Sword World PBM #25

「天使のつるぎ」



狂気の天使




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封印の間

 部屋に入ると、まず宙に浮かんだ光の玉が目に入った。光の精霊ウィルオーウィスプだ。精霊使いならば一目見れば分かるほど、強い精霊力を感じる。もちろん、召喚者の魔力が極めて高いということだ。
 部屋の中には、女が一人、壁にもたれながらぺたんと地面に座っていた。真っ白な髪に赤い目、そして白い翼はほぼイェルクと同じだが、イェルクと違い白いところは完全に真っ白だ。身長は180センチくらいあるので、身長150センチ前後のイェルクに比べるとずっと大人に見える。
 彼女はぼんやりと空中を見上げていたが、こちらに気づき億劫そうにこちらを向いた。そして、突然きょとんとした表情になり、言う。
■女 To:ALL
 ………イェルク?

 女はそう言うと立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
■女 To:イェルク
 ………イェルク…私を助けにきて…くれたの?

 女はオジイとソフィティアの前まで来て立ち止まった。ちょうど二人でイェルクとの間を阻んでいる形だ。
 イェルクは状況をうまく把握できないのか、何も言えずに困惑の視線で仲間に助けを求めている。
■ノエル To:イェルク
 何か言ってあげたら?

 にこやかな表情で、イェルクの耳に口を寄せて語りかける。
 そして、そのまま声を落として、ヴィーザに聞こえないよう耳打ち。
■アトール To:all
 何か想像していたのと雰囲気が違うな。

■ノエル To:イェルク
 油断しないで。バケモノの作戦かもしれないから

 ノエルの言葉にイェルクは小さく頷き、ノエルの袖をきゅっと握った。
■アフル To:女
 …ヴィーザさん?

■ソフィティア To:女
 あ、あなたがヴェーザ?

■ヴィーザ To:アフル&ソフィティア
 えぇ。

 ヴィーザはソフィティアの方を向き、にっこりと笑顔を見せた。
 予想しなかった反応に、ソフィティアは虚をつかれている。
■ヴィーザ To:ALL
 あなた達はイェルクのお友達かしら?娘にこんなたくさんお友達がいるなんて、うらやましいくらいだわ。

 そう言いながら、ヴィーザはイェルクの方へと手をのばした。
■ノエル To:ヴィーザ
 バケモノはどうなりました?

 ノエルは、不安げに視線をさまよわせているイェルクの肩を抱き寄せた。一瞬びくりと身をすくめたが、イェルクは再びノエルの袖を掴みなおす。
■ヴィーザ To:ノエル
 バケモノ………

■ノエル To:ヴィーザ
 ほら、あなたが遙か昔に倒したという・・・

■ヴィーザ To:ノエル
 ………?

 ヴィーザは少し考えるような仕草をした。
 ───と、突然オジイが松明を地面に置きヴィーザの正面に立った。
■オジイ To:ヴィーザ
 あ、どうもどうも。

 そして、ヴィーザののばした手を勘違いしたふりをして握手しようとする。
■ヴィーザ To:オジイ
 え、えぇ………

 イェルクの方にのばそうとしていた手をオジイの方へやり握手する。手はオジイの危惧に反して暖かく、つまるところ極めて「普通」だった。
 ヴィーザはオジイと握手していてもノエルのさっきの言葉が気になるらしく、ノエルとイェルクの方から視線を外さない。
 そして、、ヴィーザは少し済まなさげに眉の間に皺を寄せた。
■ヴィーザ To:イェルク
 ああ、そうだわ。インプのことね。
 ごめんなさい…インプにはイェルクにお願いして剣を返してもらってって言ったのに、怖がらせちゃったみたいね。でも大丈夫よ、もういないから。
 悪気はなかったの。ね?

■ノエル To:ヴィーザ
 (少々眉をひそめながら)
 インプたちとは、いつごろからお友達だったんですか?

■ヴィーザ To:ノエル
 分からないわ。この洞窟に入ってからいつの間にか呼び出せるようになっていたわ。

■オジイ To:ヴィーザ
 あ、そうなんですか。
 で、ヴィーザさん、あなたがここへ入ってから何年ぐらい経ったかとか分かります?

