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オランの街 |
夜空にそびえ立つ魔術師ギルド、通称「賢者の学院」の黒大理石造りの建物は、月明かりに照らされて、冷たい輝きを放っている。
入口で身分照会を済ませたウィードバルは、さっそくバイナルの研究室に向かおうとした。と、当のバイナルが図書室から一階の大広間に出てくるところではないか。 調べものでもしていたのであろうか? ともかく、これで長い階段を延々とのぼる手間と苦労が省けたというものである。
ウィードバルは、壮年の賢者に声をかけた。
■ ウィード To:バイナル |
あ、久しぶりだな、おっちゃん。 相変わらず1人身か? ヘ(ё)ヘ |
■ バイナル To:ウィードバル |
ずいぶんな挨拶だな、ウィードバル……だったな? |
表情からして、図星のようだ。
■ ウィード To:バイナル |
はは、流してくれ。そうそう聞きたいことがあるんだ。 |
■ バイナル To:ウィードバル |
なにかな? 私の答えられるようなことだとよいが。 |
■ ウィード To:バイナル |
最近、なんか怪しい噂なんか聞かないかな? 魔術が絡んでいそうな事件とかさー。 例えば、突然記憶を失ってしまった人の話なんてない? |
■ バイナル To:ウィードバル |
怪しい噂……? さあなぁ。 何しろ、このごろは研究室にこもることが、いつもにまして多くてな。おかげで、市井の噂には全く疎いのだよ。 |
研究一筋のバイナルに、巷の噂や事件のことを尋ねるのは、少々無理があったようだ。
■ バイナル To:ウィードバル |
突然記憶を失ってしまった人の話というのも聞かないな。 少なくとも、学院の導師や賢者の間で、最近そういう話題がのぼったことはないはずだが。 |
■ ウィード To:バイナル |
ふ〜ん、そっか。特に怪しい話はないんだな。 時間取らせたな、サンキュ、おっちゃん。(^^) 早いとこ相手見つけろよ! |
■ バイナル To:ウィードバル |
私のことより、自分のことを心配したらどうなんだ? |
客観的に判断して、これほど聞く者の心に訴えかけない捨てゼリフも珍しい……。
ウィードバルはバイナルと別れ、大広間を横切ると図書室に向かった。閉室時刻が近いためか、人の姿はまばらだ。
ウィードバルはまず、少女の「ミシャルカ」という名前について、何か特別な意味や由来があるのかどうかを調べてみる。しかし、「それは固有名詞としては何ら特別なものではなく、 ありふれているというほどではないが、女性の名前としては普通のものだ」ということが明らかになっただけだった。なお、この調査結果については、 ウィードバルは絶対の自信を持つことができた。
次に彼は、記憶を喪失させるような呪文その他はないかどうか調べてみた。その結果分かったのは、「人間やエルフには扱えないが、初級の精霊魔法の中に、 短い持続時間ながら、記憶を失わせる<忘却>という呪文があり、『勇者グラックスの悲劇』は有名である」ということと、「肉体的あるいは精神的に非常に強い衝撃を受けたとき、 一時的ないし永久的に記憶を喪失する場合がある」ということだった。
酒場で噂話を仕入れてくることになったアフルだが、そのついでに自分の用事も済ませてしまうことにした。ちょうど酒場への道の途中にある武器屋で、 以前注文しておいた高品質の長槍を受け取ろうというのである。
店主が名物のロック=エーテンの店は、閉店間際だ。
■ アフル To:ロック=エーテン |
エーテンさん、頼んでたロングスピア届いてる? |
■ ロック To:アフル |
これはこれは、アフルさん、いらっしゃいませ。 えーと、注文のお品は最高品質の長槍でしたね? もちろん届いておりますよ。 |
兄の受け答えを聞いて、妹のピティが奥へ品物を取りに行く。
