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Sword World PBM #18 「追憶の彼方へ」

第四章「クラリス」

盗賊ギルド支部

 部屋を出ると、――そろそろGMが毎度毎度描写するのを面倒くさがるほど――汚い酒場に出た。
 カウンターに客は一人もいない、それどころかバーテンすらいない。

 ヴァーンは、カウンターの一番きれいそうな椅子に座り、あらためて酒場を見回すと、ため息をついた。
■ヴァーン
 うぇ〜、ホント汚ねぇな、ここは……もっときれいにしてちゃんと営業してる支店だってあるのによ……これじゃ、勤労意欲ってモンがわかねぇんだよな……ま、あのくそチビの性格でてっけどよ……。

 と、ぶつぶつ呟きながら、カウンターの中に手を伸ばして一番きれいそうなグラスをみつくろうと、火酒『エフリッツタン』を大事そうに注ぐ。軽くグラスをゆらし、深紅の液体の表面にできた渦をぼーっと眺めながら、ヴァーンは独り言を続けた。
■ヴァーン
 ……さ〜てと、どんな話が出てくっかな……あのお嬢さん、嘘をついてるようには見えねぇが……そもそも自分のおかれた状況をよくつかめてねぇって感じだしな…………
 …………命を狙われるような覚えはねぇとは言ってたが……野盗どもにでも襲われねぇとは限らねぇし……戦力としちゃあ、まともに頼りになりそうなのはパオルぐれぇだしな……あんまり楽は出来そうにねぇな……………
 ………………ふぁ〜……………………(-_-)zzz

 物思いにふけるうちに、なれない早起きのせいで、ついうとうとして………
 と、そのとき、誰かがヴァーンの肩を叩いた。
 続いて、若い女の声。
■女の声(?) To:ヴァーン
 ちょっとあんた。こんなところでへらへら寝てたら、ポケットの中空っぽにさ れちまうよ。
 ほらほら、起きな。

■ヴァーン To:見知らぬ女
 ……ん……っあ?
(まだ少し寝ぼけた様子で、声の主の方を見上げる。)
 ……あ、ああ、寝ちまってたのか、俺は……え〜と、あんたは……?

 見上げると、若い女が見下ろしている。栗色の髪をショートカットにした、身長170センチくらいの長身の女だ。
 美人かどうかはこの際横に置くとして、この酒場の中では異質なほど人並みに清潔な存在というのは確かだ。
■ヴァーン
(……見かけねぇ面だな……。)

 さりげなく所持品を確かめながら、記憶を探る。
 とりあえず、所持品は無事のようだ。
■女 To:ヴァーン
 あたしかい? クラリスだ。いや、そんなことはどうでもいいんだよ。
 あんた―――

 そこで、クラリスと名乗った女は、他の客に聞かれないためだろうか、声のトー ンを落とした。
■クラリス To:ヴァーン
 ―――なんでアングラードのことを調べてるんだい?

■ヴァーン To:クラリス
(やっぱり覚えがねぇな、この女……しかも、いきなり、アングラードっときたもん だ……。)
 ……はっ! 盗み聞きはよくねぇな〜、おネエちゃん……。
(と、にやっと笑ってから、声のトーンを落とし、クラリスの意図を推し量ろうとす るかのように目を細めて、)
 まあ、確かにアングラードって町のことを調べちゃいるが……それがアンタに、な んか関係あんのかい?

■クラリス To:ヴァーン
 っと、盗み聞きするつもりはなかったんだけどね。あのチビの部屋、外の壁は 分厚いけど、扉が薄くてあのでかい声は筒抜けなのさ。

 まあ、ずいぶん懐かしい名前を聞いたと思ってね。ちょっと気になっただけだ よ。
 で………あんた、アングラードのこと調べてどうしようってんだい。
 あそこで何かあったのかい?

