13c 箱舟の艦橋 その3
しばらく経つと、石版の表面に様々な文様が次々と浮かび上がってくる。
ギュネイはゆっくりと目を開け、額に浮かぶ汗を拭った。
■ギュネイ To:ALL |
大鎧の登録情報を見つけた。 これを使えば、大鎧に命令を与えることができるだろう。 |
■カラレナ To:ギュネイ |
よかった……。 あの、大鎧にはもともとどんな命令が与えられていたんですか? やっぱり、あの部屋に「情報観覧許可が無い者」が入った場合に、排除せよ、という命令ですか? |
■ギュネイ To:ALL |
まあそんなところだよ。 主に「許可なき者から知識の間を守れ」と命じられている。 さらに条件が付けられていて、「許可なき者へ退出の警告を与えよ」や「許可なく知識を得た者を破壊せよ」などの命令が付随している。 主命令1つに対し、数個の付随する条件を付ける命令方法らしい。 |
■ヘキサ To:ALL |
知識の番人としては、一般的かつ合理的だね。 ……悔しいけど。 |
■カラレナ To:ギュネイ |
この大鎧に鏡を破壊してもらって、私たちの退路を確保したいんです。 ナナイさんたちが、あの部屋に鏡を持ってくるその時に…… でも、……鏡以外のものを絶対に破壊しないように…… そういう命令をすることはできそうですか? |
■ギュネイ To:カラレナ、ALL |
命令には優先順位を設定することができるようだ。 「鏡を破壊せよ」より「鏡以外を破壊するな」の優先順位が低ければ、鏡を守る者を排除して鏡を破壊するかもしれない。 優先順位が逆ならば、鏡を守る者がいると鏡が破壊されない可能性が出てくるね。 |
■カラレナ To:ギュネイ |
……そんな……。 |
■アビィ To:ギュネイ |
では「鏡を破壊せよ」を優先し「鏡以外を破壊するな」を付随させて命令をしたとする。 先の「許可なく知識を得た者を破壊せよ」と矛盾することになるが、この場合はどうなるのだ? 鏡に関する命令と同時に、「13号18号とその同行者に知識を得ることを許可」する命令を設定することはお出来になるだろうか。 |
■ギュネイ To:アビィ、ALL |
命令が複数になる場合は必ず優先順位をつけることになる。 矛盾していようといまいと、優先順位に従って命令を実行するだろう。 |
■カラレナ To:ギュネイ |
あの、それから、最初の主命令をぜんぶ削除すること……ええと、「初期化」ってできるんでしょうか? それも、やっぱり時間がかかりますか? |
■ギュネイ To:カラレナ |
もちろんできる。というより、一度全命令を取り消して、新たな命令を与えるしかないんだ。 現在の命令を変更することはできないからね。 時間はかかるが、コマンドワードを唱えれば、誰にでも命令は可能だよ。 |
■カラレナ To:ギュネイ |
そうなんですね。 |
■シグナス To:ALL |
まあ……先ずは調査隊相手に許可出すのがメインか? 許可ついでに伝言入れて。 あー……短剣かなんかの刃に文字刻んでさ、油に漬け込んでハードロックでも掛ければ持つかもよ。 その上で反応待って鏡割って貰うとかどーよ? |
■ギュネイ To:シグナス |
一応、大鎧にメッセージを伝えさせることもできるが、単純で短い文書に限られる。 子供に伝言を頼む要領で考えてもらえれば、私が下位古代語に翻訳しよう。 |
■シグナス To:ギュネイ、ALL |
そうですか……名前出せば大丈夫かなあ、とかは思うんですけどね。 念の為証拠品みたいなのでも、残した方が万全かなって思ったんですよ。 ……まあ、どうせだからちょっと位脅かしたれ。とか思って無いでもないけど。 それじゃ、早速命令変えるか?俺は調査班と面識も無いし、あんま如何こう言えんけど。 |
■アビィ To:シグナス&ALL |
