不幸なる出逢い
オランの街 衛視詰め所 |
シェルとフェリオは、(何とか迷いながら)詰め所に辿り着いた。
詰め所の中では忙しそうに衛視が動き回り、張りつめた空気は肌を刺すようであった。
■ フェリオ To:一兵卒A |
おい、兄ちゃん ここで一番偉い奴は誰だ? そんで何処にいる? |
……第一声がそれなのか?
フェリオが声を掛けたのは、20代半ばに見える若い衛視。ひょろっと背が高く、高い鼻ときつい目が印象的である。
■ 衛視 To:怪しい男 |
何だお前は? こっちは今、事件が立て込んでて暇じゃないんだ。 ……お前、見るからに怪しい奴だな。ちょっと来い! さては、お前が犯人だな? 隠しても無駄だ。俺の衛視としての経験が、お前が犯人だと告げている! 何の事件の犯人かは分からないが、絶対にそうに違いない! |
フェリオもフェリオだが、この衛視も横暴である。
いきなりフェリオの腕を掴んで、奧へと引っ張っていこうとする。
■ 怪しい男(笑) To:ボンクラ一兵卒A |
ちょっと待てや、兄ちゃん? 俺が犯人? ほお〜、俺は急に御大層な身分に出世したもんだなぁ。 さっきまでは、行方不明の子供の両親に捜索を依頼されたチャ・ザ神官って身分だったんだが、何時の間に犯人になってるんだろうなぁ? あ、そおそお、これはその両親からの捜査の依頼状ね、読んでみる? ……で、俺は何の犯人なの? |
■ 衛視 To:怪しい男 |
チャ=ザの神官だぁ? お前、嘘をつくにも程が有るぞ。チャ=ザ神に失礼じゃないか。 それに、何だこの紙切れは? バートン=リトナル? ……ああ、あの娘を捜してくれって親か。 俺達は、あの娘を探すべく、日夜努力中だ。近いうちに、必ず見つかるだろうよ。 だから、お前達のような冒険者風情には何も教えることなど無いな。 そのまえに、お前の悪事をきりきり喋って貰おうか? どうせ冒険者なんてやくざなやつらだ、後ろ暗い事なんて犬に喰わせるほどあるに決まってる。 |
確かに、フェリオの外見は、神官のそれとは思えない……。
■ フェリオ To:ボンクラ |
冒険者風情〜? ふざけんな! 俺達はなぁ、今迄アニエスを探して駆けずり回ってたんだぞ! 今だって、他の仲間たちも色んなとこで聞き込みしてんだ! 日夜努力中だと!? だったらこんなとこにいねえでさっさと探してきやがれ! それに、「冒険者なんてやくざなやつら」だと!? そりゃ、俺は家無しの親無しだ、やくざって言われてもしょうがねえよ。 でもな、今までに一度でもおてんと様に顔向け出来ねえ事はした事はねえんだよ! |
売り言葉に買い言葉。どんどんエスカレートしていく感情はとどまるところを知らない。
■シェル To:フェリオ&衛視 |
いいかげんにして!! 衛視さんは、いそがしいんでしょう!? ボクらだって時間がないんです! 彼が怪しいだの、冒険者がやくざだの、そんなこといってケンカしてる場合じゃないでしょ!! ……すいません……言い過ぎました……。 衛視さんも知っているかもしれないけど、行方不明なのは、アニエスちゃんだけじゃないんです。 今もどこかで、何人もの子供達が泣いてるかもしれない。 だから、一刻も早く見つけださなきゃならないんです。 バートンさんがボクらと衛視さんに捜索を頼んだのは、両方が協力して、一日も早くアニエスちゃんを見つけだしてくれることを望んでいるはずです。 この依頼状がそのなによりの証拠です。 ボクらの仲間にも捜索のプロがいます。 お願いします。どんなことでいいから、知っていることを教えて下さい。 |
二人の罵り合いに、シェルの堪忍袋の緒が切れた。
そう一気にまくし立てると、衛視の目をじっと見つめた。
■ 衛視 To:シェル |
時間が惜しいなんてことは分かっている。 ……そして、不本意だが人手が足りないのも事実だ……。 (どんな奴も、使い方次第か……) ……よし、良いだろう。 |
そう言って教えてくれたのは、8人の行方不明の子供の話だった。アニエスについては、冒険者が知る以上の情報は得られなかった。
