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「紅の河」亭 |
酒場の入口には、「『紅の河』亭」と書かれた看板がかかっている。
すっかりぬれそぼってしまった一行は、両耳の上を残してきれいに禿げあがった店主に出迎えられた。
■ おやじ To:一行 |
いらっしゃい! ……旅のお方だね? おやおや、すっかりずぶぬれにおなりで……。ま、この雨じゃ、仕方ありませんわのう。 こんなのでよかったら、使っておくんなさいまし。 |
そう言うと店主は、数枚の手ぬぐいをノエルに手渡した。
見渡すと、店内には3人ほどの男性客がいる。
■ ノエル To:おやじ |
ありがとうございます。 |
ノエルはほかの者たちに手ぬぐいを配っていく。手ぬぐいを受け取ると、各々は身体や大切な持ち物などを拭き始める。すっかり乾くとまではいかぬものの、 じっとりした重さと冷たさからはいくぶん解放されたようだ。
使い終わった手ぬぐいを回収すると、ノエルはそれらをたたんでからカウンターの店主に返した。
■ ノエル To:おやじ |
あの、できればみんなに温かいスープをいただけませんか? それから、もうすぐあと2人来ますから、来たら出来立てのを出してあげて下さい。 |
■ おやじ To:ノエル |
はい、ありがたいことで。少々お待ち下さいまし。 |
■ ノエル To:シルディア |
あ、スープが出てきたらみんなに配ってあげてね |
■ シルディア To:ノエル |
わかりましたわ。 |
ノエルは窓際に歩いていき、船着き場のほうを眺めた。見たところ、ソフィティアとアフルに小柄な人物を加えた三人は、船着き場の隣にある商店らしきところに連れ立って入っていきそうな様子である。
■ ノエル To:ひとりごと |
わるいことしちゃったなぁ・・・ |
いつの間にかノエルの後ろに来ていたア・トールは、そっと彼女の肩を抱いてやった。
■ アトール To:ノエル |
初めてリーダーやったんだし、いろいろあるよ。 悪いことしちゃったと思ったら、次から気をつければ良いんだしね。 |
■ ノエル To:ア・トール |
そうね。ありがと(^^) |
ノエルは、肩に置かれた手に自分の手をそっと重ね、ア・トールの顔を見上げると、小さく微笑んだ。
すると、何を思ったのか、ア・トールは唐突にくすくすと笑い出す。
■ アトール To:ノエル |
それに、案外あの組み合わせっていうのも面白いかもよ、いろいろとね(笑) さ、ノエルも雨で冷えてるだろ。とりあえず、暖かいスープで一息つこうぜ。 |
すっかり二人だけの世界に浸っている両人を見て、ウィードバルは少々あきれ顔だ。
■ ウィード To:アトール |
仲睦まじいのは結構だが、そういうのは個室でにしてくれ。(ーー;) とりあえず席について落ち着いて話そうぜ。 |
一言述べてから、彼は近くのテーブル席に歩いていって、腰を下ろした。
■ ウィード To:アトール |
暖かいスープでも飲みながら2人を待とうぜ。 全員揃ったら今後の予定を話しておこうな。(^^) |
ウィードバルの指摘に、ノエルは恥ずかしげに照れてみせた。
■ ノエル To:ウィードバル |
あの様子だと、二人とも帰ってくるのは遅くなりそうよ。 まぁ、その間ゆっくりさせてもらいましょう。 |
そう言って、表情もきまじめに取り繕ったものの、それが照れ隠しであることは、あまりに明白である。
そうした情景が繰り広げられるなか、店の主人は、出すべきスープの数を決めるために、テーブル席に腰掛けて一休みしている一同の人数を確認し始めた。
■ おやじ |
え〜、ひの、ふの、みの……!? |
動きがぴたりと止まり、それから、東方語で呼びかける。
■ おやじ To:ミシャルカ |
おや、ミシャルカじゃないか!? もう病気はよくなったのかい? |
主人は、カウンターから半ば身を乗り出すようにした。
ノエルは、一瞬主人のほうを振り返り、それからミシャルカの顔をのぞきこむ。少女は、突然自分の名前が呼ばれたことには注意を向けたが、 相変わらずの無表情だ。
■ おやじ |
いや、それより……。 |
ミシャルカの返事は待たずに、今度は共通語。
■ おやじ To:一行 |
なんであなた方が、この子と一緒にいらっしゃるんですかい!? |
主人の少々大きな声での問いかけに、3人の男性客も冒険者たちのほうに目を向けた。
ア・トールは主人の言葉に驚いて立ち上がると、反対に聞き返した。
■ アトール To:おやじ |
親父? この子のことを知ってるのか? |
隣に座るノエルは、まずア・トールの顔を見て、それから店主へと視線を送る。彼女も同じことを尋ねたいのだろう。
■ おやじ To:ア・トール |
知ってるも何も……。 |
まるでじらすかのような主人の返答に、たまらずノエルが続ける。
■ ノエル To:おやじ |
この子、数日前に街道でふらふらと歩いていたのをこちらにいるリーシェさんが保護されたんです。 |
■ おやじ To:ノエル |
ああ、そこにいらっしゃる大地母神の神官さまなら、存じ上げておりますわい。確か、数日前にも、こちらにご宿泊いただいたはずですから。 そのときとは、お連れの方々が違いなさるようですけども。 |
■ ノエル To:おやじ |
親御さんのところに返してあげたかったのですけど、ミシャルカちゃん記憶を失っていたので、その手がかりを探してこちらに伺ったのですが・・・ |
■ おやじ To:ノエル&男性(ロン) |
「親御さんのところに返す」って、お嬢さん、この子は、うちの向かいの「トーレス商店」とこの娘っこですよ。なあ、ロン? |
