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第十一章「子爵様」 |
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アングラード邸本館 |
別館と本館を繋ぐ渡り廊下を越えると、(当然だが)本館に入り、本館の正面玄関に出た。正面玄関からはいくつかの廊下が延びている。
■パオル To:ヴァーン |
(いきなり立ち止まって) ところでヴァーンさん、そのアルベルトって人はどこに行けば会えるんです? |
■ヴァーン To:パオル |
そりゃあ、オメェ、今から探すんじゃねぇか。(^-^;) |
―――そのとき、突然、玄関の入り口の方から、神経質そうな男の声が飛んできた。
■男の声 |
一体これはどういうことだ!! |
声の主の傍らには、兵士Aことアルベルトが立っている―――
■ヴァーン To:パオル |
おっと、わざわざ探さなくても、アルベルトさんいるじゃねぇか……って、それどこじゃねぇよな、これは。やばいぜ。 |
■パオル To:ヴァーン&ジョージ |
(わざわざ向こうから出向いてくれるとは、手間が省けて楽だけど・・・) さきほど庭園を見てきた時に思ったんですけど華美を好まぬというか、無駄を嫌ってるような人みたいですから気をつけて下さいね。 |
■ジョージ To:謎の男 |
(うわぁ……こいつは偉そうですね、まず間違いないでしょう。) 失礼、オランから来ましたジョージ=マクドヴァルと申します。 ディオン=アングラード子爵でいらっしゃいますね?お初にお目にかかります。 レイチェル=アングラード様のご依頼により、当お屋敷までご本人様を護衛して参りました。 |
■アーギー(心の声) |
領主登場、か・・・。 んー・・・しかしジャムを取りに行く前に帰ってきたとなると、少し話がこじれかねないな・・・ |
■ドリス To:レイチェル、クリス、タニア |
(あやや…もう帰って来ちゃったんだ) えっと…あの方が領主のディオン様でしょうか? |
■クリス To:ドリス |
………ええ。 |
少しイヤそうに、クリスが頷いた。
■ディオン To:ALL |
そうだ、私がディオンだ。 大まかなことはアルベルトから聞いている。 は。で、姪の名を騙っているのは、どの娘だ? |
■ドリス(心の中で) |
いきなり騙りと決めつけるなんて…何よこの人 |
ドリスは多少カチンと来たが、なんとか表情には出さずに済ませた。
■ジョージ To:ディオン |
我々がお連れしたのはそちらの方です。 しかし、騙っているなんてとんでもない。我々は本人だと信じたからこそお連れした次第です。 お話だけでも聞いていただけないでしょうか? |
■ディオン To:ジョージ |
はぁ………? |
ディオンは少し口元をつり上げながら言った。
■ディオン To:ジョージ |
どうせ騙るならもう少し調べて偽物をでっち上げるんだな。 どこが、どう、レイチェルだと言うのかね? |
■パオル To:ディオン |
(横から口を出す) 失礼します。申し遅れましたが私はパオル=バード、オランよりレイチェル様を護衛して来た者の一人です。 (深々と頭を下げる) 失礼ながらディオン公がそう言われるのも無理はありません。 どうやらレイチェル様は魔法の力か、はたまた呪いの力かによってこのような姿になったようです。 しかしながら、彼女の所持している形見のネクレスに昔の記憶等をクリス様に確認して頂いた限りでは、レイチェル様御本人のようでした。 それを改めてディオン公自らに確認して頂きたいのですが、いかがでしょうか? |
即興ながらジョージの言い回しを真似たらしい。
■ディオン To:パオル |
フン、姿が変わった、か。なかなか面白い言い訳だな。クリスまで騙し通したのはなかなかの演技力だが、私まで騙そうとは愚かなことだ。 だいたい、レイチェルがこんな所にいるわけがなかろう。 |
■ドリス |
(小声で)レイチェルがここにいるわけがない? まるでレイチェルの居場所を知っているような口ぶりね…… (ふと先程の推理を思い出し…… まさかここにいるレイチェルちゃんは精神だけ本物で本物の肉体はあの人に始末されちゃってるとか……や、やだな、あうう…まさかまさかよね) |
■ヴァーン To:ディオン |
ちょっと待ってくれ。どうして、いるわけがないって分かるんですかね? だいたい貴方がたを騙して俺達になんの得があるって言うんです? |
■ディオン To:ヴァーン |
………レイチェルは7年前に行方不明になっている。賞金までかけて探したが見つからなかった。今更出てくるわけがなかろう。 まあ、貴族の娘となれば、それなりの生活も保証される。レイチェルを騙る理由はいくらでも考えられるな。 で、他に言いたいことはあるかね? |
■アーギー(心の声) |
・・・・・・・・・・・・!??