 にこにこしながらも、オジイは手は離さず、ソフィティアに目で後ろへ回るように合図する。
■アトール To:ソフィー
 剣をしっかり持っていろよ。

■ソフィティア To:アトール
一体どうなっちゃってるのよ、この展開は……。

 と言いつつも、ソフィティアはいつでも攻撃できる状態で剣を握っている。
■ヴィーザ To:オジイ
 100年までは数えたわ。それ以上は知りません。退屈だったわ。

 少し憮然とした様子で答える。ちらりとオジイの視線を追い、ソフィティアを横目に見た後、またイェルクの方に視線を戻す。
 そこでオジイが手を離していないことに気づいたのか、ヴィーザは軽く払おうとした。
 オジイは離すまいと力を込めたが、ヴィーザは信じられない腕力で軽々と振り払ってしまう。
■アフル To:ヴィーザ
 あなたは今、「ヴィーザさん」なんですか?
それとも、「ヴィーザさんに取りついてるモノ」なんですか?

■ヴィーザ To:アフル
 とりついている………?

 怪訝そうにヴィーザが聞き返す。少し不愉快そうだ。
■ヴィーザ To:アフル
 取り憑いたりしていないわ。取り憑かれてもいないわ。私は「あれ」を吸収したの。

 そこまで言って、不愉快そうにしていた表情を和らげ、ヴィーザは微笑んだ。
■アフル To:ヴィーザ
 吸収した?
リーゼルさんは取りつかれたと言ってましたけど。
取りつかれたんじゃなくて、吸収したのだったら、「ヴィーザさん」としての意思があるわけでしょ?
だったら、なんでエルフの村を襲ったりしたんですか?

■ヴィーザ To:アフル
 あいつらは私を化け物だと罵ったわ。仲間だと思っていた村の奴らも、人間も、みんなよ。嫌い。

 激昂した風ではなく、むしろ悲しみに満ちた口調でヴィーザが言う。そして、彼女はイェルクに向かって淋しげに微笑んでみせた。
■ウィード To:ヴィーザ
 取り憑かれたんじゃなくて、自分の意志で村を襲ったって事だな…

■アトール To:all
 どうやら、そこら辺を勘違いしていたらしいな、俺達は。
 村長がイェルクの意見に反対したのもそういうことか・・・。

■ヴィーザ To:イェルク
 イェルク、あなたには分かるでしょう?私たちは他の誰とも違う、新しい、力ある種だから。私の淋しさは、あなたには分かるでしょう?私には、あなたの淋しさが分かるわ。

■イェルク To:ヴィーザ
 ………

 ヴィーザが聖母のように微笑みかけるが、イェルクは震える指でノエルの袖を掴んだまま離さない。
■ノエル To:ヴィーザ
 この子はあなたとは違います。

 ノエルは、ヴィーザの目を見据えて強く言いきり、少しイェルクを引き寄せた。
■ノエル To:ヴィーザ
 あなたがそれを取り込んでも結果はどうなりました?
 そのことで、みんながあなたを心から受け入れてくれましたか?
 そうではなかったでしょう。
 それどころか、ここにずっと閉じこめられることになってしまった。
 違いますか?

 その台詞に呼応するように、オジイがヴィーザの正面に立つ。
■ヴィーザ To:ノエル&ALL
 別に。
 奴に取り憑かれてこんな姿になった時にはずいぶん悩んだけど、完全に奴を吸収してからは悩まなくなったわ。なんだか気分もよくなったし。
 さ、そんなことはどうでもいいわ。イェルクを返してちょうだい。それから久しぶりに外に出たいわ、まだ復讐は終わっていないもの。

■アフル To:ヴィーザ
 復讐?どういう事です?
それに、「奴」に取りつかれてこんな姿になった、って…

■ヴィーザ To:アフル
 復讐は復讐よ。私を化け物だと罵った連中に思い知らせてあげるの。

 そして、半分はイェルクに、半分は残り全員に、微笑んでみせる。子供のように無邪気に。
■ヴィーザ To:イェルク
 大丈夫、かわいいイェルクのお友達だもの。殺したりしないわ。私をこんなところに閉じこめたことも、許してあげる。
 だから───

 少し身をかがめてねだるように………
■ヴィーザ To:イェルク
 ───だから、他のは、みんな殺していいわよね?

