去りゆく月影
ダンスホールに、再び静寂が訪れた。
ユズリハがぱっぱっとローブについたホコリを払い落としながら、もう片方の手でうつ伏せになったアバランの背中を指し示しながら言った。
槍の穂先でアバランと鞘を固定するベルトを切り裂く。
命令を受けた石従者は重々しい足音をたてながらアバランに近づき、今や背中に乗っているだけとなった青銅色の短剣を手に取った。
後半は自問自答するかのように、ぶつぶつとつぶやくように語っている。
嘘泣きをしながらしゃがみこみ、床にのの字を書き始める。
ぢーっ、と。
くわッと両目を見開きながら、アールににじり寄る。
感謝の笑みを浮かべ、アールの肩をぽんと叩いた。
詳細な剣の能力を説明する。
先程アリスから手渡された桃を軽く掲げる。
透き通った瞳でそう語ったあと、ばりぼりと白髪の頭を乱暴に掻いた。
ノールがあたりを見回し、不思議そうに目をこすっている。
歪む風景に酔ったらしく、ぐらりとよろめきながら。
必死で両足で踏ん張り。
慌ててベランダへと出る窓の方に駆け寄り、顔を出して外に視線をやる。
ヒノキの言うことがわかったのか、それとも窓の外で舞い落ちる雪を見たせいなのか。
叫ぶ。
落ち込んだ様子で、小さく丸くなる。
ユズリハも皆にならって辺りを見回すが、きょとんとして首を傾げている。
むー…とユズリハ、歪む景色、アバラン、桃とぐるりぐるり見回す。
えい。 しかし、何も起こらない。アバランは変わらず苦しげな浅い呼吸を続け、ぴくりとも動かない。石従者が持つ青銅の剣にも変化は見られなかった。
そこで、ミァの意識は途切れた。
動揺しまくったノールが駆け寄り、空気をかき集めるような仕草をするが、何も起こらなかった。
アバランの動きがしっかりと封じられているのを確認すると、リナリアはヒノキに頼まれていた回復の準備を整える。
そして、今度はリュントとアールが立っていられないほどのめまいを感じた。
アールがそう言った瞬間、アバランの表情に強い緊張が走った。
ジンがそう告げたとき、リュントとアールの意識が途切れ、暗転した。
石従者がゴリッと音を立てて動き出す。
桃が剣の柄に埋め込まれたブラック・ダイヤモンドに触れた瞬間、神聖なる神の力が働いたことが、その場にいた神官たちにはわかった。
ブラック・ダイヤモンドが砕け散り、その瞬間アバランの表情が一瞬だけきょとんとしたものに戻った……かと思われたが、確かめる間もなくすぐにその姿が透明になり、消えてしまった。
そして、ユズリハ以外の全員の意識が闇の中に落ちた。
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