SW-PBM #172
“死にたがり”のメアリ

■ メアリとの出会い ■
Prev page #175 Index Next page

【 フランネル邸 】

本来、この辺りに住まうような階級の者たちは馬車を使っているのだろう。
緩やかではあるが長い坂道を登り、背中に汗が滲むのを感じ始めた頃にようやく頂上広場へと到達する。
坂の途中から目に付き始めた空き家は広場の前まで来るとさらに顕著で、見渡す限り殆ど全ての屋敷の門は固く閉ざされ「売家」の看板が掛かっていた。
それでもここから目に映る眺望だけは変わることはなく、360度に広がるパノラマは絶景と言えた。

フランネル家はその広場に面し、ここまで登ってきた坂の真正面。広場中央の止まって久しいと思われる噴水を挟んだ向こう側に建っていた。
■ジン To:ALL
ふむ。この国にこんな場所があるとはな。

■シロノワール To:ALL
場所だけ見ればとてもいい立地だと判断します。
それだけに、「売家」の看板が並ぶのは異様な光景ですね…。

■クローエ To:ALL
でもこんなに長い坂道の上では、お買い物がつらいわねえ。
さて、お店の方の言っていた、売家になっていない建物は…

一見した印象は、本当にここに人が住んでいるのだろうかと不安にさせるほど寂れていた。
外壁の塗装は剥げ落ち、中庭の植木は手入れされる事もなく好き放題に伸びている。門扉には錆が浮かび、手で触ってみればボロボロと崩れそうだ。
雨漏りでもするのではないかと思わせる痛んだ屋根の上では、風見鶏がカラカラと物悲しげな音を立てていた……。
■アイライ To:ALL
ここ...でありんしな。

もっと豪華な屋敷を想像していたアイライは、目の前の寂れた風景とのギャップに戸惑いつつ、門扉の前から屋敷の様子を伺う。
■カラレナ To:アイライ&ALL
ひどい状態ですね……。
本当に、誰か住んでいるんでしょうか……?

■クローエ To:カラレナ
この家だけ売家の看板がなかったのは、確かですけれどねえ…

玄関の扉に、風雨に晒されて文字の掠れた羊皮紙が張られている事に気が付く。
そこには「これ以上立ち入ると、あなたの身に災いが降りかかります。引き返してください」と書かれていた。
■シロノワール To:ALL
ん、…忠告文を貼るとはご丁寧なことですね。
この筆跡はあの依頼書と同じでしょうか?

シロノワールが身を乗り出して文面をじっと見つめる。
掠れて半ば消えかかったような文字は非常に判別に苦労するものだったが、記憶にある依頼書の文字とは違う筆跡だと思えた。
■シロノワール To:ALL
……ん、と、どうも違う方が書かれたものの様だと判断します。
この家の方のどなたかでしょうかね。

■ジン To:ALL
依頼を出しておいてこれでは困ったものだな。
このくらいで恐れるようなものは、依頼を受ける資格もないということかな?
とりあえず・・・呼び出してみるか。

杖の先を使って、扉をノックしてみるジン。
■ジン To:屋敷の中の人
どなたかフランネル家の方はいらっしゃいますか?
我々は銀の綱亭から来た者です。
依頼書のことについてお聞かせ願いたい。

しかし、ジンのノックと訪問の声に反応はない。
代わりに鍵が掛かっていなかったのか、ノックした拍子にギイィ……と耳障りな軋み音を立てて、玄関扉がひとりでに開かれた。
覗いてみると屋敷内は薄暗く、所々にある窓から差し込む日の光だけが光源となっているようだ。
床には何年も掃除していないのだろうと思わせるほどに埃が溜まっていて、1F奥や2F階段へと続く通路には踏み荒らされた形跡はない。
唯一、一組の靴跡だけが向かって左側の通路へと続き、恐らくは地下への階段なのだろうと思われる手前で途切れていた。
■クローエ To:ALL
わわ…勝手に開きましたよぅ?

