港と船乗りと桟橋と
降り続くやさしい雨に頬を打たれながら、シグナスとリコリスは昨夜歩いた道を戻り、港へと向かった。
しっかりと固められた土にはまだ水たまりはできていないが、このまま降り続けたらドロドロになってしまうだろう。
大都会オランの石畳のありがたみがわかる瞬間かもしれない。
港の桟橋では、たくさんの船乗りたちが忙しく動き回っている。
威勢のいい声が響き合い、ちょっと声をかけづらい雰囲気だ。
そんな中、目の前の桟橋でフレンジィ号のメンテナンスにいそしむハノクの姿を見ることができた。
■ハノク To:リコリス&シグナス
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おーう! 昨日ぶりだな。身体はしっかり休まったか!?
なんかライチの奴から、俺に聞きたいことがあるって聞いてるんだが?
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■リコリス To:ハノク
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おはよう〜。ハノハノさんは朝から忙しそうだね〜。
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キーの高い笑い声がした。
ハノクから少し離れた桟橋に、腰を下ろした小さな男の子がいる。
膝の上には何やら薄汚れた羊皮紙を広げていた。
■男の子 To:リコリス&シグナス
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こんにちは、ナギです。
おとうさんが、おせわになってます。
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ぺこっとおじぎ。
ハノクは一人息子だと教えてくれた。
■シグナス To:ナギ、ハノク
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ああ、こんにちわ。俺はシグナスだ、船の上じゃ此方こそ世話になったよ。
船の上で魔物に教われたじゃん。アレの群っぽいのがこっちの方に飛んでって見えたんだ。
んで、港の方で何か目撃者でも居ないモンかと思ってね、探しに来てるんだ。
何か、心当たりとか無いかな?四六時中釣りしてるとか灯台守みたいなのとか。
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■ハノク To:シグナス
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ああ、俺は見てないが液体に変わっちまったっていう、変なモンスターか。
今朝の様子じゃ、噂になってるって訳じゃないようだから、あんたら以外に見た奴はいねぇようだなぁ。
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■ナギ To:シグナス
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あの。
ぼく、ずっと桟橋で絵、描いてたけど、モンスターとか見てないです。
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膝の上の羊皮紙は、スケッチ用らしい。
■シグナス To:ハノク、ナギ
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そっか、サンキュー。
態々船を襲ってきたし……街から離れてるのか、それこそ海の中かあ。
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■リコリス To:ナギ、ハノク
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こんにちは。リコはリコリスっていうの、よろしくね。
おとうさんの船、とっても早くてかっこよかったよ。
あ、リコはね、オランの図書館の本を無断で持ち出した人を探してるの。
あの魔物もその人がかかわっている可能性もあるし。
それでね、船長さんにここ1、2ヶ月ぐらいにイーンウェンに来た人を教えてもらいにきたの。
あ、お出かけしてて帰ってきた人も教えてね。
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■ハノク To:リコリス
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ああ、そのことだったら今朝確認しておいたぜ。
だいたい1カ月ごとに護衛付きの商船が来るんだが。
ほとんどはエレミアかオランに、同じように護衛として戻っているな。
戻った記録が無いのは、半年前にオランから来た商船の護衛。
人間の男の戦士と、女の魔法使いと、女だか男だかよくわからん草原の妖精族。
この3人だったって話だな。
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■シグナス To:リコリス
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半年前、ってのはちょいと昔過ぎるな……陸路で来てるのか、ここよりオラン側かだろう。多分。
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■リコリス To:シグナス>ハノク
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うん、そうだよね〜。
陸路でこの町に入るときの門とかってどこかにある?
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■ハノク To:リコリス
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門ん?? いやぁ、こんな田舎町だ、囲いも門もねぇさ。
海と、野生動物がうじゃうじゃの密林が天然の壁になっているしなぁ。
もしそれを越えて来ようとする奴がいたなら、よっぽどの猛者か、物好きな変態だな。
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さらさらと木炭を滑らせる。
ヒョウ柄パンツ一枚で樹から樹へ飛び移る人間の絵。
なかなか上手い。
■リコリス To:ナギ
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うっわぁ〜、すごく上手な絵だね〜。
これが「へんたい」なんだ〜。
実際に見たことあるの?
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■ナギ To:リコリス
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(首をふりふり)ううん。
『たーざん』っていう絵本に出てくる、たくましいせいねんなの。
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褒められて嬉しそう。
■リコリス To:ナギ
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そっか〜。ターザンっていうたくましいせいねんのへんたいなんだね〜。
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微妙に誤解は解けていない。ナギもよくわかっていない。
■シグナス To:ナギ、リコリス
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うん、まさしく変体だが俺はこんなん探したくは無いぞ。と言うか色々おかしいぞ。
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■ハノク To:リコリス&シグナス
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そのオランの本ってなぁ、いつごろ無くなったんだい?
