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Sword World PBM #18 「追憶の彼方へ」

第四章「『ない』?」

盗賊ギルド支部

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 おう、来たか。

■ヴァーン To:店長
 わりと早かったじゃねぇか。さすがはガノン様だな。
(と、にやっと笑うと、真顔に戻って、)
 で、どうだったんだ。いろいろとクセェ話がでてきたんじゃねぇのかい?

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 その前に、だ。
 ほれほれ、金だ、金。

■ヴァーン To:店長
 おっと、すまねぇな。うっかりしてたぜ、ハハ

 頬を掻きつつ懐から100ガメルだし、机の上にジャラジャラとのせる。
■ヴァーン To:店長
 まずは、先払い分だ。いちいち確かめなくたって、ちゃんと100ガメルある ぜ。

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 ふむ………

 ガノンは、100ガメルを数えようともせずに、話し始めた。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 まず、最初にひとつ。
 アングラードなんて町は………『ない』

■ヴァーン To:店長
 はぁ? そんなはずはねぇがな。

 疑わしげに目を細めるヴァーン。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 ………なんてな。っへへ、アングラード子爵家ってのが治めてる町は「アールブルグ」ってぇ名前らしい。7年前まで「アングラード」だったらしいが、領主が変わった時に改名したんだとよ。

■ヴァーン To:店長
 けっ、そういうことかよ。名前が変わってんのか。道理で「アングラード」なんて 聞いたことねぇわけだ……。
(じゃあ、なんでお嬢さんは昔の名前なんかもちだしてきたんだ?)

 ヴァーンがオランに流れてきて、まだ1年ほどしか経っていない。
 アールブルグという名前にも聞き覚えはなかった。ましてや7年も前に変えられた名前を持ち出されても知らなくて当然だろう。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 で、レイチェルとかいうご令嬢サマは実在する。た・だ・し、レイチェル=アングラードは、前領主の娘だ。7年前に死んだ領主の、な。
 生きていれば現在24歳になっている、はずだ。だが、実際には17歳の時に行方不明になっている。ちょうど、領主が死んだ直後にな。

■ヴァーン To:店長
 はぁ? 24だって? それに前の領主の娘だってぇのか……。
(そんなアホな、話があわねぇ……だいたい、行方不明になったのは7年前だとしても、あれで24だったら俺はジジイだぜ……。)
 ……ま、まあいい。つづけてくれ。 

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 現在のアングラード家の現状は、領主のディオン=アングラード、その一人息子のクリス=アングラード。領主の妻は既に死んでいるらしい。他にはまぁ親類縁者までたどっていけばいくらでもいるがな、事実上この二人だ。
 領主の評判は、……と言うよりも、前の領主の評判は最悪だったらしいな。金遣いは荒い、税を上げる、領民が飢えようがまるで無視、ってな。
 まあ、今の領主はそれなりだな。前の領主がてんでクソ野郎だったおかげで、何もしなくても評判は悪くなりようがないわけだ。
 領主の息子も順風満帆のようだぜ。今年で16歳。伯爵家の令嬢と婚約が決まってるんだとよ。

■ヴァーン To:店長
 なるほど……。
(このへんの話はクラリスの言ってたのと合ってるが……。)
 ところでよ、その前の領主はなんてぇ名前だかわかるかい?

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 前の領主か? んー。っと、これだ。オーズ=アングラード、だそうだ

 さて、レイチェルの話に戻るが、こっちはあまり情報がないな。前の領主が、娘が産まれた時にでっけえ庭園を作らせた、ってくらいか。その年は結構な数の餓死者が出たらしいぜ。
 ほとんど屋敷から出ることもなかったらしいな。箱入り娘ってやつか?

■ヴァーン To:店長
 庭園ね……親バカの道楽貴族に、罪作りな娘ってわけか。そんなのが領主だった日にゃ、えらい災難だな。
(確かにお嬢さんは箱入り娘って感じではあるな……だが、これじゃ、帰ったって歓迎されそうにねぇな。)

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 で………キナ臭ぇ話だが………

 そこで言葉を切り、とんとんと銀貨100枚の横を指で叩く。
■ヴァーン To:店長
 ちっ、わかってるよ!
(と、渋面で懐からさらに50ガメル取り出し、机の上の100ガメルに上積みして、)
 50だ。これでなんとか手を打ってくれよ、頼むぜ?