キール(11)は、スラムの少年。昼過ぎにある店にこそ泥に入った後、姿が見えなくなった。親は無し。
ボッソ(15)は、商人の息子。昼過ぎ、遊びに行くと行って出ていったまま行方不明に。
エカディア(8)は、ファリスの神官の娘。夜のお祈りをすませ、寝所に向かったが、明け方にはいなかった。別の部屋に寝ていたため、親も朝まで気付かなかったらしい。
サージ(13)は、スラムに居を構える魔術師の所の見習い少年。昼に師匠の使いで賢者の学院に行った帰りに行方不明に。
ティータ(12)は、陶器職人の娘。友だちと遊んだ帰りに行方不明。
ユリア(14)は、ボッソの店の下働き。他の使用人同様にボッソを探させられていたが、その晩から帰ってこない。
ウォルト(7)は、ファリス神官の息子。エカディアとは、親同士が同じ神殿に勤めているために幼なじみ。家に、エカディアを探してくるとの置き手紙を残し、行方不明。時間的に考えると、一昨日にアニエスとキールとボッソ、昨日にエカディアとサージとティータとユリア、今日になってウォルトがいなくなっているようである。
各事件の繋がりがあるのかは、分かっていない。
が、一度にこれだけの事件が立て続けに起これば、何か背後に? という感じもしないではない。
■ ストレイド To:フェリオ&シェル |
俺は、ストレイドと言う。何か分かったら教えに来てくれ。 こっちも、何か新しく分かったことがあったら伝えよう。 それと、お前。もう少し口の聞き方は覚えた方が身のためだぞ。 いきがるのも良いが、時と場所を考えなくては、本当に単なるやくざ者呼ばわりされても仕方がないからな。 |
■ フェリオ To:ストレイド |
ハン、悪いが俺は口の利き方を教わった事はねえんだよ。 ま、あんたが俺の雇い主だったら精一杯の敬語を使ってやってもいいがね。 もしくはあんたが人を外見や身分で判断したりしなけりゃ……な? |
フェリオの悪態には慣れたのか、フンと鼻をならすだけで、何も言いません。
■ フェリオ To:ストレイド |
それにしても……見事なほど関連性がねえな。 身分も歳も性別も場所もバラバラ……どう考えても繋がりがねえ。 強いて言えば、全員昼以降にいなくなってるって事か? それとこんなに行方不明になって怪しいひとさらいの目撃証言すらねえのかよ? まさか、集団で時間差駆け落ちした訳じゃねえだろうし……。 む〜……行方不明者はアニエスを入れて8人か。 ……何てこった、そんな大人数だなんて……。 ……リンゴが足りねえじゃねえかよぉ(T_T)…… |
■シェル To:フェリオ |
……知らなかった……こんなに大勢行方不明になってたなんて……。 ……あれ? ねえ、フェリオ? いなくなった子達って身分も歳も性別もほんとにバラバラだけど、他の子はみんな外に行った後にいなくなってるのに、エカディアって子だけは、家の中にいるときにいなくなってるよね。 てことは、もしさらわれたんだとしたら、この子は家の中でさらわれたってことだよね? そういうことできる人って、そんなに多くないんじゃない? |
■ ストレイド To:シェル |
家に忍び込んだとすると、盗賊どもの仕業、と考えるべきだろうな。 なんの騒ぎも起こさずに連れ出した点からしても、かなりの凄腕、と見て良いだろう。 |
■ フェリオ To:シェル |
ん〜………………確かに気になるなぁ……。 ……ただ、誘拐だとしたら何の為にこんなにたくさん? それもファリス神官の娘からスラムの少年まで……。 売り飛ばすつもりならわざわざファリス神官の家に侵入するような危険な真似をするかなぁ? かと言って身代金目当てならスラムの少年には手を出さねえだろうし、それにもう要求が来てるだろうな……。 |
■ ストレイド To:フェリオ |
ついでに言えば、どの家にもそう言った要求はきていないぞ。 |
■ フェリオ To:ストレイド |
……ユリアとウォルトの二人は行方不明者を捜してたのか……。 もしかしたら、その二人は事件に巻き込まれたのか? だとすると……ウォルトの足取りは無理としてもユリアの方は他の使用人達と手分けして探してたんならある程度の範囲が絞れないか? そこに他の子供達が……。 いや、でも元々行方不明になった場所がバラバラだから意味ないか……。 駄目だな……情報が足りねえ、根拠なき先入観は事実を見えなくするだけだ、やめとこう。 |