■アトール To:all
 ぉぃぉぃ。

 ヴィーザの話を聞いて、ウィードはひどく悲しそうな顔になった。
■ウィード To:ヴィーザ
 ヴィーザ…、俺は500年間遺跡に閉じ込められていた男女を知ってる…
 外に出たいと願う気持ちを承認して外に連れ出した事があるんだ。
 俺には、ヴィーザの淋しさが少しは分かるよ。
 こんな所に閉じ込められて、淋しいだろうな…。早く外に出たいと思うよな…ってさ。
 それは叶えてあげたいと思う…。

だけどな、「外に出て復讐を果たす」というなら、外に出す事はできないよ。
 復讐を果たして…、村を滅ぼして、その後はに何が残る?
 きっと、残るのは達成感じゃなく虚脱感だけだぜ…
 
 誰だって淋しいのは嫌だ でも、それは村の奴らだって同じだよ。
 ヴィーザの力を使えば、村の連中を殺す事ができるんだろう。
 だが、それは悲しみを増やすだけじゃないか?
 それに…

 ウィードは少しうつむき、ゆっくりと声を絞り出すように言葉を続けた。
■ウィード To:ヴィーザ
 深い悲しみは、魂さえ壊してしまう事もあるんだ…。

 ウィードは、悲しみのあまり魂を失ってしまった少女ミシャルカのことを思い出していた。
 そして高らかに言う。
■ウィード To:ヴィーザ
 そんな事はさせない!

■ヴィーザ To:ウィード
 ………

 ヴィーザはウィードの言葉に耳を傾けているように見えた。
 だが───
■ヴィーザ To:ウィード
 ………あ?終わった?
 じゃあイェルク置いて帰ってくれるかしら?

 ぽりぽりと耳をかきながらつまらなさそうに言う。全く意に介した様子がない。
■アトール To:all
 どうやら、残念なことに話にもならないようだな。

■ノエル To:ヴィーザ
 人にお願いするなら、相手のお願いもしっかり聞いてもらいたいものね。

■ウィード To:ノエル (下位古代語)
 ふん…。それぐらいの無礼は許してやるさ。
 相手は言葉を理解する知能のないバケモノだからな。
 うちの近所の赤ん坊の方がよっぽど賢いぜ…。

 ………と、ノエルだけに聞こえるように話し、ウィードは肩をすくめた。

 その間に、オジイは、イェルクとアフルに視線を送り、宝珠の使用と、ウィスプを破壊するためのシェイドの準備を頼もうとしている。が───
■ヴィーザ To:イェルク
 イェルク。

 ヴィーザに呼ばれ、イェルクの指がぴくりと震えた。
■ヴィーザ To:イェルク
 いらっしゃい。今あなたを受け入れてくれる人がいても、いつか裏切られるわ。でも私はあなたの側にいてあげられる。
 ねぇ、あなたには私と同じ力があるわ、気づいているんでしょう?逃げないで、その力を受け入れなさい。大丈夫、怖くないわ。

 イェルクは、相変わらずノエルの袖を掴んで震えている。
 ………だが、少し、その力がゆるんだ。それに気づいて、ノエルはイェルクを背中からしっかりと抱きしめる。
■アフル To:ヴィーザ
 …そんな事ない。
そもそも、あなたが暴れたりするからこんなところに閉じ込められ、その子孫であるイェルクが代々その封印を維持するはめになったんじゃないですか。

■ヴィーザ To:アフル
 どうして?私をここに封印したのはイェルクよ。イェルクが私の側にいてくれればこんなことにはならなかったわ。

 嫌なことを思い出したとでも言いたげに、大きくため息をつく。
■ヴィーザ To:イェルク
 ………もう、あのことは忘れてあげるわ。だから、私の所へいらっしゃい。

■ノエル To:イェルク
 あなたやヴィーザが特別な力を持っているかどうかなんてわからない。
 でも、少なくともこれだけはわかる。
  それを受け入れてヴィーザの仲間になることは、あなたがあなたでなくなることなの。
 ルァンちゃんが大好きな、私たちの大好きな、イェルクじゃなくなるの。

 それは、あなたがみんなを裏切るということよ。
 私はずっと、今のままのイェルクさんとお友達でいたいの。

■オジイ To:イェルク
 イェルク、ヴィーザのさっきの言葉覚えてますか。
  このまま、ヴィーザの所へいったら、イェルクに良くしてくれていた人たち、リーゼルやルァンちゃんまで殺されちゃうんですよ。
 それに前にもいいましたよね。「みんなを信じて」って。僕らは………、ずっとイェルクの味方です。