 ガノンは、追加の50ガメルも数えようともせずに、話を続けた。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 で、だ。
 臭いのは、前領主の死因だ。
 公式には病死ってことになってるが………どうもいい死に方はしてないようでな。まだ裏は取れていない情報だが、毒殺の線が濃い。
 まあ、容疑者は言うまでもなく現領主なんだが………わざわざ証拠集めて告発しようって奴はいないようだな。

■ヴァーン To:店長
 そいつは穏やかじゃねぇな……。
(となると、レイチェル=アングラードが帰還しても、歓迎される見こみはますます薄いな……ま、お嬢さんが本物だとしてだが。)
 で、レイチェルがそのオーズ=アングラードの娘で24歳のはずだってのは間違いねぇんだろうな。
 それに、そのディオン=アングラードが行方不明の姪を探してるって話はねぇのかい?

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 行方不明になってすぐに、「行方不明になった姪を無事に保護してきた者に2万ガメル」とか賞金がかかってたそうだがな、2年くらいしてやめたみたいだぜ。

■ヴァーン To:店長
 あとよ、最近、アールブルクのまわりで野盗がでてるとかってはなしはねぇんだろ うな。

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 こっちの情報網には入ってないな。そのあたりは大丈夫なんじゃねぇか?

■ヴァーン To:店長
 そうかい……いろいろとわかって助かったぜ。やっぱ、頼りなるねぇ、ガノン様は。
(と、柄にもなくお世辞をいってから、声を落として、)
 ところでよ、頼れるガノン様を見こんでもうひとつ頼みがるんだけどよ。ここのメンバーでクラリスって女がいるだろ……どういう素性だか教えてくれねぇかな?

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 なんだなんだ。調べろっていうなら調べるが、金はあるのか?

■ヴァーン To:店長
 いやぁ……なかなかいい女だろ、気になってよ……っていうか、もろに俺の好みな んだ。で、女を落とすには、まずは下調べってわけでよ……なあ、頼むぜ……。

 と、照れたような顔をして、ガノンの顔を窺う―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 あー?なんだ、あんなでけえ女が好みなのか。人間の考えることはよくわからねえな。
 なんでも、どこぞの田舎町から出てきて、妹を探してるんだとよ。細かいこたぁ、俺も知らん。

 で、用件はこれで終わりか?

■ヴァーン To:店長
 じゃあ、この件が片付いたら報告に来るからよ。例の借金のほうも、その時って事 で。
 邪魔したな。

 と、何か考え込みながら、部屋を出ていこうとする。
 しかし―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 おぅ。

(少し小声で)
 あー、ちょっと待てや。

■ヴァーン To:店長
(振り返って、首をかしげて、)
 なんだ? 実はまだとっておきの話があるっとでもいうのかい? 

■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 いや………そういうワケじゃないが………

 と、更に声のトーンを落とし―――
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 「シュガー」を買ったヤツがいる。そいつを探しな。

 そして、唐突に、ガノンは声を元の大きさに戻した。
■『支店長』ガノン To:ヴァーン
 あー、話は終わりだ。俺は忙しい。とっとと出ていけや。

■ヴァーン To:店長
 ……けっ、言われなくたって、出ていくさ。

 肩をすくめてブツブツ言いながら、ガノンに背を向ける。

 「シュガー」
 ヴァーンは、その単語に聞き覚えがあった。
 だ。しかも、暗殺用の。
 強い甘味と弱い酸味のある白い粉末で、文字通り砂糖の代りに食物に混入され る。
 主に、呼吸器系と循環器系を徐々に侵し、2日1回の頻度で投与すれば約半月で 衰弱死する。風邪をこじらせたように見えるのが特徴だ。

 頭の中で、知識を反芻しながら、ヴァーンは部屋を出た。
盗賊ギルド支部

 部屋を出ると、相変わらずうんざりするほど汚い酒場に出た。
 クラリスはどこかに出かけたのだろうか、既にいないようだ。
■ヴァーン
 あぁ? クラリスはどこへ行っちまったんだ?

 カウンターを一通り見回し、手近な乞食を呼び止めてみた。
■ヴァーン To:その辺の奴
 なあ、カウンターに座ってたクラリスって女、どこにいったか知らねぇかい?

■その辺の乞食 To:ヴァーン
 ん?
 ああ、さっき出ていったぞ。

■ヴァーン
 そうかい、ありがとうよ。
(……やっぱり、なんか変だな、あの女……。)

 少し釈然としないものを感じつつ肩をすくめ、ヴァーンは酒場を出た。


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ゆな<juna@juna.net>