舞う羊皮紙
山道 |
氷狼は、状況に応じて『成体形態』と『幼生形態』の2形態を取る。
基本的には『成体形態』であるが、成体の方はごく微量であるものの『力の放出』(以下『放出』)が『力の吸収』(以下『吸収』)を上回っているのである。
その為、大きな力を使った場合の他に定期的に吸収に専念する時期が必要になってくる。
それが『幼生形態』である。
『幼生形態』は、『放出』がほとんど無く、『吸収』がメインとなっている。が故に、攻撃力や基本能力で、明らかに『成体』の状態よりも劣ることになる。その為、『幼生』の時には行動を手助けする者がつくらしい
『成体』から『幼生』、『幼生』から『成体』に変わる際に必ず行わなければならないことがある、それは四大元素の力を少なからず受け継ぐモノを食す事である。
この行為により、操るべき精霊力(風・水(冷気))を溜め、保有する為の器(体+結界)の材料を体内に取り込み次の形態の基礎とする。
『成体』から『幼生』になる時は、器の力自体が長年にわたり弱まっていること、力をある程度自由に『放出』出来る事、等からほぼ制約なく形態を変えることが出来る、まさにその時の様子は体(成体)が徐々に薄くなり散霧していくかの様であると言う。
それ以外では、強力な外敵と接する場合も、それらの材料を食し、万が一に備えるとも言われている。
『幼生』から、『成体』になる場合であるが、基本的に『幼生』は強力な『放出』力を持たず、また非常に短期間である為、器の結果の力も大して弱まっていない。そんな状態である為、少々荒っぽい方法に出ることとなる、それは、『幼生』の形態になり溜めた力の一部を『氷晶』と言われる物質に変え、それを爆発(一瞬で開放)させる事により今の器(体+結界)を打ち砕くのである。
その力はすべて外側に向けて放出(開放)される為、次の『成体』の器となる力(四大元素の力)と、『幼生』の形態により溜められた多くの力(精霊力)は、消し飛ぶことは無いと言う、この辺の理論はいまだ研究の余地が残る点である。
補足となるが、『成体形態』と『幼生形態』においては、性格が全く異なるとの報告も受けている。
『成体』時はこの地の守護者という観念において外部からの侵入者を排斥する使命的なものを負っている為、姿を見せること事態、稀である。
大方の者は、氷狼の起こす吹雪に巻かれ凍死するか、即座にその場よりの離脱をせねばならない為である。
運良く(悪く?)、氷狼に会うことが出来ても細心の注意を払わねばならない、それは、少しでもこの地に災いをもたらす考え(当然、氷狼に対してもであるが)を起こせば、即座にその圧倒的な精霊力で君は氷の置物へと変わるだろう。君が伝説のルーンマスターでも無い限り、その力を防ぐてだてなど無い。
『幼生』時は、守護者としての責務から開放されている時である(当然、ごく短い時間で膨大な精霊力をその身に宿す為なのであるが)、その為、外敵への警戒心の『け』の字も存在しない。『無邪気』まさにその者の為に在るようなこの一言が、『幼生』に対して当てはまる言葉であろう。しかし、油断してはいけないこの時必ず近くに、この『幼生』を守るための守護者が存在しているからである。
この者達、普段は下位精霊の形態をしているが必要とあらば上位精霊に形態を変えることも在る、油断はまさに命取りである。それでもこの『幼生』に会いたいと思う者がいた場合、一つだけ言っておかねばならない事がある、それは君が余程の幸運の持ち主であるか、はたまた『ハイ・エルフ』と同等の寿命を持つ者のいずれかでなければならない、そう、先にも言ったとおり『幼生』は『成体』に比べ明らかに非力であるが故、その形態を取る時間もごく微小であるからだ。
また、私はエストン山近隣のドワーフに伝わる伝説的な一文を入手する事が出来た、それは過去に氷狼の『幼生』と出会い、その変身を手伝うこととなり、氷狼の『氷晶』を入手した者の話であった。話の中で幾人かのドワーフがその『氷晶』をその者から見せてもらっている、まさに至宝と言うにふさわしい存在感、更にうすく青い光を放ちつづけ、その場の者の心を和ませたとある。
その後、その者はドワーフ達に『やはりこれは、氷狼の物だ、俺なんかが持っていてはいけない』と一言残し『氷晶』を持ち、再び山に入ったきり戻ってもこなかったと言う。
ここからは、私の推測となるが‥‥。
この『氷晶』の存在を示すこの伝説と、この地の守護者としての存在が、この地に氷狼信仰を発生させているように思われる。近隣のドワーフですらその姿を見た者は、非常に極稀であり、『見間違い、ではなのか?』と言われる程である、しかしその財を求めて山に入った者の氷の像が後に発見されるなど、ただの伝説とも思えない事例も少なくなく、近隣ではその存在を疑う者などいない。
しかし『氷晶』は私の知る限りでは、どこにも存在していない、伝説として一部の関係筋に話が残っているだけである。
また、いきさつ等の詳しいことは分からないが、本来変身に使われるはずの『氷晶』を手に入れられたと言うのだから興味深い限りである。
ある男の手記より