ほどなくして戻ってきた彼女は、ロックにすばらしい出来映えの長槍を手渡した。
■ ロック To:アフル |
こちらになります。どうぞ、お手にとってお確かめ下さい。 |
アフルはロックから長槍を受け取ると、握り具合を確かめたり、数回突きの構えをしたりする。
■ ロック To:アフル |
見事な仕上がりでございましょう? うちにそろえた品物はどれも最高の出来と自負しておりますが、最近は特に、槍には力を注いでいるのですよ。 槍は剣や斧に比べて敬遠なさる冒険者の方が多いのですが、決して武器としてそれらに劣るものではありません。 そもそも槍は安価なうえ、武器の扱いに不慣れな方でも力を発揮しやすくできており……、 |
■ ピティ To:ロック |
お兄ちゃんっ! |
さっそく始まったロックの「暴走」に、ピティが歯止めをかけた。
■ ピティ To:アフル |
お客さま、お具合はいかがですか? |
■ アフル To:ピティ |
うん、使いやすいよ、ありがとう。 それで、こっちの古いのはもう使わないから下取りして欲しいんだけど・・・。 |
アフルは、これまで使ってきた長槍を、しゃべり足りなそうにしているロックに差し出した。
■ ロック To:アフル |
うーむ、実に丁寧に使っていただけたようですね。武器屋冥利に尽きるというものです。 ではこちらは、70ガメルでお引き取りいたしましょう。 |
アフルは、ピティから銀貨70枚を受け取ると、武器屋をあとにした。
■ ロック&ピティ To:アフル |
またのお越しをお待ちしております! |
さて、「賢者の学院」でウィードバルがバイナルと話をしているちょうどそのころ、アフルは、彼行きつけのとある酒場に到着した。
彼は、吟遊詩人としてこの場所で歌声を披露し、稼ぎを生活の糧の少なからぬ足しにすることもしばしばなのである。
アフルは、顔なじみの白髪の店主に声をかけた。
■ アフル To:酒場のマスター |
マスター、久しぶり。 ところで、最近オランの中か周辺とかで、行方不明になった女の子の話って聞いた事ない? |
■ マスター To:アフル |
なんじゃ、アフル、今日はいきなり物騒な話じゃな。 話の前に、一杯どうじゃ? |
■ アフル To:マスター |
あ、ありがと…。 これ、おごりって事は…、やっぱりないよね(^^;; |
■ マスター To:アフル |
ない(笑)。……まあ、まけといてやるよ。 で、質問のほうじゃが……、 |
主人は、アフルに葡萄酒の入った酒杯を差し出しながら答える。
■ マスター To:アフル |
このオランで誰かが行方不明になったなどという話は聞かんのう。 ま、大金持ちの若くてきれいなご令嬢でもなければ、行方知れずになったからといって、こんな場末の酒場で噂になることもなかろうがな。 だいたい、そういう話には、アフル、そなたのような冒険者たちのほうが詳しいのではないのかな? |
■ アフル To:マスター |
そりゃ、そうなんだけどね(^^;; ま、一応聞いてみただけだし、知らないなら、仕方ないか。 |
それでは、と、アフルは質問を変える。
■ アフル To:マスター |
あ、後、「河沿いの街道」沿いにどれぐらい村があるか知ってる? 今度そっちの方に行く事になりそうなんだけど、村があんまりないようなら、保存食いっぱい持っていかなきゃ行けないし。 |
■ マスター To:アフル |
「河沿いの街道」? ほう、今度の仕事はそっちのほうなのか。 街道上にある村の数は5か6、くらいじゃったと思うが。だいたい2日おきくらいに村があるはずだから、こまめに買い足すことにするなら、 保存食を山ほど抱えていく必要はないはずじゃよ。 |
ふむふむとアフルが主人の話にうなずいているちょうどそのとき、店の外に女性が一人立った。むろん、店内からまだその姿は見えない。
■ ソフィティア To:独り言 |
