルクは顔を上げ、淋しげに微笑んでみせた。
■イェルク To:ノエル&オジイ
 ………ううん、ごめん。なんでもない………。
 少し寒い。……もう戻ろう。

■オジイ To:イェルク
 そうですね。ゆっくりやすみましょう。

 イェルクが家に戻ったのを確認し、オジイはノエルへ静かに話しかけた。
■オジイ To:ノエル
 今晩、イェルクのこと、よろしく頼む。………すまない。

■ノエル To:オジイ
 ぅん(^_^)

リーゼルの家の寝室

 寝室───と言ってもたぶん元はただの空き部屋───には、マットのような 厚手のクッションと分厚い毛布が用意されていた。さすがにこの人数分のベッド はなかったようだが、クッションは意外とふかふかしていて寝心地は悪くなさそ うだ。男女同室なのがやや難点だが、一応3:4に分けて少し離してあるようだ。
■イェルク To:ALL
 はぁ、今日はなんだかつかれた………

 そう言いながら、クッションの上にぺたんと座り込む。
■ノエル To:イェルク
 ほらほら、座ってないで自分の寝場所は自分で作らなくちゃ・・・

 そう言って、広げた毛布の一枚をソフィティアに渡す。
 ノエルは、もう一枚広げた毛布をイェルクに渡……すように見せかけて、イェ ルクの頭からばさりとかける。
■イェルク To:ノエル
 ………ぇ?

 イェルクが戸惑ったように声を上げた時には、既にノエルは毛布の中に一緒に 潜り込んでいる。しばしがさごそとした後、ノエルはイェルクと顔を見合わせた。 なぜかにこにことしてる。
■イェルク To:ノエル
 な………なに?

■ノエル To:イェルク
 だって、イェルクさん全然笑わないんだもの。
 こーんなべそかいたような顔ずっとしてたら、幸せが逃げてっちゃうでしょ。 だから、楽しいこといっぱい考えるの。狩りに行こうとか、誰かと素敵な恋を しようとか。いっぱいデートして、キスして、自分のために生きるの。
 ヴィーザを倒したあとのこと、自分がしたくてもできなかったこと、楽しい こといっぱい考えるの。

 ノエルがにこにこしたまま言う。イェルクはしばらくきょとんとノエルの顔を 見つめていたが、困ったように眉を寄せた。
■イェルク To:ノエル
 考えたことなかった。
 ………ルァンは、大人になったら一緒に旅をしようとか言っていたな。でも、 俺はルァンが大人になるまで生きられないしな。
 そうだな…楽しいことと言ってもあてがないな………

■ノエル To:イェルク
 それいいじゃない。みんなで旅をして、たまにはルァンちゃんに空からの風 景見せてあげて。そんなの大人になるまで待たなくたっていい。リーゼルさん だっているし、みんな一緒にどこか遊びに行けばいいのよ。
 旅しなくたって、おいしいお弁当作って、ハイキングして、キャンプして、 水浴びしたり、お魚とったり、朝までずーっと、いろんなことおしゃべりして いるだけでも楽しいよ。

■イェルク To:ノエル
 そうか………そうだな。

 イェルクは相変わらず難しい表情だ。何か楽しいことを考えろというのは、彼 女にとっては結構やっかいなことらしい。
■イェルク To:ノエル
 ………今回の件が片づいたら暇になるから、考えとく………

 ノエルは、今度は両手でイェルクの頬をつまんでぷにっと引っ張った。
■ノエル To:イェルク
 だから、それじゃだめなの(^^)

 今までのにこやかな表情を突然曇らせる。そして、頬をつまんでいた手を離し、 イェルクの肩にぽんとのせた。
■ノエル To:イェルク
 あの、ね。バケモノはヴィーザにとりついたの。ヴィーザは白い翼の子だっ たの。だから、ヴィーザを倒したら、今度はそのバケモノが・・・イェルクさ んのこと、狙ってくるかもしれないの。
 だから、そうなったときにこれから自分がどうなってもいいとか、もう必要 とされないんだとか、そんなふうに考えていると、心の隙につけ込まれるかも しれないの。
 でも、それじゃダメなの。また同じことの繰り返しになってしまうから。ま た誰かが悲しい思いをするから。
 それに、私、もう2度と、誰かが壊れるところなんて見たくないから・・・ だから・・・

 もう一回無理して笑顔を作る
■ノエル To:イェルク
 だからね、イェルクさんには心を強く持っていて欲しいの。バケモノになん て負けない、そんな支配されている暇ないって。自分の体は自分のために使う んだって。これから自分らしく生きるんだって。楽しいこといっぱいするんだ って。ルァンちゃんが待っているんだって。そう強く思っていたら、絶対に、 負けないはずだから。
 ね?

■イェルク To:ノエル
 ………うん………
 ………………でも………

 何か言いたげにちらりとノエルの方を伺い、しかし何も言わずにイェルクはこ ろんとマットに寝転がった。
■イェルク To:ノエル
 ………大丈夫。心配しないで。
 ………………もう眠ろう。明日も早いから。

■ノエル To:イェルク
 そうだね。おやすみ。
 いっつもいいたいことはっきり言わないんだから・・・



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ゆな<juna@juna.net>