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「紅の河」亭 |
ノエルが一人で出ていってしまい、気まずいような落ち着かないような空気が流れ始めたそのとき、テーブルに注文のスープが運ばれてきた。 たっぷりの根菜類と羊の肉の入ったそれは、穏やかな湯気とうまそうな香りを立ちのぼらせている。じっくり煮込まれた肉は、軽くつついただけでふわりと崩れ落ちそうだ。
■ おやじ To:ALL |
うちの自慢のスープでして。身体、暖まりますよ。 |
その香りに、三人組も若い食欲を刺激されたらしい。
■ ロン To:おやじ |
おやじさん、オレらにもそのスープもらえる? |
■ おやじ To:ロン |
あいよ。 |
彼らの注文を受けつつ、主人は店内の数か所の角灯に火を入れていく。あいにくの天気のせいで、昼間にしてなお薄暗かった店の中が、淡くあたたかな色の光で照らされた。
さて、道を挟んだ向かいにある「トーレス商店」に入っていくノエルの姿を見ながら、金髪の魔術師はつぶやいた。
■ ウィード To:アトール |
………即断即決なお姫様だな。 |
そして、ア・トールのほうに向き直る。
■ ウィード To:アトール |
こういう時は真っ先に追いかけなくちゃだめだろ。 ん?どうした? ちょっと呆れ顔だな……。^^; ハハハ…王子様も楽じゃない、ってやつか?(ーー;) 俺は冷めないうちにスープを頂ておくから、ま、がんばってくれ。 |
■ アトール To:ウィード |
まあ、少なくとも今の段階では、あまりリーダーには向いていないかもしれないな(^^;;; 今回初めてリーダーになったんだし、大目に見てくれや(笑) さ、スープで体を暖めようぜ。 それこそ、ノエルも行ったのならそのうちシュゾとやらをここに連れて来るだろうし。 |
■ シルディア To:おやじ&アトール |
まぁ、とてもおいしそう(^。^) …ノエル達を待っていようと思っていましたけれど‥、お言葉に甘えて先に頂きますわ。 |
どうやらシルディアは、スープのよい香りに我慢できなくなったようである。
それから少しの間、一同は温かいスープを飲んで一息つくことになる。身体の芯からじんわりと暖まってくるのが感じられる。
■ アトール To:リーシェ |
ところでリーシェ? ミシャルカを見つける前に、この村に寄ったんだろ? なんで、前のパーティで最初に探した時に、この村まで戻ってこなかったんだ? 前日に寄ったんだったら、最初にここに親がいそうだって普通は疑わないか? |
ア・トールの問いかけに、リーシェはやんわりと反論する。
■ リーシェ To:ア・トール |
このあたりには、このコスメル村のほかにもいくつもの村があるんですよ? それを一つ一つ調べていくのには、手間はともかく、時間がかかります。 この子を保護したのは、期限付きの仕事を終えてオランの街に戻る途中のことでした。つまり、このあたりでこの子の身元を調査しているうちに、 期日超過で報酬を受け取れなくなる恐れがあったのです。ですから、まずはオランの街で仕事の報酬をいただいて、それからこの子の力になってやるべきだと考えたのです。 もっとも、この子の力に、と考えていたのは、実際にはわたしだけだったというわけですが……。 |
リーシェは、寂しげな笑顔を浮かべた。
■ アトール To:リーシェ |
つくづく、メンバーに恵まれていなかったんだな?(^^; パーティー選ぶときはその人の能力も重要だけど、人を見る目も養った方が良いぞ?(^^;;; |
さしものリーシェもたまらず、彼に向かって何かを言おうとしたそのとき、酒場の扉が開き、そして事件は起きた。
■ ミシャルカ |
あぁ……! |
■ リーシェ To:ミシャルカ |