さてと、とりあえず無事に着けたようね。いきなり迷子っていうもの情けないし(^^; さて、お仕事お仕事っと。 |
ソフィティアは「『踊る白ウサギ』亭」との看板がかけられた酒場の扉を押し開けると、カウンターへとまっすぐ進んでくる。
一方、アフルはといえば、情報収集は終わりにして一稼ぎするつもりらしい。
■ アフル To:マスター |
それじゃ、久しぶりに歌わせてもらおっかな。 |
リュートを取り出す彼の隣の席に、ソフィティアが、そうと気づかぬままに腰掛けた。
■ ソフィティア To:マスター |
マスター、とりあえずエールを一杯もらえるかしら? |
主人のほうに首を向けたソフィティアの視界の中に、見知った顔の半妖精の姿が飛び込んだ。
■ ソフィティア To:心の中 |
あら? アフルもここにきてたんだ。ミスったかなぁ、アフルとは別の酒場に行こうと思ってたのに(^^; リュートを取り出してるってことはもう情報収集は終わっちゃったかしら? 気が付かないようだったら後で声かける……か。 |
■ マスター To:ソフィティア |
お前さん、ここらじゃ見ない顔じゃね。 |
麦酒の入った酒杯が、静かに彼女の目の前に置かれた。
■ ソフィティア To:マスター |
ありがとぉ。 実は最近この町に来たばっかりなのよ。一時、この町を中心にするつもりだから今後ともよろしくね。
ところで、エストン山の麓とここを繋ぐ「河沿いの街道」っていうのがあるんでしょ? 今の依頼でそっちの方に行かないとならないんだけど、
街道の途中にどんな町や村があるのか教えてくれないかしら? |
■ マスター To:ソフィティア |
なに? ちょっと待ってくれ。さっき、この男からも同じようなことを聞かれたんじゃ。 |
今まさにリュートをかき鳴らし始めようとしているアフルに、おやじが待ったをかけた。
■ マスター To:アフル |
おい、アフル、この女の方と、お前さん、知り合いかなんかじゃないのかね? |
■ アフル To:ソフィティア |
え、あれ、ソフィティア、どうしてここに? 情報集めに来たの? |
■ ソフィティア To:アフル |
あらら、アフルとは別の酒場で情報仕入れてこようと思ってたんだけど見事に重なっちゃったみたいね(^^; |
■ アフル To:マスター |
村だったら、2日おきぐらいにあるからそんなに保存食を買い込む必要はないってさ。 |
仕入れた情報を、さっそく披露するアフル。さぼってたわけじゃないと言いたいのかも知れない。
■ アフル To:マスター |
そうだろ、マスター。 あ、こっちはソフィティアって言って、今度一緒に依頼を受ける事になったんだ。 |
■ ソフィティア To:マスター |
と、言うことなの。よろしく |
ソフィティアは、麦酒の酒杯を掲げて挨拶した。
■ マスター To:ソフィティア |
なるほどな。アフル同様、この店をひいきにしてくれるとうれしいのう。 で、行方不明のほうの話じゃが、さっきアフルにも申したんじゃが、「河沿いの街道」やこのオランの街の周辺で行方知れずがあったというような噂は、 少なくともわしの耳には入っとらんよ。お役に立てんですまんけどもな。 |
■ ソフィティア To:アフル |
マスターの返事を聞いたら、どうやらわたしが聞きたかった事も聞いちゃったみたいだし、もうここには用は無くなっちゃったわね。 |
ちょっとがっかりしているようにも見える。
■ アフル To:ソフィティア |
で、とりあえず、聞く事は聞いたから、歌でも歌ってよっかな…って思ったんだけど…(^^;; |
■ ソフィティア To:アフル |
道理で楽器を取り出してるわけだ(^^; じゃぁ、わたしはミシャルカの事もあるし、先に帰ってるわね。それじゃ、また。 |
ソフィティアは、ぐいと麦酒を飲み干すと、代金をカウンターに置き、さっさと店を出ていった。その素早さに、しばしあっけにとられる主人とアフル。
