冒険者の弁明

(1998/05/14 更新)


拘束される3人がとりあえずということで案内されたのはヨッパライなどを泊める簡易牢だった。3人は同じ牢に入れられて鍵をかけられた。

■衛視詰め所
☆From:衛視  To:マーズ、セリス
あんた達は連絡の付くところで待機しておいてもらおうか。
連絡先と名前を教えてくれ。

■詰め所
☆From:マーズ  To:衛視
えっと、僕の名前はマーズです。
連絡先は・・・
(と、ファリス神殿の場所を教えます)
でも、お話したように、人命がかかった依頼なので、待機というわけにはいかないので、ご了承下さいねぇ。

衛視は氏名と連絡先をメモしながら、連絡がつけばいいということを答えた。

■詰め所
☆From:カナル  To:セリス、マーズ
まったく、余計なもんに巻き込まれちまったな。
なるべく早く合流したいが、それまでがんばってくれ。

■詰め所前
☆From:マーズ  To:セリス
う〜ん・・・・3人は解放してもらえませんでしたねぇ。
とりあえず、シーアンさんと合流しますか?
それとも、連絡だけとってシーアンさんとは別行動にしたほうがシーアンさんに疑いがかからなくていいですかねぇ?
どちらにしても、一度は合流しなければならないでしょうねぇ。
それにしても・・・・シーアンさんって、まだ隠れてるんでしょうかねぇ?

マーズとセリスはラーベナルト邸に戻ろうと詰め所を出た。すると...

■詰め所の外
☆From:シーアン  To:マーズ、セリス
(路地から姿をあらわす)
よぉ、思ったより早いお帰りじゃねーの。
他の奴等は?

おっと、俺が今まで何してたか言い訳しとかなきゃな(^^;
あんた達がしょっぴかれてから、屋敷の周りと詰め所の周りを調べてたんだが、怪し い者は見つからなかった。
もしかして、犯人かその一味がいるかと期待したんだがな(苦笑)

■詰め所の外
☆From:マーズ  To:シーアン
まぁ、やましいことはしてないですしねぇ。
他の3人はまだ返してもらえないみたいですねぇ。
僕が1階で縛られているときに、何か怪しいことでもしたんですかねぇ?
なんか、一度新米さんが外に走って出ていきましたし・・・・。
とにかく、今日は無理みたいなんですけど、どうしましょう?

■詰め所の外
☆From:シーアン  To:マーズ、セリス
 怪しい事か・・・(^^;
クロスがダガーを窓から投げ捨てたんだよ。
それを下でカナルが受け取って隠そうとしてたんだけど、見つかっちまってよ。
(そういう自分は植え込みに隠れていたんだから、十分怪しい(笑))

 そうだ。クロスのダガーや、みんなの武具を持ってきといたぜ。あの衛視も抜けてんな。武装解除させたはいいが、屋敷に鍵がかかってないとはさぁ。

 今後の事だが、とりあえず銀の網亭に戻らねーか?
キルティングの家から伝言でも入ってるかもしれねーし。
(セリスに視線を合わせて)
どうする?(リーダー?)

■詰め所の外
☆From:マーズ  To:シーアン&セリス
どうしましょう?
衛視さんの言う通り、銀の網亭で待機しますかぁ?
それとも、我々だけで行動を起こしますか?

■道ばた?
☆From:セリス  To:残った二人
私、もう一度かけあってみようかと思います。
話を聞かれるのでしたらそれは私の仕事でしょうし・・・
何とか私の代わりに三人を釈放してもらいます。

マーズはそれをとてもセリスらしいと思ったが、止めない訳にはいかなかった。

■道端
☆From:マーズ  To:セリス
う〜ん・・・お気持ちはわかりますけどぉ、意味のある行動だとは思えませんねぇ。
衛視さんはあの3人を容疑者として拘留しているわけですし、誘拐じゃないんですから、身代わりで解放してくれるとは思えませんよぉ?

