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「トーレス商店」 |
ロゼルナが勢いよく扉を開けると、扉に取り付けてある鐘がかららんと軽やかな明るい音を立てた。
■ ロゼルナ To:シュゾ |
シュゾ、いま着いたよ! 裏口に荷下ろししといたから、あんたとこの若いもんに店ん中に入れとかせてくんなよ。 しかし、いやな天気だねえ。まったく、この雨ときたら、親の仇みたいに降るんだからさ。 |
そこそこの広さの店内は、散らかっているわけではもちろんないが、一分の隙もなく整然と片づいているというのでもなく、「心地よい雑然」とでもいうべき空気であった――訪れた客に、 いつまでもここにいたいと思わせるような。そんな雰囲気の店内には、衣類や保存用食品などをはじめとする日用品の数々が、所狭しと並べられている。 一見した限り、その品ぞろえは、オランの街の中程度の店とも遜色なさそうである。
さて、「シュゾ」と呼びかけられた店主は、40過ぎくらいの男性である。中肉中背で、短く刈りそろえられた淡い色合いの金髪をしている。 青緑色の瞳にロゼルナの姿をとらえると、穏やかに微笑んだ。
■ シュゾ To:ロゼルナ |
……ああ、あんたか。こんな雨の中、ご苦労さんだね。 |
このねぎらいの言葉に、ロゼルナ、なぜか不満げである。
■ ロゼルナ To:シュゾ |
「ああ、あんたか」って、シュゾ、お前さん、何か変なものでも食べたんじゃないかい!? あたしのご到着に、「ご苦労さんだね」もないもんだ。 それとも、ようやく改心したのかい? |
事情がつかめずにいるアフルとソフィティアに、ロゼルナが説明する。
■ ロゼルナ To:アフル&ソフィティア |
この男、あたしのこと「女オーガー」だなんて言いやがるのさ。で、いつも、あたしがここへ来るたんびに、「オーガーが出た、オーガーが出た!」って騒ぐんだよ、いい歳して。 いったい、どこにこんな器量よしの食人鬼がいるもんかね、アッハッハ♪ |
おばちゃん、怖いものなしである。
■ ソフィティア To:ロゼルナ |
オーガーっていうと、え〜っと。 |
残念ながらソフィティアの知識になかったようだが、アフルのほうはオーガーのことを知っていた。赤褐色の肌に丸太のような腕を持つ、狂暴な巨人である。
思わず軽くうなずいてしまった彼を、ロゼルナの明るい煉瓦色の瞳は見逃さない。
■ ロゼルナ To:アフル |
あんた、なに納得してんだよ! |
背中を軽く――ロゼルナとしては、だが――叩かれて、半妖精の青年は、二、三歩よろめいた。
■ アフル To:ロゼルナ |
え、いや、確かにって思っ……なんでもないです(^^;; |
こういうのを「眠れる獅子の尾を踏む」という。
幸い、「獅子」は目を覚まさなかった。あるいは、覚ましたものの、「獲物」に食指を動かされなかっただけなのかも知れないが……。
■ ロゼルナ To:シュゾ |
まあ、それはともかく、この人たち、あんたに聞きたいことがあるんだとさ。 ……ほら、いやらしい眼で見てないで、さっさと手ぬぐいでも持ってきてやんなよ。あたしにもだよ! |
シュゾは困ったような笑みを浮かべつつ、奥に消える。
しばらくして戻ってくると、持ってきた大きめの手ぬぐいを3枚、一同に手渡した。
■ シュゾ To:ALL |
どうぞ。 |
■ ソフィティア To:シュゾ |
どうも、有り難うございます。 |
お辞儀をしてから、手ぬぐいを受け取る。
■ アフル To:シュゾ |
あ、ありがとうございます。 |
それから少しの間、三人はぬれた身体を乾かすことに専念した。
ちなみに、雨合羽を脱いだロゼルナは、くせのある短い赤毛だった。ますますもって、「女オーガー」とのあだ名を納得させる風貌である……。
身体や荷物をあらかた拭き終え、アフルはシュゾに手ぬぐいを返した。
■ アフル To:シュゾ |
どうも、ありがとうございました。 ところで、最近この辺で女の子が行方不明になったとか、そういう変わった話を聞いたことないですか? |
■ シュゾ To:アフル |
さあ、そういう話は聞かないね。 「女オーガー」どのはどうかね? |
ロゼルナは苦笑する。
■ ロゼルナ To:アフル |
ちゃんと「ロゼルナ」ってお呼びよ、まったく、いまごろ思い出したみたいに。 あたしは、自分がそんな話聞いたことがないから、ここにこうして二人を連れてきたんじゃないか。このあたりで一番の情報通のあんたが知らない話を、 あたしが知ってるわけないだろ。それに、オーガーの脳みそはちっちゃくできてんだよ、アッハッハ♪ |
■ シュゾ To:ロゼルナ |
なるほど。 |
何に対して「なるほど」なのだろう……?
■ シュゾ To:ALL |
しかし、その話がもし本当のことなら、うちにも娘がいるから心配だね。 |
そのとき、正面入口の鐘が鳴って、一人の女性が入ってきた。ノエルである。
■ シュゾ To:ノエル |
いらっしゃい。 |
シュゾとロゼルナの会話をほのぼの聞いていたソフィティアは、突然のノエルの登場に一瞬ビクッとした。
■ ソフィティア To:ノエル |
あれ? ノエルどうしたの? |
■ アフル To:ノエル |
あれ、ノエル。どうしたの? |
二人の息、ぴったりである。ロゼルナのさきほどの見立て、あながち間違いでもないのか?