今なにか残したとして、調査隊が石版探しをする時点まで、あの部屋に残っている保障はないかもしれないがな。 それ以前にも、ギュネイ殿などほかのメンバーが出入りしたり、調べたりする形になるのだろうし。 …で、命令なのだが第一優先が 「知識を得るために鏡を使用する者があれば、その鏡を破壊せよ」 それより下位の位置づけで 「鏡を破壊する時は、鏡以外のものは破壊してはならない」 でよいだろうか。 |
■シグナス To:アビィ |
うーん……まあ、鎧側にはそんなモンじゃねえか? |
■カラレナ To:アビィ&ALL |
はい。それでいいと思います。 あとは、うまくいくことを信じるしか無いですよね……。 |
不安を拭いきれないまま、うなづく。
■アビィ To:ALL>ヘキサ |
メッセージに関しては、調査隊のメンバーに印象をのこしていそうな人物からにしたほうがいいかもしれないな……。 ……な、ヘキサ殿。 |
ヘキサを見上げながら同意を求めるアビィの口元に微かに笑みが浮かんでいた。
■ヘキサ To:ALL |
え? ぼ、ぼく? いやでもやっぱり、ギュネイさんのほうが適任じゃ…… |
■アビィ To:ヘキサ&ALL |
確かにギュネイ殿からの伝言のほうが、聞いてもらえる可能性は高いかも知れぬ。 ヘキサ殿が本当にそれでよいのならば、かまわぬが? |
■シグナス To:ヘキサ |
知り合いに伝言残すくらい、格好付けたってバチは当たらねえ所だぜ、ここはよ。 お前が助けたくって来てるんだ、思いの一つ位ぶちまけないでどーすんだよ。 |
■ヘキサ To:シグナス |
で、でも……なんて言っていいかわかんないし…… |
■シグナス To:ヘキサ |
んーなもん、なんだって良いんだよ。案外当たり前の台詞の方が、グッと来るモンだぜ? 大事なのは、今のお前の気持ちをちゃんと言葉にする事なんだよ。 |
段々とアドバイスがずれ始めていた。
■ヘキサ To:シグナス>ALL |
う、うん。えーと…… 大鎧がぼく達の指示で動いているって信じてもらえて、それでいて単純で短い文書…… 「遺跡の中枢と思われる場所に至りましたが、同時にこの場所に取り残されること になりました。 この大鎧を含む遺跡全体の制御権は得たものの、そちらの世界に戻るために、扉となる魔法の鏡を砕かないといけません。 もう一度あなたたちに会えることを願って、この大鎧にその鏡破壊の命令を下します。 願わくば、この言葉を信じて、鎧と戦わないで下さい。 どうか、この言葉が届きますように。 ギュネイ、マイス、そしてマナイの持つマントの持ち主ヘキサより」 |
■シグナス To:ヘキサ、ALL |
……うーん、内容は悪くないんだが、今一色気が足りないな……。 最後にこう「未来でまた会いましょう」とか、そう言うの加えてみねえ? |
■ヘキサ To:シグナス |
い、色気って…… |
■アビィ To:シグナス>ヘキサ |
ニュアンス的に、色気を足すのは言葉に注目を呼びそうでもあり大いに結構だが。 「子どもに伝言を頼む要領で考えてもらえれば」というにはちょっと長すぎやしないだろうか? ……タパン村のカール殿にタマネギの例えが伝わらなかったこと、覚えておいでかな。 彼に伝言を頼むとしたら、どんな文章がよいだろう? |
■ヘキサ To:アビィ |
そっか、正確に訳してもらえるとも限らないもんね そうなると…… |
■カラレナ To:ALL |
……あの……。 |
黙っていたカラレナがおそるおそる口を開く。
■カラレナ To:ALL |
やっぱり、怖いです。鏡をかばって、ナナイさんが……マナイさんがもし立ちはだかったら……。 あの、鏡はナナイさんたち調査員のひとたちが使っていたんですよね? それなら、大鎧に破壊してもらうよりも、ナナイさんのボーンコレクターに命令をして、割ってもらうようにすれば……。 |