■シェル To:フェリオ |
……誘拐の目的が他にもあるってことなのかなあ? う〜ん、難しいな〜。 こういうこと考えるの、ニガテ……(^^;;) とりあえず、詳しい場所だけ聞いて、みんなと合流した方がいいかも。 他のみんなの情報と合わせれば、なんかわかるかもしれないし。 |
■ フェリオ To: シェル |
ああ、そうだな。 (……官憲よりも盗賊ギルドの方が有力情報あるだろうしなぁ……。 こっちは最初から駄目で元々当たればラッキーのつもりで来たんだから人数と大体の場所がわかっただけでも儲けもんだよな……) |
■シェル To:ストレイド |
すいません、ストレイドさん、ボクまだオランに来たばかりでこの街のこと良く知らないんです。 できたら、子供達の家と子供達がいなくなった場所を、地図で教えてもらえませんか? |
■ ストレイド To:フェリオ、シェル |
ああ、この地図を見てくれ。 |
そう言って、手元にオランの街の地図をたぐり寄せると、開いてフェリオ達に見せた。
その何カ所に、赤でマーキングがしてある。 マーキングはほぼすべて、スラムのそばにしてあった。
それを示しながら、
■ ストレイド To:フェリオ、シェル |
アニエスの家は知っているんだな? エカディアとウォルトの親御さんは、このスラムの近くのファリス分神殿て奉仕しているのだ。で、住居は、そのすぐそばにある。 ボッソの家は、この商業地区に店を構えている。住居もここだ。ユリアも住み込みで働いている。 ティータは、この辺り。スラムと商業地区の間ぐらいだな。 サージの師匠の家は、ここだ。スラムの西の端だな。サージも、一緒に住んでいるそうだ。 キールのねぐらは、スラムの中にある……といっても、有って無いようなものだがな。残念ながら、いなくなった場所は、正確には分かってはいない。 |
■ フェリオ To: シェル&ストレイド |
ふ〜ん……でもスラムの近辺なんだな? とゆー事は……子供達はスラムにいる可能性が高いな。 犯人はスラムを拠点として行動してるのか? (……犯人はシーフ? ……いや、待てよ?) なあ、え〜と……ストレイド……だったか? ファリス神官の娘が誘拐された時の事を詳しく聞きたい。 寝る時にはドアと窓の鍵は閉めたのか? その鍵は内鍵だったのか? 後、朝になって子供がいなくなった時に鍵はどうなってたのか? 何の騒ぎもなかったらしいが痕跡は全くなかったのか? 以上の事を教えて欲しい。 |
頬をすこしピクピクさせながら、鍵は内鍵で、親が寝かしつけたときに鍵が掛かっていることを確認した事、しかし、朝には窓が開きっぱなしになっていた事を伝えた。
部屋の扉には鍵は付いていないが、家の鍵は閉まったままで、部屋の中に争った形跡はなく、持ち物もなくなってはいないらしい。
付け加えるならば、エカディアの家は平屋である。
■ ストレイド To:フェリオ |
他に、何か知りたいことはあるか? ……それにしても、名前ぐらい名乗ったらどうだ? 外見で判断されることが嫌だと言うのなら、それぐらいの礼儀はわきまえておいた方が良いぞ。 |
■シェル To:ストレイド |
(……あ、名前言うの忘れてた……(^^;;)) すいません、忘れてました!(ペコ) え〜と、僕の名前は、シェル、シェル=レインです。 エルフ族の精霊使いです。 (外見かあ……たしかにフェリオのマント面白い柄だもんなあ……) (じゃ、ボクはエルフだから怪しいってこと? ……エルフってそんなに珍しいのかなあ……) |
■ フェリオ To:ストレイド |
ん? あれ? 名前言ってなかったっけ? さっき、こいつが俺の名前を呼んだだろ? 俺はフェリオだ、本業は奇術師だよ、副業が冒険者とチャ・ザ神官だ。 (ってゆーか名乗る暇も与えずにいきなり犯人扱いしたのは誰だよ。 まったく、俺のこの格好のどこが怪しいってんだ?)
