あの人は今
オラン郊外 エレミアへの街道 |
「仮面ラーダの活躍によりオランの危機は去った。
そして、仮面ラーダも信頼する仲間達にオランの未来を託し、
新たな戦いの地、エレミアへと去っていくのであった。
究極神官 仮面ラーダ おわり」
一人エピローグの余韻に浸っていた。
或いはそれは、淋しさを紛らわす彼なりの方法だったのかも知れない。
「エレミアに到着した仮面ラーダを待っていたのは安息の日々ではなかった。
迫り来る悪意の砂漠からの刺客! その凶刃が仮面ラーダを狙う!
次週新番組 絶対神官 仮面ラーダRX
「変身! オレが噂の仮面ラーダRX!」にラーダブラスト!!
:
(本当に狙われたら、たまったものではないですね……。)」
不思議そうに、自分を見つめる顔に気付き、恥ずかしげに顔を伏せると歩調をあげるジョージ。
エレミアは、まだ遠い……。
ネイハイス邸 執務室 |
「なるほど。またお前に世話になったな。
それにしてもバートンの奴め、やはり全ては奴が元凶だ!」
オブラインは、手にしたグラスを割らんばかりの勢いでテーブルに置いた。
「親父さん、そういきりなさるな。
アニエスお嬢ちゃんも無事だったんだから、良しとしやしょう。
ミーシア嬢さんのあの幸せそうな顔が見られただけで十分ですよ」
「……すまんな。わしの跡継ぎは、ミーシアを娶らせてお前に、と思っていたのに」
「なに、構いません。
俺としても、今の自由な立場は嫌いじゃありませんからね。それに、お嬢さんはその決められた道が嫌だったんでしょうよ。
……すべては、お嬢さんが決めたことです」
「ディラン……」
時は戻らない。
それは分かっていたことである。
とはいえ、それだからと言って胸をよぎる痛みが無くなるわけではない……。
……しかし、ディランの脳裏に一人の女の顔が浮かんだ。
(俺が本気になった? ……まさか、な)
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもありませんよ。
それよりも、今回の件、親父さんの依頼通り、ミーシア嬢さんにばれないようにしたつもりですが……。」
「まあ、勘のいいあいつのことだ。
薄々感づいてはいるかもしれんな。
まあ、それでも仕方がなかろうて。しかし、こんな事はもうこれっきりにして欲しいものだな」
「それと、ガノンにも。
今回は、あいつの流儀に反するようなことをしてしまいましたからね。
親父さんの方から、一言詫びをいれてやってください」
「ああ。わかった。
それと、その盗賊君、ヴァーンとか言ったか? そいつにもいずれは何か礼をせんとな」
静かに、夜は更ける。
ここにもまた、子を思う親が一人。
そして、優しき盗賊も……。
オランの街 詰め所 |
事件の報を受け、詰め所を飛び出したストレイドに続いて、ガタイのいい男が後を追った。
現場では、傷を負った男が一人の老衛視に話をしているところだった。
「コミナさん、どうです?」
コミナと呼ばれた老衛視は、顔を上げると、
「ガウヴィ! ストレイドの坊やに詳しい話をしてやれ。ファバック! 聞き込みは済んだのか!」
コミナに呼ばれ、二人の男が近寄ってきた。
「あ、兄貴! 久しぶりです!」
「兄貴! お元気そうで」
二人は、ルヴァクを認めると破顔して挨拶した。
「ほらほら、話は後だ。仕事仕事。ほら、元『紅い煙』の頑張り見せてくれよ」
「旦那ぁ、その呼び方はやめて下さいよ」
ストレイドに笑いながら促され、三人はてきぱきと自分の仕事を始めた。
オランの街 路地 |
「またアニエスにちょっかいかけて! そんなに遊びたいなら、一緒に遊んであげようか?」
「うるせえ、ブス! 誰も、お前達となんか遊んでやらねぜ!」
「なんですって!」
平和な午後が、こうして過ぎて行く……。
リトナル商会 居間 |
突拍子もない台詞に、食卓での会話がいきなり止まった。
「駄目です!」
「偉いぞ!」
相反する両親の答え。
どちらがどちらの物かは言うまでもないだろう。
「なんで? あたしを助けてくれたお姉ちゃんみたいに、今度はあたしがみんなを助けてあげるの!」
ミーシアの苦労は、ますます増えるばかりである。
(でも、こんなに楽しそうなアニエスが戻ってきてくれたんだから。
こんな苦労が出来るって事もまた、幸せなのかしらね)
「よし、それならば、今から特訓だな!」
無言で夫の脇腹に肘鉄を叩き込みながら、やはりこんな苦労はしたくないと思うミーシアであった。
ジョージがオランを去って数ヶ月。
アーギー、パオル、ヴァーン、ドリス、ラクル、シェル、アルト、フェリオ、おやじ、女将さん。彼がオランで関わったすべての者達に、こんな手紙が届けられた。
まず最初に、何の挨拶もなく立ち去った非礼をお詫びいたします。
こうして目を閉じると、オランでの皆さんとの冒険の日々が
私の方は無事エレミアに着き、
皆様のお仕事の方はいかがでしょうか?
それでは………
P.S. 冒険者の仕事もまだ続けております。
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