3人は、とりあえず銀の網亭で待機することにした。
銀の網亭は賑やかな盛りを過ぎた頃、酔う奴は酔い、明日に備えるものはもう寝につく時間だ。

■銀の網亭
☆From:シーアン  To:おやじ
(疲れきった様子で、カウンターに近寄る)
 おやじさん、ちょっといいかい?
キルティング家から、なんか伝言なかったかな。
俺シーアンあてか、セリスあてに・・・。

おやじは片づけをしながら戻ってきた3人にお疲れさんと声をかけ、伝言はあずかっていないと答えた。

■銀の網亭
☆From:シーアン  To:おやじ
そっか。
じゃ、もう寝るしかやれる事はねぇな・・・。
(ますます疲れた表情で2階へ・・・)


その頃詰め所の簡易牢では、カナルが釈放に向けて衛視の説得を試みていた。

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
事件を整理して考えてくれ。
俺達は人を捜していて、その情報を得るためにラーベナルト氏の所に行ったんだ。昼に氏の
店に行きそこでアポイントメントは取ってある。俺達が来ることは、下男も聞いていたと
言っていただろう。
俺達が最初から氏を殺す事を目的としていたなら、むざむざ下男に衛視を呼ばせるような
へまはしないさ。そのことからも、これで氏を殺すことを目的にあの家に行ったのではない
と言うことは分かって貰えるんじゃないか? 少なくとも、俺達は氏から情報を得る必要が
あったということも。
そして、もし氏から情報を得た結果、殺すことになったたというなら、あの場に残っていたのは
不自然じゃないか? あんな大声を上げて走っていたのだから、彼が衛視を呼びに行ったことは
分かっていた。衛視が来る前にあの場から離れ、氏から得た情報で目的の人を捜し始めてるさ。
それに、下男の話からも、俺達が二階に上がってすぐに、彼が上がってくるまでの時間はそう
無かったはずだ。その間に話を聞いて殺すなんて言うのは無理だろう。
そのことからも、俺達が氏を殺したのではないといえるんじゃないか?

いかに自分たちに動機と時間がないかを力説するカナル。だが衛視はそれだけでは納得できずに疑問を述べた。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

ああ、下男は冒険者が訪ねてくると言っていたな。だが、何の用事でくるのかは聞いていないようだった。
で、あんたたちが情報を得るためにあの家を訪れたっていうのは誰が証明してくれるんだ?

『衛視を呼ばせるようなへまはしない』とはずいぶんな自信じゃないか。
『口をふさぐ』とか、どうもあんたのものいいを聞いているととても犯罪をしなさそうなタイプには思えないんだよなぁ。
今回の事件にはからんでないとしても、叩けば埃の出る身なんだろう?

それと、あんたたちが殺された男から情報を得る必要があったってのは誰が証明してくれるんだ?それがあんたの主張の根幹だな。そこを証明できなければあんたの話は元から崩れることになるなぁ。
ところで、もう上に行っていいか?俺は待機してなきゃならんのよ

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
別にその事を抜きにしても、俺達が氏を殺したのならあの場に留まっていた理由が無いだろう。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

さぁな。何か探していたものでもあるんじゃないか?

例えば、こういうのはどうだ。
あんた達は殺された男に何か弱みを握られていた。そうだな、悪事の証拠となる書き付けとかはどうだ? あの男はあんた達を脅迫して、金を脅し取ろうとした。あんた達はその金の受け渡しにあの家を訪ねる事になっていた。ところが、あんた達が全員で家に訪ねてきたのを見て男は恐れをなして自殺した!だが、あんた達はその書き付けを見つけなくてはあの場を離れることはできなかった!

これならあんた達があの場を去らず、衛視を呼ばれるのを止める暇がなかった理由になるんじゃないか?

ふっふっふ。真実を指摘されて声も出ないか。
俺の推理もまんざらじゃないようだなぁ(とくいげ)。

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
それもあり得ない。
他の仲間より先に着いた俺とアフルが下男に取り次ぎを願ったら、氏は「全員揃ってから」
という返事をした。これは、下男に聞いて確かめれば済むことだ。
これで、少なくとも俺達は氏の自殺の理由にはならないな。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル
だから、理由なんてもんは後からいくらでも付けられるんだよ。
じゃあ自殺じゃなくてもいいさ。あんた達は最初から殺す目的であの家に来た。殺してその証拠の書き付けを奪うつもりだった。殺したあと下男に見つかったが、書き付けなんかすぐに見つかるだろうから見つけて逃げればいいと思っていた。それがなかなか見つからず、段取りが狂って今ここにいるという訳だ。
これでどや!(さらにとくいげ)

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
それなら、何で最初に下男を見逃したんだ?
最初から殺す目的なら、放っておくわけないだろ?

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル
だから、下男が帰ってくる前に逃げるつもりだったんだろ?
だったら止める必要は無いじゃないか。ふっふっふ

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
でも、俺達が訪ねてきたことを話されることは確実だろう?
普通、その相手を放っておくか?