どうしたの、ミシャルカ!? |
ミシャルカは、はっきりとした恐怖の表情を浮かべ、酒場の中に入ってきた四人から少しでも遠ざかろうと、椅子の上でじりじりともがいている。 ミシャルカの動きにテーブルが揺れ、皿の中のスープが波立ったりこぼれたりする。
四人のうちの中年男性が一人、ミシャルカに近寄ってくると、少女の表情はさらに激しく歪んだ。
■ シュゾ To:ミシャルカ |
ミシャルカ、どうしたんだ? |
■ ミシャルカ To:シュゾ |
……ひぃっ!! |
絶叫を残し、ついにミシャルカは昏倒した。椅子から落ちぬよう、あわててリーシェが少女の身体を支える。
■ シュゾ To:ALL |
どうも申しわけない。この子がみなさんにとんだご迷惑をおかけしたようで。 |
気を失ったミシャルカが腰掛ける椅子の後ろに歩み寄ると、シュゾは少女の身体をひょいと抱き上げた。その表情は、不思議なくらい冷静に見える。
■ シュゾ To:ALL |
では、これで。 |
そして、酒場の出入口へと向かおうとする。
■ ノエル To:シュゾ |
あ・・・そう急がないで下さい。 |
ノエルは言うと、シュゾの行く手をさえぎる。
■ シュゾ To:ノエル |
は? なに? |
立ちはだかった小さな女性の行動に、シュゾは驚くというより不思議そうな顔をする。
■ ノエル To:シュゾ |
ほら、私たちがミシャルカちゃんを見つけた経過も知りたいでしょうし、私たちもミシャルカちゃんのこといろいろと知りたいんです。 とりあえず、ここで落ち着いてお話しませんか? |
■ シュゾ To:ノエル |
長居して、あまり店を空けておくのはいやなんだがね。 |
■ ノエル To:シュゾ |
ミシャルカちゃんを抱えていたのでは大変でしょうから、親父さんに頼んでベッドを一つ借りましょう(^^) |
■ シュゾ To:ノエル |
いや、このままでかまわないさ。どのみち、腕がなまるまで長話するつもりはないからな。 |
■ ソフィティア To:シュゾ |
ちょっと待って。シュゾさん。 |
最も近くの席、カウンターの端の椅子に腰を下ろそうとしたシュゾの肩を、そばにいたソフィティアがぐっとつかんだ。そして、そのまま肩を押して、 一行のテーブル席の前へと連れてゆく。ついさきほどまでとはうって変わり、彼女の表情は硬い。
■ シュゾ To:ソフィティア |
なんだよ、いったい? |
■ ソフィティア To:シュゾ |
こんな小さな娘(こ)が、成り行きとはいえ、オランまで何も告げずに行っていたんですよ。何日間も。それを「どうも申しわけない。この子がみなさんにとんだご迷惑をおかけしたようで。」で、 終わりなの? 心配はしてなかったって言うの? |
■ シュゾ To:ソフィティア |
子供がいなくなって、心配しない親がどこにいるんだ? あんたみたいな年端もいかない娘には分からんだろうがね。 ……それとも、もっときちんと礼をしろとでも言うわけか? |
一触即発の緊迫した雰囲気の中、いつまでも出入口の前でたたずんでいるアフルに、主人が軽く注意を与える。
■ おやじ To:アフル |
そこのお方、誠に恐れ入りますが、扉の前、空けといていただけませんでしょうか? |
■ アフル To:おやじ |
あ、すみません。 |
アフルは、扉の前から少し離れ、ミシャルカを腕に抱きかかえたまま一行のテーブル席の前に立つシュゾと出入口とを結んだ線上の中間付近に立った。 要するに、シュゾが出ていこうとしたら、それを邪魔したいということなのだろう。
ソフィティアはといえば、だいぶ頭に血が上っているようである。
■ ソフィティア To:酒場の客&おやじ |
シュゾさんって、いつもこんなに淡々としてるんですか? 自分の子供が何も告げずに、何日も家に帰ってこなかったっていうのに……。 |
