■ Index | ▲ Previous Page | ▼ Next page |
|
第七章「古畑任三郎でした」 |
|
|
○月○日(野営1日目)。本日、昨日知り合った仕事仲間と共にオランを出た。 私としてはアトラクションではなく、冒険に出るのはこれがはじめてだ。 依頼内容はレイチェル=アングラード嬢の自宅屋敷までの護送。 これより依頼終了までの期間、当該依頼についての記録をここに記すことにする。 依頼人 レイチェル=アングラード アングラード子爵家の令嬢と名乗る。 本人の話によると記憶を失っており、銀の網亭の前で倒れていたところを店の女将に発見されたらしい。 公式記録によると、レイチェル嬢は現在24歳。 本人の話によると17歳の時にアングラードを出発した後、7年間の記憶が全くないらしい。 依頼人は私が見たところ16、7歳に見えた。 別人の可能性もあるが、 ・紋章入りのネックレス ・その他所持していた宝石類 ・アングラードの街及び子爵家についての本人の話 以上を公式記録他、出発前調べた情報と照らし合わせるに、疑うほどの相違点はなく、年齢を除けば本人に間違いないと判断した。 記憶喪失に関しては真実かどうかは伺い知ることは出来なかったが、どうであれ記憶喪失自体は依頼内容とは無関係であり、依頼を受けたからには依頼人の話を全面的に信用することにした。 記憶に関しての手がかりは現時点では全く無く、自分の意志でアングラードを出たこと以外、覚えてないようだ。 しかし、記憶を取り戻せる方法も判らず取り戻す保証もないまま無駄に時間を過ごすよりは、目的地に向かいながら記憶が戻るのを待った方がいいだろうと思う。 何のために、又はどのような状況でアールブルグを出たのかさえ判れば、かなり、 状況が掴めると思うのだが………。 目的地 アングラード 7年前に元領主オーズ=アングラード子爵(依頼人の父に当たる)の死亡により、現領主ディオン=アングラード子爵(オーズ氏の弟に当たる)に変わり、それを受けて、街名はアールブルグと改名していた。 それ以外は依頼人から聞いていたとおりで依頼に関しては問題ないと思われる。 オーズ氏の死去について、依頼人は知らなかったようだ。 故オーズ子爵はその執政において、領民にかなりの負担をかけていたらしい。 ディオン氏に変わってからは領民の評判も良く特に問題は見られない。 目的地までの安全に関しては問題はなく、道中危険にさらされることもなさそう だ。 オーズ氏の死因 オーズ=アングラード氏の死因は公式記録によると病死となっている。 しかし、仲間であるヴァーン君の入手した情報によると「シュガー」と呼ばれる特 殊な薬品を用いて毒殺された可能性があるということがわかった。 原因としてはオーズ氏はその執政から領民に恨まれている可能性が強く、その他 にもディオン現領主の後継者争いも考えられる。 現時点では毒殺を肯定する材料も否定する材料もなく、我々としてはアールブルグ に行ってみるより他は無いようである。 |
|
依頼人のレイチェルさんはこの7年間の記憶を失っている。 その空白の7年間とその前後をボクなりに推測して、ボクなりの物語を組み立ててみた。 昔々、あるところに領主がいました。 その領主は家庭では良き父親でしたが、領主としてはとても酷い政治を行うので、領民からはとても憎まれていました。 その悪政によって、領民には餓死者も出た年もありました。 ある時、その行いを見かねた領主の弟君がそろそろ隠居してはどうかと進めました。 しかし、そんな事には耳を貸そうともしません。 彼のところには、領民の代表がなんとかして欲しいと苦情を申し立ててきていました。 「このままでは街の住民は死に絶えてします」と・・・。 彼は苦悩の末、決心しました。兄には死んでもらわねばならない。 でなければこの街は滅んでしまう・・。 そして彼は実行に移しました。 領主の毎日の食事に「シュガー」という毒を盛りました。 幾日もするうちに領主はだんだん体を悪くして、ついに寝込んでしまいました。 領主の一人娘レイチェルは父親の事をとても心配していました。 もちろん彼女は領主毒殺計画の為に、父親がこのような状態に陥ってる事を知りません。 父親思いのレイチェルは父親の病を癒す為に、大きな街から高位の神官様を呼んで癒してもらおうと考えました。 そしてレイチェル自ら神官を招くために街を出ました。 その事を事前に察知した領主の弟君はそんな事をされてはかなわんと、部下に命じてレイチェルを捕らえさせました。 しかしレイチェルは自分の姪なので手荒な事も出来ません。 