Sword World PBM #46
- Howl from Behind - 獣の声が聞こえる
- Epilogue -
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クロムバード家

■ガレス
 ふむ。
 つまり、これは、あれだな。

 娘は目の前のベッドで静かな寝息を立てている。結局あの後自我の確定しないまま再び意識を失い今に至っている。
 冒険者達には既に引き取ってもらったが、実のところ、もう大丈夫だろうと言ったのは方便にすぎなかった。ただ、結果がどうであれ始末は付けられると踏んでいたし、それがかなわなかったとしても、最早彼が気にする問題ではなくなる。
■ガレス
 三つの人格全てを肯定するというのは、それぞれの人格が否定する行為に対する否定という意味で結局三つの人格全ての否定に等しい部分もあるわけだが。

 誰かに語りかけるように独り言を続ける。
■ガレス
 つまるところこれは賭けなのだよ。ロナは生命の危険という状態を理解することができずアイデンティティの破綻を来たしたわけだが、だからと言ってリーアやアンゼの自我が簡単にロナを上回るということもなかろう。

 そこで一旦言葉を切ると、ガレスは後ろのドアの方に視線をやった。音もなく、気配もなく、いつの間にかドアが開いていて、そこには少年が一人ぽつんと立っている。
■ガレス To:少年
 トイレなら突き当たって左だ。

 ガレスの言葉に、だが少年はゆっくりと首を横に振った。
■少年 To:ガレス
 ロナを殺しに来たんだ。

■ガレス To:少年
 そうか。
 まあ座りたまえ。

 傍らに───あたかも少年が来るのを待っていたかのように───置いてあった椅子を引き寄せて、少年に席を促す。少年は───自分自身でも───驚くほど素直に席に着いた。
■少年 To:ガレス
 もし………目覚めてロナだったら…殺すよ。

■ガレス To:少年
 それは無理だろう。

 ガレスは腕を組むと少し天井の梁のあたりを見上げた。そして、視線を傍らに座る少年に移す。
■ガレス To:少年
 私がお前を育てたのだ。ロナと一緒にな。だから分かっている。
 お前自身、無理だということをどこかで理解しているから、だからコンプレックスを感じるのだろう?

■少年 To:ガレス
 無理じゃない………

■ガレス To:少年
 まあ、どうでもいいことだ。

 その言葉に、少年がきっと視線を尖らせるのが分かった。そして付け足す。
■ガレス To:少年
 私にとっては、な。
 ところで………賭をせんかね?

■少年 To:ガレス
 賭?

 少年が怪訝そうに聞き返す。
■ガレス To:少年
 そうだ、目覚めた時この子が誰か、賭けてみないかということだ。

■少年 To:ガレス
 俺が勝ったら?

■ガレス To:少年
 何か一つ、お前に従おう。

■少年 To:ガレス
 俺が負けたら?

■ガレス To:少年
 一ヶ月ほど、私と家族ごっこをしよう。私が父親で、この子は妹だ。

 そこで一瞬会話が途切れた………
■少年 To:ガレス
 ………昔からだけどさ、あんたが考えることはよく分からないよ。

■ガレス To:少年
 心外だな。希望を述べたまでだが。

■少年 To:ガレス
 ………

■ガレス To:少年
 あそこを抜けた後この子と家族ごっこをしていたわけだが、なかなかどうして、面白くてな。そこで思い起こせば、この子と同じく、私には我が子と言うべき人物がもう一人いたではないか。
 というわけで、せっかくだから子供二人というシチュエーションを試してみたかったのだよ。

 淡々とガレスは答える。その言葉に、少年は少し視線を伏せながら呟いた。
■少年 To:ガレス
 ………僕を………

 置いていったくせに…という言葉を少年は飲み込んだ。恐らく、ガレスはそのことを理解した上で言っているのだろう。
■ガレス To:少年
 さて、誰に賭けるかね。
 目覚めた時に………誰であって欲しいかね?

■少年 To:ガレス
 ………

 少年は黙りこくって俯いた。少し視線をベッドで眠る少女に向け、そしてガレスの方に戻す。
■少年 To:ガレス
 僕はリーアのことを、データ以上には知らない。リーアは僕のことは

■ガレス To:少年
 殺人鬼だとでも思っているだろうな。間違ってもいまい?

■少年 To:ガレス
 ………ロナは………

■ガレス To:少年
 ロナは、何とも思っていないだろうな。訓練の相手にすぎないだろう。

■少年 To:ガレス
 ………。
 ………アンゼは…僕のことを隣に住んでる幼なじみって教えられてたはずだけど、今でもそう思ってるのかな?

 少年が少し視線を上げるようにガレスの方を窺う。
■ガレス To:少年
 私は真相を教えたことがないからな、今でも同じではないかね。
 もっとも、目覚めてアンゼだった時は、さっき斬りつけた言い訳を考える必要があるだろうな。

■少年 To:ガレス
 ………そうだね。昔、アンゼには色々いたずらしたけど、ここまで言い訳の面倒そうなのはなかったよ。
 ………………
 ………あんたは?

■ガレス To:少年
 ………アンゼもロナも、私がこの手で一度「殺した」のだ。今更あわせる顔もあるまい。
 それに7年間も親子ごっこをしていると、案外その気になるものだ。

■少年 To:ガレス
 そっか………

 少年は再びベッドの方に視線を戻した。
■ガレス To:少年
 一番哀れなのはロナなのかもしれないな。人は、好むと好まざるとに関わらず、周囲が望む姿に近づこうとする。ならば、ロナはなぜあんな姿を望まれなければならなかったのだろうな。

■少年 To:ガレス
 ………それは僕も同じだよ………

 少年がぽつりと呟いたのを、少し驚いたようにガレスが見る。だがすぐに、またぼんやりとベッドの方を見つめ直す。
■ガレス To:少年
 ところで………提案その2…なのだが。

■少年 To:ガレス
 …何?

■ガレス To:少年
 チェスでもせんかね?

■少年 To:ガレス
 ………?

 少年が怪訝そうな目を向ける。だがガレスは気にした様子もない。
■ガレス To:少年
 この子が目覚めるまでまだ時間がありそうだ。その間チェスでもして時間を潰さんかね?

■少年 To:ガレス
 俺………

 言いながら視線を上げる。
■少年 To:ガレス
 チェス強いよ?

■ガレス To:少年
 なんと………私は弱い。

 立ち上がり、棚の方に向かおうとしていたガレスが足を止めた。だが開き直ったように再び歩き出す。
■ガレス To:少年
 まあいい、やってみよう。

 そう言いながら、ガレスはごそごそと棚の中を探している。その間、少年は再びベッドの少女に視線を向けた。
■少年 To:少女
 ………目が覚めたら、きっと厄介事だらけだよ。死んどいた方がよかったかもね。

 そう言うと、自分の言葉に少年はくすと小さく笑った。
■少年 To:少女
 ………嘘だよ。目覚めた時から、もう一度始まりなんだからね。

■ガレス
 むぅ………なんと………

■少年 To:ガレス
 今度は何?

 なにやら棚の前で、ガレスが額に指を当てている。
■ガレス To:少年
 困ったな、ポーンが1個足りないぞ。いやまて、このペーパーウェイトで代用するか………

■少年 To:ガレス
 探しなよ。急がなくていいよ。

 そう言うと、少年はまたベッドの方に向く。
■少年 To:少女
 それに………君が羨ましかったんだ。

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ゆな<juna@juna.net>