■アビィ To:カラレナ&ALL |
なるほど……確かに大鎧を動かすより安全だと思うが……。 18号を探し、コマンドワードを見つけ、命令する、時間が残っているかだな。 さらには、誰かが鏡をかばう可能性はそれでもなくなりはしないぞ。 時間と確率、どちらを天秤にかけるべきだろうな? |
■カラレナ To:アビィ&ALL |
わかりません……でも……。 |
言葉を詰まらせる。
■カラレナ To:アビィ&ALL |
嫌なんです。みんなが、死んじゃうのが……。もう見たくないんです。 確率でも、可能性だけでも、自分が信じられるほうに、賭けたい……。 |
■アビィ To:カラレナ>ヘキサ |
お気持ちはわからないでもないが……今から命令に関する論理を組み直さねばならないぞ。 文字通り、時間との戦いになる。 ヘキサ殿はどう御覧になられるかな。 これは貴殿の戦いでもある、わたしは先に申し上げたとおり貴殿の選択を尊重させていただくつもりだ。 |
■ヘキサ To:ALL>ギュネイ |
ぼくは…… できたはずのことをやらずにおいたら、きっと後悔するから。 だから、時間ギリギリまで、打てる手は、全て打っておきたい。 それで皆が助かるなら……少しでも、その未来が近づくなら。 ギュネイさん、18号の所在とコマンドワードを探してください。 大鎧への命令はぼくが。ぼくにも、下位古代語を話すことは出来ます。 |
18号の所在を調べるギュネイの傍らで、大鎧の初期化を行うパーティ達。
相談し、時に議論を重ねながら、彼らは未来への道を築こうとしていた。
やがて組み上げられた大鎧へ命令は、
「知識を得るために鏡を使用する者があれば、メッセージを発せよ」
以下の伝言が順に流れるように設定する。
1.「マナイさん、ナナイさん、調査隊の皆さんへ」
2.「ギュネイ、マイス、そしてマナイの持つマントの持ち主ヘキサよりの伝言です」
3.「あなたたちがブレアの暴走を止めるため探している石版が発見されました」
4.「石版を持ってそちらの世界に戻るために、いますぐ扉となる魔法の鏡を砕かないといけません」
5.「この言葉を信じて、誰も鏡が砕かれるのを妨害しないでください」
6.「鏡が割られれば必ず全員助かります」
18号の初期化が行われている段階では、ボーンコレクターへの命令が組み立てられていった。
○優先一位
「知識の間にいるとき、大鎧がメッセージを発したら鏡を破壊せよ」
○優先二位
「鏡を破壊するときは鏡以外は破壊してはいけない」
○優先三位
「元の命令」を入力
そして、歴史の中ではささやかに、一部の人々にとっては人生そのものを書き換えることになる一石が時の流れに投じられ。
……運命の車軸はその方向を僅かに変え、再び動き出していく。
■アビィ To:ALL>ギュネイ |
後は、マーキュリー殿のおっしゃるとおり、我々の時代の動力炉の暴走をなんとかしなければならないということだな。 ギュネイ殿、魔力炉の出力上昇命令を取り消したいとおっしゃったが、この時代に先行してその命令を入力してしまうことは可能だろうか? 暴走自体の歴史は変えないように……例えば、炉が爆発する直前になったら、緊急停止しろといったような形だが。 |
■ギュネイ To:アビィ |
おそらく緊急停止の機能自体は、既に存在しているのだと思う。 私がブレアを再起動する際に、いくつかの機能を無効化させたんだ。 その中の機能の一つが、緊急停止を制御する機能だったのかもしれない・・・。 |
■アビィ To:ギュネイ |
なるほど、つまりここでさらに命令を追加しても、それが炉の停止にかかわる内容であれば、未来にギュネイ殿が解除されてしまう可能性が高いわけだな。 それから、これは念のための確認だが……調査隊はこの鎧や石を発見していなかったろうか。 もしそうなら、未来に持っていくわけにはいかないだろうからな。 |