せめて事が終わるまでおとなしくしてもらうために・・・。 う〜ん・・・どうしたら7年も記憶を失うかな? あ、そうだ!小さい頃に父さんから聞いた話にあったな。 確か・・「眠り姫」って話しかな?なんか魔法使いの呪いで長い眠りについたとか。 そうだな〜・・・・こういうのはどうだろうか. 雇った魔法使いに眠りの魔法をかけさせました。 そしてレイチェルが眠りについてる間に、領主は死んでしまいました。 もちろん公式記録には病死と記されました。 こうして領主の弟君が新領主に就任しました。 これで街はよくなると皆が喜びました。 そしてレイチェルは眠ったままの状態で、そのままほっとかれました・・。 ・・ってなんか違うよな・・・。 えっと〜・・レイチェルさんが行方不明になった直後に、「行方不明の姪を無事保護した者に賞金を」という話があったらしいから・・。 それじゃあ、こういうのはどうだろう。 レイチェルを眠りにつかしたその魔法使いは、頭が薄くなりつつある30代のおぢさん。 そのおぢさん魔法使いは眠れるレイチェルに一目惚れして、眠ったままのレイチェルを連れて逃亡したってのはどうかな? それから数年後・・・ほとぼりもさめた頃、魔法使いはレイチェルを目覚めさせようと試みた。 そんでもって、ちょっと油断した隙に寝ぼけてるレイチェルは勝手に出ていっちゃった。 そして「銀の網」亭の前で倒れちゃったと・・。 きっと寝起きお腹が空いてたんだね。 うーん・・、なんか違う? 陰謀があんまり感じられないよね〜。 そーいえば・・・24年前に巨大な庭園を建設したとか、従兄弟にあたるクリス=アングラードって男の子が伯爵家の令嬢と婚約が決まってるとか。 ふむ・・・・こういうのはどうかな? 24年前に庭園を建設した後、重税の為にアングラードの経済が悪化した。当然それによって税収も低下する。 「贅沢をするためにはお金が必要=てっとり早くお金を作る=麻薬でも作る?」 そして庭園では麻薬が栽培され、それでお金をまかなった。 まぁ、その後は例によって毒殺された。 新領主となった弟君はとてもこまった、なぜなら街の復興にもお金がかかる。 悪い事とは知りつつもお金が必要な為、麻薬の栽培を続けた。 しかしそれが、とある伯爵に知れそれをネタに脅迫される新領主。 しかたなく栽培を続けさせられる。しかも息子を婚約させられてしまった。 民の為にやった事が、こんな結果になるとは・・・。 きっと後悔してるに違いない。 え〜と・・レイチェルさんについては、やはり最初は新領主の部下によって保護されていたが何者かに拉致されてしまった。 それはきっと伯爵の手の者に違いない! とまぁこんな感じかな?・・・自分でもよくわかんないけど・・。 きっと庭園には何か秘密が隠されている&現領主ディオンは悪い人じゃない。 ではないかとボクは思う。 少なくとも聞いた話しでは、彼の代になって街は復興したって聞くしね。 明日にはアールブルグ到着するんだし、さてと何が待っているのか・・・。 |
|
それにしてもレイチェルちゃんの身に一体何が起こったのかしら……。
……はあっ…全く判んないや。
・
・ ・ ・ ・
な〜んて…あ、あははは。いくらなんでも考えすぎよね。 |
|
○月○日(到着前日)。目的地までの距離も残すところ後僅かとなった。 領主毒殺について考えてみた。 もし、毒殺であると仮定して、動機は何なのか? 出発直後にも書いたが、領民からの怨恨と、お家争いが考えられる。 次に、誰がどのように毒を盛ったかだ。 レイチェル嬢とオランで食事をしたときに子爵邸にはおつきのコックが居ると聞いた。 コックなら調理中に毒を混ぜることが容易である上、かなり隠蔽できるだろう。 また、食事を運ぶと思われる侍従にも可能であるだろう。 しかし、白い粉末状の毒を調理場から食堂又は領主のいる場所まで運ぶ間に食事に混ぜるには、直接ふりかけるくらいの方法しかとれないと推測される。 この場合発見されやすく、多少不自然に思われる。 先に加工しておくことが可能であれば、前述のように「苺ジャム」等に加工しておけば、誰にでもチャンスはあると思われる。 しかし、その場合は無差別のイメージが強く、前領主のみをターゲットにする場合にはよほど領主の嗜好を理解している人物と推測される。 領主家の人物(使用人、レイチェル嬢含む)がそれに該当するだろう。 しかし、当面の問題はアングラード家の人にレイチェル嬢が本人であると証明する点だろう。ディオン子爵に直接面会する機会を作らねばならない。 |
|
