月が屋根にかかるとき
耳をつんざくような巨大魔晶石の破壊音が止むと、地下室は再び静寂に包まれた。
ややあって、石壁越しにでもわかるほどの騒々しい音が一行の耳に届く。爪が石床を蹴る音、獣たちの遠吠えの声、鳥たちのせわしない羽音。
かなり遠く……2階あたりから聞こえて来るような気がする。
やがて、それらの獣たち、虫たちの足音や遠吠えは、それぞれ思い思いの方向へ飛び出して行き──遠ざかって行く。
■ゼムリャ To:ALL
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……魔法装置の支配が……止まったようだ。
動物たちや虫たちは、安全に森へ……それぞれのねぐらへ帰って行くことだろう。
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ゼムリャはどこか遠い目をしながら、今はもう動きを止めた魔法装置から視線を外し、地下室の天井を見上げていた。
■ノール To:ALL
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それはそーと、早くここを出ないとまずいよなっ!
あと30カウントもないかもしれないぞっ!
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■ヒノキ To:ALL
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やれやれ。
息つく間もないってのはこの事だな。
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その時。
ジンは唐突に「魔剣」がすぐ近くまで移動してきたことに気付いた。
まさに一瞬の間に出現したその気配は、感覚的には2階の南側……ちょうどカボチャが消えて行ったダンスホールの位置にあるようだ。
■ジン To:ALL
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まずいな。アバランが戻ってきてる。
既に館の中に入ってきているな。
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同時に、いずこかから──それこそ石壁全体から響いてくるかのような妙な音が、地下室に響き渡る。
■アバランの声 To:ALL
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……あー……あーあーあーあ。てすてすてす。
聞こえてるか〜い? ひとんちに勝手に入り込んでる小ネズミくんたち。
よくもやってくれたな? 俺様が主催したダンスパーティ……客が全員逃げ出してしまったぜ? せーっかく主賓お披露目と行きたいところだったんだけどな〜?
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■ゼムリャ To:ALL
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……これは……大広間に設置されている、館全体に声を届ける装置だ。
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■ヒノキ To:ALL
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……たった今お帰りのようだな。
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■ミァ To:ALL
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なんてゆー狙ったよーなお約束タイミングで帰ってくるんでしょうネー(=△=)
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くぐもって聞こえるその声は間違いなくアバランのものだったが、陽気さの中にも隠しきれない焦りと怒りが混じっていた。
■アバランの声 To:ALL
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全員、生きて帰しはしない……と言いたいところだけど、逃げてもいいよ〜ん?
おかげさまで暇になったんでね……ここにいる氷漬けクソ婆ぁを、肉片すら残らない程になぶり殺しにして退屈しのぎといこうかな?
その後は……用無しになった「絵画」と一緒に燃やしてやるか。
お前たちはいつだって殺せる……せいぜい寒い寒い森の奥地にでも逃げてしまえ。
……うっ……痛てててて……おいカボチャ! このマニュアル対応しかできない役立たずが! 早く俺様の傷治せっての!
リナリアはどこ行っ……
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最後の言葉が遠ざかっていく。
「魔剣」の気配も、それに合わせるようにしてダンスホール内をうろうろと動いているようだ。
■ジン To:ALL
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あのカボチャ・・・やっかいだな。
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■ヒノキ To:ALL
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……はて。怪我してんのかアイツ?
さてはスノードラゴンを手懐けようとしてたところに魔力が消えて暴れられでもしたかね。
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想像して『ざまぁみろ』と呟く。
■アール To:ヒノキ
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逆に手負いだからこそ危険かもな。
今のアバランは、確かに知性は感じられるが、何か野獣のような暴力に満ちている。
確か、装備は銀の剣と槍、それに青銅の剣…だったな。
剣がリュントの持っていたものだとすると、槍も同じ作者だろう。
…怪しいのは腰に下げてたっていう青銅の剣か。
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■ジン To:アール>ALL
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直接見てみないとなんともな。
元の世界に戻る方法がわからん以上、逃げるという選択肢は取れまい。
ばーさんの居場所についても聞きたいしな。
皆で、アバランのところに押しかけるか。
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■ミァ To:ジン&ALL
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んに、口先だけ元気に言ってるガキ大将には、がつんとおしおきが必要だとミーは思うのでスー。
「絵画」を燃やすだなんてぷんすかぷーでスヨー(=▲=)
ちょーど怪我してるっぽいし、ミーは押しかけ上等!でスー(挙手)
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■アール To:リナリア
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聞いての通りだ。
今の状態はだいたい察しただろう?
直接対峙するのに躊躇があるなら…またキッチンにでも隠れることだな。
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リナリアは首を横に振ると、まっすぐアールを目を見つめた。
■リナリア To:アール
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私も行きます。お願いです……連れて行ってください。
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■ノール To:ALL
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おいらも行くぞっ! アバランがおかしくなってるなら、ぐららんストレートパンチで目を覚まさせてやるんだっ!
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いつものように腕をぐるんぐるんと回しているが、目は真剣だ。
■アール To:リナリア&ノール
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試すような言い方して悪かったな。
自分がこういうのを言葉にしないと不安な質なんでな。
残念ながら手を抜いていられる状況じゃないからな。
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■リナリア To:アール
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ううん、ありがとう……アールさん。
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■ゼムリャ To:ALL
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お前たち、もう時間がない。
とりあえずこの地下室から出るのだ。
後ろを振り返ってはならない。全力で走れ。
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ゼムリャはズシン、と床を揺らして座り込むと、その場にあぐらをかいた。
冒険者たちを見送るつもりだ。
後方に目をやると、階段から差し込んでくる光が徐々に細く、弱くなっていく。
プレートがゆっくりと降りてきているのだろう。
■ヒノキ To:ALL
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だなっ。相談は後だ!
とりあえずさっさとここを脱出するぞ!
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ゼムリャに背を向け、先頭を駆け出す。
気休めの言葉は掛けない。それが果たせなかった時、傷付くのは約束を交わした相手の方だから。
……だから、心の中でだけ呟く。
■ヒノキ To:ゼムリャ
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(もし……もし、アンタも救える【何か】を見つけられたら。
必ず戻ってくるからな)
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ヒノキの言葉に応じ珍しくリュントにしては何もしゃべらず出口へダッシュ
■ノール To:リュント
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あーっ! 待ってよ、ししょー!!
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リュントの心情を知ってか知らずか、すぐさまぐららんダッシュで追いかける。
■ミァ To:ゼムリャ
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・・・・・・・・・・ぜむりゃん!
アストーっちの“夢”は、ミーたちが必ず…!(>x<)b゛
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だから、今はそれだけを約束して。
ミァも身を翻し、走る。
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