■ヴァーン To:クラリス
(……筒抜け……そいつは知らなかった……まあ、俺はあんまり入り浸ってるほうじゃねぇからな……しかし、どこまで聞かれてちまったもんだか…ったく、あのくそチビめ……。)
(軽く舌打ちをして、肩をすくめてから、)
 ちっ、聞こえちまったモンはしょうがねぇが……ちょっとヤマ絡みでな。何かあったのかって、まあ、あったんだろうな、きっと。俺も、そいつを知りてぇとこなのさ。
 ところで、懐かしいっていうからには、アンタ、そこの生まれかなんかなのかい? 他に、おんなじ名前の町がなければだけどよ。

 探るように表情を窺う。
■クラリス To:ヴァーン
 まあ、そんなところだよ。長い間帰ってないからね、つい懐かしくなっちまったのさ。

■ヴァーン To:クラリス
 やっぱりそうかい。だったら、話はべつだ。
(少し警戒を解いた様に、)
 ……じつは、ちょいとそのアングラードまで行かなくちゃならなくてな。だけど、 そんな町があるって誰も知らなかったもんでよ。それで、いろいろ調べてんだ。
 アンタさえよかったら、いろいろ教えてくれると助かるんだが……。
 おっと、俺はヴァーンってんだ。もちろん、礼はするぜ。

■クラリス To:ヴァーン
 ………。

 それを聞いて、クラリスは明らかにがっかりしたように見えた。
 しかしすぐにその失望の色は消え、さっきと同じ口調で話し始める。
■クラリス To:ヴァーン
 ………あぁ、そうかい。参ったね。
 あたしも故郷が今どうなってるか聞こうと思ったんだけどな。
 その分じゃ聞いても無駄そうだねえ。

 まあいいや。あたしの知ってることなら、聞いてくれて構わないよ。
 そのかわり、ちょっと頼みがあるんだけどね………

■ヴァーン To:クラリス
(故郷の様子を知りたいってだけかあ? ホントに……。)
 おーし、取引だな。その、頼みってのはなんだい? まず、そいつを聞こうか。

■クラリス To:ヴァーン
 別に取引ってほどのことでもないんだけどね。

 ………妹を探してるんだ。8年前生き別れになっちまってね。何か故郷に消息が 入っていないか知りたいんだ。酒場か何かで噂話を聞くだけでもいいからさ。

■ヴァーン To:クラリス
(内心はともかく、さも同情したふうに、)
 なるほど……。まあ、俺たちみたいなのは、いろいろとワケありの奴が多いモンだ しな。そういうことなら、お互いサマだ、力になるぜ。妹さんの消息を確かめてくる ぐらい、お安い御用さ。
 なあ、よかったら、詳しい話を聞かせちゃくれねぇか? その、8年前に生き別れ になっちまった経緯をさ。

■クラリス To:ヴァーン
 ああ、経緯かい…。
 親父が税を払えなくなってね。酷い生活だったよ。で…まあ、ありていに言え ば、夜逃げしたのさ。家族全員でね。
 領主の兵が追いかけてきて……親父とお袋は殺されちまった。「見せしめ」だ とか言ってね…。
 あたしはなんとか逃げ延びたんだけど、幼かった妹とははぐれちまったのさ。

■ヴァーン To:クラリス
 ほう……酷い話だな、そりゃ……妹さん、なんとか生きのびてりゃ、今ごろ15,6ってとこか……。
(……ちょいと気になるな……お嬢さんもそのくれぇの年頃ではあるが……まさかな、話が合わねぇ……。)
 で、妹の名前はなんてぇんだ? そいつを教えてくれなきゃ、どうしようもねぇぜ?

■クラリス To:ヴァーン
 ああ。妹はアリルってんだ。別れた時に9歳だったから、今年で17だな。
 髪はあたしと同じで茶色、目は黒かった。肌はあたしと同じで白だ。
 ………あたしも元は白かったんだよ。日焼けしてるけどさ。
 アリルはお袋似だから、顔だちなんかは、あまりあたしと似てないかもしれないねえ。8年も経ってるとさすがにわからないな。

■ヴァーン To:クラリス
(……やっぱり、お嬢さんとは関係ねぇか……。)
 アリルってぇのか、妹さん……どっかで元気にやってんだといいけどなぁ。
(しみじみと、そう言ってから、)
 そうだな、顔立ちは多少変わってるかも知れねぇが、目元にほくろがあったとか、もうちょっとはっきりした特徴は憶えてねぇのかい? あと、親父さんとお袋さんの名前は憶えてるだろ?