主人と男性客たちのほうを振り返って尋ねる表情には、シュゾの言動がちょっと信じられないという色がありありだ。
一方、ソフィティアの言葉を受けた彼らも、互いに顔を見合わせて、しきりに怪訝そうな素振りを見せている。本人の目の前では口にしにくいものの、 どうやら彼らも、シュゾの振る舞いにはかなりの違和感を覚えているようだ。
■ アフル To:ソフィー |
まあまあ、もうちょっと落ちついたら? |
興奮気味のソフィティアを、アフルがなだめた。
シュゾのほうは、彼の近くに着席したノエルが落ち着かせようとする。
■ ノエル To:シュゾ |
ほら、とりあえず温かいスープでも飲みながら・・・ |
■ シュゾ To:ノエル |
あ、オレはけっこう。 |
■ ノエル To:アフル&ソフィティア |
あなたたちもスープ頂いたら? おごるわよ(^^) |
■ ソフィティア To:ノエル |
うれしいけど、今はそれどころじゃないから、遠慮しておくわ。 |
この状況で落ち着けというほうが無理かも知れない……。
■ アフル To:ノエル |
俺もいいよ。 |
■ シュゾ To:ノエル |
さて、いったい何をしゃべればいいんだね? 聞きたいことがあるのなら、手短に頼むよ。 |
■ アトール To:シュゾ |
おい、「聞きたいことがあるなら・・・」、じゃないだろ! こっちにいる、リーシェさんはそのミシャルカが一人で道をさまよっているのを、わざわざ保護してここまで届けてくれたんだぞ! そっちこそ、もっと何か言うことはないのか? |
低く、怒りのこもったア・トールの口調にも、シュゾは動じる様子はない。ただ、いらだちは隠し切れぬようだ。
■ シュゾ To:ア・トール |
娘のことについては、礼を言う。感謝している。 しかし、それ以外に、オレは何をあんた方に話すべきだというのかね? 言っておくが、この子が記憶を失ったというのは、ついさっき初めて聞いたことで、 オレにも全く分からん話だぞ。 |
■ アトール To:シュゾ |
こんな小さな子が街道を一人で歩いていたんだ。 リーシェさんが助けてくれなきゃ、へたすりゃ命を落としていたんだぞ。 ミシャルカがどうして街道を一人で歩かなきゃならなくなったか、説明してくれるのが筋だろう? それとも、まさか言えないような酷いことでもしたのか? だいたい話しぶりからすると、娘が今までいなかった事に気づかなかったみたいじゃないか! |
■ シュゾ To:ア・トール |
キミは、すいぶん言いたい放題言う男だな。 申しわけないが、この子がどうしていなくなったのか、いなくなった間どこでどうしていたのか、こちらがあんた方に聞きたいくらいだね。 |
その顔には、冷笑さえ浮かべている。
シュゾの態度に閉口気味のア・トールに代わり、これまで沈黙を守っていたシルディアが口を開く。
■ シルディア To:シュゾ |
私も少しお聞きしてもよろしいかしら? ミシャルカちゃんが行方不明になった理由も気になりますけれど、それよりも私は、シュゾさんと対面した時の彼女の反応の方をお聞きしたいですわ。 あなたの姿を見た時の彼女の様子は明らかに怖がっていたように思います。‥記憶を失っていて父親であることが分からない、という時に取る態度のようには思えませんでしたし、 彼女が何かの病気に掛かっているとしてもシュゾさんにだけあのように顕著な反応を見せるというのもおかしいですわよね。 …この点について、シュゾさんに何かお心当たりはございますか? |
■ シュゾ To:シルディア |
さあね、オレは病気のせいで頭が混乱でもしているのじゃないかと思うがね。医者じゃないから、そんなこと聞かれても、よく分からんよ。 |
続いて、ノエルの質問。
■ ノエル To:シュゾ |