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■リコリス To:ハノク&シグナス
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えっと、最近…だっけ?
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■シグナス To:リコリス、ハノク
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ん……詳しい時期は聞いてなかったな。けど紛失扱いだから……借りてった訳じゃないだろうし。
少なくとも一月前後じゃねえかなあ。借りてたら無くなってても不審じゃないし。
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■ハノク To:シグナス
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案外、無くなってることに気付いたのが最近、ってオチじゃねぇのかい?
はっはっは。
まぁ、何にせよ見つかると良いな。
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■シグナス To:ハノク
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学院の司書ってビブリオマニアとか居るから、その辺ちょっと察し辛いんですよねえ……。
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■シグナス To:ハノク、ナギ
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ああそうだ、この辺で魔法の絵筆の伝承とか残ってるの、知らないかな?
今じゃシンメって白馬か、ウズマキって言う捩れた樹の話になってるかも知れないらしいけど。
……この街で昔の事調べようつったら、何処か良いとこあるかな?
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■ハノク To:シグナス
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……???
なんのこっちゃかさっぱり分からんが、白馬ってなぁ「幸運の白い馬」のことか?
確か武道会の賞品になってたはずだな。
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■ナギ To:シグナス&リコリス>ハノク
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海竜祭っていうお祭りでね、イーンウェンでいちばん強い人を決めるの。
おとうさん、今年は出ないの?
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■ハノク To:ナギ
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とうちゃんは、去年惨敗したからな……。
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■リコリス To:ナギ&ハノク
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お祭りっ、いいな〜。
それっていつあるの?
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■ナギ To:リコリス
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あしたから、3日間続くの。「白波通り」の公園で。
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港や宿からも近い、割と大きい公園だという。
■シグナス To:リコリス
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よし、ウーサー放り込もう。
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■リコリス To:シグナス
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え? シグ先輩が出るんじゃないの!?
あ、でも、ウーさんなら出てくれるかも。
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■ナギ To:シグナス&リコリス
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ペアでも出れるんだよ〜。
ぼく、応援に行きます♪
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■シグナス To:リコリス、ナギ
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いやまあ単純にウーサーの方が向いてるってのもあるけどな。俺は基本魔法使いだし、この手の大会に出るのはフェアじゃねえよ。
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■ハノク To:ひとりごと>シグナス&リコリス
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いや、魔法使いも出ていいんだぜ? 戦士と魔法使いのペア部門ってのもあるしな。
ただ魔法使いの腕によっては反則的に強くなっちまうけどな……。
ああ、というわけで絵筆だか渦巻きだかについては、聞いたことも無いぜ?
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■シグナス To:ハノク、ナギ
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んーまあ上下の差が激しいからなあ。古代語は兎も角、精霊魔法は存野でも腕良いの多いしな。
あれ、サッパリってレベル!?
……んじゃイーンウェンが昔、虹で魔物を退けたとか、そんな話は聞き覚えないん?
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■ハノク To:シグナス
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何だ、そのメルヘンな話は??
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ナギも首をふるふると横に振っている。さっぱり知らないようだ。
■シグナス To:ハノク、ナギ
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……あっれー?んじゃこの街で昔話に詳しい人って誰か居ます?
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■ハノク To:シグナス
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そうだなぁ、移動図書館のハホリーナさんあたりか?
長生きしてて、かつ生まれも育ちもこの町だって噂だしな。
ライチもエルフだけに歳いってるんだろうが、あいつは小せえときから町を留守にしてることのほうが多かったからなぁ。
……ライチのおっかさんが生きてりゃ、この町一番の長寿だったはずだがな。
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■シグナス To:ハノク、リコリス
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おっかさんの方が人間だったって事か。しかし、そうなるとなあ……街道沿いの出入り口でもぶらついて見ますかね?
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■ハノク To:シグナス
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いや、ライチはハーフじゃないぜ。おっかさんもれっきとしたエルフだったが、まぁその、なんだ。事故で亡くなってな。
……ああまぁ、この話はいいやな。
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■シグナス To:ハノク
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ああ、そうだったのか。海に出てるからてっきり……イメージから外れてたぜ。
まあ、そだな。あんま深入りするこっちゃねえか。
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■リコリス To:ハノク&ナギ
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去年の優勝者ってどんな人だったの?