――俺達は、すげぇ立派な屋敷の前に立っていた。アングラード子爵のお屋敷さ。
まだ昼下がりだってのに、身を切るような冷たい風が吹きすさんでいて、寒くて凍え
るようだった。 さあ、門を――でっけぇ黒塗りの門だった――叩こうかってその時だ。あいつの叫 び声が聞えてきたのは。俺は振り向いてみて、そりゃあ、びっくりしたね。だって、 そいつはオランであったあのクラリスだったのさ。 クラリスはなにか叫びながら駈け寄ってきたんだけど、風の音がうるさくって、何 を言ってるのか全然わからなかった。でも、不意に風がやんで、 「アリルー!」 って、クラリスの声がやけにはっきり聞えたんだ。 俺達は皆あっけに取られていたんだけど、いきなり駈け出した奴が一人だけいた。 「おねぇちゃん!」 って、叫びながら走り出したのは・・・・・・なんとお嬢さんだった。俺にはもう 何がなんだかわからなくなってたけど、でも気付いたんだ。お嬢さんの振り乱れた髪 が、黒色――そうだ、お嬢さんの髪は黒だよな、でも――じゃなくて、栗色だってこ とに。 こいつはおかしいなって思ったその時、唐突にお嬢さんがうずくまって、悶え出し たんだ。なんだか薄翳った靄みたいな妙なものがまとわりついていてさ、しかもどん どん濃くなっていくんだ。 あっけに取られていた俺達も、ハッと我にかえってお嬢さんのもとに駈け出した ね。こりゃあヤバイって。 クラリスの方が一足先にお嬢さんの傍についていた。 「アリル?!」 って、云いながらクラリスは手を伸ばしたんだが、その靄みたいなものに触れた途 端にはじかれてな、その手を押さえてうずくまっちまった。 「あぁ!」「レイチェルちゃん!」 って、皆も叫んでたけど、誰にもどうしていいかわからなかった。手を出せずに見 守ってた俺たちの前で、お嬢さんの髪がぞわぞわと次第に黒く染まっていった。それ につれてな、まるでお嬢さんの髪に吸いこまれていくように、その靄みたいなものは 薄くなっていったんだ。 すっかりその靄みたいなものが吸いこまれて消えちまったとき、元の黒髪に戻った お嬢さんが何事もなかったみてぇに起きあがった。 「あら、わたくし、どうしたのかしら。みなさんどうなさいましたの? まるで狐に つままれたような顔ですわ」 ときたもんだ。俺も皆も、何て云っていいかわからずに黙ってた。 「アリル?」 クラリスの声は恐る恐るって感じだった。 「はい? あなたはどなたですの。わたくしはアリルという名前ではありませんけ ど。」 「アリル・・・・・・私がわからないのかい」 「さあ、初めてお会いするようですけど?」 それを聞いたクラリスは真っ青な顔をしてあとずさった。 クラリスは頭を振りながら信じられないって顔してるし、俺たちもやっぱりワケが わからなかった。 そのなんとなく気まずい空気を破ったのはジョージだった。 「むぅ、いけませんね」 ってジョージの視線の先で―― ギギッ、と重苦しい音を立てて屋敷の門がひらきはじめていた。門の向こうには、 上等な身なりの男がたっていて、その背後にはがっちり武装を固めた一隊が控えてい た。 「やばい」 って、誰かが呟いた。なんだかしらねぇが、いやぁ〜な予感がした。 でも、お嬢さんには違ったみたいだった。 「叔父様!」 って、目を輝かせたレイチェルは、男の方に走っていった。誰にも止める間もな かった。 「なんのことかね、私には姪はいないよ。死んだ兄にはおろかな娘がひとり、いたが ね。自分も死んだことさえわからないおろかな娘がね!」 でもな、その男は走り寄ってきたお嬢さんにそう言い放ったのさ。冷てぇ声だっ た。そして、男が顎をしゃくると、兵士の一人が剣を抜いて―― 黙って見てたわけじゃねぇ。俺達は皆、はじかれた様に駈け出してた。けど――音 が突然なくなったようだった。呆然として立ちすくんでたお嬢さんの胸を、兵士の剣 があっけなく突きとおし、お嬢さんの身体はゆっくりと崩れおちていった。 「ふむ、亡霊とはいえ――」 その男の冷たい声だけが、やけにはっきり聞えた。 「なにを喋りだすかわからんからな、この娘の身体に取り憑いたまま、もう一度死 ぬがいい。」 ――音が戻った。 「アリルー!」「お嬢さん!」 皆の声が交錯した。俺達はお嬢さんを庇うようにして剣を抜き、主を守って男のま わりを固めた兵士達と睨み合った。 「子爵、どうして私の妹を?!」 お嬢さんの身体を抱きかかえたクラリスが悲痛な声で尋ねてた。 「クラリス、お前の役目ももう終わりだ。まさかお前の妹だったとは知らなかった が、だがね、大した事ではないだろう、小娘の一人や二人」 その男――多分こいつがディオン=アングラードなんだろうな――の顔が、冷たく 歪んだ。 