やがてアフルは気を取り直すと、愛用のリュートを構えた。演奏開始である。
■ アフル To:酒場の聴衆 |
♪昔々、混沌の大地から妖魔の大群が攻めて来た〜♪ ♪国々は敗れ国土は荒廃し、人々は英雄の登場を待ち望んでいた〜♪ ♪そこに表れたるは、一人のダークエルフと一匹のペガサスを従えた英雄〜♪ ♪その名も高きグラックス〜♪ |
アフルの歌と演奏は、こののち延々と続き、それによって彼は、そこそこの稼ぎを得ることとなった。
ここ「常闇通り」が活気づいてくるのは、やはり陽が沈んだのちである。
少数のまっとうな店が次々と店じまいし始めるのと入れ替わるように、いかがわしい酒場や宿屋がいそいそと開店の準備に取りかかり、堅気な人間の姿はぐっと減るにもかかわらず、 人通りそのものは徐々に増えてゆく。そのにぎわいには、さわやかな陽気さというものが徹底的に欠けている一方、ねばつくような欲望の成分については、明らかに過剰気味だった。
ア・トールは、まとわりついてくる袖引きたちを適当にあしらいながら通りを進み、一軒なんの変哲もないある酒場に入っていった。素人には全く分からないが、 その建物こそが、オランの街の盗賊ギルドなのであった。
ミストラル、人呼んで「暴風の」ミスティは、カウンターでなにやら作業をしていたが、気配を感じて顔を上げる。
■アトール To:ミスティ |
ちわ〜す、ミスティ姉さん。 お、なんか作業中だったかな? |
■ミスティ To:アトール |
ご無沙汰だったじゃないか。 ここに来るのは久しぶりってとこだねぇ。 |
笑って迎えたミスティの手許には、あまり高価でもなさそうな首飾りが鈍く光っている。
■アトール To:ミスティ |
何かの小道具か、それ? |
■ミスティ To:アトール |
…小道具ねぇ。そう見えるかい? まいったね、これはそんなんじゃないさ。(苦笑) お気に入りの一つなんだけどねぇ〜 |
溜息の一つでもつきたそうな表情だ。
■ミスティ To:アトール |
さっき壊れた留め金を直している最中なんだよ。 |
ミスティは、華奢な肩をすくめた。
■アトール To:ミスティ |
わりぃ、わりぃ。俺、そういうアクセサリーって、うとくてさ(笑) でも、そういう飾りで引き立てるのも重要かもしれないけど、やっぱ女性自身が持つ魅力にはかなわないよ。 もちろんミスティ姉さんもね。 |
■ミスティ To:アトール |
あっはは、世辞を言うようになったねぇ。 いい娘でもできたかい。 でも、あんたのいい娘には、「も」なんて言うんじゃないよ♪ |
にぃと唇を上げて艶っぽく笑ってみせる。
一方、ア・トールは、鼻の頭をかきながら、苦笑いである。
■アトール To:ミスティ |
わかってて聞くもんなぁ、姉さんは(^^;; |
■ミスティ To:アトール |
で、この姉さんにどんな商売を持ってきたんだい? ま、買う場合はどんなのだって、まずはこれを出してもらわないとねぇ(笑) |
そう言うと彼女は、指で○を作ってみせた。
■アトール To:ミスティ |
いや、折り入って姉さんにお願いがあってきたんだ。 実は、今、依頼というより、ちょっと人助けに近いことをやっているんだけど、あんまり金銭的余裕が無いんだ(^^; 姉さんを見込んでお願いするから、安く情報を教えてくれないか? |
と言って、ア・トールは、とりあえず100ガメルを取り出して半分に分け、片方の50ガメルを差し出した。ミスティは、それを受け取る。
■ミスティ To:アトール |
く〜ぅ、人助けねぇ。いい仕事してるみたいじゃないか。 だけどそれはそれ、これはこれだからねぇ…。 ま、いろいろ勉強はさせてもらうよ。 |
ミスティは薄笑いを浮かべると、片目をつぶった。
■アトール To:ミスティ |