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル
訪ねてきた奴がいることは話すだろうが、普通、あんた達が誰だかまで使用人は知らんだろう?
あんた達はオランの人間じゃないようだしな。首尾よく行った暁にはオランから出ちまったっていい訳じゃないか?
ふっふっふ。俺もまだ捨てたもんじゃないな。いい推理だぜ。

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
それに、二階から飛びおりた足跡があっただろう?
少なくとも、俺達の他にあの部屋に入って逃げ出した奴が居ることは確かじゃないか。

その話はかなり脈があったようだ。初めて衛視が好意的な反応をした。そして衛視は初めて証拠物件の忘れ物に気がついた。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

そうそう、そのことは覚えてるぞ。あんたら5人のうち誰の足跡とも一致しなかったんだ。だから、あんたら以外に少なくとももう1人、誰かがあそこにいた事は確かだな。
でもひょっとしたら、そいつもあんたらの仲間だってこともありえるな。そんな事をした理由は俺達の捜査を撹乱するためだ。

だいたい、あんた達が入ってくる前までは生きてたらしいじゃないか。それに、玄関から入った奴は誰も居ないんだろ?

あ、しまった。そういえばあの証拠物件のダガーを拾ってくるのを忘れたな。まぁいいや。誰も盗りゃしないだろ。
明日の朝にでも行ってくるか。

ダガーの事を思い出された事でカナルは少し焦ったが、ポーカーフェイスを装って話を侵入経路へと誘導した。

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
待てよ、あの家には裏口があっただろう? そういうところから入った可能性もあるじゃないか。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル
ふん?俺が聞いたところじゃ下男は裏口のドアには鍵をかけておいたそうだぞ。鍵の掛かってるところから入ったってのか?

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
シーフなら、鍵開けぐらい出来るんじゃないか?

冒険者は誰も裏口の鍵が開いていた事に関しては触れなかった。シーアンが外に出るときに裏口の鍵が開いている事に気づいてみんなに知らせので、全員裏口の鍵が開いていた事は知っていたはずだ。
しかし、ここで真犯人が裏口から進入した可能性を示唆された事で、衛視の鈍い頭の中でようやくすべての話が繋がりはじめた。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

そうか。そういやそっちの若いの(アフル)が盗賊ギルドがどうのって言ってたな。確かに、そういう奴等なら鍵を開けるくらいお茶のこさいさいって奴だなぁ。

つまりこうだな。
犯人が閉まった鍵を開けられる奴ならば、裏口から入った可能性が高い。なるほど、それならあの使用人は賊が入っていたのに気づかなかったのかもしれない。下男は玄関は見張っていたが、鍵をかけておいた裏口は見てなかっただろう。それなら、あんた達以外にもあの家に入れた奴がいることになるな。そいつが窓の下の足跡の主だとすれば...裏口から入って2階に上がり殺人を犯して窓から逃げた奴がいるっていう事になる。
ふーむ。

ところで、『裏口があっただろう?』と言うってことは、あんたらは裏口を調べてないんだな?じゃあ、あそこの鍵がどうなってたかなんて知るはずもないなぁ...
やっぱり、明るくなってから再調査しないと駄目だな

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
さっきも言ったろ! 最悪の場合は人の命が危ないんだ!
悠長なこと言ってないでさっさと確認しろ!

これだけ説明してもすぐに動こうとしない衛視にカナルは少しキレそうだ。衛視もカナルの剣幕にしぶしぶ調査をする事にした。しかし、衛視は先程思い出した例のダガーの事を忘れていなかった。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

なんだそりゃ。
あんた確か殺しのあった家にいた理由は犯人の手がかりを探してたからだって言ったよなぁ。あんたこそ、そんな大事な事調べずに何やってたんだよ?まったく、あんたに悠長だなんて言われる筋合いはないね。

しょうがないな。相棒、ちょっとさっきの家に行って裏口の鍵が閉まってるかどうか調べて来い。なるべく急いでやれよ。
ついでに、こっちの(クロス)が放ったダガーも持ってこい。こいつ(カナル)が立ってた辺りに落ちてるハズだ

使いに出された新人衛視君は30分程度で戻ってきた。その報告によると、裏口の鍵は空いていた。また、ダガーは発見できなかったそうだ。その頃は置いてきた装備は既にシーアンが確保していたのだ。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル

ダガーが無いだと !? そいつは一大事だ。誰かが盗んだか?でもいったい誰が?
おい、ひょっとしてやっぱりその逃げた犯人ってのはお前らの仲間じゃないのか?そんでもって、やっぱりそっちの(クロス)が捨てたダガーが凶器で、その仲間が凶器を隠蔽するために戻ってきて持ち去ったんだ!

