報告

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報告

 パーティは無事、依頼をこなし行方不明であった座員5人を連れてサーカスへと戻ってきた。
 テントに着いた頃には空がうっすら明るくなっている。鳥の声がやけに明るく、天に響いていた。

 ユリは先程の余韻でふらふらの足取りでテントに入ってゆく。 その他のメンバーも結局徹夜で作業をしてしまった為、疲労の色が濃い。

■街外れのテント小屋
☆From:ヴィクター 
たっだいまぁ!帰ってきたよ〜

 ヴィクターが檻の中の動物達へ挨拶をする。ヴィクターとリッキーは他のメンバーよりは遥かに元気なようだ。

 一向はまっすぐに座長の部屋へ向かった。座長は心配で眠れなかったのか目を真っ赤にして出てきた。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:イスカ To:座長
戻りました。五人はみな無事です。これで明日の公演は問題ないね。 (契約書を読み返して)私たちの仕事はここまでで終わり、 あとは報酬を頂くだけだ。いや、明日でいい。 とりあえず、私たちは寝るよ。もうくたくたなんだ。

 座長は座員達の無事な姿を確認して、深い安堵のため息をついた。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:座長 To:イスカ
 ああ、ありがとう・・・。
 今日はゆっくり休んでくれ。報酬は明日、必ず渡そう。

 そして、居心地悪そうな座員達へ向き直った。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:座長 To:ダーナ達
 お前達が今回しようとしていた事は、ネリーから全部聞いたよ。
 元はといえば私にも原因があるようだし、今回の事は不問にする事にしよう。
 疲れているだろうが、明日の公演の準備を始めてくれないか?

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:ダーナ To:座長
 嫌よ。私たち事件に巻込まれて大変だったのよ。
 ちょっと予定が狂っちゃったけど、ストライキのつもりだったんだもの。
 私は出ないわ。 

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:ロビン To:ダーナ
 ダーナ、これだけ迷惑かけたんだ、もういいだろう?
 わがままをいうのはやめよう

 ダーナが地団太を踏む。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:ダーナ To:ロビン
 最初の目的を忘れたの!?
 ちゃんと利益を分配してもらう為にこんなことしたんじゃない。
 変な奴に引っ掛かったのは確かに予定外だったけど、目的は目的だわ。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:座長 To:ダーナ
 ダーナ!もういい。
 お前たちの要求はわかったから、公演に出てくれ。
 うちみたいな小さなサーカスで出し物が減るのは困るんだ。私が悪かった。 給料は今までより払おう。・・・これでいいな? 

 気まずい空気が部屋に充満する。沈黙に押されるようにしてダーナが頷いた。

 

 公演は昼から始まる為、縛り上げた犯人を座長に引き渡し、日が昇ったら城の警備兵に 連絡をとってもらうことにして、パーティは束の間の休息を取ることにした。

 一行は与えられた部屋へ移動すると各人寝る場所を確保し、めいめいマントや毛布にくるまって泥の様に眠った。


エピローグ

 昼過ぎに起きだして一行は座長の部屋へ向かい、彼から成功報酬として前金を除いた残りの報酬を一人当たり100G受け取った。

 座長は相変わらず疲れた顔をしていたが、最大の心配事が取り除かれた今、公演前の張りのある緊張感に支えられて 前よりずっと元気に見える。司会用の正装と舞台栄えするように施された化粧のせいかもしれない。泥鰌髭がより強調されて描かれていた。

■テント小屋(座長の部屋)
☆From:座長 To:イスカ達
 本当にありがとう。
 一番良い席を用意させたから、よかったら公演を観ていってくれないか。

 ドリーンの案内によってパーティは舞台の方へ向かった。 テントの前は沢山の公演を観に来た人でごった返している。待ち行列の側を歩きながらミュンが ドリーンに声を掛ける。

■VIP席
☆From:ミュン To:ドリーン
ドリーンさん。ちょっとよろしいでしょうか?

■VIP席
☆From:ドリーン To:ミュン
はい?

 ミュンがドリーンの隣に並ぶ。ドリーンは首をかしげながらミュンの方を仰ぎ見た。

■VIP席
☆From:ミュン To:ドリーン
どうやら今回の件は、この間教えて頂いた、例の「団長がメンバー各自の お金を貯めていた事を皆に内緒にしていた」ということに原因が有ったよう なのです。ここまできたら、団長の方から言っても言い訳にしかならない でしょうから、貴方からダーナさんたちにそっと教えてやってもらえない でしょうか。そうすれば誤解もとけて、本当の意味でダーナさん達が戻って 来られると思いますから。。。

■VIP席
☆From:ドリーン To:ミュン
ええ、わかりました。私の方からみんなに伝えます。

■VIP席
☆From:ミュン To:ドリーン
よろしくお願いしますね。

 パーティ一行はテント内の舞台に一番近い特等席についた。

■VIP席
☆From:ドリーン To:ALL
 公演、楽しんで下さいね。

 すぐにでも仕事に戻らなくてはならないのだが、なんとなく離れがたいらしい。開幕まで、と 言っておしゃべりを続けた。戦いの時の話になると、怖いのかすこし首をすくめるようにして聞いている。 そして心配そうにルタードの方を向いた。

■VIP席
☆From:ドリーン To:ルタード
 お怪我は無かったですか?

