「慈しみの天秤」

舞台裏より


 このページでは、シナリオページでは明かされなかった事実・事情や、シナリオの衝撃的な結末にまつわるGMからのご説明などを、みなさまにご披露いたします。 お茶でも飲みながら、楽にしてお読み下さい(でも、くれぐれもキーボードの上にはこぼさないように――笑)。

 まずは、事件の真相から。

 冒険者たちがオランの街でリーシェの依頼を引き受けた夕方の3日前に、この事件は発生しました。
 激しく雨の降るこの日の夜半、何かのはずみにより、「トーレス商店」の地下倉庫内に、魔界とつながる「扉」が出現しました。その「扉」をくぐってダブラブルグが侵入したのち、 「扉」は消滅してしまいます。下級魔神のダブラブルグには、魔界へ戻るすべがありません。
 そのダブラブルグは、しばらく建物の中をうろついたのち、店の奥の部屋(一階)で一人で帳簿整理などをしていたシュゾを見つけました。 仕事に夢中のシュゾには気付かれぬまま、ダブラブルグは「観察」を済ませ、変身しないでこれを殺害します。シュゾの遺体に鉤爪によるとおぼしき致命傷が残っていたのは、 そのためです。
 その後、シュゾの生前の姿に変身したダブラブルグは、二階の寝室にいたシュゾの妻と娘二人までをも惨殺するに至ります。たまたま用足しで部屋を離れていたミシャルカは難を逃れますが、 戻ってきたときにも続いていた惨殺の凄惨な場面を目撃してしまったのです。ミシャルカは精神的ショックにより記憶喪失に陥り、誰にも気づかれぬまま一人、 夢遊状態で村から離れることとなりました。

 その後に起きたことは、シナリオページに書かれている通りです。


 ちなみにこの晩、リーシェは当時の仲間とともに、コスメル村の「紅の河」亭に宿泊していました。
 また、この日以降、ダブラブルグはシュゾの姿を借りて「トーレス商店」に居座るわけですが、ダブラブルグの変身した「シュゾ」が、割に無口で暗い人物となっているのは、 ダブラブルグが「観察」の際に聞いていたシュゾの声・言葉が、帳簿整理の仕事をしながらの独り言だったためです。

 次は、ロゼルナと「トーレス商店」について、少々お話しいたしましょう。

 シナリオの中では素性のあまり明らかにならなかったロゼルナですが、彼女はハザード河の下流域を中心に活動している水運業者です。彼女が共通語を自在に操っているのを見て (母国語が東方語でないアフル&ソフィティアと普通に会話していますね)、小さな村のただのおばさんにしては不思議だと思われた方もいらっしゃったことでしょうが、 実はそういう事情があったのです。商売人には、共通語の素養があったほうが、何かと便利なのですね。なお、彼女の人並み外れた筋力は、 日々の荷物の上げ下ろしによって培われたものです。
 ロゼルナはまた――シナリオページでもそれとなくほのめかされてはいますが――、シュゾの幼なじみでもあります。商人とそれに物資を供給する運送業者という、 単なる商売上の結びつきだけでなく、彼らは個人的にも親交が深かったのです。ちなみに、ミシャルカもロゼルナのことを「オーガーおばちゃん」と呼んで、 よくなついていました。
 事件の当日にも、ロゼルナは「トーレス商店」を訪れていました。昼過ぎにシュゾたちを訪ねたロゼルナは、夕方、雨が強まると、「今日はうちに泊まっていったらどうだ?」とのシュゾの勧めを断り、 船で帰っていったのです。結果的に、ロゼルナは難を逃れたわけですが、彼女は生前のトーレス一家の姿を最後に見た人物となりました。

 惨劇の舞台となった「トーレス商店」は、衣料・食料・日用品の単なる小売店ではなく、それらの卸しも手がける店でした。周辺の村々に散在する小売店への商品供給も牛耳っていたわけです。 それゆえ、たいした規模でないコスメル村の中ではひときわ目立つ建物となっていましたし、店を手伝う若者も3人もいたのです。物資の輸送をほぼロゼルナの一手に委ねていたのも、 彼女と店主のシュゾが個人的につながりがあったという理由以外に、卸売商としては大量輸送のできる水運がどうしても必要だったという事情もあります。
 ロン以外は名前の出てこなかった若者三人衆ですが、年齢こそ若いものの、みな立派に商人としてやっていけるだけの力量は持っています(共通語の会話能力も)。 特に「トーレス商店」をさしあたり受け継ぐことになったロンは、近々シュゾが「のれん分け」をしようかと考えていた人物でもあります。 彼ならば、ロゼルナたちの助力を受けながら、きっと「トーレス商店」をうまく切り盛りしてゆくことができるでしょう。

 そしてわたしはもう一つ、このシナリオの衝撃的な結末について、ご説明しておかねばなりません。

 ……と、その前に、少しだけ寄り道させて下さい。任務達成による経験点のことです。
 SW-PBMでは、「より高い経験点を与えるルール」(『完全版』300ページ)を採用しています。したがって、このシナリオで使命を達成した場合にPCが得られる経験点は、 「最大の障害レベル」、すなわちダブラブルグのモンスター・レベルである5に、係数の500を掛け合わせた値、2500点であるはずです。しかし、 冒険者たちの獲得した経験点は1500点(+モンスター分&各自の1ゾロ分)にとどまりました。このことはつまり、彼らが任務を完全には達成できなかったということを意味します。

 さて、もう察しのついた方もいらっしゃるでしょう。そう、シナリオの悲劇的な結末は、冒険者たちによる任務の不完全達成が原因なのです。 ではいったい、彼らのどこに落ち度があったのでしょうか?