で、今やってる仕事というのが、ある女の子の身元調査なんだよ。 それがどうもいわく付きで、一昨日「河沿いの街道」を通って街の方角に向かって、一人で歩いていたらしくてな、しかも全ての記憶を失ってるときてる。 その子の身に着けていた木綿のワンピースの裾に、東方語の綴りで「ミシャルカ」との縫い込みがされていたらしんで、どうもそれが名前らしいんだけど。
まあ、そんな女の子が一人で街道沿いを歩いていて、しかも記憶を失ってしまってるなんてただごとじゃないのは確かだと思うんだ。 |
■ミスティ To:アトール |
ふぅん。………「河沿いの街道」ねぇ。 |
言ったきり、しばらく視線をさまよわせている。
■ミスティ To:アトール |
「ミシャルカ」って子、記憶喪失かい。よっぽどの事があったのかねぇ…。 |
今度は、やれやれといった感じで首を振るミスティ。
■ミスティ To:アトール |
そういった事が起こるようなものは、今のとこないよ。悪いね。 4、5日あれば詳しいものが渡せるだろうけど…高くなるしねぇ。 |
ミスティは、「どうする?」というふうに、目の前の黒髪の盗賊を上目遣いに見やった。
■アトール To:ミスティ |
うーん。どうしようかなぁ。 一応、俺らのパーティーで明日から「河沿いの街道」を遡ってみようとは思ってるんだ。 行って帰ってくるのに3日ぐらいの行程だと思うんだけど。 その街道沿いって、村とか集落はあるのか? |
■ミスティ To:アトール |
そうだね。それはあるだろうねぇ。 |
思わせぶりな物言いに、トントンとカウンターを指で叩く仕草。情報料の上乗せを要求する合図である。
■アトール To:ミスティ |
はいはい、厳しいなぁ(笑) 最初の50ガメルじゃ「今は何もわからない」って言う情報しかくれてないじゃん。 あわせて100ガメルも払ったんだから、ただ何処にどういう街があるって言うだけじゃなく、ミスティ姉さんとっておきの情報も付けてよ(笑) |
ア・トールは笑いながら念押ししつつ、先ほど分けて残った50ガメルを全て差し出した。
■ミスティ To:アトール |
おやおや、言うねぇ(苦笑) その事が一つの情報だと思うんだけどねぇ… ま、それは置いておいて、街道沿いの村かい。 一日半歩いた辺りにコスメルと言う村があるよ。 村としては大きくないが、小さくもないと言うところだね。 宿場としてもまぁ開けているから、食事や泊まる宿には困らないんじゃないかい。 小さいが商店もある立派な村さ。 |
ここでいったん息を継ぐ。
■ミスティ To:アトール |
で、オマケで更に二日ほど歩くとエジェレーと言う村があるよ。 この村はコスメルより少し小さいかな。とりあえず泊まる宿はあるよ。 ご希望の村に関しては、こんなところだね。 |
ミスティは、もうないよというように両手を広げてみせた。
■アトール To:ミスティ |
サンキュ、ミスティ姉さん。 一応、その辺りを明日から実際に行ってみるよ。 詳しい調査の依頼については、みんなに聞いてみないと解らないから明日の朝にみんなで相談してみて、必要なら街を出る前に依頼に来るよ。 ちなみに、だいたい幾らくらい払えば調べてもらえる? |
■ミスティ To:アトール |
少なくとも今日の10倍以上は、かかるだろうねぇ。 |
■アトール To:ミスティ |
まあ、やっぱ高いよな(笑) OK。みんなで考えてみるよ。 じゃあ、ありがとう。 |
■ミスティ To:アトール |
アトール! |
立ち去ろうとするア・トールに対して、ミスティは手のひらの中のものを投げた。
彼が受け止めたのは、蒼い石のはまった首飾りである。
■ミスティ To:アトール |
持ってお行きよ。ブルーアイの美人に似合うこと請け合いさ。 あんたの言う女性の魅力をより引き出すのに、 こういった物の手を借りるのも悪くないって事を勉強するんだね。 渡す前に留め金を直すのを忘れるんじゃないよ。 ま、頑張りな(笑) |
ミスティは言うと、まるで猫のように笑い、ひらひらと手を振った。