(いかにも「訳がわからないな」という表情を見せる) 出てくるわけがなかろうって・・・ひどく勝手な決めつけかただな・・・ (一瞬、鼻で笑う) |
■ヴァーン To:ディオン |
もしも俺達が貴方を騙すつもりなら、なんでわざわざ全然似ても似つかない娘を連れてくるわけがあるんです。ちっとは似てる娘を探してきますよ。 ともかく、お嬢さんの持ってるネックレスを見てやってくださいよ。それくらい構わんでしょう? |
しかし、ディオンはネックレスを確認しようともせずに、鼻で笑った。
■ディオン To:ヴァーン |
フン、ではこういうのはどうかね。 7年前、レイチェルは何かの事情があって街を出た。そして、野盗にでも襲われたのか、道中で力つきてしまったのか、もしかしたらネックレスだけ奪われたのかもしれん。それがどうやっておまえ達の手に渡ったか、もしかしたらおまえ達が直接本物のレイチェルから奪ったのかもしれんしな。 レイチェルのネックレスを持っているからといって、何だと言うのかね。 |
■ドリス(心の声) |
むかむかむかっ! このおっさん何よっ。 人のこと頭から疑ってかかった上にまるで聞く耳もたないじゃない…… …………きっと、このおぢさんが悪なのねっ! そうよ。レイチェルちゃんをこんな目に合わせた悪人はこのおぢさんよ! 間違いない!! あたしがそう決めたわ!!! |
ドリスは一人で盛り上がっている………
■ヴァーン (心の声) |
これ以上話しても無駄だな。しっかし、むかつく野郎だな、くそっ。 |
■アーギー(心の声) |
(一瞬あきれるような表情を見せて)
・・・まあ、ものは言いよう、なのかな・・・・。 しかし・・・・・今の言い方だと・・・何か「レイチェルはいないことにしなければならない」ようにしているようにもとれるな・・・。 まあ、まだどうなのかはわからないから、とりあえず・・。 |
■アーギー To:レイチェル |
(レイチェルの方を向いて) ・・・・と、言ってるけど・・・・。 ・・・・何か、あの人(領主)の顔を見て思い出したこととか、今言いたいこととか・・・・・何かある? (苦笑しながら耳元で) 出来れば早めに言ったほうがいいみたいだよ、なんか機嫌悪いみたいだし・・。 |
レイチェルはなにやらうつむいたまま震えている。少し震える声で、彼女は言った。
■レイチェル To:ディオン |
………おじさま。7年前、わたくし、何かあったときのために、ジャムを半分に分けて、片方を屋敷に残して行きました……… |
■ディオン To:レイチェル |
………何を………言っているのかね………? |
ディオンの声には、明らかな怒気が含まれている―――
■ドリス |
………… |
ドリスは、無言で、何かあってもすぐ守れるようレイチェルの側へ移動した。
■ジョージ To:ディオン |
……まあ、そういうわけです。 シュガーに苺ジャム……。これだけの話でも聞き手を選べば面白い事になるとは思いませんか? できれば、その事について話し合いたいと思いますが、お時間はいただけますでしょうか? |
■クリス |
………? |
事情を知らないクリスが怪訝そうに首を傾げている。
■ディオン To:ジョージ |
………いや、遠慮させていただこう。もう結構だ。 クリス、この薄汚い平民どもを屋敷から追い出せ。それから、人を呼んで屋敷中を掃除させろ。 我慢ならん。 |
■ジョージ To:ディオン |
そうですか、では失礼させていただきます。 苺ジャムの方はこちらで処分いたしますのでお気になさらずに。 (正面玄関から出る。) |
■ドリス |
そうね。行こ行こっ。 |
かなり頭に来た様子で、レイチェルの腕を引っ張り一緒に出ていこうとするドリス。
それを、アーギーが制した。
■アーギー To:ドリス |
(ドリスの方は見ないまま、小声で) 落ち着けよっ・・・・・! ・・・・・まだ話が終わってない・・・・・・! |
■ドリス To:アーギー |
あ…うん………。(とレイチェルの腕を掴んだまま立ち止まる) |
■ヴァーン To:ジョージ |
おいって、ちょっと待てよ。荷物はどうすんだよ。 |
■パオル To:ディオン |
(なるほどね・・、あの老人の態度はこういう意味だったんだ・・・。) お待ち下さい、ディオン公! 我々はアングラード家の財産を狙う、不埒な輩などではありません! 先ほどからの無礼の数々に対して、気を悪くされたと思いますがどうかお許しさい。 我々が欲しているのは、このレイチェル様の平穏な生活なのです! その為には唯一の血縁であられるディオン公に保護して頂くのが、最善と思いアールブルグまでお連れいたしました。 名君と噂の高いディオン公ならば、きっとこの話を聞いて下さると思えばこそはるばるオランよりここまで来たのです。 先ほども申しましたが、我々はレイチェル様の生活の保証だけです。 彼女を保護して頂ければ、不要な品は全て処分いたします。 ですから少しでも話をする時間を頂けませんか? お願します。(また深々と頭を下げる) (例によって仲間に視線通信:屋敷に残る口実がないと何も得られないんだよ!だから頭を下げようよ〜) |
■ドリス |
