11d 時魔神の鏡 その4
割れた鏡面のあとを慎重に覗き込んだアビィは、次の瞬間、一足飛びで戻ってきた。
好奇心を湛えた瞳には、猫を思わせる黄色い光が宿っている。
■アビィ To:ギュネイ |
ご承知のとおり、わたしの目に闇は見えぬ。 その代わりにな、鏡の淵から8歩くらい先に、壁面のようなものが見えた。 過去を映し出していた鏡の中が、別の部屋への入口となっているということがあるのだろうか。 ……あるいは、別の時間への。 |
■ギュネイ To:アビィ |
壁面!?人工物だな・・・少なくとも物質界には通じているというわけか。 |
■カラレナ To:アビィ |
別の部屋……別の時間…… じゃ、じゃあ、もしかしたら…… |
■シグナス To:カラレナ、ALL |
もしかしたら、過去の映像を映しているから、如何にか出来るか? …………まあ、魔法の品の能力なんて、想定しても意味ねえけど。 |
カラレナの言いたい事を察したが、否定も肯定も出来ず、言葉が濁るシグナス。
■シグナス To:アビィ |
何にせよ、もう少しは調べれる取っ掛かりは見えたか。 姐さん、どの辺の壁か解んねえ?それかもう、手分けしてここの壁探って見るか? |
■アビィ To:シグナス |
距離から考えると、あちらの壁かもしれぬ。 まあ、早合点は禁物だとは思うがな、とりあえず慎重に調べてみ…… |
■カラレナ To:シグナス&ALL |
私、光を入れてみます。 |
いきなりダガーを抜いて、黒い空間に手を突っ込んで中を照らすカラレナ。
■シグナス To:カラレナ |
ん?ああ、そうだな。ちょっと照らして見……ぅおおおおおいっ!? |
■アビィ To:カラレナ |
カラレナ殿!! |
■カラレナ To:ひとりごと |
っ! (き、気持ちわるい…) |
粘度の強い液体を突き抜けたような感触に、顔をしかめる。
光に照らされた内部に見えたものは、今いる広間と同じ床、同じ壁だった。
そ〜っと手を引っ込める。
■カラレナ To:ひとりごと |
あぁ、怖かった…。 |
■アビィ To:カラレナ |
カラレナ殿、大丈夫か? |
■カラレナ To:アビィ |
は……はい。ちょっと気持ち悪かったですけど、大丈夫です。 |
右手を撫でさすりながら。
■アビィ To:カラレナ |
……ふう、大胆さは兄上譲りだな、いっそ、ギャルム殿と同じ修行をなさるべきではなかろうか……。 |
■カラレナ To:アビィ |
…えっ。 あ、あんにゃろうと同じ…。う〜ん… |
自分が今突っ込んだ刻印入りダガーを見つめる。
その表情は、嫌そうではあるが、どこかまんざらでもないような様子でもあった。
■アビィ To:カラレナ |
……まあ冗談はともかく、人の目には何が見えられた? |
■カラレナ To:アビィ&ALL |
あ! そうです。 この部屋と、同じ壁と床が見えたんです。 …きっと、過去の…… ……私たち、きっと何とかできますよね! |
希望に表情を輝かせて、感激のあまりアビィの小さな体を抱きしめる。
■リールォン To:ALL |
……そういえば、何かの本でこの鏡について読んだことがあります。 ……えっと、そう、「時魔神の鏡」……。そうだ! 「時魔神の鏡」です!! これは、時系列が異なる2つの空間を繋げる「門」を生み出すことができる鏡なんです。 カラレナさんの言うとおり、まだ僕たちには幸運の糸がつながっていますよ!! |
歓喜の表情を浮かべ、さらに「時魔神の鏡」の詳しい説明を行うリールォン。得体の知れない書物好きも、まんざら役に立たないと言うことはないらしい。ありがとう、魔賢者ニャホ(名前省略)をはじめとする偉大な先人たちよ。
■アビィ To:カラレナ |
まった、まった、まだ問題はなにも解決していないのだ。 その感動は、すべてが成功に終わった時にとっておかれよ。 |
困惑した口調で、それでもなだめるかのように、巻き付いているカラレナの腕をかるくたたくアビィである。
■カラレナ To:アビィ |
あ、そ、そうですよね。 |
あわてて手の力を緩めた。
■マーキュリー To:カラレナ |
うん、そのノリで行った方が案外うまく行きそうですね(笑 |
■カラレナ To:マーキュリー |
そ、そうですか?(照 |
急に自分がした無謀な行為が恥ずかしくなったのか、目を伏せる。
■アビィ To:マーキュリー&カラレナ |
そのノリで…か、なるほどな。 良いことをお教えいただいた、感謝する。 それでは、さっそくためしてみるか…… |
わずかに面をかすめた緊張の色を隠し、カラレナの腕をそっとはずすと、アビィはふたたびヘキサのそばに近づき、彼の背中に手を添えた。
■アビィ To:ヘキサ |
……ヘキサ殿? |
いきなりヘキサの襟足をつかむと、引きずるように立たせ、鏡の前にひっぱっていくアビィである。
■アビィ To:ヘキサ |
・・・・・・! ・・・・・・・・・・!! |
耳元で呼びかけるアビィ、内容は聞き取れないものの口振りはかなり苛烈ではある。
その内容に看過できない内容が混ざっていたのか、ヘキサは絶望によどんだ眼に怒りを含め、彼女に向けた。
そして地に膝をつきながら、アビィの襟先にすがりつつも――見ようによっては締め上げているかのような勢いで――早口でまくしたてた。
■ヘキサ To:アビィ |
……ッ――! ――――!! ――! ――!! ――! ――…… |
再び叫びが広間に響く。それは彼の感情に合わせるように高く大きく、そして徐々に小さく。
黙ってその言葉を受け入れるアビィの表情に、ひとつの決意のようなものが浮かんで消えた。
ヘキサの叫びが小さくなった頃を見きわめ、今度は落ち着いた口調にもどって話し続けるアビィ。
鏡を指さしているところをみると、ひととおりの説明を聞かせているようだ。
それを聞いていたヘキサは、顔を跳ね上げ、驚愕を貼り付けた表情で鏡を見つめた。
その様子を確認し安堵の表情を浮かべるや、一歩身を離したアビィは、詫びるかのように静かにヘキサに頭を下げる。
■アビィ To:ヘキサ |
嘆きの時は終わりだ、進まれよ。 希望を…未来を自らの手で、切り開かれるのだ…… そして、なんと言われようが、わたしは貴殿についていくぞ。 |
■マーキュリー To:ALL |
希望が見つかるかもしれませんね♪ |
■ヘキサ To:アビィ |
………… ……ぼく……ぼくは…… |
ハルバードを支えにして、弱々しく立ち上がる。
それはまるで、たったひとひらの希望にすがるかのように。
それでも……
■ヘキサ To:ALL |
物語は……まだ、終わってはいない! |
一歩を踏み出す。
その瞳に、胸に、希望をたたえて。