びくつくクローエ。
■ジン To:クローエ、ALL
…まあ、最初から開いていたんだろう。
奪われて困るものなどないということか。
それとも、押し入られても追い返せる自信があるのか。

■シロノワール To:ジン、ALL
もしくは来訪者なんてくるはずがない、でしょうか。
それにしても随分掃除のし甲斐がありそうな場所です。

アイライが少しだけ前に立ち、靴跡をじっと観察する。
何度も往復しているようだが、それらの靴跡は全て同一のようだ。恐らくは、同じ人物がこの通路を頻繁に通っているという事だろう。
埃の積もり具合から一番新しい靴跡はつい最近……昨日今日に付けられたものではないかと思えた。
■マリィ To:ALL
誰も出てこないなら、そこの靴跡を辿ってみるしか無いですね。
おそらく……”彼女”が歩いた跡でしょうから。

■カラレナ To:ALL
その前に……ちょっと待っててくださいね。

カラレナは周囲の精霊たちの動きを探った。
そしてさらに、ドアにそっと近づき耳を澄ませてみる。
■シロノワール To:カラレナ
………(じーっ)

声を出しては邪魔してしまうので、身動きしないようじーっと視線で応援。多分。
精霊の働きにおかしなものは今のところは無いようだ。見た目ほど古い建築ではないのか、ブラウニーの存在は感じ取れなかった。
続けて目を閉じて聴覚に集中するが、気になる物音も聞こえてこない。
耳に届くのは、どこかの柱を走るネズミらしき小動物の足音のみだった。
■クローエ To:カラレナ
…どうですか?

■カラレナ To:クローエ&ALL
う〜ん、ネズミさんの足音くらいしか聞こえないです……
精霊力も、おかしなところは……今のところないですし。
だまって入っていくのは、気が引けますけど……行ってみるしかないですよね……。

そう言うと、警戒しながら一歩ずつ、屋敷の中へ足を踏み入れた。
相当に注意を払って踏み出した足だが、それでもギシリ、と床の軋む音が耳に響く。
自分と同じだけの技量を持つ盗賊ならば、という条件は付くが……今の音で、侵入に気付かれたかも知れない。
ゆっくりと周囲を警戒しながら歩みを進めるが、どうやら罠の類は無さそうだ。
一歩ごとに不気味に響く床の音に気を遣いながらも、どうやら何事も無く地下への階段へと辿りつく事ができた。
■カラレナ To:ALL
おかしな仕掛けは、無いみたいなので……みんなで行きましょう。

■マリィ To:カラレナ&ALL
はい。分かりました。

■アイライ To:カラレナ&ALL
は〜い・・・あ。

後をついて行こうとしたアイライがよろけた。靴紐が切れたらしい。
急いで紐を結び直して仲間の後を追う。
■クローエ To:アイライ
あら、大丈夫?

■シロノワール To:アイライ
アイライ様、そんなに慌てて不幸っぷりをアピールせずとも…。
噂が本当であれ迷信であれ、アイライ様はこう、引き寄せそうなタイプですよね。

殿を歩きながら、アイライの背中を見てぽつりと感想を述べる。
■アイライ To:シロ
え、いや、それほどでも...。

何を聞き間違えたのか、なぜか照れる。
■ジン To:カラレナ
カラレナであれば人工物などの罠は問題ないだろうが・・・くれぐれも気をつけてくれよ。

■カラレナ To:ジン
あ、はい。大丈夫ですよ〜。
ありがとうございます。

ジンに向かってひとつ頷くと、階段の下へ目をやった。
■カラレナ To:階段の下
すみませ〜ん、メアリさんいらっしゃいますか〜?
銀の網亭の冒険者です〜。
おじゃまします〜。

そう呼びかけながら階下へ降りて行く。
一段ずつゆっくりと踏みしめながら降りていった先には、元々あった扉が壊れて撤去されたのだろうか。
歪んだ蝶番を残し、ぽっかりと暗い口を開けたかのような出入り口が見えた。
そしてその先には、元は倉庫としての用途にでも使われていたと思われる、地下の空間としてはかなり広い間取りを取った部屋があった。
今は物も無くがらんとしたその部屋は、僅かに取られた採光用の窓から漏れる光でようやく奥まで見渡せるかといった具合だ。
■少女
………………。

その部屋のほぼ中央に、粗末な木の椅子に腰掛けて彫像のように佇む一人の少女が居た。
腰まで伸びた長い黒髪に、まるで日差しを浴びていないかのような透き通った白い肌。
膝丈の白いワンピースは大分着古しているようで、ところどころにほつれが見て取れた。
……彼女が依頼人のメアリ、だろうか。
気配に気付いたのか、長い睫毛が震え、伏せられていたまぶたがゆっくりと開く。侵入者の存在を認識すると、その口から一見した印象の通りといった感じのか細い声が漏れた。
■少女 To:ALL
ん……どなた、です……か……?