必死に祈りを呟きながら、暖かい光を帯びた掌をレイチェルの傷口にあてていた ジョージが呻いた。じわじわと、クラリスの抱きかかえるリチェルの身体から黒い靄 がしみだしてきていた。 その男は懐から何やら取り出し、呪文を唱えながら一振りした。すると、赤い光が 溢れ出してのたうちまわる靄を包んだ。見る間も無く、靄は消え失せて、その男は満 足そうに吐息を漏らしてた。 ジョージが絶望の呻きをあげた。栗色の髪に戻った娘が助かりそうにもないのは、 誰の目にも明らかだった。 「アンタの兄は私の両親を殺した。その上アンタは私の妹まで!」 って、火を吹くような凄い形相でクラリスはその男を睨んでいた。 その男は答えもせず、ただそっけなく顎をしゃくっただけだった、もう一度。 そして――兵士達が殺到し、俺たちの背後で門がしまっていった。 ドリスがラクルが魔力を開放し、アーギーがパオルが剣を振るった。クラリスもレ イピアを抜いて、まるであの男しか見えてないみたいに遮二無二無茶突っ込んでいっ た。無茶だったね。男の元にたどり着くことも出来ず、兵士の刃がクラリスの胸を貫 いた。 もちろん、俺だって戦ったさ。ワケもわからなかったけど、だけど、俺達にはその 男が許せな かった。 でも、多勢に無勢、勝負は見えていた。力尽きた俺の腹に、冷たい――いや熱い刃 が喰い込んで・・・・・・ ――この話はこれでお終いさ。っま、こんな縁起でもねぇ夢を見たなんてことは、 誰にも内緒だけどな。 |
|
・・・・先が見えないって、本当に苦しいな・・・ その間に、どんなに楽しいことがあっても・・・ もちろん、冒険とはそういうものだと言われれば、それまでのことなんだけど・・・。 ・・・・・・7年間記憶が無い・・・・・ ・・・・・・7年間記憶が無い・・・・・ ・・・・・・・・やっぱり、考えもつかないな・・・・。 ・・・・・オレは魔法を知らない。伝説も何も知らない・・。 ・・・だから、7年間の空白なんて、本当は信じたくないくらい・・・・ 記憶を失った人なら、何年か前に先生と一緒に1人だけ見たことはあったけど・・。 でも・・・それとはやっぱり違う・・・・・。 ・・・・・・・レイチェルさんの真実を、オレ達はほとんど知らない。 だから・・・出発前に話を聞いた時に感じた「ディオンがオーズを毒殺したのでは」などといった様々な「予感」をまだ、「確信」にすることだけはどうしてもするわけにはいかない・・・。 (・・・・・・そう言えば昔先生もよくこう言ってたな。人を診る際には、「新たな真実を知らぬままに、予感を確信に変えてはいけない」って・・。) ・・・・・・・だから今オレは・・・まだ、全てを疑っている・・・・・。 ・・・・・・・レイチェルさん自身のことも・・・・まだ、疑っている・・・・。 疑い出すときりが無いからなオレ・・・・。 オレ達に話してくれた全てのことが、嘘かもしれない・・。 父親が悪名高かったとか、殺されたとか、そういうのを知らなかったというのも実は全て嘘なのかもしれない・・・。 7年前に何があったのか、本当は思い出すまでもなく知っているのかもしれない・・。 レイチェルさん自身も父の死に何か関わっていたのかもしれない・・といったふうに・・・ ひょっとしたらレイチェルさんは、何か自分自身で認めたくないような真実を、自分で無理矢理抱え込んでいるような、そんなふうにまで思えるんだ・・・。 もしこれが本当ならば・・・・・レイチェルさんには、ひとかけらの幸せすら保障されない かもしれない・・・。 ・・・・・・レイチェルさん、ごめん・・・。 ・・・オレ、レイチェルさんに嘘付いちゃうことになるかもしれない・・・。 「ずっと楽しい日がくればいいね」なんて・・・。 ・・・何故なら・・・・ひょっとしたら全ての真実を知った時・・・レイチェルさんに「楽しい 日が来る」のを・・・オレが止めることになるかもしれないから・・・・。 ・・・もちろん、そんなはずが無いと信じる気持ちも持てないわけじゃない。 ・・・でもやはり、真実を知らない限りは、信じても疑っても、意味がないと思うし・・・。 ・・・・真実を見ないまま終わるのは嫌だ。 真実を知らずに生きるくらいなら、真実を知って果てたほうが良いと思うくらいに・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
■ Index | ▲ Previous Page | ▼ Next page |