■ミスティ To:アトール |
ありがたく頂戴しておくよ(^^; じゃあ、いろいろありがと。 また何かあったら、よろしく頼むわ。 |
苦笑いを浮かべながら手を軽く挙げ、ア・トールはミスティの前をあとにした。
夜の街に出ていった四人を見送ると、ノエルは「銀の網」亭の主人の許に行き、五人部屋を手配した。彼女が手続きを済ませてテーブルに戻ってくるのを待ってから、 宿に残った四人はその二階の部屋へと向かった。ついに眠り込んでしまったミシャルカは、リーシェが抱きかかえて運んでいる。
そのリーシェは、部屋の寝台の上に少女を静かに横たえてやると、ノエルとシルディアのほうを振り返った。
■ リーシェ To:ノエル&シルディア |
あの、わたし、ちょっとご主人のところに行ってまいりますので、少しの間だけ、この子のことお願いできますか? |
■ ノエル To:リーシェ |
あ、どうぞ。 |
そう言うと、ノエルは部屋の隅にあった椅子をミシャルカのいる寝台の脇に持っていく。
■ ノエル To:シルディア |
ルディもそばにくる? |
シルディアの返事は待たず、ノエルはもう一つ椅子を運ぼうとしていた。
■ シルディア To:ノエル |
あ、どうもありがとうございます。…それにしても、この子に一体何があったと言うのでしょうね‥。 |
シルディアは心配そうに、眠るミシャルカの髪に触れる。穏やかな寝顔だ。
■ ノエル To:シルディア |
そうね・・・私たちには想像もつかないようなことが、この子の身に起こったのでしょうね こうして寝顔だけ見ていると、とてもそうとは思えないのだけど あなたから見ても特別変わったようには見えないかしら? |
■ シルディア To:ノエル |
ええ、別段変わったところは見受けられませんわ‥。 ですが、この子が自分の意志を人に伝えることは出来るのだと言うことはわかりましたから、実は少しほっとしてはおりますの。 初めて会ったときには記憶だけでなく感情や意志も無くしてしまっているように見えましたから心配で…。 |
■ ノエル To:シルディア |
そう・・・ ならよかったのだけど。 |
それでもノエルには、何となく心に引っかかるものがあるらしい。
しばらくすると、リーシェは、背負い袋と硬革鎧、それに小剣を携えて部屋に戻ってきた。彼女の荷物はそれで全部らしい。
■ ノエル To:リーシェ |
あの・・・それだけ・・・ですか? (考えてみればそうよね・・・つい昨日まで冒険者として旅行していたんだから、そんな大荷物持ち歩けないわよね(^^;;) |
少し考えて、ノエルは再び口を開いた。
■ ノエル To:リーシェ |
それ、リーシェさんの分だけですよね? ミシャルカちゃんの着替えとかはどうするつもりですか? 私の小さいときの服とかまだあるといいけど・・・ |
■ リーシェ To:ノエル |
肌着でしたら昨日、数枚ほど買ってきましたが……? |
上着の持ち合わせはないということらしい。
そもそも、一般に質素なことでも知られる大地母神の神官であるリーシェには、頻繁に上着を取り替えるという発想がないのであろう。
■ ノエル To:リーシェ |
(肌着だけ・・・ねぇ(^^;;) では、明日集合時間前に私の家に行ってちょうど合う服があるかどうか見てきますね。 街道を歩いている間にワンピースもほこりだらけになってしまいますし、着替えも欲しいでしょう? |
■ リーシェ To:ノエル |
そうですね……。では申しわけありませんが、よろしくお願いします。 |
■ ノエル To:リーシェ |
はい(^^) あ・・・ベッドは一番奥のを使って下さい。 |
■ リーシェ To:ノエル |
分かりました。 |
リーシェは、自分の寝台のところまで歩いていくと、荷物を置いて寝台に腰掛け、就寝前の短い祈りを捧げる。
