高く晴れわたった空の下、ロッキングチェアに腰掛けた白髪の老人が一人。
手元にはさっきまで極上のワインが入っていた空のグラス。
「…んむ。悪くない…人生ぢゃった…」
そっと目が閉じられる。その口元には満足げな笑みが。
風が、さっと吹き抜け……
「はいはい、御臨終ごっこは今日はそのくらいにして、ちょっとそこどいてください」
「な、ちょ、そんな身も蓋も無い。もしホントに死んでたらどうするんぢゃっ」
「殺したって死なないくせして。掃除の邪魔するくらいならどっか出かけててくださいよ」
「んがー。クローリスよ、老い先短い老人をちっとは労る気持ちとかはないのかね？」
「もー、気持ちがあるからこうしてお世話に来てるのに。だいたいじいちゃん僕より長生きするつもり満々でしょ」
「あたりまえぢゃ。ぬしなぞとは鍛え方がちがうわい」
「それじゃまだ老後なんて言ってられないでしょホントは。働かないとボケちゃいますよ？」
「うぅ、鬼嫁が哀れな舅をいぢめる…どめすてぃっくばいおれんすぢゃ…」
「あなたの息子さんを旦那にした覚えはありません。それに僕は男です。暴力もはたらいてません」
「そんなまじめに否定せなんでも…」
終の棲家をとオラン郊外に居心地の良い庵を結んだシャッケルだったが、冗談の通じるいつもの面子とまた旅に出たい…そう思うようになるのに、そう時間はかからなそうだ。