「慈しみの天秤」

冒険者たち、北へ

前のページへ 次のページへ

このページでは新しい投稿が下に表示されます。
「銀の網」亭

空振りのようで……

翌朝、ノエルは一人早く支度をすませると、ミシャルカとリーシェの無事を確かめてから自分の家に向かった。ミシャルカの替えの上着を探してくるためである。
彼女は家に着くと、自分の幼いころの服の中から、比較的丈夫で動きやすそうなものを数着選びだして、袋に詰め込んだ。

戻ってきた「銀の網」亭の一階の食堂兼酒場には、すでに一同の顔が全てそろっている。打ち合わせた時刻までには、まだ少々間があるというのに、 なかなか優秀だ。ノエルが帰ってきたのを見て、彼らはめいめいに朝食を注文する。
■アトール To:ノエル
おはよう!
それは、ミシャルカ用の服かい?

■ ノエル To:ALL
ごめんなさい。待たせたわね。
で、報告とかはもう終わったの?

いや、と、ア・トールは首を横に振る。
■アトール To:ノエル
ノエルを待っていたんだ。 準備が良ければ、朝食を食べながらでも昨晩の情報交換をしようぜ

その一言で、各々が入手してきた情報の発表会が始まった。まずは、ア・トールから。
■アトール To:all
ギルドの方は、100ゴールド使ってわかったのは、記憶喪失がらみの大騒ぎになるほどの事件の情報は、今のところギルドにも入っていないと言うこと。
一日半歩いた辺りにコスメルと言う村があるということ。
食事や泊まる宿とかもあるくらいの村だそうだ。
小さいけど商店もあるとさ。

■ リーシェ To:ア・トール
コスメル村には、この子と出会った前の日に滞在しましたが、ごく普通の村という感じでしたね。大きさも中くらいでした。

■アトール To:all
あと更に二日ほど歩くとエジェレーと言う村もあるそうだ。
コスメルより少し小さいけど、とりあえず泊まる宿はあるとさ。
とりあえず、これらの街を目指して、街の人にミシャルカの事を尋ねるのが手っ取り早いかな?
これは、残りね。

ア・トールは、盗賊ギルドでの情報収集のために預かっていた金の残り、100ガメルをノエルに返した。
■ノエル To:アトール
コスメルかぁ。
他に有力な情報がなければ、とりあえずその村を目指すことになるのかな?

■アトール To:all
あと、お金を積めばもうちょっと詳しい調査もギルドに依頼することも可能だけど、4日ほどかかるそうだ。
どうする?
とりあえず保留してきたけど。

■ノエル To:アトール
それは、報告が全部終わってから考えましょう。 で、他の人はどうだったの?

■ シルディア To:ALL
昨晩はソフィーとノエルと交代でミシャルカちゃんの様子を観察してみましたが、私が見ていた時にはおかしなことは何もありませんでしたわ。
ソフィーとノエルの時はどうでした?

突然のご指名に、ソフィティア、なぜかあわてたようである。
■ ソフィティア To:ALL−ミシャルカ
んっとね。(ゴックン)
み、み、みずぅ〜。

食事をのどに詰まらせたらしく、おもむろに手許の杯を引っつかむと、一気に飲み干した。
■ ソフィティア To:ALL−ミシャルカ
はぁ、はぁ、死ぬかと思った(^^;

で、わたしが起きていた時はこれといった事はなかったけれど。ノエルはどうだった?


■ ノエル To:ALL
(なにか焦るようなことあったのかな??)
私のほうも、なにも変わったことはなかったわ。

いろいろ考えごとをしていて集中できなかった手落ちは、秘密にしておくことに決めたようである。
ノエル、変に間が空いてしまわないうちに、発言を促すように、アフルへ視線を送る。
■アフル To:ノエル&ALL
うん、こっちも行き付けの酒場で聞いてみたんだけど、行方不明になってる女の子の噂は聞いてないみたいだし、
村も、2、3日ごとにあるって事ぐらいしか聞かなかったよ。

■ソフィティア To:ALL
わたしも、酒場に行ったんだけど、アフルと重なっちゃったのよ。別の酒場に行こうと思ってたのに(^^;
それで、マスターに話し掛けたら、わたしが聞きたかった事はアフルが全部聞いちゃってたみたいだから、わたしからも新しい噂話とかは無いわ。

ソフィティアは、アフルが情報収集にかこつけて実は息抜きもしていたことには気づいていなかったようだ。
思わず一瞬、ほっとした表情を浮かべたアフルだが、それを悟られぬようにと、話をさっと別の人に振った。
■アフル To:ウィードバル
ウィードは?

■ ウィード To:アフル&ALL
う〜ん、手掛かりになりそうな情報はなかったよ。
短い間だけ記憶を失わせる呪文については書いてあったけどさ。
初級の精霊魔法の<忘却>だそうだ。

■ ノエル To:ウィードバル
短い間だけ記憶を失わせる呪文があると言うことは、まだ知られていないだけで長期間記憶を失わせる呪文があってもおかしくないのかしら?