■ギュネイ To:アビィ |
魔晶石はかなりの数を発見しているが、こんな禍々しい甲冑は見たことはないな。 |
■シグナス To:ALL |
だよな!?人格疑うよな!?っつーか作者アホだろう絶対!? |
■カラレナ To:シグナス |
シグナスさん、もう着ちゃってるのに……(^^; |
■アビィ To:シグナス |
ほう、まるであつらえたような大きさではないか、お似合いだ。 ファリス神官を隠されるおつもりなら、最高の隠れ蓑になるな。 その場合の身の安全の保障はできかねるが。 |
あいかわらず、堅苦しい口調のアビィだが、その目元に僅かに笑みが掃かれていた。
■シグナス To:アビィ |
別に隠す気ねぇし若干軽くてピッタリでもねぇー!? |
ファンキーな鎧姿でリュートを持つ姿は、在る意味、別の意味では様になっているかも知れなかった。
■カラレナ To:シグナス |
その姿で未来に帰っても、攻撃されちゃうかも……(^^; |
新たな敵として。
■アビィ To:ギュネイ |
石版の外し方はおわかりか? それともお調べになる必要があるのだろうか。 指示していただければ、できるかぎりの作業は手伝わせていただくつもりだが。 炉を止めるには、やはり石版を持ち帰るしかないのではないかと考える。 未来でこれが正常に稼働することを願いつつな。 そして、ひとつを持ち帰るなら、ふたつもよっつも同じだろう、鎧も魔晶石も持っていこう。 |
■ギュネイ To:アビィ、ALL |
大丈夫。外すことはできるよ。 ただ少々重くて大きいのでね。ストーンサーバントでも召喚しようか。 未来に持っていって、うまく動いてくれることを願うばかりだな。 |
■シグナス |
もう既に着込んでっけどな。 |
■カラレナ To:ALL |
……あとは、シグナスさんも言ってましたけど、すこしでも調査隊の人たちに信じてもらえるように、なにか証拠品みたいなものを置いていったら、いいかもしれないですね。 |
■カラレナ To:ALL |
……私、短剣に刻印をして残しておこうと思います。 < small>あっ、道具がない(^^;----■アビィ To:カラレナ金属に刻む道具か、ならこれをお使いになるとよい。----かなり使い込まれたクラフトツール一式を、大切そうに取り出したアビィは、その中から彫金刀を選び出しカラレナに渡す。 |
■カラレナ To:アビィ |
あっ、ありがとうございます。 ……わ。イニシャル……なんか、可愛いですね(^^ |
刻まれた「A」のイニシャルを見て、緊張していた顔をほころばせる。
■アビィ To:カラレナ |
そのイニシャルはわたしの前の持ち主を示している。 わたしの人生、価値観に大きな影響を与えてくれた方のな。 わたしには、あのような生き方はできそうにないが……。 いや、失礼。とにかくお好きに使っていただいて大丈夫だ。 そう簡単にこわれる物でもないのでな。 |
■カラレナ To:アビィ |
……大事な宝物、なんですね。 大切に使わせていただきますね。 無事に未来に戻れたら、お話の続き、聞かせてください(^^ |
笑顔でそう言うと、ダガーを抜いて慎重に刻印を施し始めた。
■アビィ To: |
証拠品か……証拠と言うより記念かもしれぬな。 作った物がどう変化するか、確かめるも一興…か。 |
懐にしまわれたままの、自作の対の腕輪の片方をそって取り出すアビィである。
■カラレナ To:ひとりごと |
(西方語) あんにゃろ〜。何が「何かあったら頼む」ですか! |
刻印する手が次第に乱暴になっていた。
■ヘキサ To: |
記念、か…… |