■アイライ To:少女
あ・・・えとアイライと申しんす。
銀の網亭から来たでありんす。
依頼人のメアリさん・・・でありんすか?

■メアリ To:アイライ>ALL
はい……。わたし、が……メアリです。
銀の網亭……えと……うん。昨日の、あのお店……。
それじゃあ、あなた方が……わたし、を……殺してくださる……の、ですね……?

ひとつ、ひとつ。言葉を選ぶようにして、ゆっくりと喋る。
■アイライ To:メアリ
あ、いや。まだ依頼を受けたわけでは無いんす。
その…どうして、殺して欲しいなんて依頼を出したのか、教えて欲しいでありんす。

■クローエ To:メアリ
冒険者は確かに何でも屋ですけれど、それなりに仕事は選んでいるものなんですよ。
まずはメアリさんの力になれるかどうか、お話を伺いたいの。
ああ、わしも自己紹介しておかないとね。クローエと言います。よろしくね。

クローエはほかのメンツにも、身振りで自己紹介を促す。
■マリィ To:メアリ
わたしはマリーラナ。マリィで良いわ。
神官をやっているので、何故貴女がああ言う依頼を出したのか、それを聞きたくて来たのよ。

■カラレナ To:メアリ
カラレナっていいます。精霊使いです。
私たちみんな、あなたを心配して来たの……。

■シロノワール To:メアリ
僕はシロノワールと申します。
マリィ様もおっしゃっていますが、僕も神官をしておりますのでこういう依頼は正直承服しかねます。
ただ、そこまで書くからには何かしらのやんごとなき事情があるのではと思いましたので、こうして伺ったのです。

■ジン To:メアリ
俺はジンだ。それはそうと、表に張り紙があった。
「これ以上立ち入ると、あなたの身に災いが降りかかります。引き返してください」
とね。
君が張り出したものか?
いたずらなら、ひどい事するやつもいるものだ。
すぐに剥がしてくるが。

■メアリ To:ジン
いえ……あれは、わたしの母が、書いたものです。
「知らずに踏み込んで、余計な災難を背負わせるわけにはいかないから」と……。
ですから、あれはあのままで……結構です……。

■ジン To:メアリ
・・・そうか。ならば何も言うまい。

ぽつり、ぽつりとメアリは言葉を紡いでいく。
■メアリ To:ALL
わたし、は……生きているだけで、周りの人たちに迷惑を掛けてしまいます……。
自分の意思に関係なく……不幸を振り撒いてしまう……それが、わたしに科せられた、呪い。
これ以上、不幸を広げないためにも……皆さんを困らせないためにも。
わたしは、……死んだ方が、いいんだ、と……考えました。

■クローエ To:メアリ
呪い…?

■マリィ To:メアリ
生きている人で、周りに迷惑を掛けない人は居ないわ。
呪いなら呪いで、何故その呪いが掛けられたか。
それを調べれば解除出来る可能性があるかも。
まだ、結論を出すのには早いわ。
一度わたし達に預けてみてくれないかしら?

■メアリ To:マリィ
……ん、と……。ダメ、なんです……。
わたしが、死なないと……この呪いは、解けないって。
そう、言われたから……。

■カラレナ To:メアリ
それは……誰に……?

■メアリ To:カラレナ
……えと……。

言葉を区切り、不安げに中空に視線を彷徨わせる。
その時、一瞬の間の後に……メアリの座る空間の背後がゆらりと歪んだ。
■??? To:ALL
それはね……僕が、そう言ったのさ。

気付けば、薄暗い部屋の闇に溶け込むようにして、その「男」は立っていた。
いや、男と評するのは間違っているかもしれない。
血の通っていないような青白い肌。口元から覗く牙。紅色の瞳。
そして、頭髪の隙間から生えた山羊のような角と、背中に広がる蝙蝠型の翼……。
それは明らかに、人間とは異質な容貌だった。「男」と呼称したのは、その雰囲気と自身を「僕」と呼んだ事からに過ぎない。
■シロノワール
(…その場合、僕の立場はどうなるのでしょうか)

ト書きにつっこみ(?)

Prev page #172 Index Next page

GM:倉沢まこと