 GMであるわたしは、このシナリオの使命達成要件として、次の二つを設定しました。そして便宜的に、1.に1500点、2.に1000点の経験点を振り分けたのです。
  1. 「シュゾ」すなわちダブラブルグを倒し、コスメル村の危機を未然に救うこと(リーシェ,ミシャルカ,ロゼルナの生存は大前提)
  2. 熟慮のうえでミシャルカの「運命」を決めること
 1.については、シナリオページをごらんになればお分かりのように、全く問題ありませんでした。よって、この要件に配分されていた1500点の経験点の全てを、 冒険者たちは獲得しました。余談ですが、PLさんたちに適度の緊張とスリルを与え、しかもちょうどいい頃合いに敵が倒されるというこの戦闘は、 GMにとって相当満足のいくものでした。思わずシナリオML上で自画自賛してしまったほどです(苦笑)。

 さて、問題は2.です。
 わたしは、冒険者たちがミシャルカに与えようとする「運命」の内容自体は、当初より問うつもりは全くありませんでした。具体的には、 彼らが少女の記憶を回復させようと努力することにしようが、逆に無理に記憶を復活させず、つらい過去の出来事や現実からこのまま遠ざけておこうと決めようが、 どちらでもかまわないとしていたのです――それが「熟慮のうえ」の真摯な決断であるならば。そして、この前提条件が成り立っている状況で記憶の回復を試みた場合、 それは成功すると定めていました。
 この評価基準に沿って、PLさんたち扮する冒険者たちの意志決定過程(「天秤はどちらへ?」)を見てみると、 どこにも問題はないように思われます。確かに議論の展開が少々急で、話のまとまり方に予定調和的なきらいが若干見受けられることは正直否めませんが、 これには、GMのわたしが方針決定に時間制限を設けたことも少なからず影響していると思われ、ことさら問題にはできないと考えられました。 実際、この話し合いが終わった時点でわたしは、「2.の要件も完全に満たされた。また、ミシャルカは記憶喪失から回復する」との結論をほとんど下していたのです。

 ところが、冒険者たちはあろうことか、最後の詰めを誤ってしまいます。より正確には、「詰めを誤ったとわたしが判断せざるを得ないこと」をしてしまいました。 それは、二階の寝室の光景ではなく、一階にあるシュゾの惨殺体を、ミシャルカに見せてしまったことでした。

 このことは、RPGのプレイ技術の観点からも、いくつか問題のある行動でした。
 まず、PLさんもPCも、ミシャルカが記憶を失った直接の原因が「母親と姉たちが、シュゾに変身した魔神に惨殺されるところを見たため」だと正しく理解していました。 しかも、全てのPLさん、そしてPCとしてもアフルは、シュゾの惨殺現場のほかにもう一つ、二階にそのものズバリの現場が存在することを知っていたのです。 こうした予備知識がありながらなお、シュゾの惨殺体のほうを見せるとしたのは、やはり判断ミスと見なさざるを得ません。
 また、GMのわたしはシナリオMLにおいて、冒険者たちがこの行動に至る直前まで、「くれぐれも熟慮をお願いします」とか「『二回目』を試す機会は、 あるいはないかも知れませんよ」とか、さらには「重要な判断を誤ったりすること……が心配ですね」などという言葉によって、再三注意をうながしておりました。 もとより、PLさんが始終GMの顔色ばかりをうかがっているようでは、GMとしても困るのですが、この幾度にもわたる「注意信号」を見落とし続けてしまったことは、 それでも全くの不問に付すわけにはいかないでしょう。

 しかし、以上のようなプレイの技術面におけるPLさんたちの失策は、実のところ、わたしにとっては些細なことでした。こうしたことだけならば、 使命達成の経験点を大幅に削ろうとまでは考えなかったでしょう。むしろ、わたしが決して看過できない致命的な問題と感じたのは、別のことでした。 それはすなわち、「一度の試みでうまくいかなかったら、二度目を試せばいい」との安易な姿勢が、PLさんたちから垣間見られたことでした。

 PLさんに尋ねれば、「それは違う」とおっしゃるのかも知れません。しかし少なくとも、9歳の少女であるミシャルカに、尋常でない精神的ショックを二度も与えてしまうことへの懸念を、 PL/PCとして事前にはっきりと表明なさった方は、一人もいませんでした。RPGに限ったことではありませんが、「どれほどすばらしい意見でも、 表現されない限り、それは何らの意味をも持ち得ない」というのは、ここでいまさらわたしごときが申すべきことでもないでしょう。
 また、リーシェの「魂が壊れてしまうかも知れない」発言を目にして、二度目の試みを思い直した方は、シナリオページをお読みになればお分かりの通り、 確かにいらっしゃいました(一時的に、ですけれど)。しかしそれでは、あまりに気付くのが遅すぎるのです。

 このことからわたしは、ミシャルカの「運命」の決定云々以前に、少女本人について、PLさんたちが充分な配慮を欠いていると判断せざるを得ませんでした。 厳密に言えば、配慮はしているものの、少女の記憶を回復させることにこだわるあまり、それがほぼ完全な「的外れ」に陥っていると断じるよりほかなかったのです。
 よって、サブGMとの相談も経て、最終的なシナリオの行方は次のように決定されました。

 そして、実際にどのような結果がもたらされたのかは、ご存じの通りです。

 最後になりましたが、3か月の間、至らぬGMにおつき合い下さったPLのみなさん、サブGMのそるさんをはじめとするスタッフの方々、 そして、今これをお読みのみなさまに、感謝の言葉を申し上げることで、締めくくりにいたしたいと思います。

 ありがとうございました。


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GM:みなみ
E-Mail : nun@jmail.plala.or.jp