プロローグ
そのドワーフは満足しませんでした。
何度も絵の具を混ぜては画面に置き、また混ぜては置いてみても違うのでした。
■??? To:ドワーフ
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ねぇねぇ、朝ごはんとっくにできてるよ。スープで暖まったら、外の空気でも吸ってきてごらんよ。
そのまんまじゃ、いまに頭ン中だけじゃなくて、からだごと石になっちゃうよ!
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見かねたちいさな小びとが叫びました。
けれどそのドワーフは振り向きもせず、色と色とを混ぜ合わせるのに夢中でした。
足りないのはなんだろう?
明るい日差し?
しめやかな陰?
多すぎるのはなんだろう?
揺れる花びら?
やまない雨?
そのドワーフはいらいらして、絵筆を折ろうとしましたが、かわりに膝を折りました。
■ドワーフ To:ちいさなともだち
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なぁ、小さなともだち。
残したいのはこんな絵じゃない。
残したいのは目に見えないものでね……。
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すっかり飽きて口笛を吹くともだちを後目に、ドワーフは再び絵筆を画面に走らせます。
力強く、陽気な筆運びで。
それから300年余の月日が流れました。
■女の子 To:ユーミル
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ユーミルおねえちゃん、絵本読んで!
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ある晴れた昼下がり。風に秋の気配が混じってきたころ、いつもの子ども達のおねだりに、リュート弾きの少女は微笑んでこたえた。
■ユーミル To:こどもたち
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う〜ん……じゃあ今日は、とっておき。
院長先生も生まれてなかったころのお話を話そっか。
さぁみんな、まぁるく座って〜。
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ぼろぼろの絵本をそっと開くと、物語をリュートの音に乗せて歌い語る。
足元の木の葉が、リズムを打つかのようにかさかさと風に舞った。
物語は佳境を迎え、そして──
■ユーミル To:こどもたち
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♪ら・ら・ら♪ る・るるる♪
♪……そうして、雨はやんだのでした♪
おしまい。
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たっぷりと余韻を残して、物語の幕を閉じる。そのとき、子どもたちがいっせいに叫び出した。
■女の子 To:ユーミル
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あたし、その絵筆、欲しい〜!
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■女の子 To:ユーミル
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あたしも!
ね〜! もうすぐみんなの誕生日だもん!
プレゼントはこれがいい〜!
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ユーミルは困って目を白黒させた。もうプレゼントは用意してあったし、読んだのは絵本の中の物語だったから。
しかし、その思いを口に出すことは無かった。
■ユーミル To:こどもたち
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わかったっ! まかせといて!!
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きゃーっと歓声を上げる子どもたちの頭を優しく撫でながら、ユーミルはかつて世話になった冒険者の店の名前を思い出していた。
■ユーミル To:こころのなか
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(あたしを助けてくれた、銀の網亭の冒険者なら、きっと……
でも、もっとかっこいい依頼を持っていきたかったなぁ……)
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