 テント内は沢山の人の声が飛び交いかなりうるさい。ドリーンがにっこり微笑んで、ルタードの耳の側へ口を寄せた。

■VIP席
☆From:ドリーン To:ルタード
 私、昔まだこのサーカスに入る前に貴方と良く似た人と会った事あるんです。
 困ってる時に助けてもらって、貴方を見た時すごくなつかしい気持ちに・・・あ・・・

 公演開始のベルが鳴った。ドリーンはパーティ一行へぺこりと挨拶をすると、 慌てて自分の仕事に走って戻って行ってしまった。

 ルタードは声をかける間もなく走り去ってしまったドリーンのほうを、しばらく見つめている。
その鳶色の瞳には、戸惑いと照れ、そして微妙なうれしさとが交錯している。やがて彼は、 表情の選択に困ったまま、舞台のほうに目を向けた。

 華やかな音楽にのせて飾りたてられた馬が舞台の端を廻る。同じく華麗な衣装を身につけたダーナや エルヴィラが馬の上から観客に挨拶をする。
 馬が順番に袖へ消えると続いて座長が口上を述べる。
 これまで見ていた座長より一回り大きく偉そうに見える。次々に出し物を紹介して行く。

■VIP席
☆From:ヴィクター To:ALL
・・・でもちょっと残念だよね
なにがってキラキラの衣装着て舞台に出るのも楽しそうだったしさ
(肩の上のリッキーも少し残念そうに見える。スターの座を狙っていたのかも知れない(笑))

 ネリーの鮮やかな鞭捌きで動物が踊り、芸を披露する。猛獣がおとなしく芸をする様子を見て観客が喝采を送る。
 ひときわ大きな拍手が湧き起こり、ダーナがポーズを取って出てきた。
 テントの中、高く張られた綱の上を軽やかに渡っていく。華やかに笑顔を振りまく様子は本当に天使の様だ。
 途中、ロビンとニコラス兄弟の余興で間を繋いで、演目は一番の出し物である空中ブランコへ続く。
 やはり綱渡りと空中ブランコはこのサーカスの一番の出し物らしく、観客はとても楽しみにしていたようだ。

 夢の様な時間が過ぎ、公演は大成功のうちに終了した。

 公演が終わると、パーティ一行は座長に挨拶をして、酒場の主人に依頼を終わらせた事の報告がてら、銀の網亭へ 戻る事にした。こうしたまめなケアが次の仕事を産むのだ。マメと冒険者・・・あまり似合わない組み合わせでもあるが(笑)

まだ公演の余韻もあって興奮覚めやらぬ様子でヴィクターがみんなに語り掛ける。

■帰り道
☆From:ヴィクター To:ALL
はぁ〜、なんか凄いわくわくどきどきしたよね。次の冒険も楽しいといいなぁ

 リッキーも肩の上で飛び跳ねている。

 銀の網亭に到着すると、そこには思っても見ない待ち人が待っていた。

■銀の網亭
☆From:テネシア家からの使者 To:イスカ
イスカさま! やっと見つけました。至急、お戻り下さい。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:使者
なんだって? テネシア家とオリシア家の確執はなくなり、 私がいなくとも何も問題はないはずじゃなかったの?

■銀の網亭
☆From:使者 To:イスカ
それが・・ナディアさま(イスカの姉)が倒れられたのです。 イスカさまが旅立たれてまもなくのことです。 両家の平和を望まない何者かによって毒を盛られたらしいのです。 つかの間の平和は破られました。どうか、お戻り下さい。 そしてもうひとりの嫡子として、テネシア家をお守り下さい。

 唇をかみしめ、うつむいていたがようやく顔をあげて皆の方へ向き直った。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:All
・・そういうことだ。残念ながら、みんなとはお別れしなければ。 せっかく自由な冒険の旅に一歩を踏み出したところだったのに・・。
でも、きっとどこかでまた会えるはず。 みんなの活躍の噂に、いつでも耳を澄ましているよ。

■銀の網亭
☆From:ヴィクター To:イスカ
えっ、イスカ姉ちゃん。どこかに行っちゃうの?

