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「紅の河」亭 |
床に倒れた魔神は、気絶しているものの、まだ息はあるようだ。
■ ノエル To:ALL |
魔物はまだ死んだわけじゃないですけど、しばらくは身動きできないですから
大丈夫です。 それより・・・ |
ノエルは、心配そうな目でロゼルナのほうを見る。
そのロゼルナは、自分の許に走り寄ってきた大地母神の女性神官に対して、青ざめた顔で言った。
■ ロゼルナ To:リーシェ |
あ、あんたもアフルやソフィティアたちの仲間かい? 店が、店が大変なんだ……。 |
アフルやソフィティア、そしてノエルにも分かることだが、その口調には、さきほどまでの闊達さは全く見られない。
■ アフル To:ロゼルナ |
え、ロゼルナさん、店がどうかしたの? |
■ ソフィティア To:ロゼルナ |
ロゼルナさん、もしかしてそっちにも何かでた!? |
怪物との戦いの直後で気が高ぶっているソフィティアは、一刻も早く事情が知りたくてたまらないようだ。
■ ソフィティア To:仲間ALL |
とりあえず、こいつ(ダブちゃん:笑)は一時目を覚まさないだろうからおやじさんたちに縛ってもらっておいて、店の方にすぐ行った方がよさそうよ。 |
ロゼルナは、彼らの問いかけにすぐには答えず、半ばうなだれた姿勢のまま首を左右にゆっくりと振ってから、消え入りそうな声で言った。
■ ロゼルナ To:アフル |
……シュゾが、……死んじまってるんだ、シュゾが、店の奥で……。 シュゾだけじゃない、あいつの女房も、子供たちも、……みんな殺されちまってるんだ。 ひどい、むごい、有様でさ……。 |
そこまで語ると、ロゼルナは口許を手で押さえ、あとは言葉にならない。低い嗚咽がもれ、両の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。がっくりと床に膝をついたロゼルナの、 小刻みに震える大きな背に、リーシェは静かに腕を回した。
■ アフル To:ロゼルナ |
えっ !! |
■ ウィード To:ALL |
なんだって! |
驚きの表情はすぐに沈痛な表情へと変わり、ウィードバルは拳をきつく握り締める。
■ ウィード To:ALL |
ミシャルカの記憶喪失の原因はやはり…これか。 くっ…こんな救いのない結末ってあるかよ! |
オランの街を出発する前に「賢者の学院」で記憶の喪失に関して調べものをしたウィードバルは、「精神的に非常に強い衝撃を受けたとき、 一時的ないし永久的に記憶を喪失する場合がある」ということを知っていた。そして、ミシャルカの場合、「非常に強い精神的な衝撃」とはすなわち「家族を惨殺されたこと」であろうと、 彼は確信したのである。
ア・トールも、ロゼルナの言葉に下唇を色が変わるほどに強くかみしめ、うつむいた。ウィードバルと同じく握り締めた拳が、小刻みに揺れている。
ソフィティアも、最前までの昂揚とはうってかわって、沈痛な面持ちだ。
■ シルディア |
・・・・・・・・・・ |
シルディアは口許に手を当て、言葉もない。自分の最悪の予想が的中したことに、複雑な表情である。
■ おやじ To:ALL |
なんてこった……。 |
そのとき、主人の腕の中にいたミシャルカが、うっすらと瞼を開いた。
■ ミシャルカ |
う……。 |
■ おやじ To:ミシャルカ |
気がついたかい? |
小さくこくりとうなずくミシャルカ。
少女の様子を見た主人は、少々ためらったのちに、尋ねた。
■ おやじ To:ミシャルカ |
ミシャルカ、わしの名前が分かるかな? |
一同が息を凝らして見つめるなか、少女の薄紅色の唇が動き始める。つむぎ出された言葉は、しかし、皆の期待を裏切った。
■ ミシャルカ To:おやじ |
……分からない。 |
■ おやじ To:ミシャルカ |
そうか……。 |
主人も落胆の色は隠しきれない。
ごく小さなため息をついてから、彼は抱きかかえていたミシャルカをそっと床に立たせてやった。
ノエルは、少女を怖がらせないかと心配しつつも、尋ねる。
■ ノエル To:ミシャルカ |
あれ、前にも見たことある? |
言って、床に倒れている漆黒の身体の魔神を指差した。
ミシャルカは、それが動き出さなそうだということを確認するようにしてから、か細い声で答える。
■ ミシャルカ To:ノエル |
……ない。でも、イヤ……。 |
少女は、傍らの主人の腕にすがりついた。
■ ノエル To:ミシャルカ |
あ、ごめんね。 今怖くないようにしてあげるから |
ノエルは、横たわるダブラブルグに一瞥をくれた。
■ ノエル To:ALL |
とりあえず、これ縛って邪魔にならないところに動かしましょう。 こんなお店の真ん中にいつまでもおいとけないしね。。 だれかロープ持ってない? |
意外なことに、誰も縄の持ち合わせはないようだ。
■ ソフィティア To:アフル |
それじゃぁ、アフル、ここにはコイツ(ダブちゃん)を縛るものも無いみたいだから店に行ったついでに何か使えそうなもの持ってきて。 |
■ アフル To:ALL |
俺は、店の方を見に行ってくるから、そのついでにロープも持ってくるよ。 |
東方語を話せないがゆえにミシャルカに話を聞けないアフルは、半開きになったままの扉から、「トーレス商店」へと小走りで向かった。
■ ノエル(独り言) |
あれだけじゃはっきりわからないけど、ミシャルカちゃん記憶だけじゃなくて感情も取り戻せていないかもしれないわね・・・ きっと家族の人が目の前で殺されたショックでああなったのね。 家族の人に会わせてあげたいけど、会っても自分の親兄弟とはわからないのだろうし、記憶を失ってまで見たくなかったものを見せるのもまたかわいそうだし。 それに・・・ |
ちらりとロゼルナのほうに目をやる。
■ ノエル(独り言) |
大人でもかなりショックを受けるほどの有様なのに、小さな子に見せられるような姿じゃないかもしれないわね・・・ |
そのロゼルナは、ようやく平静さを取り戻してきたようで、事情を説明するリーシェの言葉をじっと聞いている。
■ リーシェ To:ロゼルナ |
……というわけで、おそらくはあの怪物が、シュゾさんたちを……ひどい目に遭わせたのだと思います。 |
■ ロゼルナ To:リーシェ |
……そんなバケモノ、さっさと殺しちまえばいいじゃないか。 何の罪もない人間が、4人も殺されたんだよ……! |
絞り出すようなその声は大きかったが、つやにもはりにも、全く欠けていた。
■ ロン To:おやじ |
おやじさん、オレら、ちょっと村長んとこまで行ってきます。 |
■ おやじ To:ロン |
ああ。 |
若者三人は足取りも重く、酒場の外へと出ていく。
彼らと入れ替わるようにして、青ざめた顔をしたアフルが、ひとくくりの縄を携えて戻ってきた。
■ アフル To:ノエル |
はい、ロープ…。 |
■ ノエル To:アフル |
ありがとう |
アフルの顔色が悪いのを見て、自分の想像が的外れではなかったのだと、ノエルは沈鬱な表情になる。
■ ノエル To:ALL |
じゃ、みんなも手伝ってくれる? それが終わってから、これからどうしたらいいのか話し合いましょう。 |
重苦しい空気の中、気絶している魔神を縛り上げる作業が行われる。それが済むと、身動きできぬようにされたダブラブルグは、店の隅へと転がされた。 意識を取り戻したあと、冒険者たちの尋問を受けることになるようだ。
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