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■ナギ To:リコリス
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レヴィーヤちゃんっていう、女の子です。
おとうさんでもかなわなくって……かわいくて、カッコいいの。
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バツが悪そうに目をそらす父の横で、にこにこと顔を赤らめるナギ。
■シグナス
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ぬう、微妙に既知感が……こ、ココはやはりウーサーの出番なのじゃよぜぇ……
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■リコリス To:ナギ
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確か、「はがくれや」って移動図書館があるんだよね〜。
ナギくん何か知ってる?
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■ナギ To:リコリス
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うん、いちどだけ見たこと、あります。
墓地で。
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■ハノク To:ナギ
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……なぜそんなところに行った。
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■ナギ To:ハノク
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あぅ、ご、ごめんなさい。(TT)
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父の低い声の前に、小さくなって口をつぐんでしまうナギ。
■リコリス To:ハノク、ナギ
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ハノハノさん、そんな頭ごなしに怒らないで、ね、ね。
ナギくん、何か理由があっていったんだと思うし。
そうだよね?
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■ナギ To:リコリス
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は、はい。
レヴィーヤちゃんたちと、スケッチしに──。
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■ハノク To:ナギ>独白
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すけっちだぁ!?
くぅ……俺はよぅ……お前を一人前の船乗りに育て上げるのが夢だってのに……なんだってお絵描き好きになっちまったんだよぅ……
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ナギには聞こえない小声でぶつぶつと。
■シグナス To:ハノク
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まあ、親の後付いて行くだけが男の道でも無いっしょ。
……寧ろ既にデート済みな辺り甲斐性は在ると見たね。
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これでも慰めているつもりである。
■ハノク To:シグナス
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くっ……「甲斐性がない」と言われて嫁に出て行かれた俺の古傷をえぐるようなセリフをッ……!!
いやすまん、みっともないところを見せてしまったな、はっはっは。
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目の端に涙が浮かんでいた。
■シグナス To:ハノク
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船乗りなら街毎に港作るくらいが甲斐性なんじゃろか……。
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■リコリス To:ナギ
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ところで、それって何時頃の話? 今から行って会えると思う?
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■シグナス To:ナギ
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そもそも移動図書館、っての自体ピンとこねえからなあ。外観も教えてくれ。
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■ナギ To:リコリス&シグナス
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えっと、見たのはうんと前です。1年くらい。
でも、時間は今ぐらいで、今日みたいなお空の色で。
描いたから覚えてるの。
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見上げると、雨を降らせ続ける空は、うす明るい鈍色だった。
■ナギ To:リコリス&シグナス
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お馬さんがひとりで頑張って、馬車、ひいてるの。
まーるくて、紫と黄色のかわいい馬車です。
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言いながら羊皮紙にさらさらと描いてみせる。
一頭立てでやたら丸みを帯びたシルエットの小型馬車のようだ。
ひと一人入ったらそれだけで満席だろう。
■リコリス To:ナギ
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こんなか〜。結構かわいいかも。見てみたいな〜。
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■シグナス To:リコリス
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ふぅむ……こっちはこっちで珍妙なモンだな。こんな……って言ったら悪いけど、珍しい話がココまで重なるってのは考え辛いなあ。
如何する、俺は魔物と伝承の方で聞き込みの場所移すつもりなんだが。
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■リコリス To:シグナス
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ん〜、リコは移動図書館が気になるな〜。
なんか出会えそうな空模様って言ってるし…。
うん、リコ、「はがくれや」さん、探しにいってみる。
とりあえず、墓地かな?
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■シグナス To:リコリス
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それじゃ、そっちで誰か合流するかも知れんし任せるわ。
俺は……当てが厳しいんだが、街の門番とか当ってみるよ。旅人から情報入ってるかも知れないし。
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■リコリス To:シグナス
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うん、わかった。
頑張ってみるね。
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■ハノク To:リコリス&シグナス
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……門番なんていねぇんだが……町の端にはリンゴ畑が広がってるから、陸から誰かよそ者が入ってきたってんなら、畑の人が見てるかもしれねぇな。
まぁ、何の調査だか知らんが、頑張ってな。
俺たちに協力できることがあったら、遠慮なく言ってくれよ!
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ハノクはふたりに、墓地と町の端までの行き方を教えてくれた。
■ナギ To:リコリス&シグナス
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お兄ちゃんお姉ちゃん、また来てね♪
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■リコリス To:ナギ&ハノク
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うん、またね、ナギくん。
ハノハノさん、ありがとうございました〜。
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■シグナス To:ALL>リコリス
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ま、元々当てが少ないんだ。数打つしかねえさ。それじゃ、またなー。
……けど本命そっちになるから頑張ってくれ。こっちもまあ……なるべくなんか拾ってくるよ。
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■リコリス To:シグナス
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じゃあ、シグ先輩またね〜。
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