■ ウィード To:ノエル
古代王国時代ならそんな呪文があったとしても不思議じゃないな。
けど、そうだとしても手掛かりは無しだ。
そんな呪文を学院が発見したら、隠蔽するだろうし…

そうだ! この子に魔法がかかっているか、調べてみよう。
万物の根源たるマナよ…我が瞳に見えざる力を映せ…!!!

■ ノエル To:ウィードバル
あ、それなら私もやってみたほうが確実ね・・・
万物の根源たるマナよ…

二人は杖を振りかざし、<魔法感知>の呪文を唱えた。
その様子を見て、カウンターの中から店主の大声が飛ぶ。
■ おやじ To:ウィードバル&ノエル
おーい、そこの魔術師二人! こんなところで魔法なんぞ使うんじゃない!
街なかや人の集まる場所で魔法は使うなって、学院で教わらなかったのか?

■ ノエル To:おやじ
ごっ、ごめんなさいf(^_^;;

恐縮してみせるノエル。しかし実は、「でも、他にお客さんなんてほとんどいないじゃない」と、心の底では思っていたりする。なかなかしたたかな女性である。
一方、魔法やその扱いに関する予備知識のほとんどないア・トールは、自分の思った通りのことをそのまま口に出してしまう。
■ アトール To:おやじ
なんだよ、他に客なんてほとんどいないじゃん。別にそんなに怒るほどのこ・ぐぅ・もごもご・・・

■ ノエル To:アトール
(^ー^)ペラペラ         (・ ・ )
(°_。☆ ドゴッo(-~- ;; ヤメテヨ
(_ _ ;ズルズル _____p( -~-)ったく
余分なことばっかり言うんだから・・・

その発言は、途中でノエルが彼の口を手でふさいだために、最後まで続けられはしなかった。
主人は特に反応を見せなかったが、それがア・トールの言葉を聞き取れなかったゆえなのか、あるいは見逃してくれたためなのかは、判然としない……。

さて、二人の魔法はともに問題なく発動したが、ミシャルカにもリーシェにも、魔法の力がはたらいている様子は感じられなかった。
■ ノエル To:ウィードバル
で、魔法はかかっていないとして、他になにか有力な情報ってなかったの?

■ ウィード To:ノエル
有力な情報は残念ながら無しだ。
新たに分かったことは、バイナル導師はまだ独身だってことだけだ。
…ったく…(ーー;)

■ ノエル To:ALL
みんな、あまり有力な情報は得られなかったってことね・・・
盗賊ギルドに情報頼むにしても時間がかかるみたいだし、それを待つよりはすぐに出発したほうがよさそうね。
みんなそれでよければ保存食を買って出かけましょう。

ノエルの言葉に、ウィードバルは無言でうなずき、賛意を示した。
■ アトール To:ALL
俺はそれでOKだぜ。
ギルドは時間だけじゃなくて、金もたんまりかかるから、リーシェさんにもきついだろうしな。
あと他にも若干名、火の車の人もいるみたいだし(^^;;

そう言うア・トールも、つい先日まで借金生活を送っていたクチであることは、ノエルだけはよく知っている。
それはともかく、ほかの者たちも、すぐに出発することには一様に賛成のようだ。
■ ノエル To:リーシェ
リーシェさんもいいですね?

■ リーシェ To:ノエル
はい、そういたしましょう。
わたしたちは、いつでも出発できますので。

こうして、彼らは必要な保存食などの調達を済ませたのち、「河沿いの街道」を北上することとなった。

「河沿いの街道」

コスメル村へ

ハザード河を左手に見ながら、一行は「河沿いの街道」を進んでゆく。

街道の人通りは、決して多くはない。むしろ、はっきりと少ないと言ったほうがよいだろう。数刻の間に数回、物資を運ぶ商人たちが荷馬車で通りかかるくらいである。 彼らに対して、ウィードバルとソフィティアは、女の子が行方不明になったという噂を聞いたことはないか尋ねたが、いずれの返事も「そのような噂は聞いたことはない」というものだった。 シルディアは、街道沿いでおかしな事件や噂がないかを聞いてみたものの、こちらもそのような話があるという情報は得られなかった。
一方、ハザード河の水上交通は、聞きしに勝るものであった。陽光を反射して輝く水面の上を、大小さまざまな船が行き来している。その大部分は物資の運搬船と思われる。 いっぱいの荷物を積み込んだ大きな船が、歩くほどの速度でゆっくりと川を上っていく様子は、見る者にどことなくゆったりした気分を与えるようであった。