それより……内鍵が開いてたのか。 |
■シェル To:ストレイド |
(……窓から入った? どうやってカギ開けたんだろ??) (もしかして、ブラウニーに開けさせたのかな?) あの〜、ストレイドさん、エカディアっていう子の家は新しい家ですか? それとも、古い家ですか? |
■ ストレイド To:シェル |
ああ、結構年季の入った家だったな。 しかし、鍵などはしっかりしていたぞ。 |
ストレイドは、余り魔法に詳しくないのか、シェルの質問の意味を、微妙に取り違えているらしい。
■シェル To:ストレイド |
う〜ん、そういう意味じゃなくって、建物自体の古さが知りたかったんですよ。 建ってから、50年以上経ってるような古い家には、ブラウニーっていう精霊が住み着いているんです。 もしかしたら、犯人が精霊使いで、ブラウニーに窓のカギを開けさせて入ったんじゃないかと思って、聞いたんです。 |
■ ストレイド To:シェル |
ほう、そういうものなのか。 魔法には詳しくないもんでな。参考にさせて貰うよ。 50年かぁ。それぐらいはたっていたかな……。 で、そう言う魔法は、キミにも使えるのかい? いや、魔法使いなら、誰でも使えるのか、って意味でだが。 |
■シェル To:ストレイド |
そうじゃないです。精霊と話して、その力を使えるのは、ボクみたいな精霊使いだけなんですよ。 魔法は魔法でもフェリオみたいな神官や、あの有名なマナ・ライさんみたいな魔術師っていわれてる人達は、使う魔法の種類が違うから、ブラウニーを使うことはできないんです。 |
■ ストレイド To:シェル |
なるほどな。 ならつまり、その精霊魔法を使えば、誰でも古い家に忍び込めるってことか? むぅ、なんてこった。 |
■シェル To:ストレイド |
(……ふう、敬語で話すの疲れてきた、そろそろやめよ……) 残念ながら、そうなるね。 ボクは知らないけど、魔術師が使う古代語魔法にもそういう魔法はあるかもしれない。 |
■ フェリオ To:シェル&ストレイド |
う〜ん…………でもよ、もし魔法使いだったとして……どうしてエカディアだけ自宅からそんなもん使って誘拐する必要があったんだ? 他の子供達はみんな、外でいなくなってるんだぜ? 目撃者も無しにな。 そんな事が出来る人間が危険を承知でわざわざ寝静まった家から連れ出すか? …………でも、それなら何で? どうして深夜の自宅で? …………やっぱり自分から出ていったのか? ま、ここでこれ以上話し合ってても捜査は進展しねえな〜。 シェル〜、そろそろみんなんとこ帰ろうぜ? |
■ ストレイド To:フェリオ、シェル |
帰るのか? それなら、これを持ってろ。 今下手に動き回ると、お前達がしょっ引かれかねないからな。 |
そういうと、ごそごそとなにかの金属製のプレートのような物を取り出した。
こんな格好の人間が現場をうろついたら、余計な仕事が増える……ストレイドの苦渋の選択であった。
フェリオは、意外な展開に目をぱちくりさせながら、
■ フェリオ To:ストレイド |
…………あ、ありがとよ。
ま、まあ、この事件はなんかありそうだからな……。 |
■シェル To:ストレイド |
わあ、ストレイドさん、ありがとう〜(^^) 子供たちのことはまかしといて。 じゃあ、またね〜。 |
詰め所に残されたストレイドの胸中に、微かな後悔が浮かんでは消えた。