3人の男性客のうち、年長――それでも20代前半くらいだが――の一人が主人のあとを受ける。
■ ロン To:ノエル |
ああ、絶対間違いないっすよ。シュゾの旦那んとこの末娘のミシャルカちゃんです。この村の人間なら、間違えるわきゃないっす。 記憶を失ったとはねえ……。そりゃ、気の毒に……。 |
やおら、ロンは主人のほうに向き直った。
■ ロン To:おやじ |
しかし、おやじさん、記憶喪失ってのは、うつるんですかね? |
■ おやじ To:ロン |
なにバカなこと言ってるんだ。お前、もう酒が回ったのか? そんなもの、うつるわけがないだろう!? 本人目の前に、なんてことぬかしやがるんだ、 このばかたれが。 |
■ ロン To:おやじ |
いや、すんません。いつもながら、頭が回らねえもんで。 でも、おやじさん、シュゾの旦那は、「家族が病気で、お前たちに万一うつるといけないから、しばらく店の仕事の手伝いは休みにしてくれ」っておっしゃったんですよ? そうだよなあ? |
残りの2人の若い男性も、そろってうなずいている。
■ ノエル To:おやじ&客3人組 |
え・・・と・・・ おやじさん、ミシャルカちゃん病気だとか言っていましたよね。うつるといけないから・・・ということは、どこかの保養地で静養していたのかしら? おやじさんの驚きぶりからして、今の今までミシャルカちゃんが行方不明になっていたと知らなかったのでしょう? すぐ隣の家で病気の女の子が行方不明になったらいくらなんでも話は聞いているでしょうし・・・ |
ここまで話してから主人に近づき、声を抑え気味にして質問を続けるノエル。
■ ノエル To:おやじ |
おやじさん、その病気というのはなにだったんです? 病気にかかっていたのはミシャルカちゃんだけでしたか? |
■ おやじ To:ノエル |
そう一度にたくさんお尋ねになると、こちらのほうがわけ分からなくなってしまいますわい。 |
ノエルの矢継ぎ早の質問に、主人は困惑気味だ。
■ おやじ To:ノエル |
とりあえず、わしがシュゾから聞いて存じとりますのは、あいつの家族が4〜5日前、本人以外そろって病気にかかったということ、それだけでございます。
記憶喪失だ行方不明だの話は、たったいま聞いたばかりのことでして。 あまりたちのよくない病気だということで、見舞いも丁重に断られましたから、細君や嬢ちゃんたちの様子は分かりませんですな。そもそも、シュゾもそれ以来店にこもりがちで、 あまり様子が分からぬのですけれども。 |
■ ウィード To:ノエル&ALL |
家族が病気ねぇ…(・・) じゃあ、今のところはミシャルカが病気だとは限らないわけだ。 どっちにしろ、ミシャルカの父親に会えば分かるだろ。 |
ウィードバルは、ミシャルカのほうを見る。
■ ウィード |
(この娘が…病気…? 普通娘がいなくなったら心配して騒ぎになるはずだ。 それを隠したってことは…) |
■ ロン To:ノエル |
あの気さくで人当たりのいいシュゾの旦那があまり外に姿を見せなくなったんで、オレらはよほどご家族の具合が悪いのかと心配してたんすが……。 |
■ おやじ To:ロン |
仕事が急になくなっちまったからとはいえ、昼間っから酒かっくらってるような野郎のセリフとも思えないがね。 |
主人の痛烈な皮肉に、そろってばつの悪そうな顔をする三人の若者たち。
■ おやじ To:ノエル |
ともかく、これ以上の話は、シュゾ本人に会ってお確かめになるのが一番でございましょうよ。わしにも、分からぬことだらけです。 |
それまで黙って話を聞いていたリーシェが、口を開いた。
■ リーシェ To:ALL |
わたしも、ご主人のおっしゃるように、ここはそのシュゾさんという方に会って、お話をうかがってみるのがよいかと思いますが……。 |
■ ノエル To:リーシェ&ALL |
そうね・・・直接話したほうが早そうだし、私たちもお店のほうに行きましょうか。 |
■ アトール To:リーシェ&ALL |
事情はどうあれ、とりあえず親元には無事届けられそうだな。 全然手がかり無し、って言う最悪の事態だけは避けられそうだな。とりあえずは良かったじゃないか、リーシェ。 まあ、記憶喪失といい、病気の話といい、届けて「はい、おしまい」じゃ済まなそうだけどな(^^;; |
気がせくのか、さっさと戸口に行きかけたノエルは、あることを思い出してふと立ち止まった。
■ ノエル To:おやじ |
ごめんなさい、こんな話になると思っていなかったものだから・・・ スープはまた今度にして下さいね。 |
■ アトール To:ノエル |
なあ、ノエル。そのスープの一杯ぐらいは飲んでいこうぜ。 目的地は目の前で、逃げることもないどろうし、もしかしたら先に行った2人が店からシュゾを連れてきてくれるかもしれないしな。 ミシャルカもずぶぬれで冷え切ってるんだし、そのスープを飲んで暖まるぐらいの時間的余裕はあるだろ? |
しかし、ノエルはそのア・トールの制止を振り切った。
■ ノエル To:アトール |
じゃぁ、ミシャルカちゃんとこっちで休んでいて 私はそのシュゾって人連れてくるから。 |
言い残して、一人で出ていってしまう……。
■ アトール To:ノエル |
あ、おい・・・って、行っちゃった(^^;;; すっかり自分がリーダーだって忘れているな、あいつは(笑) |
■ シルディア To:アトール |
行ってしまわれましたわね…。 |
こういうのは、周りの人間のほうがひやりとするものである。
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