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第四章「『ない』?」 |
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盗賊ギルド支部 |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
おう、来たか。 |
■ヴァーン To:店長 |
わりと早かったじゃねぇか。さすがはガノン様だな。 (と、にやっと笑うと、真顔に戻って、) で、どうだったんだ。いろいろとクセェ話がでてきたんじゃねぇのかい? |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
その前に、だ。 ほれほれ、金だ、金。 |
■ヴァーン To:店長 |
おっと、すまねぇな。うっかりしてたぜ、ハハ |
頬を掻きつつ懐から100ガメルだし、机の上にジャラジャラとのせる。
■ヴァーン To:店長 |
まずは、先払い分だ。いちいち確かめなくたって、ちゃんと100ガメルある ぜ。 |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
ふむ……… |
ガノンは、100ガメルを数えようともせずに、話し始めた。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
まず、最初にひとつ。 アングラードなんて町は………『ない』 |
■ヴァーン To:店長 |
はぁ? そんなはずはねぇがな。 |
疑わしげに目を細めるヴァーン。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
………なんてな。っへへ、アングラード子爵家ってのが治めてる町は「アールブルグ」ってぇ名前らしい。7年前まで「アングラード」だったらしいが、領主が変わった時に改名したんだとよ。 |
■ヴァーン To:店長 |
けっ、そういうことかよ。名前が変わってんのか。道理で「アングラード」なんて
聞いたことねぇわけだ……。 (じゃあ、なんでお嬢さんは昔の名前なんかもちだしてきたんだ?) |
ヴァーンがオランに流れてきて、まだ1年ほどしか経っていない。
アールブルグという名前にも聞き覚えはなかった。ましてや7年も前に変えられた名前を持ち出されても知らなくて当然だろう。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
で、レイチェルとかいうご令嬢サマは実在する。た・だ・し、レイチェル=アングラードは、前領主の娘だ。7年前に死んだ領主の、な。 生きていれば現在24歳になっている、はずだ。だが、実際には17歳の時に行方不明になっている。ちょうど、領主が死んだ直後にな。 |
■ヴァーン To:店長 |
はぁ? 24だって? それに前の領主の娘だってぇのか……。 (そんなアホな、話があわねぇ……だいたい、行方不明になったのは7年前だとしても、あれで24だったら俺はジジイだぜ……。) ……ま、まあいい。つづけてくれ。 |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
現在のアングラード家の現状は、領主のディオン=アングラード、その一人息子のクリス=アングラード。領主の妻は既に死んでいるらしい。他にはまぁ親類縁者までたどっていけばいくらでもいるがな、事実上この二人だ。 領主の評判は、……と言うよりも、前の領主の評判は最悪だったらしいな。金遣いは荒い、税を上げる、領民が飢えようがまるで無視、ってな。 まあ、今の領主はそれなりだな。前の領主がてんでクソ野郎だったおかげで、何もしなくても評判は悪くなりようがないわけだ。 領主の息子も順風満帆のようだぜ。今年で16歳。伯爵家の令嬢と婚約が決まってるんだとよ。 |
■ヴァーン To:店長 |
なるほど……。 (このへんの話はクラリスの言ってたのと合ってるが……。) ところでよ、その前の領主はなんてぇ名前だかわかるかい? |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
前の領主か? んー。っと、これだ。オーズ=アングラード、だそうだ さて、レイチェルの話に戻るが、こっちはあまり情報がないな。前の領主が、娘が産まれた時にでっけえ庭園を作らせた、ってくらいか。その年は結構な数の餓死者が出たらしいぜ。 ほとんど屋敷から出ることもなかったらしいな。箱入り娘ってやつか? |
■ヴァーン To:店長 |
庭園ね……親バカの道楽貴族に、罪作りな娘ってわけか。そんなのが領主だった日にゃ、えらい災難だな。 (確かにお嬢さんは箱入り娘って感じではあるな……だが、これじゃ、帰ったって歓迎されそうにねぇな。) |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
で………キナ臭ぇ話だが……… |
そこで言葉を切り、とんとんと銀貨100枚の横を指で叩く。
■ヴァーン To:店長 |
ちっ、わかってるよ! (と、渋面で懐からさらに50ガメル取り出し、机の上の100ガメルに上積みして、) 50だ。これでなんとか手を打ってくれよ、頼むぜ? |