………パ、パオルくん? (まるでジョージが乗り移ったかのようなパオルの演説に驚く) |
■アーギー |
・・・・・・・・・・・・・・ |
アーギーは、複雑な表情でレイチェルの傍に立ちじっと一連の様子を見守っている。
■ディオン To:パオル |
……… |
ディオンは一瞬、何か迷うような表情になった―――
■クリス To:ディオン |
……… |
■ヴァーン To:パオル & ディオン |
なにいっても無駄だぜ、パオル。 (といいながら、ディオンに剣呑な視線をぶつける。) |
■クリス To:ディオン |
………父上。これ以上、僕の客人を侮辱するのはやめてもらえませんか。 15歳の誕生日の時、別館は、僕の自由にしてよいと、父上はおっしゃいました。僕が、別館で、自分の客人を、もてなしたとして、文句は、ありませんね? |
クリスは、なにやら怒りを抑えるように、単語一つ一つを区切って言う。
■ディオン To:クリス |
ふざけるなっ!!! |
ディオンが突然クリスを殴りつけた。3メートルほど吹き飛び、転倒するクリス―――
■アーギー(心の声) |
!! (ディオンの行動に驚き、表情をさらに険しくする。) ・・・これは、只ならないな・・・・。 息子まで殴りとばすなんて・・・何がなんでも追い出したい「理由」があるとしか、思えない・・・。 |
■パオル To:ディオン |
落ち着いて下さい、ディオン公!! ディオン公のお立場も分かります。ですがクリス様にもプライドがありましょう。 子供もいずれは大人になるものです。 ここは丸く治める為にも一つ、ディオン公に我々の話しを聞いて頂くとして今夜一晩だけこの別館に泊めて頂けませんか? 実を言いますと我々は今日この街に着いたばかりで、まだ宿を決めておりません。 初めての土地ですので陽が落ちてからは、宿を捜すのも楽ではありません。 まことに不躾でありますが、今夜一晩でも泊めて頂けませんか? そうすればディオン公もクリス様も、互いに立場を失わずにすむのではないでしょうか? |
パオルは、普段見せないような真剣な目で、まっすぐにディオンの目を見据えている―――
アングラード邸本館 |
■ディオン To:パオル |
………フン |
ディオンは少し口元をつり上げるような笑みを浮かべた。
■ディオン To:クリス |
勝手にしろ、クリス。私は関与せん。 行くぞ、アルベルト。 |
それだけ言い残し、ディオンは背を向けた。
■アーギー To:パオル |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・ふう・・・・・。(大きく一息つく) (パオルの方を向いて) フフッ・・・まあ、とりあえずは、「大演説、見事でした」って感じだね・・・ (にこっ) (軽く、拍手のしぐさを見せる) |
■パオル To:ヴァーン&アーギー |
はぁ〜・・・・・。(その場にへたれこむパオル) ははは・・・・、オランに戻ったら劇団からスカウトが来ますかね・・。 ともかく・・・なんとか屋敷に残れましたね。 |
■ドリス |
ふぅ…。 どうやら追い出されなくて済んだみたいね。 (ふとレイチェルの腕を握ったままなのに気付き) あっ、ご、ごめんなさいっ!(慌てて手をはなす) |
■ヴァーン To:ALL |
ほっ、なんとかこの場は……たいしたもんだな、パオル。見なおしたぜ。 おっと、そうだ、ジョージを呼んでこなきゃな。 (と、振り向いて、ジョージが立っているのに気付いて、) って、いるじゃねぇか。あんた、出てったんじゃなかったのかい? |
ジョージは、一瞬ヴァーンを見るが、クリスに向き直った。
■クリス |
(ぼそっと) あの扉は引いて開けるんですが……… |
―――ジョージの耳には入らなかったようだ(聞こえないふりとも言う)
■ジョージ To:クリス |
大丈夫ですか?クリス様。 (クリスに手を貸す。) 申し訳ございませんっ!! 我々のせいで貴方まで巻き込んでしまいました!! (土下座で謝る。) 全てお話しいたします。今しばらくお待ちいただきたい。 |
■クリス To:ジョージ |
いえ、気にしないでください。僕が勝手にやったことです。こちらこそ、我が 家のごたごたに巻き込んでしまったみたいですし……… |
立ち上がり、軽く服を叩く。
■パオル To:クリス |
本当に大丈夫ですか? でもクリスさんのおかげで助かりましたよ。ありがとうございます。 |
■クリス To:ALL |
そろそろ、事情を聞かせてもらえますか? |
■ヴァーン To:ALL |
ちょっと待った。ここじゃなんだから、一旦お嬢さんの部屋にでも戻ろうぜ。話はそれからだ。 |
■ジョージ To:クリス |
そうですね。場所を変えまして、お話しいたしましょう。 |
■クリス To:ジョージ |
分かりました。別館に戻りましょう。 |
本館から別館への渡り廊下 |
ぽんぽんと服の埃を落とし、クリスは少し振り返った―――
■クリス(独り言) |
……父上にも困ったもんだな。 ………我慢ならないのは、僕の方だよ……… |
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