昼を過ぎると、次第に日が陰りだし、じきに空は、厚みをもった灰色の雲で一面覆われることになった。いまにも泣き出しそうな具合である。 傍らの大河も、空の色を映してつやのない鉛色に変わり、午前中にはかすかに見えていた向こう岸の風景も、かすんで全く見えなくなってしまった。 水面と空との境界が、彼方で互いに溶けあっている。
雨雲の低く垂れ込める、この怪しい空模様に刺激されてということでもなかろうが、ア・トールは油断なくあたりを注意していた。ただ、特に彼の気に止まるような誰かもしくは何かはなかったようである。
ノエルはというと、さきほどからいろいろとミシャルカに話しかけている。その反応から少女のことを探ろうということらしいのだが、ノエルの判断としては、 ミシャルカには感情のはたらきが著しく弱いように思われた。昨夜のシルディアとの会話以来、彼女が抱き続けていた懸念は、どうやら悪い方向に的中しているようである。

やがて日が沈むと、一行は野営に向いた場所を探しだし、夜を明かす準備に取りかかった。薪集めや水くみ、簡単なかまどづくりなどを皆で分担して行う。 そのなかでノエルは、侵入者に備えて、野営場所の周囲に罠を仕掛けていた。小枝を集めて作った簡単な鳴子が結びつけてある細いひもを張りめぐらし、 誰かがそれに触れるとすぐに察知できるという仕組みである。ウィードバルの手伝いもあり、まずまずのものができた。動物や下級の妖魔程度にならば、 それなりの効果は発揮されるはずである。

夕食を終えると、リーシェは就寝前の祈りを捧げたあと、ミシャルカを背中から抱くかたちで外套にくるまり、横になった。冒険者たちは、 これから2人ずつ三交替での見張り番である。

一直目は、アフルとウィードバルの組。アフルは見張り番をしながら、ミシャルカに子守唄を歌ってやることにした。西方語の歌詞であるが、 眠りをうながすような優しくゆったりとした旋律は、どの地方の子守唄でもそう変わることはない。一日中歩きづめの疲れももちろんあったのだろうが、 少女はほどなく眠りに落ちていった。そしてリーシェも、ミシャルカにつられたかのように、しばらくすると静かな寝息を立て始める。

なにごともなく一直目は終わり、それを引き継いだ二直目はア・トールとソフィティアである。年頃の女性としてやはり興味があるのだろう、 ソフィティアは見張りをしながら、ア・トールに、彼とノエルの関係の深さを尋ねてみた。そこに若干、からかうような気持ちが混ざっていたことは、 彼女自身否定できないところである。この問いにア・トールは、真面目かつ真正直に答えたあと、ソフィティアにしたたかな反問を突きつけた。 単刀直入に、彼女の「経験」を問うたのである。
反撃すら予想していなかったところに、この質問である。17歳のソフィティアは、完全にうろたえた。たき火の明かりだけでは分からなかったが、 彼女の顔色はめまぐるしく変化した。適当に答えておけばいいものを、視線をあらぬ方向にあちこち泳がせたあげく、うつむいて黙りこくってしまったものだから、 あとはア・トールのいい玩具である。さすがに彼も、とことん問いつめるようなまねはしなかったが……。
ソフィティアにとって以外は、二直目も無事に終了した。

最後、三直目はシルディアとノエルである。この組の見張りは、実に粛々と行われ、なにごとも起こらぬうちに夜明け、すなわち終了を迎えることとなった。

翌朝、野営の後片付けを始めたころから、ついに雨が降り始めた。リーシェは起床後の祈りもそこそこに、ノエルから受け取った少女用の服をミシャルカに重ね着させている。 一行はそぼ降る雨の中、二日目の移動を開始した。

出発後しばらくして、一行は、リーシェがミシャルカを保護した地点にさしかかった。とはいえ、街道の単なる一地点である。アフルは念のため、 その周辺に変わったところがないかどうか捜索してみたものの、特に何も見あたりはしなかった。
ノエルは前日に続き、ミシャルカに積極的に話しかけ続けている。しかし、雨に濡れて少々寒そうにはしているものの、ミシャルカは相変わらずの無反応ぶりである。 問いかけられたことについては、短い言葉ではあるものの、それなりにちゃんとした返事はするのだが、そこには全くと言ってよいほど、感情の動きが感じられなかった。 少女が、記憶とともに感情をも喪失していることは、もはや確信せざるを得ないようだ。
この日、昼食時までに一行の出会った通行人は、小さな荷馬車に乗って向こうからやってきた商人ただ一人だけであった。ウィードバル、シルディア、 それにソフィティアは、待ってましたとばかりに彼に聞き込みをしたものの、前日同様、有用と思われる情報は得られなかった。

ア・トールの周囲への注意も、結局何らの情報や成果を彼らにもたらすことはなく、一行はその日の午後の早い時刻に、さしあたっての目的地であるコスメル村の入口に到着した。

前のページへ 次のページへ


シナリオ#17目次ページへ戻るSW-PBMトップページへ戻る

GM:みなみ
E-Mail : nun@jmail.plala.or.jp