失礼ですが・・・ ミシャルカちゃんのことはどのように探していらっしゃったのでしょうか。 |
■ シュゾ To:ノエル |
探したくても、探せなかったんだよ。オレ以外、家族そろって病気にかかっちまって、家を空けるわけにはいかなかったんだ。 |
■ ノエル To:シュゾ |
おやじさんやロンさんたちには、家族のものが病気だとおっしゃっていたようですね。 いったいどんな病気だったのですか? 伝染するような病気だとも聞きました。 お医者様には診てもらったのですか? |
■ シュゾ To:ノエル |
知らない。突然寝込んで、起きあがれなくなっちまったんだ。医者には診てもらってない。 |
ぶっきらぼうな返答。しかし、その表情に、わずかだが動揺の色が浮かんだ。そこをノエルがたたみかける。
■ ノエル To:シュゾ |
聞けばこちらにいるおやじさんもロンさんたちもミシャルカちゃんが行方不明とはご存じないようでした。 それに、お店でもロゼルナさんが「ミシャルカちゃんが酒場にいて悪いことでもあるのか」って言ってましたね。まるでついさっき隣のおじちゃんの家に出かけたばかりだとでもいうように。 ミシャルカちゃんが病気だということ、知らないようでした。 急にいなくなって心配していらっしゃったのなら、なぜ言わなかったのですか? みんな一緒に探してくれたでしょうに |
■ シュゾ To:ノエル |
……「自分の子供がいなくなったから探してくれ」なんて、他人に頼めるかよ。 |
■ ロン To:シュゾ |
「他人」だなんて、何を水くさいこと言ってるんすか、旦那。そういうことなら、オレらに言ってくれれば、バリバリやりましたのに。 |
■ シュゾ To:ロン |
うるせえ! お前は黙ってろ! |
シュゾの一喝に、ロンはびくっと首をすくめた。
■ おやじ To:シュゾ |
「うるせえ!」って、お前、いくらなんでも、その言い方はないだろう? 謝ったらどうだ? |
しかし、主人の言葉にシュゾが耳を貸すふうはない。
■ おやじ To:シュゾ |
おい、シュゾ、お前少し変だぞ? 看病疲れか? |
■ シュゾ To:おやじ |
……。 |
■ アトール To:シュゾ |
なんか、お前さんの受け答えを聞いてると、シュゾとやらと別人と思われてもしょうがないぞ。 病気になったのはあんた以外の家族で、あんあたは別に記憶喪失でも何でもないんだろ? ちょっと、ここの3人の名前を言ってみろよ。 |
ア・トールは、カウンター席に座るロンたち三人を指差す。しかし、シュゾはうつむいて押し黙ったままだ。
■ ロン To:シュゾ |
だ、旦那? オレらの名前、分からないんですか? まさか、旦那も記憶喪失……? |
■ おやじ To:ロン |
ロン、さっき記憶喪失はうつりゃしないって言っただろ! |
ア・トールがダメを押す。
■ アトール To:シュゾ |
なんなら、家族構成も言ってもらうか? ミシャルカと自分の名前しか言えないって事は無いだろうな? |
これにもシュゾは答えない。
主人は、こわばるシュゾの横顔をじっと見つめてから、つぶやいた。
■ おやじ To:シュゾ |
お前さん、いったい何者なんだ!? |
主人の言葉に、ゆっくりと頭をもたげたシュゾの顔には、邪悪な笑みがはりついている!
■ 「シュゾ」 To:ALL |
……それほど知りたければ、教えてやる! |
叫ぶやいなや、「シュゾ」は、抱きかかえていたミシャルカをテーブルの上に放り出した。並んでいた食器が勢いよく踊り、いくつかは床に落ちてガシャリと壊れる。
一瞬あっけにとられる一同の前で、「シュゾ」は自分本来のかたち、異形の怪物の姿へと変貌した!
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