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序章「口の臭い連中」 |
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夜更けの盗賊ギルド |
裏通りにある薄汚い酒場。その周りには不自然なほど乞食がたむろしている。
近づくと、数人の乞食が酒場の入り口を塞ぐように移動した。あからさまな物 色の視線が集中する。
更に近づくと、ようやく、乞食の一人が、その(近寄って確かめたいとは思わないが)い かにも臭そうな口を開いた。
■ 乞食(盗賊ギルドの門番) |
へへへへ………こんな夜更けに、何の用だい………新入りさんよ? |
■ヴァーン TO:こじき |
(うわっ、くせぇ〜。いくら変装だからってここまでやるかよ、、、。) い、いや、ちょっと店長に話しておかなきゃならんことがあってよ、、、。今、いる かい? |
■ 乞食(盗賊ギルドの門番) |
あぁ……いるさ。まぁ、入んな。 歓迎するぜ……。 |
乞食たちが、今度は入り口を開けるように移動した。
扉―――ちょうつがいもなく壁に立てかけられたノブ付きの板がたぶんそうだ ろう―――は開いたままだが、それでも中は薄暗く見えた。およそ衛生的とは思 えず、床にはネズミが走り回っている。
奥の部屋に案内された。
その部屋の扉は、酒場のどの扉よりも上等だった。つまり、ちょうつがい二つ とも無事にくっついている、という意味で。
扉には「支店長室」と書かれている。この酒場はチェーン店でないと仮定する と、常闇通りの「本店」に対して「支店」とかけているのだろうか。この最高に 気の利かない酒場の中では、最高に気の利いたジョークなのだろう。
■ヴァーン |
(どうも、この部屋は苦手なんだよな〜。) お〜い、店長〜! まだ起きてっかい! ヴァーンだ! 入 るぜぇ! (扉を叩きながら、応えを待つ。) |
■ 「支店長」ガノン |
あ?あぁ、鍵は開いてるぜ。入れや。 |
■ヴァーン TO:支店長 |
(気後れしながらも、部屋の中に入っていく。) 店長、邪魔するぜ……。 |
扉を開けると、ちょっとした執務室らしき部屋に出た。
薄汚いデスクに薄汚い男が座っている。デスクの高さを持て余すほどの小男だ が、見る者が見れば一目で分かる。彼はドワーフだ。
ぐちゃぐちゃと何か絶えず噛んでいる。噛み煙草だろう。
彼は三白眼でこちらをにらんでいる。
■ヴァーン TO:支店長 |
(うぇ……目つき悪すぎんだよ……くそチビ……。) あ〜、前によ、上がりを納めきれんで、いくらか借りてたよな……。 |
■ 「支店長」ガノン To:ヴァーン |
あ?なんだ。工面できたのか?………そのツラじゃできてねえみたいだな。 ………それで? |
■ヴァーン TO:支店長 |
それでよ……今度、ちょっとしたヤマがあってまとまった金が入るんだ。だか
ら、もうすこしだけ待ってもらいたいんだが……。 |
ペッ
「支店長」は、噛み煙草のせいで真っ黒になった唾を、床に吐き捨てた。
■ 「支店長」ガノン To:ヴァーン |
なんだ、なんだ。あんなシケた借金も返せねえのか。 ………で? |
■ヴァーン TO:支店長 |
で……代わりに預けてある俺のレイピアだが、まだちゃんとあるんだろうな。 頼むから、闇に流したりしないでもう少しだけ待ってくれ……。あれは、なかなか の上物だし、ちょっとした因縁のあるモンなんだ。 |
もう一度、真っ黒な唾が床を汚した。
■ 「支店長」ガノン To:ヴァーン |
け。本当にシケてやがるな。 で?返せる目処はあるんだな? |
■ヴァーン TO:支店長 |
(汚ねえ唾吐きやがって……むかつくチビだぜ……。) なに、今度のヤマが終わりゃ、ホントに金が入ってくるんだ、な、もう少しだけ 待ってくれよ、頼むぜ、店長。 |
■ 「支店長」ガノン To:ヴァーン |
………ち。なんでオレの管轄はシケた奴ばっかなんだよ………(ぶつぶつ) あー、わかったよ。だが、あまり長くは待たないからな。 |
■ヴァーン TO:支店長 |
わ、わかった。そんじゃ、これで。 (と、頭を下げてから、早々に退散する。) |
ギルドを出て、酒場へ戻るヴァーン。さすがに、道すがら毒づかずにはいられ ない。口には出さないが―――
■ヴァーン |
(ったく、けったくそ悪い……くそチビ、いまにみてろよ……。) (これってのも、全部あの女のせいだ……くそ〜、やってらんねぇや、帰って飲みな おすか……。) |
と、数日前こっびどく振られたとある酒場の女のことが、思い浮かぶ。
金欠になるまで散々貢がされ、振られたのだ。およそいい想い出ではなかろう。
そして、今度こそ、夜は更けた………
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