SW-PBM #131 キューソ人を噛む
発端と原因と

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■ 【キュミーの店】

■ネズミ
チュチュチュ、チューッ!

店内を我が物顔で走り回るネズミたち。
数十、ではきかない。数百……いや、ひょっとしたらそれ以上いるかもしれない。
そんなネズミたちを横目に、ここしばらくですっかりと客足の途絶えてしまった店を眺めながら大きなため息をつく女性。
■キュミー
はあぁぁぁぁ。
まったく、どこからこんなに湧いて来るんだか……。

ネズミ捕りを仕掛けてもみた。ネコイラズも置いてみた。
挙句の果てには、店中引っくり返してネズミが通ってきそうな穴を探しては、それを一つ一つ埋めたりもしてみた。
……結果はご覧の通りである。
ネズミは減るどころか、ますますその数を増やしている。
■ネズミ To:キュミー
キキキッ。

カウンターで頬杖をつき、ぼんやりとしていたキュミーの前に一匹のネズミが躍り出る。
まさに、「小馬鹿にしている」といった感じだ。
■キュミー To:ネズミ
くっ、このっ!

傍らに置いてあったトレイを振りかざし、叩き潰さんとばかりに打ち付ける。
が、その寸前にネズミはするりと逃げ出し、トレイは虚しくカウンターを叩くのみ。
乾いた音が、人気のない店に響き渡った。
■男の声 To:キュミー
やれやれ、相変わらずか。

入り口から声がする。
男はネズミを気にする事もなく店に足を踏み入れると、疲れきった表情を浮かべるキュミーの前に立つ。
■キュミー To:ファエロ
なんだ、ファエロか。
……何の用? ご覧の通り、お店なんてやってられる状況じゃないのよ。

■ファエロ To:キュミー
みたいだね。
でもさ、不思議だと思わない? なんでキュミーの店だけがこんな目に遭ってるのかさ。

キュミーの店―――酒場である―――は、商店街の並びにある。
これだけのネズミが発生しているならば、隣はおろか向こう三軒まで被害を受けそうなものだが、何故かそういった事はなかった。
キュミーの店一軒だけが集中的に被害を受けているのである。
もっとも、そのせいで周りの店からは我関せずを決め込まれてしまっている。
下手に手出しをして自分の店にまで被害が広がっては堪らないという事らしい。……それも、目の前でこれだけの惨状を見せ付けられては致し方のないところではあるのだが。
■キュミー To:ファエロ
そんなの知った事じゃないわよ!
第一それを言うなら、そもそもなんだってこんなにネズミが大量発生したのかの方がよっぽど不思議ってもんじゃないの!?

酒や食べ物を扱う酒場である以上まったくネズミが出ないとは言い切れないが、それでもここまでの事が起きるほど不潔にしていた覚えはない。
むしろキュミーは、荒くれの集う酒場を切り盛りする身としてはいささか潔癖が過ぎる程であった。
■ファエロ To:キュミー
まあ、まあ。落ち着いてよ。
とにかく、このままでいても埒があかないしさ、何とかする事を考えようよ。

■キュミー To:ファエロ
なんとか? 何とかって、一体何をどうしろってのよ?
いくら退治してもキリがないのよ? これ以上何をしろって言うの?

■ファエロ To:キュミー
出てくるのをいちいち退治してても、確かにキリがない。
だから、いっそ原因を探してみよう。

ファエロの提案に一瞬キュミーは考える仕草を見せるが、すぐに首を振って否定する。
■キュミー To:ファエロ
そんなの……分かんないわよ。
思いつく限りの事は考えてみたし、これ以上思い当たる事なんてないわ。

■ファエロ To:キュミー
僕達には……ね。
だから、調査のプロに頼んでみないか?

■キュミー To:ファエロ
プロ? 探偵でも雇えって言うの?
お店の経営だって成り立ってないこの状況で、そんな余裕なんかあるわけがないじゃない!

いきり立つキュミーをなだめながら、ファエロが言葉を続ける。
■ファエロ To:キュミー
なにも探偵を雇えなんて言ってないだろ。
……冒険者だよ。冒険者達を雇うんだ。

■キュミー To:ファエロ
……冒険者?

思ってもみなかった単語がファエロの口から飛び出し、キュミーは目をぱちくりとさせる。
■ファエロ To:キュミー
うん。
冒険者と言っても遺跡を荒らすばかりじゃなくて、そういった調査なんかをする人たちもいるんだって。
実際、僕の知り合いも冒険者に浮気調査を頼んだ、なんて人もいるし。
もちろん専門の探偵と比べれば見劣りする事もあるかもしれないけど、その分雇用料金は格安で済む。
このまま何もしないでいて事態が好転するとは思えないし、駄目もとでやってみるのもいいんじゃない?

■キュミー To:ファエロ
ふぅん……冒険者……冒険者、ねぇ……。

キュミーはぶつぶつと呟きながら思案する素振りを見せてはいたが……。
実際のところ、他の選択肢などあるはずもないのだった。

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GM:倉沢真琴