ああ、俺はなんて事をしてしまったんだ!みすみす証拠物件を持ち逃げされるとは〜!!!

カナルは、恐らく庭に隠れていたシーアンが気を利かせて装備を確保してくれたのだろうと想像した。しかし、正直にそう言えばあの場にもう1人仲間がいた事が分かってしまう。今シーアンの存在が表沙汰になればさらに痛くもない腹を探られる事になるだろう。そう判断し、とっさにその場をごまかす事にした。

■詰め所
☆From:カナル  To:衛視
俺の杖なんかも放っておいたんだろ? それなら、一緒に俺の仲間が回収しといてくれたんじゃないか?
ほら、さっきの神官二人だよ。大事な杖だから、放っておいて盗まれたりしたら事だからな。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル
ああ、あのファリスとマーファの神官だな。
なーんだ、あの人たちが確保してるんなら大丈夫だな。ほら、こうやって連絡先も聞いてるし。明日の朝にでもファリス神殿へ行ってもらってこよう。
ふぅ、気の利く仲間がいてよかったなぁ、あんた

衛視は、先程のセリスの毅然とした態度とマーズの協力的な態度からあの2人に対して好意的だった。神官2人が確保しているとカナルが釈明した事で安心した。

カナルの説得はある程度功を奏したようだ。衛視は冒険者の言い分をまともに考えてみる気になった。

■詰め所
☆From:衛視  To:アフル
裏口から入った奴が閉まってた鍵を開けたんなら、あんたの言った盗賊ギルドの話と符合するな。そういう仕事をすのにはギルド員じゃないとヤバイっていうらしいじゃないか。
まぁ、それであんた達がヤバイ奴等じゃないって保証にはならんが、少なくとももっとヤバイ奴がこの事件に絡んでるって事は確からしい。

しかし、まだ衛視にとって最大の謎が残っていた。

■詰め所
☆From:衛視  To:クロス
ところで、犯人じゃないなら何であの時ダガーを窓から投げたりしたんだよ?
それが不思議でならないね。理由を聞かせてもらおうかな

牢の隅でブルーになっていたクロスは、しぶしぶ口を開いた。

■牢屋でしたっけ?
☆From:クロス  To:衛視
ラーベナルトさんの傷、鋭利な刃物で出来た刺し傷でしたよね? 僕のダガー、ぴったりでしょう? 血の曇りもついてますし。僕がそのダガーをバカ正直に差し出したとして、ハイそうですか、じゃあどうぞって、すぐに解放してくれました? 

■詰め所
☆From:衛視  To:クロス
そりゃあ、解放なんかできるわけないじゃないか。それが凶器だと思うのが普通だろうな。

■牢屋?
☆From:クロス  To:衛視
僕たち、時間がなかったんです。…ていうか、無いんです。カナルの言うように一刻も惜しいんです。そんな、やってもいない殺人の容疑で時間をとられたくないって思うの、わかるでしょ?。言い訳してる時間も惜しかったんです。…結果的には、運は僕の味方をしてくれませんでしたけどね。

そう言って、また牢の隅の暗がりでうつむいて黙ってしまった。ダガーを隠し損ねたことがだいぶ精神的ダメージになっているようだ。その様子には衛視も少しだけ同情した。

■詰め所
☆From:衛視  To:カナル、クロス、アフル

こそこそしようとするからチャ・ザ様もそっぽを向くんだぜ。大体、俺の目を盗んで何かしようなんて甘い甘い!

まぁ、どうやらあんた達以外の誰かが殺人事件の真犯人らしいって事はわかったよ。 あんた達自身がそれにまったく関係ないかどうかはまだ疑わしいところだがな。
手を下した人間でない以上、そう長い事ここに入れとく訳にもいかないだろう。 明日の朝にはとりあえず解放してやる。連絡先と名前を残していってくれよ。

どうやら、冒険者の容疑は晴れたようだ。
明日になれば解放される事になって、拘束された3人は一安心。アフルは昼間カナルに伝言する時にシルフを使ったため少し疲れていた。彼は貸し出された毛布をかぶって真っ先に眠りに落ちた。翌朝にはすっかり元気になっていることだろう。クロスとカナルも今夜は大人しく簡易牢の冷たい床の上で休む事にした。


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