■クラリス To:ヴァーン
 親父はクレイブ=ローン、お袋がエルディアだ。
 はっきりした特徴か…。これといったのは、ちょっと思い当たらないねぇ。

■ヴァーン
 ……じゃ、他にはもう手がかりになりそうなことはねぇのかい?

■クラリス To:ヴァーン
 ああ、いくら妹のこととはいえ、8年も前のことだからね。

■ヴァーン To:クラリス
 そうかい……まあ、だいたいのところはわかったからよ、妹さんのことはまかしときな。安請け合いするわけじゃねぇが、できる限り消息をたどってみるよ。
 だがよ、アンタの話を聞いてると、どうもアングラードって町はヒデェとこみてぇだな。それに、見せしめに……っていってたけどよ、随分酷いやり方させるじゃねぇか、その――なんてぇ名だか知らねぇが――領主はよ。
 そいつの事とか、もう少し詳しく話してくれねぇか? まあ、昔のことであんまり憶えてねぇかもしれねぇが、憶えてることだけでいいからよ。

■クラリス To:ヴァーン
 領主かい?なんて名前だったかね。なんとかアングラードとかって名前だったのは間違いないよ。
 なんか金使いが荒くてね。わけの分からない絵を買い込んだり、でかい庭園を作ったり、あたしらが払う税をなんだと思ってるんだろうね。年々、税は上がるしさ。最低な生活だったよ。
 まあ仕返ししてやりたいとこだけどね、あの時の領主は、あたしらが町を出てから 1年くらいしてポックリ死んじまったらしくてね。ったく、死ぬなら1年早く死ねばいいのにさ。

■ヴァーン To:クラリス
 へっ、ホントろくでもねぇ野郎だから、きっと、ばちがあたったのさ。
(……ってことは、7、8年前にお嬢さんの親父に領主が代わったって事だな……前 の領主とあんまりかわらん様だと結構恨みをかってるかもな……。)
 ったく、あの手の連中にはムカツクよな。税だなんだって人の金を搾り取ってよ、 その金で、うまいモン食って、きれいなカッコしてるくせに、貴族サマでございって 偉そうにふんぞり返りやがってよ。
(と、顔をしかめて、グラスの酒を飲み干し、)
 おっと、アンタも気分なおしに一杯飲むかい? この『エフリッツタン』はなかな かうめぇぜ、まあ、いっときなよ。

 と、酒袋を強引におしつけると、カウンターの中に身を乗り出してきれいなグラス を探す。
■クラリス To:ヴァーン
 酒かい? あたし、あまり強くないんだけどね………

 と言いつつも、ヴァーンの差し出したグラスに手を伸ばす。
■ヴァーン
 そうかい、だったら……
(と、カウンターを見まわして、カラムの実が転がってるのを見つけると、)
 こいつをちょっと絞るといいぜ。そのままかじっても酸っぱいけどよ、酒にたらす と飲みやすくなるし、けっこういけるぜ。
(と、実を手にとってナイフで二つに割ると、自分のとクラリスのグラスに果汁を 搾ってたらすと、山吹色の果汁が深紅の火酒のなかに渦を巻く。)
 へっ、どうだい? 色もなかなか綺麗だろ?

 薦められるままに、クラリスは一口だけ口に含んだ。
 それを飲み込み、露骨に顔をしかめる。
■クラリス To:ヴァーン
 ……滅茶苦茶きついねえ、これは。

 ………ま、たまにはいいか。

盗賊ギルド支部

 どのくらい無駄話に興じていたかはわからないが。
 しばらくして、足音一つ立てずに乞食の一人が近づいてきた。
■乞食 To:ヴァーン
 ………へへ………新入りさんよ………
 ……店長が呼んでるぜ……準備できたってよぉ………

■ヴァーン To:乞食 & クラリス
 おっ、そうか、すぐ行くぜ。
(と、立ち上がってから、クラリスに向かって、にやっと笑って、)
 アンタの故郷の事でなんか面白ぇ話があったら教えてやっからよ、ちょっと待っててくれよ。

■クラリス To:ヴァーン
 ハイハイ。ご苦労さま。
 期待せずに待ってるよ。



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ゆな<juna@juna.net>