それがすむと、ミシャルカの様子をちらりと確認した。少女はよく眠っている。
■ リーシェ To:ノエル&シルディア |
それでは、お先に失礼いたします。おやすみなさい。 |
寝台に横になったリーシェは、ほどなく穏やかな寝息を立て始めた。
やがて、酒場へと情報収集に出かけていたソフィティアが戻ってきた。荷物を置くと、彼女も二人の座る隣に空き椅子を運んで腰掛け、静かにミシャルカの様子を見つめる。
しばらくして、そのソフィティアが、思い出したように口を開いた。
■ ソフィティア To:リーシェ以外 |
ノエル、ルディ。わたし東方語だと寝言言っても何行ってるか全然わからないわよ(^^; 寝言を共通語でなんて期待しても無理だろうから、どうする? それでも、うなされてる雰囲気ぐらいはわかると思うけど……。 |
眠っている二人を起こしてしまわぬよう、ソフィティアは小さい声で仲間に語りかける。
■ シルディア To:ソフィティア&ノエル |
実は‥私も東方語はわかりませんの(^^; ミシャルカちゃんが何か寝言を言うようなら言葉の雰囲気を覚えておいて、後でノエルに聞くということくらいしか出来ませんわね… |
■ ノエル To:シルディア&ソフィティア |
そうね・・・できるだけ正確に聞いてもらえると私も想像つきやすいのだけど。 私がずっと起きて聞いていなくてもいいかしら? 問題ないなら、先に寝かせてもらってもいい? |
■ ソフィティア To:ノエル |
そうね。様子ぐらいしかわからないと思うけど、見てないよりはましよね(^^; じゃぁ、3交代で見守るとして、順番はどうする? ノエルは眠そうだけど……。わたしはどっちでもいいけど、ルディは何時がいいかしら? |
■ シルディア To:ソフィティア |
そうですわね‥、私が最初に起きていた方が良くありませんこと? ソフィーも先程まで情報収集に出ていて疲れているでしょうから、ノエルと2人で先にお休みいただいて構いませんわよ。 |
■ ソフィティア To:シルディア |
じゃぁ、先に寝させてもらうわね。時間になったら起こしてちょうだいね。 |
■ ノエル To:シルディア |
よろしくお願いね。 |
結局、ミシャルカの「観察」は、シルディア→ソフィティア→ノエルの順で行われることとなった。
まずシルディアであるが、東方語を解さない彼女は、ミシャルカに“それらしい”発語がないかどうか、長い耳をすますことになった。自分の理解できる言語でないぶん、 緊張と集中を必要とされる行為となったが、ミシャルカの寝言を聞き取ることはついになかった。シルディアは同時に、部屋の窓や扉からの侵入者に対しても警戒していたが、 こちらについても何も起こらなかった。
シルディアに続いて見張り番をするソフィティアも、同じく東方語は解さない。薄暗い常夜灯の照らす中、ミシャルカの様子を一つの瞳で見つめ続けた。 が、ときどき寝返りを打つなどするものの、ミシャルカの様子に不自然なところは見られなかったし、寝言らしき少女の発語を聞き取ることもなかった。
最後、未明の見張り番はノエル、三人の中で唯一、東方語を母国語としている。ところがノエルは、昼間のア・トールの「いいお母さんになるよ」という言葉が頭を離れなかったのか、 あるいはウィードバルの「(自分たちの仕事の結果、ミシャルカの)悲しみを掘り起こすことになるのだったら」というつぶやきに心を占められていたのか、 はたまた集合前に取りに行くつもりのミシャルカの着替えのことが気になっていたのか、どうも少女の「観察」に集中できなかった。結局、 ミシャルカの寝言を聞き取ることはなかったのだが、それが本当に少女が寝言をもらさなかったためなのか、それとも自分が集中力を欠いたせいなのかは、 全く自信が持てないこととなったのである。
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