 リッキー共々きょとんとしている。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:ヴィクター
そうなんだ。ヴィクター君が一人前の魔法使いになるところを 見届けられなくてごめん。でも、必ず戻ってくるから。 そのときまで私のことを忘れないでね、リッキー君もね。

■銀の網亭
☆From:ヴィクター To:イスカ
うん!オレ絶対忘れないよ!イスカ姉ちゃんが帰ってきたときにオレの魔法一番 に見せてあげるよ。だから、オレのことも忘れないでね。もちろんリッキーのこ ともね

 自分で言っていてなんとなく悲しくなってきたのか少し涙ぐむ。

■銀の網亭
☆From:ルタード To:イスカ
……それはまた、ずいぶんと急な話じゃの。しかし、そうした事情があるのならば、 仕方ありますまいな。

イスカどの、あまりにも短い間じゃったが、そなたと一緒に冒険者として仕事ができたのは 幸せじゃったと思います。こんなことをわしごときが申すのはおこがましいが、 「オラン雑技団」のかしらとしてのはたらきぶり、お見事でしたぞ。きっとそなたならば、 お家の難局も必ずや立派に乗り切ることができるでしょう。わしも蔭ながら、 イスカどのの活躍とお家の繁栄を心より祈っております。
そうそう、今度お会いするときには、 ぜひご自慢の弓の腕を披露していただきたいものですな。

 そういうと、ルタードは手袋を外して右手を差し出した。イスカはしっかりと握手を交わす。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:ルタード
ありがとう。あなたはほんとうに立派な神官戦士だ。正直、私よりも ずっとリーダーらしかったよ。また会いましょう。

 ミュンがせせらぎに似た心地よい音の言葉でイスカに語り掛ける。 ミュンと彼女だけが理解できるエルフ語だ。

■銀の網亭
☆From:ミュン To:イスカ
また合えるでしょう。我々の持つ時間は大きいものですから。 その時また、一緒に冒険をしましょう。透通った氷の奥に熱い炎を 持つひとよ。それは我々エルフが忘れて久しいものかもしれませんね。

 彼はイスカに向けてやわらかな笑顔を浮かべていた。ミュン自身はまだ気がついていないが、 それはパーティを組んだ最初の頃に水の精霊に見せた笑顔と同じものであった。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:ミュン
炎を持つひと・・この私が? そんなことを言われたのは、初めて・・。
・・ありがとう、その言葉を大事にします。おかげでこれからの道を くじけずに進んでゆけるような気がするから。

 そういってイスカも同じ様に微笑み返した。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:バティ
何もかも、ここでバティさんが声をかけてくれたところから 始まったのか。だけど私は、まだそのストラトとやらを ちゃんと聞かせてもらっていないな。よし、絶対に 戻ってきて聞くからね。家を這って抜け出してでも 戻ってくるから、練習しておいてくださいね。

■銀の網亭
☆From:ジャン=バッティスタ To:イスカ
わかったぜ、いつでもまってるからな。しかし・・・這ってくるとなるとそのきれいな鎧も服も泥だらけになっちまうなぁ。

■銀の網亭
☆From:イスカ To:ユリ
これでお別れじゃないから、またすぐ会えるから、待ってて。 次に会うときは、きっと見違えてるだろうね。 そのときはユリの歌・・もう一度聞きたいな。

■銀の網亭
☆From:ユリ To:イスカ
 そうなの。残念です。
 今回みたいな事はもう懲り懲りですかど、私も人並みに出来たから...。
 だから、困っている人の力になりたいから。
 本当はイスカ様について行きたいのですけど、私じゃ、力になれないし....。
 私、イスカ様が戻ってくるまで待ってます。
 私に出来る事を精一杯がんばって。ぐすん。

 最後の方の言葉は涙がにじんでいる。

 カウンターの奥から酒場のおやじが出てきた。

■銀の網亭
☆From:おやじ To:パーティ一行
 おや、おかえり。依頼は無事完了したのか?
 ま、詳しい話は後だ。のんびり聞かせてもらうよ。報告?酒を飲みながらでもできるんだろう。
 完了祝いで酒場亭オリジナルを飲みながらなんてどうだい?
 ああ、酒が飲めない奴もいたっけな。茶も用意するさ。

 昼下がりの酒場にはまだ客もいない。一同はテーブルにつくと、イスカと別れの杯を酌み交わした。

 ミュンはほんの少しくすぐったいような甘い感情と共に、共に冒険した仲間達を見つめる。
 始めて得た外の世界の友人達。何もかもが理解の外だった彼らの感情が今、とても近しく感じられる。
 心地よい酔いに身を委ねながら、ひとり精霊の友へ語り掛けるようにつぶやいた。

■銀の網亭
☆From:ミュン 
もしかすると僕は答えに近づいたのかもしれません。

 銀の網亭のいつもの夜が始まろうとしていた。

END

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