■ノエル To:イェルク
 ね。

 オジイの台詞に答えるように、ノエルはにっこりと微笑んだ。
■イェルク
 ………

 イェルクは無言でうつむいている。目元が涙に濡れていた。
■イェルク
 ………ごめんなさい。………ごめんなさい………

■ヴィーザ To:イェルク
 泣かなくていいのよ。いらっしゃい、悲しいことなんてすぐに忘れられるわ。

■イェルク
 ………………ごめんなさい。

 イェルクは何かを振り払うように、小さく首を横に振った。
■ウィード To:イェルク
 ヴィーザの誘惑は魅力的に聞こえるだろうさ。
 だがな、お前はヴィーザとは明らかに違う。
 優しさと勇気と、善悪の区別を持った、俺たちの仲間だ。
 ここにいるみんなは仲間(イェルク)の事を信じているんだ。
 そして、リーゼルやルァンだってお前の事を信じている。
 いいか?お前は1人じゃない。誘惑に負けちゃダメだ!

■イェルク To:ウィード
 ………だめ…期待しないで…応えられない………そんなに強くない………

 正面から真剣な眼差しで見つめようとするウィードの視線を避けるように、イェルクは目を伏せた。
■ノエル To:イェルク
 あなたはもう、充分強いわ。
 ひとりぼっちじゃないってだけで、とても強いことなのよ。
 一人だけで耐える必要はないの。きっとみんなが助けてくれる。
 待っていてくれる人がいると思うだけで、強くなれる。
 あなたがそれを受け入れることを望みさえしなければ、私たちにも、助けてあげることはできるの。

■アトール To:イェルク
 一人じゃ大変だから、俺達に依頼に来たんだろ?
 もう、俺達は立派な仲間だ。
 一人では弱くても、みんなで力を合わせれば強くなれる。

■アフル To:イェルク
 …このままヴィーザのところに行って、みんな、イェルクをいじめたみんなを殺して、それで満足なの?
 確かに、ヴィーザは受け入れてくれるかもしれない、でも、それはヴィーザだけだよ。
 他の人はもうイェルクのことを受け入れてくれなくなる。
 今でも、リーゼルさんやルァンちゃんはイェルクのことを受け入れてくれてるじゃないか、それに俺達も。 イェルクは今のままで良いんだよ。
 そのままのイェルクをきっとみんな受け入れてくれる。

 オジイはメイスを腰に戻し振り返り、ゆっくりとイェルクの肩を抱いた。
■オジイ To:イェルク
 イェルク、僕らはイェルクがまっとうだということを信じています。
 ほかのだれもが、信じないといっても僕らは信じています。
 甘い言葉は心地よく聞こえますが、だまされないで。ね。

■イェルク
 ………ごめんなさい………俺………

 イェルクは弱々しくオジイを押し返し、顔を上げた。
 その間も、アフルとウィードは、いつでも魔法を唱えられるよう、身構えている。
■ノエル To:イェルク
 宝珠を使って。
 ヴィーザは確かに孤独だったし、かわいそうだとも思う。
 でも、ここから出してあげても孤独なままでしかない。
 なぜ、最初のイェルクさんがヴィーザを封印したのか考えてみて。
 自分がそばにいても、ヴィーザを、自分のお母さんの孤独を、止めることができなかったのよ。
 今あなたがそばにいっても結果はかわらない。
 それどころか・・・復讐するための道具にされてしまう。

 受け入れてくれないものをすべて殺して復讐するなら、結局最後に残るのは自分一人だけ。
ヴィーザの孤独をとめられるのはあなたしかいない。そばに行くことではなく、ここでけりをつけてあげることでしか、悲しみを終わらせることはできないの。

■イェルク To:ヴィーザ
 ………私……ごめんなさい……あなたの側にいてあげられない………あなたがひとりぼっちで…私しかいないの知ってる……

 「ぴん」と小さな音がした。入り口の封印が解けた時と同じ音。
 いつの間にかイェルクの手から宝珠は姿を消し、ヴィーザを中心に正四面体になるように宙に浮かんでいる───
■イェルク To:ヴィーザ
………でも、私には……俺には……居場所があるから……ごめんなさい…………

■オジイ To:イェルク and ALL
 イェルク、ありがとう。
いまだ。



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