パーマー邸・地下室 |
ウーサーはコック長を上手く丸め込んで、地下のワインセラーで作業する許可を貰った。
勿論コック長も同行している。
■ウーサー To:コック長 |
すみませんね、我侭を通させていただいてしまって。z しかし私も、不満足なものを作ってしまって、東方でようやく見つけたせっかくの仕事場を逃したくはないのですよ。 それに、よもやコック長殿まで同行戴けるとは……こんな遅い時間ではお疲れでしょうに、本当に申し訳ありません。 |
元より屋敷の地下を調べること、そして屋敷の人間――現場責任者という立場から、執事かコック長で間違いないと睨んでいたのだが――を最低一人でも引き付けておくことを目的とした「我侭」だったのだが、そんなことはもちろん表に出さない。
■コック長 To:ウーサー |
まあ、この方が良い物が作られると言うなら仕方無いさ。 俺も眠いんで、手早くやってくれると助かるがな。 |
■ウーサー To:コック長 |
本当にすみません。可能なかぎり早く……とはいえ、貴方は明日は、何時起きですかな? 実は、自分が以前手伝っていた店では夜通しで明け方まで、交代で休憩しながら作業していたものですが……。 |
大きな身体をことさらオーバーアクション気味に動かしてコック長の注意を引きつつ、調理の支度を整えていく。
2人が話し込んでいる後ろを、メイシアスがこっそり階段を降りてきて物陰へと隠れる。
■メイシアス To: |
(ワインも種類があると覚えるの大変そうですね〜 あ、ウーさ〜ん) |
コック長の死角からウーサーに手を振り、「しーです」と唇に人差し指を当ててから再び物陰に引っ込んでいった。
■ウーサー To: |
…………(おいおい、余裕だな!? 見つかるんじゃねえぞ〜!) |
ウーサーは取り出していた泡立て棒を何気ない仕草を装ってちゃかちゃかと振り、引っ込んでいくメイシアスに陰ながらの声援を送った。
■コック長 To:ウーサー |
何時もは5時起きだけどよ、お前さんが今仕込みをやってくれてるから、6時で充分だな。 しっかし、夜も交代で働くとは中々凄え店に勤めていたんだな。 |
■ウーサー To:コック長 |
いえいえ、店主が身の丈に合わない経営をしていたというだけですよ……どれだけ繁盛しても、「できるかぎり自分自身で手をかけたい」というポリシーから、厨房に入る人間をギリギリまで削っていたのです。 おかげで無理をかけられて、職人の入れ替わりが激しかったですな……ああ、ええと、おそらく2時間ほど戴ければ、すべての工程が終わります。あとは仮眠をいただいて、明日朝の仕上げとなると思いますので。 |
まずは翌日用の生地づくりを進めながら、ウーサーはコック長の就寝時間から逆算し、作業時間を「午前0時」と定めた。
■ウーサー To:コック長 |
ところで、この家は猫を飼っていたり、しませんかな? ネズミは出ますか? 実は私、ちいさな生き物が苦手で……。 |
ファミリアーの存在を警戒し、探りを入れてみる。
■コック長 To:ウーサー |
猫は居ないよ。 レオノフ坊ちゃ――レオノフ様が魚を飼うのが好きでね。 猫は魚を食っちゃうだろう? だから、屋敷には極力入れない様に言われてるんだ。 鼠は見つける度に叩き出しているから、居るはずは無いな。 |
コック長がそこまで話した時、施錠されている筈の隣の部屋から、バシャンという水音が四つ聞こえた。
■ウーサー To:コック長 |
おや。 随分大きな魚を、飼っておられるのですね。アレですか、イルカか何かですか? |
あえて落ち着き払った口調で、何気なく話を切り出す。
■コック長 To:ウーサー |
いや、そんな物は居ないはずが……。 参ったな、開けて確かめようにも、そこの扉の鍵ははレオノフ様しか持っていないんだ。 それに、その部屋には「誰も入るな」と言われて居てな。 |
■ウーサー To:コック長 |
まさか……曲者、でしょうか? ここはレオノフ様を呼んできたほうが……いや、でもそれだと、曲者が扉を内側から開けて出てきて、逃げてしまうかも……? |
最悪の事態を想定しつつ、すこし怯えた風を装うように気をつけながら、ゆっくりとした口調でコック長に切り出してみる。
■ウーサー To:コック長 |
どうでしょう、私が此処で見張っていますから、貴方がレオノフ様や、他の方々を呼んできていただくのは? |
■コック長 To:ウーサー |
分かった。ちょっと行ってくる。 |
コック長は慌てて上に上がっていった。