■ ノエル To:ソフィティア |
ちょっと事情が変わっちゃってね。ゆっくりしてもいられなくなったの。 |
■ アフル To:ノエル |
他の人は? |
■ ノエル To:アフル |
こちらにいるシュゾさんに用があって・・・ みんなむこうの酒場で待っているわ |
ノエルは、店主の男性にまなざしを向けた。
■ ノエル To:シュゾ |
あなたがシュゾさんですね。 急な話で申し訳ないのですけど、今すぐ隣の酒場まで来て下さい。 お嬢さんが・・・ミシャルカちゃんがいるんです。 ただ・・・あなたがご存じのミシャルカちゃんとは違ってしまっているかもしれませんが |
■ シュゾ To:ノエル |
はぁ……? |
シュゾは怪訝そうな顔である。
■ アフル To:ノエル |
え、どう言う事? シュゾさんがミシャルカちゃんの父親なのかい? |
■ ノエル To:アフル |
酒場の親父さんの話によると、だけどね。 でも親父さんだけじゃなくてロンさんってここで働いてる人たちも間違いないっていってるし、とにかく少しでも早く会ってもらった方がいいと思って。 |
■ ソフィティア To:ノエル |
え? ミシャルカちゃんってシュゾさんの娘さんだったんだ。どういう風に状況が変わったかは分らないけど、だったら直ぐ行った方が良さそうね。 みんなも待ってるみたいだし……。 |
■ ロゼルナ To:アフル&ノエル&ソフィティア |
なに言ってんだい、あんたたち? ミシャルカは確かにこの男の末っ子だよ。父親に似ず、お人形みたいにかわいい娘なんだから。 |
ちなみに、シュゾは客観的に見て、けっこう男前である。
■ ロゼルナ To:ノエル |
それより、隣の酒場にミシャルカが行ってて、何か問題なのかい? あそこのおやじは、髪はなくなっちまってるけど、変なやつじゃないよ? そもそも、あんたたち、ミシャルカとどういう関係なんだね? |
■ ノエル To:ロゼルナ |
酒場に行っているのが問題なんじゃなくて・・・ シュゾさんに来ていただけたらわかります。 |
彼らの話にあまり反応を見せないシュゾに、ロゼルナは少々いらだったように言った。
■ ロゼルナ To:シュゾ |
……まあいいさ、話はよく分かんないけど、とりあえず、シュゾ、あんたが行って来な。 ちょっとの間なら、あたしが店番しといてやるよ。「オーガーが店番してる」ってんで、客が驚いて帰っちまうかもしれないがね、アッハッハ♪ |
■ シュゾ To:ロゼルナ |
……じゃ、頼むかな。 |
カウンターの中にいたシュゾは、ロゼルナと位置を交替した。
■ シュゾ To:ノエル |
行こうか? |
■ ソフィティア To:ノエル |
私たちもシュゾさんとまだ何も話してないから、向こうに行ってから話しをしましょう。 |
■ ノエル To:ソフィティア |
あ・・・それじゃ、酒場で少し詳しく話したほうがいいかもしれないわね・・・ |
■ ソフィティア To:ロゼルナ |
ロゼルナさん、色々と有り難うございました。それではまた。 |
■ ロゼルナ To:ソフィティア |
なにかしこまった挨拶なんかしてるんだよ、ばかだね。こっちが照れるじゃないか。 |
ロゼルナは、カウンターの中から、にぃっと笑みを返した。
こうして、ロゼルナを除いた四人は、店の外に出た。相変わらずのひどい雨で、もう日が沈んでしまったのではと思わせるような薄闇が広がっている。
■ ソフィティア To:アフル |
アフル。シュゾさんがロゼルナさんの事、女オーガーって言ってたけど、オーガーって……どんなのかしら? なんとなくは分るような気はするんだけど(^^; |
小声でささやくソフィティアの顔は、苦笑混じりだ。それに答えるアフルも小声。激しい雨音にかき消されがちで、二人以外にはよく聞こえない。
■アフル To:ソフィティア |
多分、それで合ってると思うけど(^^;; オーガーってのは、凶暴な巨人だよ。 腕なんか丸太みたいに太いんだって。 後、赤っぽい皮膚をしてるそうだから、シュゾさんもそう呼んだんじゃないかなぁ。 |
■ソフィティア To:アフル |
ぷ(^^; でも、それってひど〜い。ロゼルナさん良い人じゃない。悪気が無いのはわかるけど、女性に言うかなぁ、普通。わたしだったら……怒るぞ(^^) |
■アフル To:ソフィティア |
そう言っても怒らないから言ってるんだと思うよ。 ほら、ロゼルナさん、なんかそういうとこ豪快…っていうか、おおらかそうだし。 |
含み笑いをかわす二人。いい感じになってきた……。
さて、酒場の扉の前でノエルは、シュゾの顔をしっかり見据え、噛み含めるように言った。
■ ノエル To:シュゾ |
あの・・・いきなり今のミシャルカちゃんを見て狼狽なさっても困ると思うのでこれだけは先に言っておきます。 ミシャルカちゃん・・・記憶喪失なんです。 |
■ シュゾ To:ノエル |
記憶喪失……。 |
■ ノエル To:シュゾ |
シュゾさんの顔を見てもなにもわからないかもしれません・・・ けど、なにか思い出すかもしれない・・・ だから、とにかく会ってあげて下さい。詳しいことはそれからお話しします。 |
■ シュゾ To:ノエル |
ああ、分かったよ。 |
四人は、扉を開けると、酒場の中に足を踏み入れた。
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