ガノンは、追加の50ガメルも数えようともせずに、話を続けた。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
で、だ。 臭いのは、前領主の死因だ。 公式には病死ってことになってるが………どうもいい死に方はしてないようでな。まだ裏は取れていない情報だが、毒殺の線が濃い。 まあ、容疑者は言うまでもなく現領主なんだが………わざわざ証拠集めて告発しようって奴はいないようだな。 |
■ヴァーン To:店長 |
そいつは穏やかじゃねぇな……。 (となると、レイチェル=アングラードが帰還しても、歓迎される見こみはますます薄いな……ま、お嬢さんが本物だとしてだが。) で、レイチェルがそのオーズ=アングラードの娘で24歳のはずだってのは間違いねぇんだろうな。 それに、そのディオン=アングラードが行方不明の姪を探してるって話はねぇのかい? |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
行方不明になってすぐに、「行方不明になった姪を無事に保護してきた者に2万ガメル」とか賞金がかかってたそうだがな、2年くらいしてやめたみたいだぜ。 |
■ヴァーン To:店長 |
あとよ、最近、アールブルクのまわりで野盗がでてるとかってはなしはねぇんだろ うな。 |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
こっちの情報網には入ってないな。そのあたりは大丈夫なんじゃねぇか? |
■ヴァーン To:店長 |
そうかい……いろいろとわかって助かったぜ。やっぱ、頼りなるねぇ、ガノン様は。 (と、柄にもなくお世辞をいってから、声を落として、) ところでよ、頼れるガノン様を見こんでもうひとつ頼みがるんだけどよ。ここのメンバーでクラリスって女がいるだろ……どういう素性だか教えてくれねぇかな? |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
なんだなんだ。調べろっていうなら調べるが、金はあるのか? |
■ヴァーン To:店長 |
いやぁ……なかなかいい女だろ、気になってよ……っていうか、もろに俺の好みな
んだ。で、女を落とすには、まずは下調べってわけでよ……なあ、頼むぜ……。 |
と、照れたような顔をして、ガノンの顔を窺う―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
あー?なんだ、あんなでけえ女が好みなのか。人間の考えることはよくわからねえな。 なんでも、どこぞの田舎町から出てきて、妹を探してるんだとよ。細かいこたぁ、俺も知らん。 で、用件はこれで終わりか? |
■ヴァーン To:店長 |
じゃあ、この件が片付いたら報告に来るからよ。例の借金のほうも、その時って事
で。 邪魔したな。 |
と、何か考え込みながら、部屋を出ていこうとする。
しかし―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
おぅ。 (少し小声で) あー、ちょっと待てや。 |
■ヴァーン To:店長 |
(振り返って、首をかしげて、) なんだ? 実はまだとっておきの話があるっとでもいうのかい? |
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
いや………そういうワケじゃないが……… |
と、更に声のトーンを落とし―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
「シュガー」を買ったヤツがいる。そいつを探しな。 |
そして、唐突に、ガノンは声を元の大きさに戻した。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン |
あー、話は終わりだ。俺は忙しい。とっとと出ていけや。 |
■ヴァーン To:店長 |
……けっ、言われなくたって、出ていくさ。 |
肩をすくめてブツブツ言いながら、ガノンに背を向ける。
「シュガー」
ヴァーンは、その単語に聞き覚えがあった。
毒だ。しかも、暗殺用の。
強い甘味と弱い酸味のある白い粉末で、文字通り砂糖の代りに食物に混入され る。
主に、呼吸器系と循環器系を徐々に侵し、2日1回の頻度で投与すれば約半月で 衰弱死する。風邪をこじらせたように見えるのが特徴だ。
頭の中で、知識を反芻しながら、ヴァーンは部屋を出た。
盗賊ギルド支部 |
部屋を出ると、相変わらずうんざりするほど汚い酒場に出た。
クラリスはどこかに出かけたのだろうか、既にいないようだ。
■ヴァーン |
あぁ? クラリスはどこへ行っちまったんだ? |
カウンターを一通り見回し、手近な乞食を呼び止めてみた。
■ヴァーン To:その辺の奴 |
なあ、カウンターに座ってたクラリスって女、どこにいったか知らねぇかい? |
■その辺の乞食 To:ヴァーン |
ん? ああ、さっき出ていったぞ。 |
■ヴァーン |
そうかい、ありがとうよ。 (……やっぱり、なんか変だな、あの女……。) |
少し釈然としないものを感じつつ肩をすくめ、ヴァーンは酒場を出た。
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